池に落ちて乙女ゲームの世界に!?ヒロイン?悪役令嬢?いいえ、ただのモブでした。

紅蘭

文字の大きさ
18 / 300

上のお兄様

しおりを挟む
隣に座るクルトお兄様は、ふう、と息をつくと、素振りをしているおじさまの方を見て言った。


「バルトルトは相変わらず強いな」

「あら、お兄様も強くてかっこよかったですわよ」


あのおじさま、バルトルトっていうんだ。いままで館の中で何度か見たことはあるけど、話したことはない。

お兄様のお稽古に付き合うくらいだからこの家の騎士?

すごくいかつくていかにも強そうだしね。

私の言葉にクルトお兄様は笑った。


「ありがとう。これでも学校の成績は上から数えた方が早いんだ」


その誇らしげな表情に私の頬が緩む。

それはさっきまでと違い、背伸びをしていない年相応の表情だった。

うん? 学校の成績って言った? 学校の成績に剣の強さが関係あるの? もしかして授業の一環で剣のお稽古があるとか? 体育みたいな?

そうだったら嬉しい。私も剣を振り回してみたい。お兄様みたいにかっこよく戦いたい。

だってそれすっごくファンタジーじゃん!

自分がかっこよく剣のお稽古をしているところを想像すると、頬が緩み、変な笑いが漏れる。

お兄様はそんな私を見て一瞬びくっと体を引いて、引きつった笑みを浮かべた。


「エ、エレナ? どうしたんだい? その、様子がおかしいけど……」


クルトお兄様の言葉にはっと意識を取り戻す。

やばいやばい、令嬢らしさが吹っ飛んで行っていた。

私は理性をかき集めて微笑む。


「何のことでしょう?」


必殺、「知らないふり~令嬢の微笑みを添えて~」。

お義母様に鍛えられた私の令嬢パワーを見せつけると、お兄様はごしごしと目をこすって私を見た。


「あ、いや、気のせいだったみたいだ」


よし、ごまかせた!

それはそうと、学校のことをもっと詳しく聞きたい。


「クルトお兄様、学校では剣の授業がありますの?」

「ああ、僕は騎士科だからね。共通授業にはないからきっとエレナは受けることはないよ」


おお、騎士科。そうだ、ゲームの中でも学校は科でわかれていたような気がする。

今までアリアに聞いても「行けば分かります」と何も教えてくれなかったのだ。

行けば分かるじゃなくて、ちゃんと教えてよ!

心の中で文句を言うとアリアがお水を持って戻って来た。

おっと、いけないいけない。

なんとなくバツが悪くてにこっと笑うと、アリアは不思議そうに私を見ながらも、クルトお兄様にお水を手渡した。

私は再びお水を飲んでいるクルトお兄様を見る。


「じゃあわたくしが騎士科を選べば剣のお稽古ができるのですね?」

「無理に決まっているだろう。更に馬鹿になったか」


望みを込めて言った私の言葉に、罵倒とともに返って来たのはクルトお兄様の声ではなかった。

私を馬鹿って言ったのは誰だ!

きょろきょろすると、アリアの向こう側にクルトお兄様よりも背の高い男の子が立っていた。

誰だろう。……中学生くらい?

お父様譲りの薄い金色の髪を後ろで一つにまとめている超美形。明日帰って来るって言っていたヘンドリックお兄様かな。

それにしてもすんごい冷たい目で私を見ているな。いじめられていたって本当だったんだ。

アリアを信じていなかったわけではないけど、実の兄弟を本気でいじめることはないでしょって楽観視していた。


「兄上、帰って来るのは明日では?」


アリアがすっと私の後ろに立ち、クルトお兄様が私をかばうように前に立つ。

私は一人ベンチに座ったままだ。

それに罪悪感を覚え、よいしょ、と立とうとすると、アリアがそっと私の肩を押した。

あれ、立ったらダメ?


