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追い詰められた私
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「ところで」
食事がひと段落したころ、お父様がフォークを置いてそう切り出した。私も結構お腹いっぱいなのでフォークを置いてお父様を見る。
「お前たちはそんなに仲がよかったか? ヘンドリックの卒業パーティーの時も驚いたが」
その視線は明らかに私とヘンドリックお兄様に向いている。果たしてお父様はどこまで知っているのだろうか。関係が良くなる前をどこまで把握しているのだろうか。
「お前たちはあまり仲が良くないんじゃないかと思っていたが」
うん、つまりよく知らないわけね。まあ忙しいお父様だし、ヘンドリックお兄様もお父様に知られるようにはいじめてなかったのね。なんとなく、エレナも誰にも言ってなかったんじゃないかと思うし。まあいいけどね。
私はにっこりと笑って言った。
「ええ、とても仲良しですの」
「父上は私とこれが仲がいいように見えるのですか」
かぶった……しかも真逆のこと言ってるし。お父様が微妙な顔をしているのが見える。「おい」と冷たい声が聞こえてヘンドリックお兄様を見ると、お兄様は私を見下ろしていた。
「いつから私たちは仲良しになったのだ。記憶にないが」
えー、最近結構仲良しだと思うんだけどなー……仲良しじゃなかったのかな。でも普通に話もできるし困ったことがあったら相談に乗ってくれるし。間違ったことは教えてくれるし。ちょっと威圧的だけど。それを除けば……うん、兄妹仲は良好!
「あら、お兄様はわたくしを嫌いじゃないとおっしゃったでしょう? わたくしもお兄様のこと嫌いじゃありませんもの。頼りになりますし。ほら、仲良しではないですか」
「ほう……」
ヘンドリックお兄様は何かが気に入らなかったのか、私の頭をガシッと片手でつかむと、そのままぎりぎりと力を入れてきた。痛い痛い痛い! 何がダメなのよ!
力を振り絞ってベシッと手を払いのける。
「やめてくださいませ、髪が崩れるではないですか!」
せっかくアリアが綺麗にしてくれたのに! そう思ってハッと気が付いた。お父様もお義母様もカミラもポカンとしている。しまったあぁぁぁ! やらかした! 食事の席で騒いじゃった!
「も、申し訳ありません……」
小さくなって謝る私を見て、クルトお兄様だけがふふっと笑った。
「父上、ご心配なく。ご覧の通りとても仲が良いので」
「う、うむ、それはいいことだ」
クルトお兄様の言葉に、お父様は私たちの様子を見ながらもそう頷いた。そうそう、仲良しだよ。お父様は気にしなくていいよ。
私は不満そうなヘンドリックお兄様を無視して話題を変えた。
「ところで来年のお話になるのですが、わたくし文官科に進もうと思っておりますの。よろしいでしょうか?」
「ああ、その話なんだが……」
あれ、二つ返事でオッケーかと思ってたけど何かあるの? 駄目なの? 駄目と言われてももう決めちゃったんだけど。高々と宣言してるし。今更やっぱり止めたなんて言えないよ。
「お父様もお義母様も文官科だったのですよね! わたくしも同じ道に進むのが楽しみですわ!」
なんて、お父様が話す前に笑顔で言っておく。無邪気な娘の笑顔だ。こんな風に言われたらきっとお父様もダメとは言えないだろう。ちょっとの策略を巡らせた私を見て、クルトお兄様は苦笑し、ヘンドリックお兄様は呆れたようにため息を吐いた。
あ、ばれてる。さすがお兄様達。だけどお父様とお義母様は気が付いていない、多分。
「あー、とな、エレナ」
お父様はすごく言いづらそうに私を見た。うわ、ダメって言われる雰囲気。だけどさっきのは効いていそうだ。
「その、陛下がおっしゃったんだ。『全部やらせてみろ』と」
お義母様、ヘンドリックお兄様、クルトお兄様が愕然とした表情でお父様を見た。私とカミラだけが首を傾げている。全部やらせてみろ? どういうこと?
「つまり、文官科、魔法科、騎士科、全ての授業を修めろということだ」
は? 全部って三科全部ってこと? 馬鹿じゃないの!? っと、相手は陛下だった。
「それは命令、ですの?」
お義母様がお父様に聞く。とても信じられないと言った様子だ。クルトお兄様も同じ表情をしている。カミラも驚いている。が、ヘンドリックお兄様だけが何かを考えているようだ。
「いや、命令ではないと思われる。決めるのはエレナだ。だが、いくらエレナが優秀だからと言ってあまり現実的ではない。科の複数選択なんて前例がない。不可能だから前例がないのだ」
「いえ、父上、可能かと」
はいぃ!? ヘンドリックお兄様!? 何言い出すの!? やるの私なんだよ!? 無理だよ!
