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恥
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昼食を食べて執務室へ行った。あまりの恥ずかしさに合わせる顔がなかったが、だからと言って用もないのに仕事を休むわけにもいかない。どちらにしろいつかは絶対顔を合わせるのだ。早いか遅いかの違いだ。
大丈夫、エーリッヒ様はなんとも思っていない。ギドは本を読み終えた私のことを指さしてからかったけれど、エーリッヒ様はそんなことしない。
自分に言い聞かせて、扉をノックした。「入れ」という声が少し遅かった気がするが、気のせいだ。
「失礼します」
いつもより声が小さくなってしまった。エーリッヒ様は一瞬私を見て、不自然に顔を逸らす。私も執務室に入ったところで足が止まった。
き、気まずい……。
ルドルフ様、カール様、リヒャルトの視線が私とエーリッヒ様を行き来する。何か言いたげな3人を無視してエーリッヒ様の机の前に立った。
「申し訳ございませんでした」
どうにか声を絞り出したが、エーリッヒ様に聞こえたかも怪しいほど小さかった。エーリッヒ様はわざとらしい咳払いをした。
「……一応言っておくが、私にその気はなかった」
「分かっております」
蚊の鳴くような声で言って、自分の椅子に座る。今は仕事のことだけを考えようと手元に視線を落とす。
「エーリッヒ、嬢ちゃんと何があったんじゃ?」
揶揄うようなルドルフ様に素っ気なく「何もない」と返す声。少しして視界の端で顔を上げるエーリッヒ様が見えた。
「……まさかとは思うがリヒャルト、お前もじゃないだろうな」
ぎょっとした。思ったとしても今ここで言うことではないだろう。確実に。
「何がですか」と顔を上げるリヒャルトを手招きするエーリッヒ様。近付いたリヒャルトに耳打ちする。何と言ったかは私にも聞こえなかった。だけどリヒャルトは私の方を見て笑った。
「ご安心を。そのような貴族はファルラニアでも稀有ですので。僕が知っている限り姉さんくらいです」
リヒャルトはそんなことを言った。エーリッヒ様は「そうか」と安堵したようだが、私は顔から火が出そうなくらい恥ずかしい。
「王様は少しデリカシーにかける」と言ったギドの声を思い出した。
夕食の後、少し迷いながらも図書室へ行くと、エーリッヒ様はそこに座ってもう本のページをめくっていた。私を見て驚いた表情を浮かべる。
「……来ないかと思っていた」
「……無知だった自分が恥ずかしいだけで、エーリッヒ様を避ける理由はありませんから」
いや、嘘。よりにもよってエーリッヒ様から真実を知らされたことが恥ずかしい。でもエーリッヒ様も恥ずかしいだろうしきっと驚いただろう。
言い訳をさせて欲しい。強いて言えば悪いのはお母様だ。子供だった私に嘘を教え、その後本当のことを教えてくれたら良かったのに、それもなくいなくなってしまった。
分かっている。私が年頃になった時にはお母様は家のことで忙しかったこと。だけどせめて侍女にでも教えるように言って欲しかった。おかげで無駄な恥をかいた。
なんて、言えないけど。ごめんなさい、お母様。
「隠し部屋は終わりましたが、本日はどこを見たらよろしいですか?」
「いや、もう止めよう」
「え?」
「ここを探したところで何か手掛かりがある気はしない」
それよりも、もう少しあなたと話がしたい。エーリッヒ様はそう言った。
「……エーリッヒ様のお部屋で?」
エーリッヒ様は驚きを隠さずに「いいのか?」と言った。
「……一応言っておきますが、私にその気はありません」
エーリッヒ様の言葉を借りて、冗談っぽくそう言うと、エーリッヒ様は「分かっている」と笑った。
「先に行ってくれ」と言われて部屋の中で待っていると、エーリッヒ様は紅茶を持って来てくれた。甘い香りはない。
「昨日の花の蜜は入っていないのですか?」
そう言うとエーリッヒ様は「すまない」と言った。
「あの花の蜜には睡眠作用がある」
なるほど。盛られていたのか。納得した。私の目は悪意がないと見えないので分からなかった。
「悪夢を見なかったのもあれのおかげですか?」
「ああ。……必要なら入れよう。だが量を間違えると二度と目覚めなくなるので、これごと渡すことはできない」
そう言うとエーリッヒ様はどこからか瓶を取り出した。私は何も言わなかったが、エーリッヒ様は「少しだけだ」と言って私の紅茶に垂らした。
頭の芯がくらくらするような甘い香りが鼻をついた。
「……あなたが少しでもゆっくり眠れるといいと思っている」
「ありがとうございます」
一口飲むと香りが鼻に抜けた。やっぱりあまり好きではない。
「それで、何のお話を?」
「あなたのことを。何でもいい。話せることを話してくれ」
なんと漠然とした要求なのだろう。話せることと言われても……。
「何をお聞きしたいですか?大抵のことはお話しできますが」
ここまできて秘密にすることなどない。エーリッヒ様が望むことを話そう。そう思っていると「では生い立ちを」と言われた。
