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採掘の洞窟
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エーリッヒ様と共に城を出るとことは相変わらず銀世界だった。ここは冬が長いと聞いていたが、本当に暖かくなる気配がまたない。
「こちらだ」
そう言ってエーリッヒ様は躊躇うことなく雪を踏んで歩いた。私もその後に続く。真っ白な雪の上に二人分の足跡がつく。それが惜しくも嬉しくも感じた。
エーリッヒ様に連れて来られたのは城の裏から進んだ道だった。ふと気が付いた。いつの間にか雪が少なくなっている。先程まで地面は真っ白な雪で覆われていたのに、今はポツポツと見える。立ち止まって振り返ると、だんだんと雪が少なくなっていることが分かる。
「あの、エーリッヒ様、なぜこの辺りは雪が少ないのですか?」
意識して見ると進むにつれて雪が少なくなっている。気温が変わったわけではないのに、雪だけが少ない。同じように立ち止まったエーリッヒ様は前方を見た。
「この先に魔石を採掘する洞窟がある。魔石はユルンの民にとって生きる糧だ。冬でも問題なく採れるよう、神によって守られている」
ああ、なるほど。この国では不可解なことはほとんど神が関わっている。ファルラニアにはなかったことなので未だに不思議でたまらない。
エーリッヒ様の隣を歩きながら見上げる。
「エーリッヒ様はよく神とお話しされているようですが、ここにもいるのですか?」
私には普段神の姿が見えない。見たのは時間が止まったあの2度だけ。だけどエーリッヒ様はよく誰もいないところで喋っている。
「……最近はあまり姿を見ない。前まではうるさいくらいだったが」
「そうですか」
生活の一部に神の姿があるというのはどんな感じなのだろう。なんて考えていると、エーリッヒ様は苦虫を噛み潰したような顔をした。
「神とはあまり言葉を交わさない方が良い。あれとまともに話さないようにしなさい」
どういう意味ですか。そう問う前にエーリッヒ様は「もう着く」と前を見た。その視線の先には洞窟があった。洞窟の入り口付近には雪が全くない。
近付くと中からひんやりとした空気が漂ってきた。外でも震えそうなほど寒いが中はもっと寒いのだ。こんなにも寒いのに凍ってはいないというのに違和感がある。
先を行くエーリッヒ様はもう中に入っている。ゾワゾワと鳥肌がたったが、無視して一歩踏み出した。進むほどに入る光は少なくなっていくが定期的に灯りが置いてあるおかげで足元は問題なく見える。ただ足場が悪い。エーリッヒ様には問題ないのだろうが、私はゆっくり進まないとこけてしまいそうだ。
眩暈がした。少し足を止め呼吸を整えた。なんだか気持ちが悪い。頭痛もする。空気が薄いのだろうか。それとも下ばかり向いていたからだろうか。
「リーゼロッテ?」
少し離れていたエーリッヒ様が足を止めて振り返った。私の様子がおかしいことに気が付いたのか、戻って来てくれる。
「すみません、大丈夫です。少し歩きにくくて……」
そう言って微笑むと、エーリッヒ様は「戻るか?」と私の顔を覗き込んだ。私が来たいと言ったのだ。ここまで来て戻る気はない。
「いいえ、大丈夫です」
エーリッヒ様は少し考えてそっと私の右手をとった。
「私は女性と関わることが今までなかった。歩くのが早いのも歩きにくいのも気が付かない。何かあったら遠慮なく言って欲しい」
「ありがとうございます」
再び歩き出したが、エーリッヒ様がゆっくり歩いてくれたことや、支えとなってくれたことで先ほどと比べて断然歩きやすくなった。しかし体調は悪くなる一方だ。
「……着いた」
そう言われ、顔を上げるとそこは今までの景色と分からないように見えた。エーリッヒ様が壁を指す。
「そこに黒い石が埋まっているだろう?それが魔石だ」
よく見ると確かに黒いものがある。触れて見ると確かに魔石だった。しかしこれは質の悪い、いわゆるクズ魔石だ。
「奥に行くに連れて魔石の質は上がる。もう少し行ったら作業をしている者がいるはずだ」
そうなんですね、と頷くが、冷や汗が止まらない。ここが薄暗くてよかった。きっと今顔色は最悪だろう。エーリッヒ様の視線が逸れた時に深く呼吸をした。