「魔法科にはヨハンが、騎士科にはクルトがいます。先生から先に授業内容だけ聞いておけば優先順位を付けることもできます。幸いこれの学習スピードは速い。基礎も既にできております。頑張ればできないことはありません」
……本当に勝手なことを言ってくれる。それならまずヘンドリックお兄様にやって見せて欲しい。大変なのは私なんだよー……。
「だが、ヘンドリックやクルトは知っているだろうが、二年生になると一年生の内容とは難易度が大幅に変わってくる。国最難関の学校の授業だ。一つの科を修めるのも大変だというのにそれを三つとは……」
うんうん、無理だよ! お父様に賛成!
「父上、子の限界を親が決めるのはよくありませんよ」
異議あり! 今にも叫びたい気分だ。決めるのは私だってお父様言ったじゃん! なんでヘンドリックお兄様がしゃしゃり出てるのよ!
ほら、クルトお兄様もすごい必死の形相で首を横に振っている。何も言わないけど「無理だ、止めておけ」と聞こえる。お父様もクルトお兄様も頑張って!
「一度も授業に出ずに卒業した方もいたのでしょう? ならば不可能ではありませんよ」
お父様がぐっと言葉に詰まる。確かに授業に出ずに卒業した人はいるかもしれないけど、それは例外すぎるよ! その人だって授業には出てないけどすっごい勉強してたかもしれないじゃん!
「できるな、エレナ」
ヘンドリックお兄様が威圧感たっぷりの笑顔を私に向けた。無理だなんて言ったらどうなることやら……。私は助けを求めてお父様を見た。
「……決めるのはエレナだ」
うわ! 諦めてる! お義母様助けて! 目が合うとお義母様は静かに首を横に振った。クルトお兄様は……! その顔には「兄上には勝てない」と書いてあった。皆もっと頑張ってよ!
最後の頼みの綱、アリア! アリアは私を見捨てないもん! そう思ってアリアを見たのだが、アリアは申し訳なさそうに目を逸らした。ひ、酷い……!
「エレナ、返事は?」
「む、無理です……!」
必死の覚悟でそう言った私に、ヘンドリックお兄様は更に怖い笑顔を見せた。
「うん? 聞こえなかったな。もう一度言ってくれ」
うわああぁぁぁん! 逃げ場が見当たらない。猫に追い詰められたネズミの気分だ。窮鼠猫を噛む、ということわざが浮かんだが、無理だ。現実はそう甘くない。私は泣きそうになりながら小さな声で「やります」と言うことしかできなかった。
食事がひと段落したころ、お父様がフォークを置いてそう切り出した。私も結構お腹いっぱいなのでフォークを置いてお父様を見る。
「お前たちはそんなに仲がよかったか? ヘンドリックの卒業パーティーの時も驚いたが」
その視線は明らかに私とヘンドリックお兄様に向いている。果たしてお父様はどこまで知っているのだろうか。関係が良くなる前をどこまで把握しているのだろうか。
「お前たちはあまり仲が良くないんじゃないかと思っていたが」
うん、つまりよく知らないわけね。まあ忙しいお父様だし、ヘンドリックお兄様もお父様に知られるようにはいじめてなかったのね。なんとなく、エレナも誰にも言ってなかったんじゃないかと思うし。まあいいけどね。
私はにっこりと笑って言った。
「ええ、とても仲良しですの」
「父上は私とこれが仲がいいように見えるのですか」
かぶった……しかも真逆のこと言ってるし。お父様が微妙な顔をしているのが見える。「おい」と冷たい声が聞こえてヘンドリックお兄様を見ると、お兄様は私を見下ろしていた。
「いつから私たちは仲良しになったのだ。記憶にないが」
えー、最近結構仲良しだと思うんだけどなー……仲良しじゃなかったのかな。でも普通に話もできるし困ったことがあったら相談に乗ってくれるし。間違ったことは教えてくれるし。ちょっと威圧的だけど。それを除けば……うん、兄妹仲は良好!
「あら、お兄様はわたくしを嫌いじゃないとおっしゃったでしょう? わたくしもお兄様のこと嫌いじゃありませんもの。頼りになりますし。ほら、仲良しではないですか」
「ほう……」
ヘンドリックお兄様は何かが気に入らなかったのか、私の頭をガシッと片手でつかむと、そのままぎりぎりと力を入れてきた。痛い痛い痛い! 何がダメなのよ!
力を振り絞ってベシッと手を払いのける。
「やめてくださいませ、髪が崩れるではないですか!」
せっかくアリアが綺麗にしてくれたのに! そう思ってハッと気が付いた。お父様もお義母様もカミラもポカンとしている。しまったあぁぁぁ! やらかした! 食事の席で騒いじゃった!
