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説教
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全部話して、ヒロインが出てくるまでの間くらいは人を助けよう。
決心して歩き出した私の腕を誰かが勢いよく引っ張った。
「いた……っ!」
そのまま半ば引きずられるような形で歩かされる。顔を上げると、険しい表情で前を見ているお兄様の横顔が見えた。強くつかまれた腕が痛い。
私の歩幅なんて全然考えてくれていないので何度もこけそうになり、その度に掴まれた腕をぐい、と引っ張られた。
何、何なの、痛いんだけど!
ヨハンがお兄様を注意している声が耳に入るが、お兄様は一向に足も手も緩めない。そのまま一室へと入ると、私は勢いよく床へと投げだされた。
なんとか手をついて顔からは突っ込まないようにしたが、あちこち痛い。
「痛い……」
座りこんだままでいると、ヨハンが駆け寄ってきて立ち上がるのに手を貸してくれた。が、足はくじいているし、掴まれていた腕は痛いし、いきなりの暴力に心は折れそうだし。
立ち上がれなくて俯くと、お兄様は部屋の扉を閉めて私へと向き直った。
「死にゆく者全てを救うつもりか」
「え……?」
冷たい目、冷たい声。いつもよりもずっと。
『死にゆく者全てを救うつもりか』。少し考えてようやく理解できた。お兄様には私が何をしようとしていたのか分かっているのだ。
だけどどうして怒っているのかは全く分からない。
「それの何がいけないというのです?」
立派なことをしようとしているのだ。むしろ褒めて欲しい。そう思うが、きっと納得のできる理由があるのだろう。悔しいけど、お兄様は私よりもずっと賢いし、ヨハンだって止めようとしないのだから。
理不尽なことではないんだろうな。
小さくため息を落とすと、お兄様は不快そうに眉をひそめた。
「もし陛下にこのことを話せばお前が光属性を持っているということはすぐに広がる」
そりゃそうでしょ。こんな奇跡のような力、誰だって一度は夢見たことがあるだろうし。
「広がると、どうなるか分かる?」
ヨハンが優しい目で私に問いかけてきた。ああ、お兄様にもこの半分でも、いや、十分の一でも優しさがあれば……!
私はとりあえず自分の体の痛いところを全部治して立ち上がった。そしてそこにあった椅子に腰かける。
私一人だけ先に座ったことを責める様子もなく、お兄様は私の正面に、ヨハンはその隣に座った。
「けがや病気を治してもらいたい方が殺到する、でしょうか?」
きょとんとして言った私をお兄様は呆れたような表情で見た。
「城で教育を受けたくせにその程度か」
ぼそっとそう言われ、カチンときた。
ムカつく……っ!
「分からないので賢いお兄様方に教えていただきたいのですが」
わざと刺々しく言ってみたがお兄様は全く気にせずに私を馬鹿にするような視線を向けてくる。
「もちろん、殺到はする。貴族だけじゃない。平民も、よその国の者も、だ。そしてその結果、医療技術は廃れる」
……確かに。それはよくない。せっかくこれまで発展してきただろう医療技術はこれからもっと発展するだろう。この世界の技術レベルは知らないけど、あっちの世界くらいにはなるかもしれない。
「お前は学校に行くどころか、城から出ることもできず、一生を終える」
うわ、超嫌だ!!
心の底から嫌な顔をしてしまい、お兄様はまた呆れた表情で私を見た。
「学校入学前の貴族と認められていないお前は最終的にどんな扱いになるのか分からぬ。お前や私が思っている以上にひどいものになるかもしれない。ゆめゆめ忘れるな」
それだけ言って口を閉じたお兄様。だけど話が終わりだとは思えない。だって今の話にあんなに私の腕を強く引っ張るほど怒るようなことがあった? なんか納得がいかない。
大体ヒロインだって貴族じゃないのに学校行ってたじゃん。しかも四年生からの途中編入をしてまで。貴族じゃなくて光属性を使えるという点では同じ私も学校に行かせてはくれるんじゃないかと思う。
「納得がいきませんわ、お兄様。先ほどからよく分からない違和感が拭えませんの。何か隠していらっしゃるのではなくて?」
そう言ってはっきりとした。そう、違和感だ。お兄様の言葉はどこかおかしいような気がしてたまらない。どこが、といわれても分からないけど。話せる部分だけを話した、みたいな微妙な食い違い。
私を睨んでいるお兄様を、微笑んで真っすぐ見つめると、お兄様ははあ、とため息をついて、足を組んだ。
うっわ、長い足。見せつけているのか、と言いたくなるが、もちろんそんなつもりがないのは分かっている。そんな馬鹿みたいなことを考えている場合でもない。
「光属性によって都合が悪くなる者もいる。お前の命を狙う者が出てくるだろう。学校に行けず、城から出られないというのはそういう意味だ」
……つまり、閉じ込めるためではなく、私を保護する為にお城にいろってことか。これはヒロインも何度か襲われていた。学校の中だからそんな大事ではなかったけど。攻略対象との絆を深める大事なイベントだ。
「では扱いが酷いものになるかもしれないというのはどういう意味でしょうか?」
てっきり私をお城に閉じ込めて、魔法を使わせるためだけの道具にされる、という意味だと思っていたが、お城にいるのが保護するためだというのなら、話は変わってくる。
「さっきのは良い例だ。こっちは悪い例。最悪の場合、お前は殺される。お前の考える敵でない。陛下の手によって、だ」
決心して歩き出した私の腕を誰かが勢いよく引っ張った。
「いた……っ!」
そのまま半ば引きずられるような形で歩かされる。顔を上げると、険しい表情で前を見ているお兄様の横顔が見えた。強くつかまれた腕が痛い。
私の歩幅なんて全然考えてくれていないので何度もこけそうになり、その度に掴まれた腕をぐい、と引っ張られた。
何、何なの、痛いんだけど!
