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上のお兄様
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隣に座るクルトお兄様は、ふう、と息をつくと、素振りをしているおじさまの方を見て言った。
「バルトルトは相変わらず強いな」
「あら、お兄様も強くてかっこよかったですわよ」
あのおじさま、バルトルトっていうんだ。いままで館の中で何度か見たことはあるけど、話したことはない。
お兄様のお稽古に付き合うくらいだからこの家の騎士?
すごくいかつくていかにも強そうだしね。
私の言葉にクルトお兄様は笑った。
「ありがとう。これでも学校の成績は上から数えた方が早いんだ」
その誇らしげな表情に私の頬が緩む。
それはさっきまでと違い、背伸びをしていない年相応の表情だった。
うん? 学校の成績って言った? 学校の成績に剣の強さが関係あるの? もしかして授業の一環で剣のお稽古があるとか? 体育みたいな?
そうだったら嬉しい。私も剣を振り回してみたい。お兄様みたいにかっこよく戦いたい。
だってそれすっごくファンタジーじゃん!
自分がかっこよく剣のお稽古をしているところを想像すると、頬が緩み、変な笑いが漏れる。
お兄様はそんな私を見て一瞬びくっと体を引いて、引きつった笑みを浮かべた。
「エ、エレナ? どうしたんだい? その、様子がおかしいけど……」
クルトお兄様の言葉にはっと意識を取り戻す。
やばいやばい、令嬢らしさが吹っ飛んで行っていた。
私は理性をかき集めて微笑む。
「何のことでしょう?」
必殺、「知らないふり~令嬢の微笑みを添えて~」。
お義母様に鍛えられた私の令嬢パワーを見せつけると、お兄様はごしごしと目をこすって私を見た。
「あ、いや、気のせいだったみたいだ」
よし、ごまかせた!
それはそうと、学校のことをもっと詳しく聞きたい。
「クルトお兄様、学校では剣の授業がありますの?」
「ああ、僕は騎士科だからね。共通授業にはないからきっとエレナは受けることはないよ」
おお、騎士科。そうだ、ゲームの中でも学校は科でわかれていたような気がする。
今までアリアに聞いても「行けば分かります」と何も教えてくれなかったのだ。
行けば分かるじゃなくて、ちゃんと教えてよ!
心の中で文句を言うとアリアがお水を持って戻って来た。
おっと、いけないいけない。
なんとなくバツが悪くてにこっと笑うと、アリアは不思議そうに私を見ながらも、クルトお兄様にお水を手渡した。
私は再びお水を飲んでいるクルトお兄様を見る。
「じゃあわたくしが騎士科を選べば剣のお稽古ができるのですね?」
「無理に決まっているだろう。更に馬鹿になったか」
望みを込めて言った私の言葉に、罵倒とともに返って来たのはクルトお兄様の声ではなかった。
私を馬鹿って言ったのは誰だ!
きょろきょろすると、アリアの向こう側にクルトお兄様よりも背の高い男の子が立っていた。
誰だろう。……中学生くらい?
お父様譲りの薄い金色の髪を後ろで一つにまとめている超美形。明日帰って来るって言っていたヘンドリックお兄様かな。
それにしてもすんごい冷たい目で私を見ているな。いじめられていたって本当だったんだ。
アリアを信じていなかったわけではないけど、実の兄弟を本気でいじめることはないでしょって楽観視していた。
「兄上、帰って来るのは明日では?」
アリアがすっと私の後ろに立ち、クルトお兄様が私をかばうように前に立つ。
私は一人ベンチに座ったままだ。
それに罪悪感を覚え、よいしょ、と立とうとすると、アリアがそっと私の肩を押した。
あれ、立ったらダメ?
「そのまま座っていてください」
緊張で硬い声で小さくそう言われ、私は座ったままクルトお兄様の背中を見る。十歳だというのに頼もしい背中だ。
ああ、そうか、私をヘンドリックお兄様から隠すために立たせたくないのか。
姿は見えないが、冷たい声だけが聞こえる。
「別に私が我が家に帰って来るのに今日でも明日でもいいだろう。それとも何か。それは私が帰ってきたら不都合だというのか?」
「それ」ってもしかして私のこと? こんなに嫌われているなんてエレナは一体何をしたのだろうか。
クルトお兄様がヘンドリックお兄様と話しているのを他人事のように聞く。
別にヘンドリックお兄様に嫌われたって構わない。どうせ普段は学校に行っているんだし、同じ家にいたとしても、お義母様のようにそうそう顔を合わせることはない。
この世界の家族は、あっちの世界での家族の在り方とは随分と違うのだ。
それよりも私が騎士科を選んでも剣のお稽古ができないというのが気になる。
空気を読んで黙っておくべきか、読まずに聞くべきか。
聞いても教えてくれるとは限らないよね。でも、もう既に嫌われているんだから、これ以上関係がひどくなることはないし。
……よし! 聞いてみよう。今この場において空気を読む必要はない。十分に険悪なのだから。
私は勢いよく立ち上がってヘンドリックお兄様の方を見た。
「エレナ様……!」
アリアが驚いたように私の名前を呼ぶ。その声にクルトお兄様もヘンドリックお兄様も私を見た。
クルトお兄様の顔に「空気を読め」と書いてあるような気がした。
「バルトルトは相変わらず強いな」
「あら、お兄様も強くてかっこよかったですわよ」
あのおじさま、バルトルトっていうんだ。いままで館の中で何度か見たことはあるけど、話したことはない。
お兄様のお稽古に付き合うくらいだからこの家の騎士?