「も、申し訳ありません……」
小さくなって謝る私を見て、クルトお兄様だけがふふっと笑った。
「父上、ご心配なく。ご覧の通りとても仲が良いので」
「う、うむ、それはいいことだ」
クルトお兄様の言葉に、お父様は私たちの様子を見ながらもそう頷いた。そうそう、仲良しだよ。お父様は気にしなくていいよ。
私は不満そうなヘンドリックお兄様を無視して話題を変えた。
「ところで来年のお話になるのですが、わたくし文官科に進もうと思っておりますの。よろしいでしょうか?」
「ああ、その話なんだが……」
あれ、二つ返事でオッケーかと思ってたけど何かあるの? 駄目なの? 駄目と言われてももう決めちゃったんだけど。高々と宣言してるし。今更やっぱり止めたなんて言えないよ。
「お父様もお義母様も文官科だったのですよね! わたくしも同じ道に進むのが楽しみですわ!」
なんて、お父様が話す前に笑顔で言っておく。無邪気な娘の笑顔だ。こんな風に言われたらきっとお父様もダメとは言えないだろう。ちょっとの策略を巡らせた私を見て、クルトお兄様は苦笑し、ヘンドリックお兄様は呆れたようにため息を吐いた。
あ、ばれてる。さすがお兄様達。だけどお父様とお義母様は気が付いていない、多分。
「あー、とな、エレナ」
お父様はすごく言いづらそうに私を見た。うわ、ダメって言われる雰囲気。だけどさっきのは効いていそうだ。
「その、陛下がおっしゃったんだ。『全部やらせてみろ』と」
お義母様、ヘンドリックお兄様、クルトお兄様が愕然とした表情でお父様を見た。私とカミラだけが首を傾げている。全部やらせてみろ? どういうこと?
「つまり、文官科、魔法科、騎士科、全ての授業を修めろということだ」
は? 全部って三科全部ってこと? 馬鹿じゃないの!? っと、相手は陛下だった。
「それは命令、ですの?」
お義母様がお父様に聞く。とても信じられないと言った様子だ。クルトお兄様も同じ表情をしている。カミラも驚いている。が、ヘンドリックお兄様だけが何かを考えているようだ。
「いや、命令ではないと思われる。決めるのはエレナだ。だが、いくらエレナが優秀だからと言ってあまり現実的ではない。科の複数選択なんて前例がない。不可能だから前例がないのだ」
「いえ、父上、可能かと」
はいぃ!? ヘンドリックお兄様!? 何言い出すの!? やるの私なんだよ!? 無理だよ!
「魔法科にはヨハンが、騎士科にはクルトがいます。先生から先に授業内容だけ聞いておけば優先順位を付けることもできます。幸いこれの学習スピードは速い。基礎も既にできております。頑張ればできないことはありません」
……本当に勝手なことを言ってくれる。それならまずヘンドリックお兄様にやって見せて欲しい。大変なのは私なんだよー……。
「だが、ヘンドリックやクルトは知っているだろうが、二年生になると一年生の内容とは難易度が大幅に変わってくる。国最難関の学校の授業だ。一つの科を修めるのも大変だというのにそれを三つとは……」
うんうん、無理だよ! お父様に賛成!
「父上、子の限界を親が決めるのはよくありませんよ」
異議あり! 今にも叫びたい気分だ。決めるのは私だってお父様言ったじゃん! なんでヘンドリックお兄様がしゃしゃり出てるのよ!
ほら、クルトお兄様もすごい必死の形相で首を横に振っている。何も言わないけど「無理だ、止めておけ」と聞こえる。お父様もクルトお兄様も頑張って!
「一度も授業に出ずに卒業した方もいたのでしょう? ならば不可能ではありませんよ」
お父様がぐっと言葉に詰まる。確かに授業に出ずに卒業した人はいるかもしれないけど、それは例外すぎるよ! その人だって授業には出てないけどすっごい勉強してたかもしれないじゃん!
「できるな、エレナ」
ヘンドリックお兄様が威圧感たっぷりの笑顔を私に向けた。無理だなんて言ったらどうなることやら……。私は助けを求めてお父様を見た。
「……決めるのはエレナだ」
うわ! 諦めてる! お義母様助けて! 目が合うとお義母様は静かに首を横に振った。クルトお兄様は……! その顔には「兄上には勝てない」と書いてあった。皆もっと頑張ってよ!
最後の頼みの綱、アリア! アリアは私を見捨てないもん! そう思ってアリアを見たのだが、アリアは申し訳なさそうに目を逸らした。ひ、酷い……!
「エレナ、返事は?」
「む、無理です……!」
必死の覚悟でそう言った私に、ヘンドリックお兄様は更に怖い笑顔を見せた。
「うん? 聞こえなかったな。もう一度言ってくれ」
うわああぁぁぁん! 逃げ場が見当たらない。猫に追い詰められたネズミの気分だ。窮鼠猫を噛む、ということわざが浮かんだが、無理だ。現実はそう甘くない。私は泣きそうになりながら小さな声で「やります」と言うことしかできなかった。
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