追放された私は北国の王に拾われる

紅蘭

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エーリッヒの護衛

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「準備はこれでよし……っと」


城の2階の端。小さな部屋を借り、必要な道具は揃った。材料はまだエーリッヒ様が持っている。


「私がエーリッヒ様を呼んで参りましょうか?」


準備を手伝ってくれていたイェンスが穏やかな笑みを浮かべて言った。


「いいえ、私が行きます。忙しいのに手伝ってくれてありがとうございます。仕事に戻ってもらって構いません」


イェンスはエーリッヒ様の周りのことだけでなく、城の仕事もしているらしい。そんな中手伝ってもらうのも申し訳なかったが他に人がいないと言うので手を借りた。

本当はギドに頼もうと思っていたのだが、昨日あれから姿を見ない。夜は自室で寝たが、部屋の外にも気配はなかった。エーリッヒ様と一緒じゃない時は離れないって言っていたくせに。


「……お礼を言うのは私です。リーゼロッテ様のおかげでエーリッヒ様は毎日楽しそうです」


そうかしら、と首を捻る。


「あんなにも喋っているエーリッヒ様を見たのは本当にいつぶりでしょう」


私には分からないがずっと側にいるイェンスが言うのならそうなのだろう。目に涙が浮いているようにも見える。


「よろしければこれから先もエーリッヒ様のお側にいてあげてください」


その言葉の意図が分からず、少し迷って頷いた。イェンスは嬉しそうに笑い、


「ではお言葉に甘えて仕事に戻ります。何かあったら呼んでください」


そう言って出て行った。私もエーリッヒ様の執務室へ向かう。ノックをして中に入ると、ルドルフ様とカール様がエーリッヒ様に詰め寄っていた。


「わしも!わしも見たい!いいじゃろ!?」

「ぜひ私もご一緒させてください!このような機会はきっともうありません……!」


二人とも私が入ったことにすら気が付いていない様子だ。異様に興奮しているように見える。エーリッヒ様は目だけで私を見ると椅子から立ち上がった。そこで二人の視線が私に向いた。


「嬢ちゃん!わしらにも調合を見せてくれ!」

「リーゼロッテ嬢!お邪魔は致しませんから!」


え、調合?そんなに興奮することなのか私には分からないが……。


「エーリッヒ様がよろしいなら私は構いません」


はた、と気が付いた。調合には魔法陣も使う予定だ。いいだろうか。エーリッヒ様に視線を向けると、エーリッヒ様はため息を吐いた。


「リーゼロッテが良いなら良い。どうせこの調子では仕事にならない」


その言葉に二人は歓喜した。今にも泣き出してしまいそうなほどだ。


「あ、あの、もう少し準備がありますので、整ったらお呼びしますね」


聞こえたか分からないがそう言って私は部屋を出た。エーリッヒ様も出て来る。


「魔法陣は使っても構いませんか?」

「問題ない。あの二人は知っている人間だ」


それはよかった。使わなくてもできないことはないけど、不便だから。エーリッヒ様と並んで歩く。


「ところでギドの姿が見えませんが、何かご存知ですか?」

「私は知らない。昨日から城の中にはいないようだが」


やっぱりそうなんだ、と思った。こんなことは今までなかった。ギドの今の仕事は一応私の護衛だ。それを放り出すなどギドらしくもない。


「安心しなさい。昨夜は別の人間を部屋の外に置いていた」

「……え?」


別にそんな心配はしていないが、そう言われると気になる。だって全く誰の気配もなかった。エーリッヒ様を疑うわけではないが、信じられない。


「私の知っている人ですか?」


エーリッヒ様の周りの人といえばイェンスしか思い浮かばない。3階にあげるほど信頼している人が他にいただろうか。


「イェンスだ」

「……は?」


間の抜けた声が出た。部屋の外にいて気配も感じさせないような人。それがイェンス?聞き間違いかと思ったが、エーリッヒ様は私を見て微かに笑った。


「分からなかったか?」

「……ええ、ギドも何も言っておりませんでしたし」

「ああ、ギドも気付いていないようだな」


イェンスのイメージとあまりにもかけ離れている。私の知っているイェンスはいつも微笑みを浮かべている穏やかな人だ。強そうに見えるどころか、戦えそうにも見えない。


「イェンスは私の護衛であり、剣の師でもある」

「エーリッヒ様よりもお強いのですか?」


思わぬ事実がまだ信じられない。だけど、どこかではだからエーリッヒ様はイェンス以外の人を側に置いていないのかと納得した。


「私より弱くては護衛にならないであろう?」

「……そうですね」


その通りだけど、それならギドよりも強いエーリッヒ様は護衛が必要ないのでは?と思う。言わないけど。


「ん?ちょっと待ってください。では私は夜寝ていないイェンスに準備を手伝わせたのですか?」


慌てる私にエーリッヒ様は「大丈夫だ」と変わらぬ口調で言った。


「イェンスは見張りをしながら寝ることができる。問題ない」

「……よかったです」


もう言葉が出てこない。この主従はほんとめちゃくちゃだ。考えないようにしよう。

エーリッヒ様は一室の前で「ちょっと待ってくれ」と言うと中に入って行った。そして小ぶりな木箱を持って出て来た。この中に材料が入っているのだろう。


「では行こう」


エーリッヒ様と共に私は調合の部屋へと向かった。
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