池に落ちて乙女ゲームの世界に!?ヒロイン?悪役令嬢?いいえ、ただのモブでした。

紅蘭

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お茶会

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「じゃあ行ってくるわね、カミラ」

「はい、行ってらっしゃいませ、お母様、お姉さま」

「帰ったらいっぱいお話しましょうね」


カミラに見送られて馬車へと乗ると、馬車は私とお義母様を乗せて動き出した。

今日はお茶会だ。二度目のお茶会。どこへ行くのかはまだ知らない。どうせ聞いても分からないし。

だけど、今日はなぜかドレスを着せられた。初めてのドレスは、思った以上に動きにくくて足元が見えないので、転びそうで怖い。ちなみにお義母様もドレスを着ているけど動きにくさを感じていないのか、いつも通りに見える。

そしてコルセットにしめつけられたお腹がきつい。

……今日はあまり食べられないかも。お菓子だけが楽しみなのに。

はあ、と小さく息をつくと、お義母様が咎めるように私を見た。


「エレナ、今日は失敗は許されませんよ。いいですか、第一印象は大切です。顔を上げて常に笑顔でいるのですよ」


なんか今日のお義母様ピリピリしてるな。前回は馬車の中でも機嫌がよかったのに。今日のお茶会のメンバーに厳しい人がいるのかな。……それは嫌だぁ。

そう思いながらも私はにっこりと笑う。


「はい、お義母様のお顔に泥をぬらないように、精いっぱい努力いたしますわ」


私はちらっと外を見る。進行方向側に座っているので、通り過ぎたところしか見えない。

今日は結構遠いな。

気を抜いて姿勢が崩れないよう、私は背筋を伸ばした。



……嘘でしょ。

馬車の扉があき、私の視界に入って来たのはとんでもないものだった。


「エレナ」


後ろからお義母様に呼ばれ、はっとして、笑顔を作り、馬車を降りる。

……これお城だよね。いや絶対お城だよ。だってすんごい大きいもん! これに比べたらうちなんて犬小屋みたいなものじゃない!

いやいやいや、それは教えてよ、お義母様! っていうか、アリアも知っていたなら教えてよ!

なんて、言えないどころか、表情にも出せない私は、それを隠すように笑みを深める。

不自然じゃない程度にお城を見上げながら、案内されるままに歩く。

だからドレスだったのね。もしかして皇后陛下もいらっしゃったりして……。なんて、そんなわけないよね。

私は緊張しながらもお茶会の会場に入った。



「いらっしゃい、フィオーレ伯爵夫人」


なんですとおぉぉぉ!

お茶会の中心に座っていたのは皇后陛下だった。顔を知らなくてもすぐに分かった。だって格が違う。衣装からオーラから、周りにいる人たちと明らかに違う。

ま、まじか……。

皇后陛下の前にお義母様が膝をつく。私もその少し後ろに膝をついて頭を下げた。


「本日はお招きありがとう存じます」


私はこの後どうしたらいいんだっけ。お義母様からの紹介を待つんだっけ? それとも挨拶はまた後で?

お義母様の挨拶を聞き流しながら考えるけど、緊張してぶっ飛んだ。というか、皇族に会う時のことなんて教えてもらってないよ!


「紹介させてくださいませ。娘のエレナでございます」


私の名前が出たね。えっと、顔を上げていいって言われたら上げるんだよね……。え、もしかして顔を上げないまま挨拶するのかな。……分かんないよ!

考えても何も分からない。その時、皇后陛下の声が聞こえた。


「エレナ、顔を上げてちょうだい」


内心ほっと息をつきながら私は顔を上げて皇后陛下を見た。

うわぁ、すっごい美人だ……。

思わず見惚れてしまい、私ははっとして口を開いた。


「申し訳ございません、思わず見惚れてしまいました。フィオーレ家長女、エレナでございます。本日の出会いに祝福があらんことを。どうぞよろしくお願い致します」


皇后陛下の美しさにかすむことは分かっているけど、できるかぎり優雅に笑う。

この世界には美人しかいないの? いや、まあエレナもそれなりに美人だとは思うけど、それ以上の美人がいすぎて全然価値がない!


「ええ、今日は楽しんでいってくださいね」

「ありがとう存じます」


皇后陛下への挨拶が終わって席に着くと、今度は周りの席の人から話しかけられた。席は身分順になっているようで、私たちは真ん中よりも少し上だ。

へぇ、うちって意外と上の方なんだ。

お義母様の左隣でひたすら愛想笑いをして、相槌を打つだけ。お義母様やアリアに言われたわけではないけど、私は余計なことを言わないためにも黙っているつもりだ。

そうこうしている内に参加者がそろい、皇后陛下が改めて挨拶をすることで、お茶会は本格的にスタートした。とは言っても始まる前と特に変わることもなく、皆思い思いに話に花を咲かしている。

私は暇を持て余して、お茶を飲んだ。


「エレナ様」

「はい」


ちまちまとお菓子を食べていると、後ろから声をかけられた。笑顔を貼り付け、振り返ると、そこには見慣れた顔があった。


「クリスティーナ様、いらしてましたのね」

「ええ、エレナ様はお忙しそうでしたので、話しかけるタイミングを伺っておりましたの」


ちら、とクリスは視線を少し離れたところへ向けた。視線の先にはクレヴィング夫人がいる。

なるほど、ちょっと遠いから気付かなかったのか。


「エレナ様はお城は初めてでしょう? お城のお庭はうちよりも綺麗ですの。よかったらいっしょにどうでしょう?」


お庭? 勝手に行っていいのかな? と思ったけど、よく見るとさっきからいろんな人が席を立ってどこかへ行っている。多分皆お庭の方に行っているのだろう。


「ええ、喜んで」


退屈で仕方がなかったのでちょうどいい。私はお義母様に一言声をかけて席を立った。

私がクリスと一緒に歩き出すと、後ろをアリアもついて来る。クリスは横目でちらっとアリアを見ると、真剣な顔で何かを考え出した。


「あの、クリス? どうしましたか?」

「ああ、ううん、なんでもないよ」


周りには聞こえないようにいつも通りの口調でそう言うと、クリスはニヤッと笑い私の手を引いて駆けだした。
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