追放された私は北国の王に拾われる

紅蘭

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襲撃者

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夜更けにそっと部屋を出た。エーリッヒ様の足音は聞こえていない。まだ2階にいるのだろうか。足音を立てずに階段を降りる。エーリッヒ様の上着も、もらった手袋も置いてきた。

扉を開けるとぶるっと震えた。今日は月が隠れている。目を凝らしても辺りがよく見えない。少し待つと目が慣れてきて、かすかに道が見えた。

城から離れて山に入った。風が吹き、葉擦れの音が聞こえる。木々がざわめく。足を止めると後ろから足音がした。

振り返るとそこには男の影が3人分。暗いので顔までは見えない。


「こんばんは。この国はやはり寒いですね」


久々に頭が冴えていた。言葉もはっきりと出る。やっぱり私は何かをしていないと駄目みたいだ。


「今から殺されるって言うのに余裕そうだな」

「あなたたちは『罰』を恐れないのですか?」


男が「はっ!」と馬鹿にするように笑った。


「余所者には適用されねえよ」


金属の擦れる冷たい音がする。この音は知っている。剣を鞘から抜く音だ。夜目の効かない私には分が悪い。こういう時は動かないのが一番。


「恨むならエーリッヒを恨みな」


よく聞く台詞だ。突っ立っている私を見て男が下卑た笑い声を響かせた。


「見ろよ。怖くて動けねえらしいぜ」

「すっげえ上物だ。少し遊ぼうぜ」

「止めておけ。時間をかければ見つかる可能性も上がる」


その時だった。ひゅっと風を切る音がした。次いで男の悲鳴が聞こえる。


「全く、夜の散歩は俺か王がいる時だけだって昨日言われただろ?」


あれも見ていたのか、とため息が出た。


「いたじゃない、ずっと」


城の階段を降りる時から気付いていた。そう言うとギドは「まあな」と頷いた。


「あの状況でお嬢が行動を起こさないなんて思えないからな」


町で私を見る視線はいくつもあった。その中のエーリッヒ様に向いた特に強い悪意にも気が付いていた。そして、部屋の下の木の陰にはずっと影があった。好機でしかない。

男が2人切り掛かってくる。


「お嬢!」


ギドが投げた短剣を受け取り、男の剣を止める。向こうから呻き声が聞こえた。痛みに呻く声が2人分。


「はいはい、これ以上痛い目を見たくなかったら動くなよ」


あとはこの男だけのようだ。短剣の柄で相手の手を殴ると剣が落ちた。それを蹴って遠ざけ、懐に入り込む。喉元に短剣を突きつけると、男は固まった。

息が上がる。私は接近戦は得意ではない。


「さすが俺の弟子だな」

「あなた今は私の護衛なんでしょう?ちゃんと仕事をして欲しいわね」


文句を言うとギドはただ笑った。素人が3人集まったところでギドに勝てるはずもない。私は何もするつもりがなかったのに。


「答えなさい。裏には誰がいるの?」


喉元の短剣をぐっと押し付けるが、男は意味のない声を出すだけ。


「仕方ねえな、1人殺すか」


待って、と言おうとした時、一瞬気が逸れた。男が私の体を押した。喉元の短剣は離れ、私はたたらを踏んだ。そして木の根に足を取られ後ろへとこけた。


「なめんなよ、小娘が……っ!」


ギドの舌打ちが聞こえ、こちらへ来るのが見えた。その手の短剣は迷いなく男の急所を狙っている。いけない、と思った時、向こうの方から足音が聞こえた。


「殺すな!」


鋭い声だった。反射的に短剣を投げるとそれは男の肩に刺さった。男が怯み、ギドの短剣の軌道上からズレた。

駆けてきたのはエーリッヒ様だ。落ちている剣を拾うと、まず1人斬り捨てた。おお、と感心したような声を出したのはギドだ。


「どうせ殺すなら俺がやったのに。あと2人やろうか?」


なんて場違いな声で言う。エーリッヒ様は硬い声で答えた。


「止めておいた方がいい。罰が下る」


残った男2人は恐怖に引き攣った声を出す。

そんな風に怖がるくらいならこんなことしなければいいのに。なんて他人事のように思った。


「お前たちは勘違いしている」


エーリッヒ様が静かな声で話す。暗くて表情が見えない。


「この者達は余所者だが、祝福は既に受けている。殺したらお前達もただでは済まない」

「そ、そんな話は聞いてねえ……!」


だろうな、と思う。どう見ても彼らは使い捨ての兵だ。裏にいる人間は都合のいいことしか言わない。


「どうせ殺すんだろ?お嬢が凍死する前に終わらせようぜ」


エーリッヒ様は無言で動き、その後に2人分の短い悲鳴が聞こえた。

私は地面に座り込んだままただそれを見ていた。エーリッヒ様が剣を捨て、こちらを見たのが分かった。

目の前に手が差し伸べられた。取ってもいいのかな、と考えているとすぐに引っ込む。


「すまない。汚れた手など触れるべきじゃないな」


顔は見えないがその声はいつもよりも低い。


「おいおい、別に血が付いてるわけじゃねえんだろ?手貸してやれよ」


ギドの言葉に、私から離れようとしたエーリッヒ様が足を止めた。ゆっくりと振り向く。暗くて見えないけど目が合ったような気がした。

おしりが冷たい。


「1人で立てねえ女じゃねえ。でも殺されかけた後くらいは優しくしてやってもいいんじゃね?」


ギドが何を考えているのか分からない。


「俺の手は駄目だぜ。血がついてるからな」


エーリッヒ様は無言。

すっと手を差し伸べられた。おずおずと手をとる。あたたかかった。立ち上がりスカートを整える。エーリッヒ様は何も言わずに歩き出した。

ギドがその後を歩き、私も追う。少し歩いた時だった。木の根につまづき、こけた。ちょうど手をついたところに雪が積もっていたので怪我はしていない。前を歩く2人が足を止めて振り返った。


「申し訳ありません」


立ち上がって再び歩き出そうとすると、目の前に手が差し出された。相変わらず顔は見えない。元々口数の少ない人だ。だけど怒っているような気がした。

そっと手を取ると軽く握られ、そのまま歩き出した。誘導されながら城へと着いた。明るい中で見るとエーリッヒ様の眉間の皺はいつもより深かった。私たちの服には返り血がついている。


「なぜ、手袋を着けていない」


握ったままの手を見ながらエーリッヒ様は言った。やはり怒っているように見える。


「汚れると嫌だからです」

「なぜ上着を着ていない」

「エーリッヒ様の上着を汚したくないからです」


答えるとエーリッヒ様は深いため息をついた。そして静かな怒りを滲ませて言った。


「着替えたら食堂に来なさい」
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