すごくいかつくていかにも強そうだしね。
私の言葉にクルトお兄様は笑った。
「ありがとう。これでも学校の成績は上から数えた方が早いんだ」
その誇らしげな表情に私の頬が緩む。
それはさっきまでと違い、背伸びをしていない年相応の表情だった。
うん? 学校の成績って言った? 学校の成績に剣の強さが関係あるの? もしかして授業の一環で剣のお稽古があるとか? 体育みたいな?
そうだったら嬉しい。私も剣を振り回してみたい。お兄様みたいにかっこよく戦いたい。
だってそれすっごくファンタジーじゃん!
自分がかっこよく剣のお稽古をしているところを想像すると、頬が緩み、変な笑いが漏れる。
お兄様はそんな私を見て一瞬びくっと体を引いて、引きつった笑みを浮かべた。
「エ、エレナ? どうしたんだい? その、様子がおかしいけど……」
クルトお兄様の言葉にはっと意識を取り戻す。
やばいやばい、令嬢らしさが吹っ飛んで行っていた。
私は理性をかき集めて微笑む。
「何のことでしょう?」
必殺、「知らないふり~令嬢の微笑みを添えて~」。
お義母様に鍛えられた私の令嬢パワーを見せつけると、お兄様はごしごしと目をこすって私を見た。
「あ、いや、気のせいだったみたいだ」
よし、ごまかせた!
それはそうと、学校のことをもっと詳しく聞きたい。
「クルトお兄様、学校では剣の授業がありますの?」
「ああ、僕は騎士科だからね。共通授業にはないからきっとエレナは受けることはないよ」
おお、騎士科。そうだ、ゲームの中でも学校は科でわかれていたような気がする。
今までアリアに聞いても「行けば分かります」と何も教えてくれなかったのだ。
行けば分かるじゃなくて、ちゃんと教えてよ!
心の中で文句を言うとアリアがお水を持って戻って来た。
おっと、いけないいけない。
なんとなくバツが悪くてにこっと笑うと、アリアは不思議そうに私を見ながらも、クルトお兄様にお水を手渡した。
私は再びお水を飲んでいるクルトお兄様を見る。
「じゃあわたくしが騎士科を選べば剣のお稽古ができるのですね?」
「無理に決まっているだろう。更に馬鹿になったか」
望みを込めて言った私の言葉に、罵倒とともに返って来たのはクルトお兄様の声ではなかった。
私を馬鹿って言ったのは誰だ!
きょろきょろすると、アリアの向こう側にクルトお兄様よりも背の高い男の子が立っていた。
誰だろう。……中学生くらい?
お父様譲りの薄い金色の髪を後ろで一つにまとめている超美形。明日帰って来るって言っていたヘンドリックお兄様かな。
それにしてもすんごい冷たい目で私を見ているな。いじめられていたって本当だったんだ。
アリアを信じていなかったわけではないけど、実の兄弟を本気でいじめることはないでしょって楽観視していた。
「兄上、帰って来るのは明日では?」
アリアがすっと私の後ろに立ち、クルトお兄様が私をかばうように前に立つ。
私は一人ベンチに座ったままだ。
それに罪悪感を覚え、よいしょ、と立とうとすると、アリアがそっと私の肩を押した。
あれ、立ったらダメ?
「そのまま座っていてください」
緊張で硬い声で小さくそう言われ、私は座ったままクルトお兄様の背中を見る。十歳だというのに頼もしい背中だ。
ああ、そうか、私をヘンドリックお兄様から隠すために立たせたくないのか。
姿は見えないが、冷たい声だけが聞こえる。
「別に私が我が家に帰って来るのに今日でも明日でもいいだろう。それとも何か。それは私が帰ってきたら不都合だというのか?」
「それ」ってもしかして私のこと? こんなに嫌われているなんてエレナは一体何をしたのだろうか。
クルトお兄様がヘンドリックお兄様と話しているのを他人事のように聞く。
別にヘンドリックお兄様に嫌われたって構わない。どうせ普段は学校に行っているんだし、同じ家にいたとしても、お義母様のようにそうそう顔を合わせることはない。
この世界の家族は、あっちの世界での家族の在り方とは随分と違うのだ。
それよりも私が騎士科を選んでも剣のお稽古ができないというのが気になる。
空気を読んで黙っておくべきか、読まずに聞くべきか。
聞いても教えてくれるとは限らないよね。でも、もう既に嫌われているんだから、これ以上関係がひどくなることはないし。
……よし! 聞いてみよう。今この場において空気を読む必要はない。十分に険悪なのだから。
私は勢いよく立ち上がってヘンドリックお兄様の方を見た。
「エレナ様……!」
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クルトお兄様の顔に「空気を読め」と書いてあるような気がした。
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