池に落ちて乙女ゲームの世界に!?ヒロイン?悪役令嬢?いいえ、ただのモブでした。

紅蘭

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兄妹の団らん

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「おかえりなさいませ、ヘンドリックお兄様」


翌日、馬車が外に着いたのが見えて、出迎えに行くと、ヘンドリックお兄様は「ああ」と返事をしてくれた。あのお兄様が返事をするなんて! 少し前だったら私をちらっと見ただけで舌打ちしてたでしょ! 段々関係が修復できてきたのか、ヘンドリックお兄様が丸くなったのかは分からないが、すごい進歩だ。

お兄様はさっさと屋敷の中に入ろうとし、私の後ろに立っているアリアを見た。


「荷物を」

「お待ちくださいませ」


アリアへ指示を出そうとするお兄様の前に立って、私はその顔を見上げた。言葉を遮られたお兄様は不機嫌そうに私を見下ろす。


「アリアはわたくし付きですもの。お兄様には他の方を。アリアは譲りませんわよ」


お兄様はしばらくの間私を見ると、私が譲らないことを察したのか、それとも私からアリアを離さない方が良いと判断したのか、ちっと舌打ちをすると、横に控えていた執事さんにくい、と指で指示を出した。

一緒に屋敷の中に入ると、そこにはちょうどカミラがいた。カミラは私を見てぱあっと笑顔になったが、隣に立つヘンドリックお兄様に気が付くと、途端に笑顔が消えた。

この二人初めて会うんだっけ? クルトお兄様とカミラは普通に仲良くしてるけどヘンドリックお兄様はちょっとまだきついかも……。


「カミラ、紹介しますわね。こちらヘンドリックお兄様。初めてだったわよね?」

「は、はい、上のお兄様……カミラです。よろしくお願い致します」


小さな声でそう言っておどおどと頭を下げるカミラに同情する。分かる、分かるよ、威圧感半端ないよね。顔は怖いし背は高いし、同じお兄様でもクルトお兄様とは大違い! 本当に同じ血を引いているのかって思うレベルよね!

お兄様は何も言わずにカミラを一瞥すると、そのまま歩き出した。あー、一言くらい何か言ってあげればいいのに。


「ごめんなさいね、カミラ。お兄様今機嫌が悪いみたいなの。また」

「機嫌は別に悪くない」


カミラをフォローしようとする私の言葉を遮って、お兄様が冷たい声で言った。あーあー、私が慰めようとしてるのに……。


「私に関わるな。近付くな。そのおどおどした顔を見せるな」


うわー、なんか既視感。私も最初の方あんな感じだったような気がする。……うん、まだこれからだよ。道のりは結構長いかもしれないけど。

泣きそうに顔を歪めているカミラを見て、お兄様は何も言わずに歩き出した。振り返りもしない。


「カミラ、大丈夫よ。わたくしの時も最初はあんな感じだったわ。少し気難しい人なの。怖いけど優しいのよ。だけど無理に関わろうとしなくていいからね」

「はい、ありがとうございます」


しょんぼりしたカミラも可愛い。けどそうじゃない。あの態度は改めてもらわないといけない。私は部屋へと向かうお兄様の背中を見て、手をグッと握った。



カミラを慰めるために少し話をした後、私はヘンドリックお兄様の部屋へと向かった。

アリアがノックをすると「誰だ」と返事が返って来た。


「エレナです」

「……入れ」


声色から私が何を言いに来たのか分かったのだろう。お兄様の面倒臭そうな声が聞こえてきた。アリアが扉を開ける。私は遠慮なく部屋へ踏み込んだ。私は怒っているのだ、という態度で、堂々と。

だが部屋の中にはヘンドリックお兄様の他にも人がいた。


「やあ、エレナ」

「あら、クルトお兄様もいらしていたのですか!」


二人は机をはさんでソファに座り、何かを話していたようだ。


「うん、これをもらっていたんだ」


クルトお兄様がベルのようなものを私に見せてくれる。というかベルだよね、これ。何に使うんだろう。色々な角度から眺める私に、クルトお兄様が説明してくれる。


「時間になったら音が鳴るんだ。兄上に朝起きることができないと相談したら作ってくれてね」


おお、つまり目覚まし時計か! 私も欲しかったやつ!


「すごいですわ! わたくしも欲しいです!」


目を輝かせてヘンドリックお兄様を見ると、ヘンドリックお兄様は心底呆れたような表情で私を見た。ソファの背もたれにもたれてすごく偉そうだ。背筋を伸ばして座っているクルトお兄様を少しは見習って欲しい。


「お前は何をしに来たんだ」


おっと、忘れていた。そうだ、私は怒っていたんだった。まさかの怒っている相手から指摘されるとは……。とはいえもうすっかり怒りが吹っ飛んでしまった。

私はクルトお兄様の隣に座ってヘンドリックお兄様を見る。まあ言ったところで変わらないだろうけど。


「先ほどのカミラへの態度ですが、もう少しどうにかならないものですの? かわいそうですわよ」


私の言葉にヘンドリックお兄様は静かに言う。


「もっとひどい目に遭っていたお前があの程度でかわいそうだと言うのか」


お、おお、自分で言うか。まあ正直私はそこまでひどい目に遭ったことはない。せいぜい突き飛ばされたくらいだ。


「カミラはまだ小さいのです」

「お前はもっと小さかった」


そう返されるとなんて言っていいのか分からない。ぐっと言葉に詰まり、私は方向性を変えた。


「わたくしのことは今はどうでもいいのです。別にカミラと仲良くしろと言っているわけではありません。酷い態度を取らないで欲しいだけです」

「別にあの娘が今後私の前に顔を出さなければいいだけの話だ」

「それは無理ですわよ」


ああ、そっか、ヘンドリックお兄様は知らないのか。うちが晩御飯は皆で一緒に食べるということを。ヘンドリックお兄様は家で晩御飯を食べることがなかったもんね。お父様ですらたまに一緒に食べているのに。

クルトお兄様がそのことを伝えるとヘンドリックお兄様はものすっごい嫌そうな顔をした。珍しいくらいに感情が顔に出ている。今の顔はぜひとも写真に撮っておきたかった。

そしてヘンドリックお兄様はとても深いため息をついて私を見た。


「いつからこの家はそんなに平和になっていたのだ……」

「あら、ヘンドリックお兄様が態度を改めるともっと平和になりますのよ。いいことでしょう?」


割と本気で言ったのだが睨まれてしまった。クルトお兄様は私の隣で笑っている。……うん、確かに平和だ。最初にヘンドリックお兄様に会った時は三人でこういう風に話す日が来るなんて思っていなかった。


「約束した通り、晩御飯には唐揚げも出ますので、ぜひご一緒しましょう。では」


言いたいことを言った私は、アリアを連れてさっさと部屋を出た。兄弟の会話の邪魔はしてはいけない。男同士の話もあるだろうし。私は厨房に行かないといけないし。

なんとなく気分が良くなって、私は鼻歌を歌いながら厨房へと向かった。
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