池に落ちて乙女ゲームの世界に!?ヒロイン?悪役令嬢?いいえ、ただのモブでした。

紅蘭

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家族そろった夕食

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いつもの夕食時よりも少しだけ気合を入れておめかしをする。だって今日は初めて家族全員そろって晩御飯を食べることができるのだ。


「楽しみね、アリア」

「ええ、本当に。こんな日が来るなんて思ってもいませんでした」


アリアも嬉しそうに顔をほころばす。お父様も早く帰って来られたし、後はヘンドリックお兄様がちゃんと来てくれるかよね。唐揚げで釣ってはおいたけど……あのお兄様が食べ物で釣れるとは思えない。


「ヘンドリックお兄様に声をかけて行きましょう」

「ええ、それがいいかと」


アリアの開けた扉から部屋を出て、隣の部屋の前に立ったその時、ちょうど扉が開いた。

うわっ、びっくりした……。


「……何をしている」


お兄様は部屋の前に立っている私を見て呆れたような表情を浮かべた。私はとりあえずえへ、と笑っておく。


「ヘンドリックお兄様がお夕食に来られるか心配でしたので……」


見るとお兄様もちゃんと夕食用のフォーマルな服を着ていた。あ、ちゃんと準備してる。杞憂だったかな?

と思ったその時、両端の扉がほぼ同時に開いた。カミラとクルトお兄様がそれぞれ出てくる。カミラは私の姿を見てぱっと顔をほころばせると寄って来た。

クルトお兄様も柔らかな笑みを浮かべてこちらへ来る。

……いや、本当にこうしてみると美男美女って感じの四兄妹だな。その中に私がいるっていうのが違和感だけど。


「タイミングが良かったね。じゃあ四人で行こうか」

「ええ、そうですわね」


クルトお兄様の言葉に頷いて歩き始めると、ヘンドリックお兄様は無言で私の手を取った。ああ、相変わらずスマートなエスコートだな。お兄様と並んで歩き始め、少し後ろを振り返ってみると、カミラのエスコートはクルトお兄様がしていた。

あああ、なんかすごい微笑ましい。クルトお兄様はヘンドリックお兄様程スマートではないけど、でもそこがいい! 推せる! そして明らかに照れているカミラが可愛い!


「わ、わたくしこうしてエスコートされるのは初めてです……」


そんな声が聞こえたので私は首だけで振り返って歩きながら言う。


「大事なのは堂々とすることよ、カミラ」


なんてお姉ちゃんぶってみると……うっわ! 何かに躓いてこけそうになった。あ、これはやばい。

そう思うとぐっと手が引かれて、目の前にはヘンドリックお兄様の胸があった。……助かった。ほっと胸をなでおろしていると上から深いため息が聞こえてきた。


「前を向いて歩くことも大事だな」

「……ええ、本当に。ありがとうございました」


恥ずかしさで俯いて離れると、お兄様は何もなかったかのように歩き出した。うわーん、お姉ちゃんらしくしたかっただけなのに! かえって恥をかいちゃったよ!

さすがの私も学び、しずしずと歩いて食堂へと向かった。



「失礼します」


執事さんが食堂の扉を開けてくれ、私はヘンドリックお兄様にエスコートされたまま中に入った。もう既に座っているお父様とお義母様が私たちを見て驚いているのが分かった。

えっと、お父様とお義母様が向かい合って座ってるから……順番的に私はヘンドリックお兄様の隣か。アリアの引いてくれた椅子に座ると、私の前にカミラが、お義母様とカミラの間にクルトお兄様が座った。別に誰の隣でもいいけどカミラとヘンドリックお兄様が隣になるのだけは避けたかったのでよかった。


「こうして家族皆がそろって食事ができるというのはとても幸福なことだ」


そう始まったお父様の言葉で食事前の挨拶がすみ、とうとう食事が始まった。それぞれ一人ずつ給仕が付いているので、待つ必要もない。私はアリアがよそってくれたお皿に手を付けた。

うん、唐揚げ美味しい。衣サクッとしてる! まあ私がしたのは味付けだけで揚げたのは料理長だけど。


「これがエレナが作ったというカラアゲかい?」

「ええ、食べてみてくださいませ」


クルトお兄様はヘンドリックお兄様から聞いていたのか、真っ先に唐揚げに手を付けた。一口食べて表情が変わる。……クルトお兄様も気に入ってくれたみたいね。

そんなお兄様の様子を見て、お父様やお義母様、カミラも唐揚げを食べた。そしてクルトお兄様と同じ顔になる。


「これをエレナが……?」

「すごく美味しいですわね」

「お姉さますごいです!」

「ありがとうございます。ただ美味しいものは体にあまりよくありませんので気を付けてくださいね。もちろん、すごくたくさん食べなれば大丈夫ですが」


そもそも揚げ物料理の少ないこの世界だ。カロリーは高いし、油を取りすぎるとニキビはできるし、美味しいからと言って食べすぎはよくない。


「明日は卵焼きだ。甘くないやつ」


しれっと隣でリクエストしてくるヘンドリックお兄様に頷くと、お父様が何かを言いたそうに私たちを見ていた。実は食堂に入った時から気になってはいた。けど別に何も言ってこないし、もう少し食べてからでいいかな。

私はできるだけ優雅に綺麗に食事を口に運んだ。
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