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強い瞳ーーギド
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親父がいた。お袋がいた。リアがいた。街の片隅のちっちぇえボロい家が俺の全てだった。
まず親父が死んだ。大工の仕事中の事故。俺の目の前で。7歳の時だった。俺はそれからも働いた。親父を殺した大工の仕事。憎くても働かないと食っていけなかった。
次はリアだった。治らない病気。栄養のあるものすら買う金はなかった。それでもリアは笑った。
「お兄ちゃん、大丈夫。私病気になんて負けないよ」
毎日そう言って笑っていた。生にしがみつく強い瞳で。素直ないい子だった。その日も仕事に行く俺に言った。いつもの笑顔で。
「私いい子にしてるから。きっと神様が助けてくれるから」
だけど神なんていなかった。仕事から帰ったら俺の目に映ったのはリアの閉じた瞳とお袋のぐちゃぐちゃな泣き顔だった。俺は12歳。リアはまだ10歳だった。
そのすぐ後、お袋も死んだ。失意の中、泣きながら死んでいった。
弔う金なんてなかった。そんなものがあったら少しでもマシな物をリアに食べさせられた。金があればリアは生きられたのか。お袋は死ななかったのか。そんなことは分からない。ただ、金があれば、仕事に行っていなければ、リアの死に目に会えた。それだけが全てだ。
一人になってからはめちゃくちゃした。生きる為、金の為にどんなこともした。リアに合わせる顔もないほどに汚いことばかりした。殺し屋のおっさんに会って殺しの技術を身につけた後はそれだけで生きた。
そんな日々が変わったのは17の時だった。金のためになんでもやる男だと言われていた俺に依頼してきたのは貴族の男だった。ターゲットはまだ9歳の娘とその母親だった。だが女だって男だって赤ん坊だって老人だって殺してきた。殺せない理由なんてなかったはずだ。なのに俺は失敗した。
「今あなたに殺されるわけにはいかない、絶対に」
何がなんでも生きてやる、という目。生にしがみつく強い瞳。あの時のリアと重なった。足が動かなかった。たった9歳の子供を前に、縫い止められたように立ち尽くした。
「私はまだ死ねない。いつかあなたに殺されてあげるから。だから、今は帰ってちょうだい」
平民の子供を背に庇ってそう言われた時はふざけんなと怒鳴りたくなった。だがその目がリアを思い出させて殺せなかった。
いつか絶対に殺してやる。そう心に決めた。
しっかしまあ、俺が殺さねえでも死にそうじゃん、あいつ。
陰から見ていたらあいつはすぐ死にそうになった。暗殺者にすぐ気が付く、毒は一切口にしない。なのに鈍臭い。暗殺者に気が付いても避けられない、逃げられない、やり返せない。それでも生きる気だけは誰よりも強い。
笑っちまうぜ。
この手で殺すと決めたやつが死にそうになっている。面白くねえ。陰からナイフを投げた時は間抜けな顔で俺を探してやがった。
「死ぬんじゃねえ。お前は俺が殺す」
その次の日から庭で短剣投げの練習を始めたあいつは、本当にセンスがなかった。投げた短剣が何故か後ろに飛んだり、木の上にいる俺の方に飛んできたり。おかげでアドバイスをする羽目になっちまった。
やっと見れるくらいに上達してきた時、毒もプレゼントしてやった。
「卒業祝いだ。師匠からのな。短剣に塗って使え」
「あ、ありがとう」
碌に話したこともなければあいつは俺の顔すら最初の一回しか見たことがないはずだ。何故そこまで信じれるのかと思ったが、見ていたら分かった。
あいつは誰も信じちゃいねえ。この世界を生き残る難解さを誰よりも知っている。本当は気が弱いくせに強いふりして、泣きたいくせに笑って、不器用なやつだと思った。だがリアもそうだったのかと考えると尚更目が離せなくなった。
学生になった。あいつは見ていたら退屈しなかった。何年も見ていたらあいつのことで知らねえことなんてないほどになった。本当に可哀想なやつだ。金があっても不幸な奴はいるんだなと、この俺が思ったくらい。
卒業まで半年というところであいつの母親が死んだ。あいつが学校に行っている間に毒入りの水を飲んだ。俺はそれを見ていた。最初から最後まで。あいつが望んだら教えてやろうと思って。だがあいつは聞かなかった。
泣くこともなく淡々とやることを片付けた。母親の死を隠し、当主の仕事をこなし、他の家族を一切疑わせなかった。それがあいつの睡眠と心を削った結果だと知っているのは俺だけだった。そしてあいつは弟すらも騙して見せた。見事な物だった。
当主の仕事をしながら城で働くあいつはどんどん死に近づいて行った。いっそ殺してやろうと何度思ったことか。だがあいつは寝ながら泣くことはあっても起きている時は絶対泣かなかった。
苛々した。死んだような顔で生き続けるあいつに。あいつをずっと見ている自分に。だからあいつが国外へ行くとなった時にほっとした。これであいつから離れられる。あいつを殺してやれる。俺もあの目から解放される。
リア。俺はお前のことを忘れる。あいつを殺して、お前を殺して、忘れて、生き続けるよ。悪い兄ちゃんでごめんな。何もしてやれなくてごめんな。逃げてごめんな。でもお前のことを愛していたよ。
見上げた空はすがすがしいほどに青い。俺はあいつが通るであろう道の脇の木にもたれかかった。これからここを通る馬車にあいつが乗っている。