「どこにでもあるようなお話しですよ?」
聞いて面白い話でもない。しかしエーリッヒ様は「構わない」と頷いた。
それなら、と考える。どこから話そうか。
大丈夫、エーリッヒ様はなんとも思っていない。ギドは本を読み終えた私のことを指さしてからかったけれど、エーリッヒ様はそんなことしない。
自分に言い聞かせて、扉をノックした。「入れ」という声が少し遅かった気がするが、気のせいだ。
「失礼します」
いつもより声が小さくなってしまった。エーリッヒ様は一瞬私を見て、不自然に顔を逸らす。私も執務室に入ったところで足が止まった。
き、気まずい……。
ルドルフ様、カール様、リヒャルトの視線が私とエーリッヒ様を行き来する。何か言いたげな3人を無視してエーリッヒ様の机の前に立った。
「申し訳ございませんでした」
どうにか声を絞り出したが、エーリッヒ様に聞こえたかも怪しいほど小さかった。エーリッヒ様はわざとらしい咳払いをした。
「……一応言っておくが、私にその気はなかった」
「分かっております」
蚊の鳴くような声で言って、自分の椅子に座る。今は仕事のことだけを考えようと手元に視線を落とす。
「エーリッヒ、嬢ちゃんと何があったんじゃ?」
揶揄うようなルドルフ様に素っ気なく「何もない」と返す声。少しして視界の端で顔を上げるエーリッヒ様が見えた。
「……まさかとは思うがリヒャルト、お前もじゃないだろうな」
ぎょっとした。思ったとしても今ここで言うことではないだろう。確実に。
「何がですか」と顔を上げるリヒャルトを手招きするエーリッヒ様。近付いたリヒャルトに耳打ちする。何と言ったかは私にも聞こえなかった。だけどリヒャルトは私の方を見て笑った。
「ご安心を。そのような貴族はファルラニアでも稀有ですので。僕が知っている限り姉さんくらいです」
リヒャルトはそんなことを言った。エーリッヒ様は「そうか」と安堵したようだが、私は顔から火が出そうなくらい恥ずかしい。
「王様は少しデリカシーにかける」と言ったギドの声を思い出した。
夕食の後、少し迷いながらも図書室へ行くと、エーリッヒ様はそこに座ってもう本のページをめくっていた。私を見て驚いた表情を浮かべる。
「……来ないかと思っていた」
「……無知だった自分が恥ずかしいだけで、エーリッヒ様を避ける理由はありませんから」
いや、嘘。よりにもよってエーリッヒ様から真実を知らされたことが恥ずかしい。でもエーリッヒ様も恥ずかしいだろうしきっと驚いただろう。
言い訳をさせて欲しい。強いて言えば悪いのはお母様だ。子供だった私に嘘を教え、その後本当のことを教えてくれたら良かったのに、それもなくいなくなってしまった。
分かっている。私が年頃になった時にはお母様は家のことで忙しかったこと。だけどせめて侍女にでも教えるように言って欲しかった。おかげで無駄な恥をかいた。
なんて、言えないけど。ごめんなさい、お母様。
「隠し部屋は終わりましたが、本日はどこを見たらよろしいですか?」
「いや、もう止めよう」
「え?」
「ここを探したところで何か手掛かりがある気はしない」
それよりも、もう少しあなたと話がしたい。エーリッヒ様はそう言った。
「……エーリッヒ様のお部屋で?」
エーリッヒ様は驚きを隠さずに「いいのか?」と言った。
「……一応言っておきますが、私にその気はありません」
エーリッヒ様の言葉を借りて、冗談っぽくそう言うと、エーリッヒ様は「分かっている」と笑った。
「先に行ってくれ」と言われて部屋の中で待っていると、エーリッヒ様は紅茶を持って来てくれた。甘い香りはない。
「昨日の花の蜜は入っていないのですか?」
そう言うとエーリッヒ様は「すまない」と言った。
「あの花の蜜には睡眠作用がある」
なるほど。盛られていたのか。納得した。私の目は悪意がないと見えないので分からなかった。
「悪夢を見なかったのもあれのおかげですか?」
「ああ。……必要なら入れよう。だが量を間違えると二度と目覚めなくなるので、これごと渡すことはできない」
そう言うとエーリッヒ様はどこからか瓶を取り出した。私は何も言わなかったが、エーリッヒ様は「少しだけだ」と言って私の紅茶に垂らした。
頭の芯がくらくらするような甘い香りが鼻をついた。
「……あなたが少しでもゆっくり眠れるといいと思っている」
「ありがとうございます」
一口飲むと香りが鼻に抜けた。やっぱりあまり好きではない。
「それで、何のお話を?」
「あなたのことを。何でもいい。話せることを話してくれ」
なんと漠然とした要求なのだろう。話せることと言われても……。
「何をお聞きしたいですか?大抵のことはお話しできますが」
ここまできて秘密にすることなどない。エーリッヒ様が望むことを話そう。そう思っていると「では生い立ちを」と言われた。
「どこにでもあるようなお話しですよ?」
聞いて面白い話でもない。しかしエーリッヒ様は「構わない」と頷いた。
それなら、と考える。どこから話そうか。
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