池に落ちて乙女ゲームの世界に!?ヒロイン?悪役令嬢?いいえ、ただのモブでした。

紅蘭

文字の大きさ
119 / 300

追い詰められた私

しおりを挟む
「ところで」


食事がひと段落したころ、お父様がフォークを置いてそう切り出した。私も結構お腹いっぱいなのでフォークを置いてお父様を見る。


「お前たちはそんなに仲がよかったか? ヘンドリックの卒業パーティーの時も驚いたが」


その視線は明らかに私とヘンドリックお兄様に向いている。果たしてお父様はどこまで知っているのだろうか。関係が良くなる前をどこまで把握しているのだろうか。


「お前たちはあまり仲が良くないんじゃないかと思っていたが」


うん、つまりよく知らないわけね。まあ忙しいお父様だし、ヘンドリックお兄様もお父様に知られるようにはいじめてなかったのね。なんとなく、エレナも誰にも言ってなかったんじゃないかと思うし。まあいいけどね。

私はにっこりと笑って言った。


「ええ、とても仲良しですの」

「父上は私とこれが仲がいいように見えるのですか」


かぶった……しかも真逆のこと言ってるし。お父様が微妙な顔をしているのが見える。「おい」と冷たい声が聞こえてヘンドリックお兄様を見ると、お兄様は私を見下ろしていた。


「いつから私たちは仲良しになったのだ。記憶にないが」


えー、最近結構仲良しだと思うんだけどなー……仲良しじゃなかったのかな。でも普通に話もできるし困ったことがあったら相談に乗ってくれるし。間違ったことは教えてくれるし。ちょっと威圧的だけど。それを除けば……うん、兄妹仲は良好!


「あら、お兄様はわたくしを嫌いじゃないとおっしゃったでしょう? わたくしもお兄様のこと嫌いじゃありませんもの。頼りになりますし。ほら、仲良しではないですか」

「ほう……」


ヘンドリックお兄様は何かが気に入らなかったのか、私の頭をガシッと片手でつかむと、そのままぎりぎりと力を入れてきた。痛い痛い痛い! 何がダメなのよ!

力を振り絞ってベシッと手を払いのける。


「やめてくださいませ、髪が崩れるではないですか!」


せっかくアリアが綺麗にしてくれたのに! そう思ってハッと気が付いた。お父様もお義母様もカミラもポカンとしている。しまったあぁぁぁ! やらかした! 食事の席で騒いじゃった!


「も、申し訳ありません……」


小さくなって謝る私を見て、クルトお兄様だけがふふっと笑った。


「父上、ご心配なく。ご覧の通りとても仲が良いので」

「う、うむ、それはいいことだ」


クルトお兄様の言葉に、お父様は私たちの様子を見ながらもそう頷いた。そうそう、仲良しだよ。お父様は気にしなくていいよ。

私は不満そうなヘンドリックお兄様を無視して話題を変えた。


「ところで来年のお話になるのですが、わたくし文官科に進もうと思っておりますの。よろしいでしょうか?」

「ああ、その話なんだが……」


あれ、二つ返事でオッケーかと思ってたけど何かあるの? 駄目なの? 駄目と言われてももう決めちゃったんだけど。高々と宣言してるし。今更やっぱり止めたなんて言えないよ。


「お父様もお義母様も文官科だったのですよね! わたくしも同じ道に進むのが楽しみですわ!」


なんて、お父様が話す前に笑顔で言っておく。無邪気な娘の笑顔だ。こんな風に言われたらきっとお父様もダメとは言えないだろう。ちょっとの策略を巡らせた私を見て、クルトお兄様は苦笑し、ヘンドリックお兄様は呆れたようにため息を吐いた。

あ、ばれてる。さすがお兄様達。だけどお父様とお義母様は気が付いていない、多分。


「あー、とな、エレナ」


お父様はすごく言いづらそうに私を見た。うわ、ダメって言われる雰囲気。だけどさっきのは効いていそうだ。


「その、陛下がおっしゃったんだ。『全部やらせてみろ』と」


お義母様、ヘンドリックお兄様、クルトお兄様が愕然とした表情でお父様を見た。私とカミラだけが首を傾げている。全部やらせてみろ? どういうこと?


「つまり、文官科、魔法科、騎士科、全ての授業を修めろということだ」


は? 全部って三科全部ってこと? 馬鹿じゃないの!? っと、相手は陛下だった。


「それは命令、ですの?」


お義母様がお父様に聞く。とても信じられないと言った様子だ。クルトお兄様も同じ表情をしている。カミラも驚いている。が、ヘンドリックお兄様だけが何かを考えているようだ。


「いや、命令ではないと思われる。決めるのはエレナだ。だが、いくらエレナが優秀だからと言ってあまり現実的ではない。科の複数選択なんて前例がない。不可能だから前例がないのだ」

「いえ、父上、可能かと」


はいぃ!? ヘンドリックお兄様!? 何言い出すの!? やるの私なんだよ!? 無理だよ!


「魔法科にはヨハンが、騎士科にはクルトがいます。先生から先に授業内容だけ聞いておけば優先順位を付けることもできます。幸いこれの学習スピードは速い。基礎も既にできております。頑張ればできないことはありません」


……本当に勝手なことを言ってくれる。それならまずヘンドリックお兄様にやって見せて欲しい。大変なのは私なんだよー……。


「だが、ヘンドリックやクルトは知っているだろうが、二年生になると一年生の内容とは難易度が大幅に変わってくる。国最難関の学校の授業だ。一つの科を修めるのも大変だというのにそれを三つとは……」


うんうん、無理だよ! お父様に賛成!