俺はあんたを殺して自由になるぜ、お嬢さん。
まず親父が死んだ。大工の仕事中の事故。俺の目の前で。7歳の時だった。俺はそれからも働いた。親父を殺した大工の仕事。憎くても働かないと食っていけなかった。
次はリアだった。治らない病気。栄養のあるものすら買う金はなかった。それでもリアは笑った。
「お兄ちゃん、大丈夫。私病気になんて負けないよ」
毎日そう言って笑っていた。生にしがみつく強い瞳で。素直ないい子だった。その日も仕事に行く俺に言った。いつもの笑顔で。
「私いい子にしてるから。きっと神様が助けてくれるから」
だけど神なんていなかった。仕事から帰ったら俺の目に映ったのはリアの閉じた瞳とお袋のぐちゃぐちゃな泣き顔だった。俺は12歳。リアはまだ10歳だった。
そのすぐ後、お袋も死んだ。失意の中、泣きながら死んでいった。
弔う金なんてなかった。そんなものがあったら少しでもマシな物をリアに食べさせられた。金があればリアは生きられたのか。お袋は死ななかったのか。そんなことは分からない。ただ、金があれば、仕事に行っていなければ、リアの死に目に会えた。それだけが全てだ。
一人になってからはめちゃくちゃした。生きる為、金の為にどんなこともした。リアに合わせる顔もないほどに汚いことばかりした。殺し屋のおっさんに会って殺しの技術を身につけた後はそれだけで生きた。
そんな日々が変わったのは17の時だった。金のためになんでもやる男だと言われていた俺に依頼してきたのは貴族の男だった。ターゲットはまだ9歳の娘とその母親だった。だが女だって男だって赤ん坊だって老人だって殺してきた。殺せない理由なんてなかったはずだ。なのに俺は失敗した。
「今あなたに殺されるわけにはいかない、絶対に」
何がなんでも生きてやる、という目。生にしがみつく強い瞳。あの時のリアと重なった。足が動かなかった。たった9歳の子供を前に、縫い止められたように立ち尽くした。
「私はまだ死ねない。いつかあなたに殺されてあげるから。だから、今は帰ってちょうだい」
平民の子供を背に庇ってそう言われた時はふざけんなと怒鳴りたくなった。だがその目がリアを思い出させて殺せなかった。
いつか絶対に殺してやる。そう心に決めた。
しっかしまあ、俺が殺さねえでも死にそうじゃん、あいつ。
陰から見ていたらあいつはすぐ死にそうになった。暗殺者にすぐ気が付く、毒は一切口にしない。なのに鈍臭い。暗殺者に気が付いても避けられない、逃げられない、やり返せない。それでも生きる気だけは誰よりも強い。
笑っちまうぜ。
この手で殺すと決めたやつが死にそうになっている。面白くねえ。陰からナイフを投げた時は間抜けな顔で俺を探してやがった。
「死ぬんじゃねえ。お前は俺が殺す」
その次の日から庭で短剣投げの練習を始めたあいつは、本当にセンスがなかった。投げた短剣が何故か後ろに飛んだり、木の上にいる俺の方に飛んできたり。おかげでアドバイスをする羽目になっちまった。
やっと見れるくらいに上達してきた時、毒もプレゼントしてやった。
「卒業祝いだ。師匠からのな。短剣に塗って使え」
「あ、ありがとう」
碌に話したこともなければあいつは俺の顔すら最初の一回しか見たことがないはずだ。何故そこまで信じれるのかと思ったが、見ていたら分かった。
あいつは誰も信じちゃいねえ。この世界を生き残る難解さを誰よりも知っている。本当は気が弱いくせに強いふりして、泣きたいくせに笑って、不器用なやつだと思った。だがリアもそうだったのかと考えると尚更目が離せなくなった。
学生になった。あいつは見ていたら退屈しなかった。何年も見ていたらあいつのことで知らねえことなんてないほどになった。本当に可哀想なやつだ。金があっても不幸な奴はいるんだなと、この俺が思ったくらい。
卒業まで半年というところであいつの母親が死んだ。あいつが学校に行っている間に毒入りの水を飲んだ。俺はそれを見ていた。最初から最後まで。あいつが望んだら教えてやろうと思って。だがあいつは聞かなかった。
泣くこともなく淡々とやることを片付けた。母親の死を隠し、当主の仕事をこなし、他の家族を一切疑わせなかった。それがあいつの睡眠と心を削った結果だと知っているのは俺だけだった。そしてあいつは弟すらも騙して見せた。見事な物だった。
当主の仕事をしながら城で働くあいつはどんどん死に近づいて行った。いっそ殺してやろうと何度思ったことか。だがあいつは寝ながら泣くことはあっても起きている時は絶対泣かなかった。
苛々した。死んだような顔で生き続けるあいつに。あいつをずっと見ている自分に。だからあいつが国外へ行くとなった時にほっとした。これであいつから離れられる。あいつを殺してやれる。俺もあの目から解放される。
リア。俺はお前のことを忘れる。あいつを殺して、お前を殺して、忘れて、生き続けるよ。悪い兄ちゃんでごめんな。何もしてやれなくてごめんな。逃げてごめんな。でもお前のことを愛していたよ。
見上げた空はすがすがしいほどに青い。俺はあいつが通るであろう道の脇の木にもたれかかった。これからここを通る馬車にあいつが乗っている。
俺はあんたを殺して自由になるぜ、お嬢さん。
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