睡眠はしっかりとった。食事も食べている。ストレスもほとんどない。それなのに何が問題なのだろう。
「リーゼロッテ……?」
大丈夫です、と無理やり微笑むと、エーリッヒ様は眉間に皺を寄せて私を見た。口を開く。が、それが言葉になる前に遮られた。
「エーリッヒ様?」
奥から男の声がした。エーリッヒ様が振り返る。男は嬉しそうな声で言った。
「やっぱりエーリッヒ様じゃねえですか。こんなところまで来てどうしたんです?」
「彼女に案内をしていたところだ。邪魔してすまない」
エーリッヒ様の言葉に男はいやいや、と大袈裟に手を振る。
「邪魔なんかとんでもねえ。ゆっくりしていってください。よかったら案内しますぜ」
男の視線が私に向き、にかっと笑いかけられる。しかし微笑み返すのが精一杯だった。
「いや、日を改めよう。彼女の体調が良くない。今日はもう戻る。何か変わったことはないか?」
その言葉に男の表情が曇った。何かあるのか、と問うエーリッヒ様に男は実は、と切り出した。
「最近は魔石が育たねえんです」
「育たない?」
「へえ、魔石は数日で成長するんです。小さな魔石は大きくなるし魔力も蓄える。それが最近は何日待っても採れるところまで成長しねえ魔石が多くて……」
それを聞いて私は思い出した。魔石の採掘から輸出まで担当しているカール様が言っていた。
「カール様が、ふた月ほど前より採掘量が減っているとおっしゃってました」
込み上がってきそうな何かを飲み下し、どうにかそう言うと男が頷いた。
「その通りです。掘れねえことはねえですが、それだと質が下がるので……」
「分かった。輸出用の魔石にはまだ余裕がある。焦らずにやってくれ」
エーリッヒ様はそう言うと「歩けるか?」と私を見た。こくりと頷くと、軽く手を引かれた。下だけを見てゆっくりと歩く。頭痛と吐き気と訳の分からない気持ち悪さ。既視感がある。これはユルンへ来た時と似ている。
呼吸が浅くなり、足が止まった。みっともないと思いながらもしゃがみ込む。もう一歩も動けない。手が離れた。エーリッヒ様の焦ったような声が聞こえるが、何と言っているのかは分からない。
すみません、と言ったが声が出たかは分からない。薄れゆく意識の中、浮遊感を感じた。
「こちらだ」
そう言ってエーリッヒ様は躊躇うことなく雪を踏んで歩いた。私もその後に続く。真っ白な雪の上に二人分の足跡がつく。それが惜しくも嬉しくも感じた。
エーリッヒ様に連れて来られたのは城の裏から進んだ道だった。ふと気が付いた。いつの間にか雪が少なくなっている。先程まで地面は真っ白な雪で覆われていたのに、今はポツポツと見える。立ち止まって振り返ると、だんだんと雪が少なくなっていることが分かる。
「あの、エーリッヒ様、なぜこの辺りは雪が少ないのですか?」
意識して見ると進むにつれて雪が少なくなっている。気温が変わったわけではないのに、雪だけが少ない。同じように立ち止まったエーリッヒ様は前方を見た。
「この先に魔石を採掘する洞窟がある。魔石はユルンの民にとって生きる糧だ。冬でも問題なく採れるよう、神によって守られている」
ああ、なるほど。この国では不可解なことはほとんど神が関わっている。ファルラニアにはなかったことなので未だに不思議でたまらない。
エーリッヒ様の隣を歩きながら見上げる。
「エーリッヒ様はよく神とお話しされているようですが、ここにもいるのですか?」
私には普段神の姿が見えない。見たのは時間が止まったあの2度だけ。だけどエーリッヒ様はよく誰もいないところで喋っている。
「……最近はあまり姿を見ない。前まではうるさいくらいだったが」
「そうですか」
生活の一部に神の姿があるというのはどんな感じなのだろう。なんて考えていると、エーリッヒ様は苦虫を噛み潰したような顔をした。
「神とはあまり言葉を交わさない方が良い。あれとまともに話さないようにしなさい」
どういう意味ですか。そう問う前にエーリッヒ様は「もう着く」と前を見た。その視線の先には洞窟があった。洞窟の入り口付近には雪が全くない。
近付くと中からひんやりとした空気が漂ってきた。外でも震えそうなほど寒いが中はもっと寒いのだ。こんなにも寒いのに凍ってはいないというのに違和感がある。
