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秘密
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エーリッヒ様を信じたいと思った。この誠実な瞳を。ホットミルクを見る。それは黒いもやとなって私の目に映る。
「……毒が入っています。入れたのはギドです」
エーリッヒ様の顔は見れなかった。
「見えるのです」
どんな顔をしているだろうか。何を思っているだろうか。
「毒が見えるのか?」
いいえ、と首を振る。見えるのは毒ではない。
「見えるのは人の悪意です」
最初はそれが何か分からなかった。9歳の時、急に見えるようになった。少ししてそれが人の悪意だと気が付いた時、私は世界に絶望した。
ファルラニアは、私の周りは悪意でいっぱいだったから。
「この目がなければ私は今頃ここにはいなかったでしょう」
毒に倒れていたかもしれない。暗殺者の剣に貫かれていたかもしれない。ヴァルデを嫌う貴族の小さな罠に足を掬われていたかもしれない。
「……あの村で毒に気が付いたのも、誰が盛ったのか分かったのも、見えたからか?」
「ええ、あの人は黒いもやに包まれてましたから。……あの人がエーリッヒ様を狙ったということも分かっていました」
ただあの場で私がそれを指摘するのはとてつもなく失礼だと思ったから言わなかっただけだ。悪意は完全にエーリッヒ様に向いていた。
「毒が盛られたら分かります。小さな罠が仕掛けられていても見えます。暗殺者が隠れていても……」
エーリッヒ様の背後の窓を見る。ここは3階。まさか外に人がいるなど誰が思おうか。
「例えば、その窓の向こう側にエーリッヒ様を狙う人がいるのも見えています」
ギドが音を立てて立ち上がった。机を飛び越し、窓を開け、暗殺者を引きずり入れる。それだけのことを一瞬でしてのけた。
「お嬢、他は?」
ギドが男を押さえつけて私を見た。
「いないわ」
椅子を立って男に近づく。『罰』を受けると分かっていてエーリッヒ様を殺そうとしたのだろうか。よほど恨まれているようだ。
エーリッヒ様は私の前に立った。まるで守るかのように。
「お、ちょうどいいな。それ飲ませてみるか?見た方が信じられるだろ?」
すぐに人を殺そうとするのはどうにかして欲しい。ついさっき殺すなど言われたばかりなのに。
指示を仰いで見上げると、エーリッヒ様は頷いた。
「許可が下りた」
許可?何の?
今の間に何があったのだろうか。誰の許可だろうか。ギドは邪悪な笑みを浮かべた。暗殺者は逃げようともがく。しかしギドの手は緩まない。
エーリッヒ様がホットミルクのカップをギドへと渡す。ギドはそれを男の口に無理やり流し込んだ。
「飲め。苦しむが確実に死ねる毒だ」
男がミルクに溺れる。次の瞬間、苦しみ出した。そして数十秒で絶命した。エーリッヒ様は一瞬、何もないところを見つめて顔を顰めた。
「こいつは二流だな」
「分かるの?」
「一流の暗殺者なら捕まったら自ら毒を飲んで死ぬ。歯に毒を仕込んでんだよ」
なるほど、と思った。確かにそんな暗殺者を何人か見たことがある。
「ギドも捕まったら毒を飲むの?」
「俺は超一流だから捕まんねえよ」
ふーん、と相槌を打つ。ギドの自信がたまに羨ましい。
「それで?信じたか?」
エーリッヒ様は頷いた。
「最初から疑ってなどいない。が、これが自作自演ではないという証拠はあるか?」
「ねえよ」
ギドが「信じてんのか疑ってんのかどっちだよ」とボヤいた。
「あることを証明することは簡単ですが、ないことを証明することは難しいです」
そう言うとエーリッヒ様は私を見た。
「あなたの言葉を疑ってはいない。簡単に証拠があると言われた方が疑わしい」
私もそう思う。はい、と証拠を出されたら、最初から用意していたのでは、と思うだろう。王としてはまず疑わなければならない。国を、民を守る為に。
「……あなたを利用したくない。そのことは誰にも言わないようにしなさい」
「へえ、お優しいこった」
ギドがニヤニヤしながらエーリッヒ様を見た。
「お嬢は話したぜ。そっちも話せよ」
エーリッヒ様は窓を見る。
「もうすぐ夜が明ける」
確かにそのくらいの時間は経っている気がする。だけど全然眠くない。徹夜は慣れている。
「その話はマリーが戻ってから皆を集めてしよう」
この話はリヒャルトとマリーも聞いていた方がいいだろう。ギドは不満そうだったが、何度も同じ話をさせるのも悪い。
「この国で人を殺すな。動物を必要以上に殺すな。前にも少し言ったが魔法陣も描いてはいけない。これさえ守っていればとりあえず大丈夫だ」
「それさ、ここに来た時に言ってくんねえ?知らずに殺してたらどうしてくれたんだよ」
「必要ないと思っていた。ここはファルラニアと違い暗殺者などほとんど現れない。今夜は例外だ」
静かにそう語ったエーリッヒ様に悪意は見えない。本当に必要ないと思って言わなかったことだろう。
特にギドは「お金にならない殺しはしない」というのがポリシーだ。何もされなかったら人を殺すことはない。
ギドが「ん?」と首を傾げる。
「王様さっき殺してたよな」
「それについても後日話す」
エーリッヒ様は私を見た。目が合う。
「……顔色があまり良くない。少しでも寝なさい」
頷くしかなかった。