「父上、子の限界を親が決めるのはよくありませんよ」


異議あり! 今にも叫びたい気分だ。決めるのは私だってお父様言ったじゃん! なんでヘンドリックお兄様がしゃしゃり出てるのよ!

ほら、クルトお兄様もすごい必死の形相で首を横に振っている。何も言わないけど「無理だ、止めておけ」と聞こえる。お父様もクルトお兄様も頑張って!


「一度も授業に出ずに卒業した方もいたのでしょう? ならば不可能ではありませんよ」


お父様がぐっと言葉に詰まる。確かに授業に出ずに卒業した人はいるかもしれないけど、それは例外すぎるよ! その人だって授業には出てないけどすっごい勉強してたかもしれないじゃん!


「できるな、エレナ」


ヘンドリックお兄様が威圧感たっぷりの笑顔を私に向けた。無理だなんて言ったらどうなることやら……。私は助けを求めてお父様を見た。


「……決めるのはエレナだ」


うわ! 諦めてる! お義母様助けて! 目が合うとお義母様は静かに首を横に振った。クルトお兄様は……! その顔には「兄上には勝てない」と書いてあった。皆もっと頑張ってよ!

最後の頼みの綱、アリア! アリアは私を見捨てないもん! そう思ってアリアを見たのだが、アリアは申し訳なさそうに目を逸らした。ひ、酷い……!


「エレナ、返事は?」

「む、無理です……!」


必死の覚悟でそう言った私に、ヘンドリックお兄様は更に怖い笑顔を見せた。


「うん? 聞こえなかったな。もう一度言ってくれ」


うわああぁぁぁん! 逃げ場が見当たらない。猫に追い詰められたネズミの気分だ。窮鼠猫を噛む、ということわざが浮かんだが、無理だ。現実はそう甘くない。私は泣きそうになりながら小さな声で「やります」と言うことしかできなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

美人同僚のおまけとして異世界召喚された私、無能扱いされ王城から追い出される。私の才能を見出してくれた辺境伯様と一緒に田舎でのんびりスローライ

さら
恋愛
美人な同僚の“おまけ”として異世界に召喚された私。けれど、無能だと笑われ王城から追い出されてしまう――。 絶望していた私を拾ってくれたのは、冷徹と噂される辺境伯様でした。 荒れ果てた村で彼の隣に立ちながら、料理を作り、子供たちに針仕事を教え、少しずつ居場所を見つけていく私。 優しい言葉をかけてくれる領民たち、そして、時折見せる辺境伯様の微笑みに、胸がときめいていく……。 華やかな王都で「無能」と追放された女が、辺境で自分の価値を見つけ、誰よりも大切に愛される――。

【完結】奇跡のおくすり~追放された薬師、実は王家の隠し子でした~

いっぺいちゃん
ファンタジー
薬草と静かな生活をこよなく愛する少女、レイナ=リーフィア。 地味で目立たぬ薬師だった彼女は、ある日貴族の陰謀で“冤罪”を着せられ、王都の冒険者ギルドを追放されてしまう。 「――もう、草とだけ暮らせればいい」 絶望の果てにたどり着いた辺境の村で、レイナはひっそりと薬を作り始める。だが、彼女の薬はどんな難病さえ癒す“奇跡の薬”だった。 やがて重病の王子を治したことで、彼女の正体が王家の“隠し子”だと判明し、王都からの使者が訪れる―― 「あなたの薬に、国を救ってほしい」 導かれるように再び王都へと向かうレイナ。 医療改革を志し、“薬師局”を創設して仲間たちと共に奔走する日々が始まる。 薬草にしか心を開けなかった少女が、やがて王国の未来を変える―― これは、一人の“草オタク”薬師が紡ぐ、やさしくてまっすぐな奇跡の物語。 ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

【完結】ヒロインに転生しましたが、モブのイケオジが好きなので、悪役令嬢の婚約破棄を回避させたつもりが、やっぱり婚約破棄されている。

樹結理(きゆり)
恋愛
「アイリーン、貴女との婚約は破棄させてもらう」 大勢が集まるパーティの場で、この国の第一王子セルディ殿下がそう宣言した。 はぁぁあ!? なんでどうしてそうなった!! 私の必死の努力を返してー!! 乙女ゲーム『ラベルシアの乙女』の世界に転生してしまった日本人のアラサー女子。 気付けば物語が始まる学園への入学式の日。 私ってヒロインなの!?攻略対象のイケメンたちに囲まれる日々。でも!私が好きなのは攻略対象たちじゃないのよー!! 私が好きなのは攻略対象でもなんでもない、物語にたった二回しか出てこないイケオジ! 所謂モブと言っても過言ではないほど、関わることが少ないイケオジ。 でもでも!せっかくこの世界に転生出来たのなら何度も見たイケメンたちよりも、レアなイケオジを!! 攻略対象たちや悪役令嬢と友好的な関係を築きつつ、悪役令嬢の婚約破棄を回避しつつ、イケオジを狙う十六歳、侯爵令嬢! 必死に悪役令嬢の婚約破棄イベントを回避してきたつもりが、なんでどうしてそうなった!! やっぱり婚約破棄されてるじゃないのー!! 必死に努力したのは無駄足だったのか!?ヒロインは一体誰と結ばれるのか……。 ※この物語は作者の世界観から成り立っております。正式な貴族社会をお望みの方はご遠慮ください。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムで完結済み。

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜

恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。 右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。 そんな乙女ゲームのようなお話。

処理中です...