先を行くエーリッヒ様はもう中に入っている。ゾワゾワと鳥肌がたったが、無視して一歩踏み出した。進むほどに入る光は少なくなっていくが定期的に灯りが置いてあるおかげで足元は問題なく見える。ただ足場が悪い。エーリッヒ様には問題ないのだろうが、私はゆっくり進まないとこけてしまいそうだ。
眩暈がした。少し足を止め呼吸を整えた。なんだか気持ちが悪い。頭痛もする。空気が薄いのだろうか。それとも下ばかり向いていたからだろうか。
「リーゼロッテ?」
少し離れていたエーリッヒ様が足を止めて振り返った。私の様子がおかしいことに気が付いたのか、戻って来てくれる。
「すみません、大丈夫です。少し歩きにくくて……」
そう言って微笑むと、エーリッヒ様は「戻るか?」と私の顔を覗き込んだ。私が来たいと言ったのだ。ここまで来て戻る気はない。
「いいえ、大丈夫です」
エーリッヒ様は少し考えてそっと私の右手をとった。
「私は女性と関わることが今までなかった。歩くのが早いのも歩きにくいのも気が付かない。何かあったら遠慮なく言って欲しい」
「ありがとうございます」
再び歩き出したが、エーリッヒ様がゆっくり歩いてくれたことや、支えとなってくれたことで先ほどと比べて断然歩きやすくなった。しかし体調は悪くなる一方だ。
「……着いた」
そう言われ、顔を上げるとそこは今までの景色と分からないように見えた。エーリッヒ様が壁を指す。
「そこに黒い石が埋まっているだろう?それが魔石だ」
よく見ると確かに黒いものがある。触れて見ると確かに魔石だった。しかしこれは質の悪い、いわゆるクズ魔石だ。
「奥に行くに連れて魔石の質は上がる。もう少し行ったら作業をしている者がいるはずだ」
そうなんですね、と頷くが、冷や汗が止まらない。ここが薄暗くてよかった。きっと今顔色は最悪だろう。エーリッヒ様の視線が逸れた時に深く呼吸をした。
睡眠はしっかりとった。食事も食べている。ストレスもほとんどない。それなのに何が問題なのだろう。
「リーゼロッテ……?」
大丈夫です、と無理やり微笑むと、エーリッヒ様は眉間に皺を寄せて私を見た。口を開く。が、それが言葉になる前に遮られた。
「エーリッヒ様?」
奥から男の声がした。エーリッヒ様が振り返る。男は嬉しそうな声で言った。
「やっぱりエーリッヒ様じゃねえですか。こんなところまで来てどうしたんです?」
「彼女に案内をしていたところだ。邪魔してすまない」
エーリッヒ様の言葉に男はいやいや、と大袈裟に手を振る。
「邪魔なんかとんでもねえ。ゆっくりしていってください。よかったら案内しますぜ」
男の視線が私に向き、にかっと笑いかけられる。しかし微笑み返すのが精一杯だった。
「いや、日を改めよう。彼女の体調が良くない。今日はもう戻る。何か変わったことはないか?」
その言葉に男の表情が曇った。何かあるのか、と問うエーリッヒ様に男は実は、と切り出した。
「最近は魔石が育たねえんです」
「育たない?」
「へえ、魔石は数日で成長するんです。小さな魔石は大きくなるし魔力も蓄える。それが最近は何日待っても採れるところまで成長しねえ魔石が多くて……」
それを聞いて私は思い出した。魔石の採掘から輸出まで担当しているカール様が言っていた。
「カール様が、ふた月ほど前より採掘量が減っているとおっしゃってました」
込み上がってきそうな何かを飲み下し、どうにかそう言うと男が頷いた。
「その通りです。掘れねえことはねえですが、それだと質が下がるので……」
「分かった。輸出用の魔石にはまだ余裕がある。焦らずにやってくれ」
エーリッヒ様はそう言うと「歩けるか?」と私を見た。こくりと頷くと、軽く手を引かれた。下だけを見てゆっくりと歩く。頭痛と吐き気と訳の分からない気持ち悪さ。既視感がある。これはユルンへ来た時と似ている。
呼吸が浅くなり、足が止まった。みっともないと思いながらもしゃがみ込む。もう一歩も動けない。手が離れた。エーリッヒ様の焦ったような声が聞こえるが、何と言っているのかは分からない。
すみません、と言ったが声が出たかは分からない。薄れゆく意識の中、浮遊感を感じた。
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