池に落ちて乙女ゲームの世界に!?ヒロイン?悪役令嬢?いいえ、ただのモブでした。

紅蘭

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お城の中

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「こっちですわ、エレナ様。とても綺麗ですのよ」


ぐいっと手を引かれ、クリスとともに駆け出すと、周りの人の視線を感じた。

ダメだって、私は令嬢らしくしないといけないんだから。そう思ってクリスの手を離そうとするけど、思った以上に力が強くて全然振り払えない。

クリスと一緒に走るしかないようだ。走りながら周りの様子を伺うと、周りの反応は私の思っていたものとは違った。


「まあ、かわいらしい。そんなにお庭が楽しみなのね」

「ほほえましいわね」


あ、あれ……? お義母様が見たら絶対怒るよ。走ってもいいの? ほほえましいの?

誰も私たちのことをみっともないと言わない。

……怒られないならまあいいか。


「クリスティーナ様、ここですわね」


お庭に着いたと思って足を止めようとした私の手をぐっと握って、クリスはそのまま庭に駆け込んだ。

そしてそのまま背の高い花がたくさんある辺りへと走り、私たちは花に囲まれた。気が付けば周りには誰もいない。


「もう少しだよ、頑張って」

「何がですの!?」


思わずそう叫ぶと、クリスが慌てて口の前に一本指を立てた。

静かに? 何で?

不思議に思って、走りながら辺りを見る。だけど視界に入るのは花ばかりで何も見えない。

あ、アリアがいない! いけない、このままだとはぐれちゃう……。

その時に気が付いた。私がそこまで花に興味がないことを知っているのにお庭に誘った理由。クリスが急に走り出した理由。静かにするように言った理由。

私たちを隠せるほど背の高い花達に紛れて、アリアをまく。クリスは最初からその気だったのだ。


「後でアリアに怒られますわよ」

「仕方がないから一緒に怒られてあげるよ」


この場合悪いのは明らかにクリスなんだけど。

クリスが何をしたいのかは分からないけど、どうせあそこにいても退屈だし、おなかが苦しくてお菓子もあんまり食べられないし。

それにしてもヒールでも意外と走れるんだね。愛玲奈の時にはヒールを履かなかったので、今初めて知った。

なんて、どうでもいいことを考えながらひたすら走る。どこをどう走ったのか分からなくなった時、急に視界が開けた。

目の前には白い大きい建物がある。

クリスが足を止めて私を振り返った。息が上がっている。


「こんなに走ったのに全然疲れてなさそうだね」

「だてに毎日お稽古していませんわよ」


そう言いながらも別に疲れていないわけではない。ただ見栄っ張りなだけだ。

それにしても暑い。ドレスで走ったのは初めてだけど、こんなにも暑いなんて。汗臭かったらどうしよう。お義母様にばれたら……。

自分で腕をクンクンと匂ってみる。よく分からない。


「クリス、わたくし汗臭くないわよね?」


クリスにそう聞くと、クリスは可笑しそうに笑った。


「エレナは女の子だね」

「何を言っているの? クリスだって女の子でしょう? それにわたくしはこのことがお義母様にばれて怒られたら嫌なだけよ」

「それは大丈夫だよ。その前にアリアが話してばれるから」


大丈夫じゃないでしょっ!

私帰ったら怒られるの決定じゃん……やだなぁ、お義母様に本気で怒られたことはまだないけど絶対怖いもん。分かるもん。

はあ、とため息を吐くとクリスは少し笑って私の手を取った。


「ほら、一緒に謝ってあげるから。とりあえず行こう」

「行くってどこに……?」


クリスは慣れた様子で目の前の建物のドアを開けた。ひんやりとした空気がぶわっと出てきて、気持ちがいい。

一歩中に入ると、そこにはとても立派な廊下があった。


「クリス、ここはどこ? 勝手に入っていいの?」

「どこって……お城だよ」


今更何を聞くんだと言わんばかりの表情で、クリスが言った。まあなんとなく分かっていたけど。でもまさかお城の中に入るなんて思わないじゃん!

広くて豪華な廊下を進み、右に曲がったり左に曲がったり、方向感覚がなくなった。クリスは慣れた様子で迷いなく進む。

私は初めて見るお城の中に興味津々で、あっちを見たりこっちを見たりしてテンションがマックスだ。

だって本物のお城だよ! 愛玲奈の時に何度本物のお城を見たいと思ったことか。

強そうな甲冑や高そうな絵や花瓶、そこは私の思い描いた通りのお城だった。

それにしてもクリスはお城の中を歩くことになれている。

たくさんいるお城のメイドさんや警備の人も最初は警戒して私たちを見るけど、クリスの顔を見ると、途端に私たちを気にしなくなる。

クリスは一体何者なのよ……。


「ねえ、クリス、わたくしをどこへ連れて行くつもりなの?」

「行ったら分かるよ。安心して、怖いことはないからね」


別に怖くはないけど、それでもどこへ行って何をするのかくらいは知りたい。

アリアを引き離してまで私を連れていきたい場所はどこなのか。

てくてくと二人で結構歩いた時だった。


「ここだよ」


クリスが大きなドアの前で立ち止まる。

おお、大きなドア……この装飾どうなっているんだろう。細かさも豪華さも多分素材も、全てにおいてうちとは違う。さすがお城。お金がかかっている。

まじまじとドアの装飾を見ていると、クリスに不思議そうに見られた。


「エレナ、開けるけどいい?」


ハッとしてドアから離れる。

いけないいけない、変な子だと思われてしまう。

私がドアから離れたことを確認して、クリスはノックをすると、返事を待たずに重たそうなドアを開けた。
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