「ここの片付けは朝食までにはイェンスにさせておく」
そう言うとエーリッヒ様は食堂を出て行った。
「……毒が入っています。入れたのはギドです」
エーリッヒ様の顔は見れなかった。
「見えるのです」
どんな顔をしているだろうか。何を思っているだろうか。
「毒が見えるのか?」
いいえ、と首を振る。見えるのは毒ではない。
「見えるのは人の悪意です」
最初はそれが何か分からなかった。9歳の時、急に見えるようになった。少ししてそれが人の悪意だと気が付いた時、私は世界に絶望した。
ファルラニアは、私の周りは悪意でいっぱいだったから。
「この目がなければ私は今頃ここにはいなかったでしょう」
毒に倒れていたかもしれない。暗殺者の剣に貫かれていたかもしれない。ヴァルデを嫌う貴族の小さな罠に足を掬われていたかもしれない。
「……あの村で毒に気が付いたのも、誰が盛ったのか分かったのも、見えたからか?」
「ええ、あの人は黒いもやに包まれてましたから。……あの人がエーリッヒ様を狙ったということも分かっていました」
ただあの場で私がそれを指摘するのはとてつもなく失礼だと思ったから言わなかっただけだ。悪意は完全にエーリッヒ様に向いていた。
「毒が盛られたら分かります。小さな罠が仕掛けられていても見えます。暗殺者が隠れていても……」
エーリッヒ様の背後の窓を見る。ここは3階。まさか外に人がいるなど誰が思おうか。
「例えば、その窓の向こう側にエーリッヒ様を狙う人がいるのも見えています」
ギドが音を立てて立ち上がった。机を飛び越し、窓を開け、暗殺者を引きずり入れる。それだけのことを一瞬でしてのけた。
「お嬢、他は?」
ギドが男を押さえつけて私を見た。
「いないわ」
椅子を立って男に近づく。『罰』を受けると分かっていてエーリッヒ様を殺そうとしたのだろうか。よほど恨まれているようだ。
エーリッヒ様は私の前に立った。まるで守るかのように。
「お、ちょうどいいな。それ飲ませてみるか?見た方が信じられるだろ?」
すぐに人を殺そうとするのはどうにかして欲しい。ついさっき殺すなど言われたばかりなのに。
指示を仰いで見上げると、エーリッヒ様は頷いた。
「許可が下りた」
許可?何の?
今の間に何があったのだろうか。誰の許可だろうか。ギドは邪悪な笑みを浮かべた。暗殺者は逃げようともがく。しかしギドの手は緩まない。
エーリッヒ様がホットミルクのカップをギドへと渡す。ギドはそれを男の口に無理やり流し込んだ。
「飲め。苦しむが確実に死ねる毒だ」
男がミルクに溺れる。次の瞬間、苦しみ出した。そして数十秒で絶命した。エーリッヒ様は一瞬、何もないところを見つめて顔を顰めた。
「こいつは二流だな」
「分かるの?」
「一流の暗殺者なら捕まったら自ら毒を飲んで死ぬ。歯に毒を仕込んでんだよ」
なるほど、と思った。確かにそんな暗殺者を何人か見たことがある。
「ギドも捕まったら毒を飲むの?」
「俺は超一流だから捕まんねえよ」
ふーん、と相槌を打つ。ギドの自信がたまに羨ましい。
「それで?信じたか?」
エーリッヒ様は頷いた。
「最初から疑ってなどいない。が、これが自作自演ではないという証拠はあるか?」
「ねえよ」
ギドが「信じてんのか疑ってんのかどっちだよ」とボヤいた。
「あることを証明することは簡単ですが、ないことを証明することは難しいです」
そう言うとエーリッヒ様は私を見た。
「あなたの言葉を疑ってはいない。簡単に証拠があると言われた方が疑わしい」
私もそう思う。はい、と証拠を出されたら、最初から用意していたのでは、と思うだろう。王としてはまず疑わなければならない。国を、民を守る為に。
「……あなたを利用したくない。そのことは誰にも言わないようにしなさい」
「へえ、お優しいこった」
ギドがニヤニヤしながらエーリッヒ様を見た。
「お嬢は話したぜ。そっちも話せよ」
エーリッヒ様は窓を見る。
「もうすぐ夜が明ける」
確かにそのくらいの時間は経っている気がする。だけど全然眠くない。徹夜は慣れている。
「その話はマリーが戻ってから皆を集めてしよう」
この話はリヒャルトとマリーも聞いていた方がいいだろう。ギドは不満そうだったが、何度も同じ話をさせるのも悪い。
「この国で人を殺すな。動物を必要以上に殺すな。前にも少し言ったが魔法陣も描いてはいけない。これさえ守っていればとりあえず大丈夫だ」
「それさ、ここに来た時に言ってくんねえ?知らずに殺してたらどうしてくれたんだよ」
「必要ないと思っていた。ここはファルラニアと違い暗殺者などほとんど現れない。今夜は例外だ」
静かにそう語ったエーリッヒ様に悪意は見えない。本当に必要ないと思って言わなかったことだろう。
特にギドは「お金にならない殺しはしない」というのがポリシーだ。何もされなかったら人を殺すことはない。
ギドが「ん?」と首を傾げる。
「王様さっき殺してたよな」
「それについても後日話す」
エーリッヒ様は私を見た。目が合う。
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頷くしかなかった。
「ここの片付けは朝食までにはイェンスにさせておく」
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