ヨハンがお兄様を注意している声が耳に入るが、お兄様は一向に足も手も緩めない。そのまま一室へと入ると、私は勢いよく床へと投げだされた。
なんとか手をついて顔からは突っ込まないようにしたが、あちこち痛い。
「痛い……」
座りこんだままでいると、ヨハンが駆け寄ってきて立ち上がるのに手を貸してくれた。が、足はくじいているし、掴まれていた腕は痛いし、いきなりの暴力に心は折れそうだし。
立ち上がれなくて俯くと、お兄様は部屋の扉を閉めて私へと向き直った。
「死にゆく者全てを救うつもりか」
「え……?」
冷たい目、冷たい声。いつもよりもずっと。
『死にゆく者全てを救うつもりか』。少し考えてようやく理解できた。お兄様には私が何をしようとしていたのか分かっているのだ。
だけどどうして怒っているのかは全く分からない。
「それの何がいけないというのです?」
立派なことをしようとしているのだ。むしろ褒めて欲しい。そう思うが、きっと納得のできる理由があるのだろう。悔しいけど、お兄様は私よりもずっと賢いし、ヨハンだって止めようとしないのだから。
理不尽なことではないんだろうな。
小さくため息を落とすと、お兄様は不快そうに眉をひそめた。
「もし陛下にこのことを話せばお前が光属性を持っているということはすぐに広がる」
そりゃそうでしょ。こんな奇跡のような力、誰だって一度は夢見たことがあるだろうし。
「広がると、どうなるか分かる?」
ヨハンが優しい目で私に問いかけてきた。ああ、お兄様にもこの半分でも、いや、十分の一でも優しさがあれば……!
私はとりあえず自分の体の痛いところを全部治して立ち上がった。そしてそこにあった椅子に腰かける。
私一人だけ先に座ったことを責める様子もなく、お兄様は私の正面に、ヨハンはその隣に座った。
「けがや病気を治してもらいたい方が殺到する、でしょうか?」
きょとんとして言った私をお兄様は呆れたような表情で見た。
「城で教育を受けたくせにその程度か」
ぼそっとそう言われ、カチンときた。
ムカつく……っ!
「分からないので賢いお兄様方に教えていただきたいのですが」
わざと刺々しく言ってみたがお兄様は全く気にせずに私を馬鹿にするような視線を向けてくる。
「もちろん、殺到はする。貴族だけじゃない。平民も、よその国の者も、だ。そしてその結果、医療技術は廃れる」
……確かに。それはよくない。せっかくこれまで発展してきただろう医療技術はこれからもっと発展するだろう。この世界の技術レベルは知らないけど、あっちの世界くらいにはなるかもしれない。
「お前は学校に行くどころか、城から出ることもできず、一生を終える」
うわ、超嫌だ!!
心の底から嫌な顔をしてしまい、お兄様はまた呆れた表情で私を見た。
「学校入学前の貴族と認められていないお前は最終的にどんな扱いになるのか分からぬ。お前や私が思っている以上にひどいものになるかもしれない。ゆめゆめ忘れるな」
それだけ言って口を閉じたお兄様。だけど話が終わりだとは思えない。だって今の話にあんなに私の腕を強く引っ張るほど怒るようなことがあった? なんか納得がいかない。
大体ヒロインだって貴族じゃないのに学校行ってたじゃん。しかも四年生からの途中編入をしてまで。貴族じゃなくて光属性を使えるという点では同じ私も学校に行かせてはくれるんじゃないかと思う。
「納得がいきませんわ、お兄様。先ほどからよく分からない違和感が拭えませんの。何か隠していらっしゃるのではなくて?」
そう言ってはっきりとした。そう、違和感だ。お兄様の言葉はどこかおかしいような気がしてたまらない。どこが、といわれても分からないけど。話せる部分だけを話した、みたいな微妙な食い違い。
私を睨んでいるお兄様を、微笑んで真っすぐ見つめると、お兄様ははあ、とため息をついて、足を組んだ。
うっわ、長い足。見せつけているのか、と言いたくなるが、もちろんそんなつもりがないのは分かっている。そんな馬鹿みたいなことを考えている場合でもない。
「光属性によって都合が悪くなる者もいる。お前の命を狙う者が出てくるだろう。学校に行けず、城から出られないというのはそういう意味だ」
……つまり、閉じ込めるためではなく、私を保護する為にお城にいろってことか。これはヒロインも何度か襲われていた。学校の中だからそんな大事ではなかったけど。攻略対象との絆を深める大事なイベントだ。
「では扱いが酷いものになるかもしれないというのはどういう意味でしょうか?」
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