「そのまま座っていてください」


緊張で硬い声で小さくそう言われ、私は座ったままクルトお兄様の背中を見る。十歳だというのに頼もしい背中だ。

ああ、そうか、私をヘンドリックお兄様から隠すために立たせたくないのか。

姿は見えないが、冷たい声だけが聞こえる。


「別に私が我が家に帰って来るのに今日でも明日でもいいだろう。それとも何か。それは私が帰ってきたら不都合だというのか?」


「それ」ってもしかして私のこと? こんなに嫌われているなんてエレナは一体何をしたのだろうか。

クルトお兄様がヘンドリックお兄様と話しているのを他人事のように聞く。

別にヘンドリックお兄様に嫌われたって構わない。どうせ普段は学校に行っているんだし、同じ家にいたとしても、お義母様のようにそうそう顔を合わせることはない。

この世界の家族は、あっちの世界での家族の在り方とは随分と違うのだ。

それよりも私が騎士科を選んでも剣のお稽古ができないというのが気になる。

空気を読んで黙っておくべきか、読まずに聞くべきか。

聞いても教えてくれるとは限らないよね。でも、もう既に嫌われているんだから、これ以上関係がひどくなることはないし。

……よし! 聞いてみよう。今この場において空気を読む必要はない。十分に険悪なのだから。

私は勢いよく立ち上がってヘンドリックお兄様の方を見た。


「エレナ様……!」


アリアが驚いたように私の名前を呼ぶ。その声にクルトお兄様もヘンドリックお兄様も私を見た。

クルトお兄様の顔に「空気を読め」と書いてあるような気がした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

前世の記憶を取り戻した元クズ令嬢は毎日が楽しくてたまりません

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のソフィーナは、非常に我が儘で傲慢で、どしうようもないクズ令嬢だった。そんなソフィーナだったが、事故の影響で前世の記憶をとり戻す。 前世では体が弱く、やりたい事も何もできずに短い生涯を終えた彼女は、過去の自分の行いを恥、真面目に生きるとともに前世でできなかったと事を目いっぱい楽しもうと、新たな人生を歩み始めた。 外を出て美味しい空気を吸う、綺麗な花々を見る、些細な事でも幸せを感じるソフィーナは、険悪だった兄との関係もあっという間に改善させた。 もちろん、本人にはそんな自覚はない。ただ、今までの行いを詫びただけだ。そう、なぜか彼女には、人を魅了させる力を持っていたのだ。 そんな中、この国の王太子でもあるファラオ殿下の15歳のお誕生日パーティに参加する事になったソフィーナは… どうしようもないクズだった令嬢が、前世の記憶を取り戻し、次々と周りを虜にしながら本当の幸せを掴むまでのお話しです。 カクヨムでも同時連載してます。 よろしくお願いします。

『二流』と言われて婚約破棄されたので、ざまぁしてやります!

志熊みゅう
恋愛
「どうして君は何をやらせても『二流』なんだ!」  皇太子レイモン殿下に、公衆の面前で婚約破棄された侯爵令嬢ソフィ。皇妃の命で地味な装いに徹し、妃教育にすべてを捧げた五年間は、あっさり否定された。それでも、ソフィはくじけない。婚約破棄をきっかけに、学生生活を楽しむと決めた彼女は、一気にイメチェン、大好きだったヴァイオリンを再開し、成績も急上昇!気づけばファンクラブまでできて、学生たちの注目の的に。  そして、音楽を通して親しくなった隣国の留学生・ジョルジュの正体は、なんと……?  『二流』と蔑まれた令嬢が、“恋”と“努力”で見返す爽快逆転ストーリー!

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。

槙村まき
恋愛
 スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。  それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。  挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。  そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……! 第二章以降は、11時と23時に更新予定です。 他サイトにも掲載しています。 よろしくお願いします。 25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!

悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!

たぬきち25番
恋愛
 気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡ ※マルチエンディングです!! コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m 2024.11.14アイク(誰?)ルートをスタートいたしました。 楽しんで頂けると幸いです。 ※他サイト様にも掲載中です

処理中です...