池に落ちて乙女ゲームの世界に!?ヒロイン?悪役令嬢?いいえ、ただのモブでした。

紅蘭

文字の大きさ
122 / 300

道連れ

しおりを挟む
長期休暇が明け、特に何もないまま季節はすっかり冬になった。冷たい風が頬を撫でる。空気が冷たくて花が痛い。気を抜くとぶるぶる震えてしまいそうだ。だというのにどうして今私は外でお弁当を食べているのだろうか。

私の隣に座って楽しそうにお弁当を食べているクリスを見ると、クリスは私の視線に気が付いて、もぐもぐしながら首を傾げた。


「……寒くないの?」

「うん、ちょっと寒いね」


ですよね。上にもう一枚羽織りたい。


「どうしてわたくしたちは外で食べているのかしら?」

「今までだって外で食べてきたじゃん?」


何を今更、といった表情で私を見るクリス。本気で言っているのか冗談で言っているのかいまいちよく分からない。


「……今まではここまで寒くなかったでしょ。明日からは中で食べましょう」

「えー、エレナのお弁当は外で食べた方が美味しいんだけどな」


寒くて味なんていまいち分からないというのが本音なのだが。そういう風に言ってもらえるのは普通に嬉しい。


「また春になったら外で食べたらいいわ」


そう言った私をクリスはじとっとした目で見た。


「な、なによ……」

「……二年生になったらエレナは忙しくなるからゆっくりご飯を食べる暇もなくなるよ」

「……え?」


忙しくてゆっくりご飯を食べれない? うん? なんで? クリスは何の話をしているの?

きょとんとしている私を見てクリスはため息を吐いた。


「エレナは全部の科を取るんでしょ。お昼休みがあると思ってるの?」

「え? ないの?」


先ほど正式に出した科選択の調査票。私は嫌だったけど、ちゃんと全部の科を取ると書いた。おそらく陛下から学校にその話は既に言っているだろうし、ほぼ決定事項だ。

だけどそれと昼休みが何の関係があるんだろうか。


「美味しそうだね」


突然後ろから声をかけられ、私は驚きでお弁当を落としてしまいそうになった。振り向くとそこにいたのはヨハンだった。まだ心臓がばくばくいっている。全然気が付かなかった。

ヨハンは私を見て笑うと、私たちの前へと回り込んだ。


「ごめん、びっくりさせたね」

「ほんとだよ。声をかけるなら前からにしてよ」


クリスが文句を言うのにのっかって、私もうんうん、と頷いておく。ほんと後ろからいきなり声をかけるのは心臓によくない。

ヨハンは、ははっと笑う。


「それより、エレナちゃん全部の科をとるんだってね。さっき調査票見てびっくりしたよ」

「あら、ヘンドリックお兄様に聞いておられるのかと思っておりましたが」

「聞いてはいたけど半分くらい冗談だと思ってたんだよ。まさかこんな馬鹿なことする子がいるなんてね」


それを聞いてはは、と乾いた笑みがこぼれた。本当に馬鹿以外何者でもないと自分でも思う。こんな無謀なこと、賢い人だったら絶対にしない。だけど馬鹿なのは私ではないと思う。


「心外ですわね。お馬鹿なのはわたくしではなく、ヘンドリックお兄様と、最初に言い出した陛下では?」


ちょっと刺々しく言っておく。私は嫌なのだ。本当に嫌なのだ。勉強漬けの日々なんて送りたくないのだ。この話がヘンドリックお兄様のいないところでされていたら私は断っていた。確実に断っていた!


「もう陛下にお返事をした以上、今更無理だなんて言えませんもの。ヨハン様にはぜひとも魔法科の補習授業をお願いしたいですわ」


と言って、気が付いた。……そういうことか。先ほどのクリスの言葉。昼休みも補習で埋まると言っていたのだ。あああ、昼休みに放課後に、場合によっては休日も。私の楽しい学生ライフは一年で終わってしまうようだ。


「うん、もちろん」

「頑張ってね、エレナ」


クリスの言葉に「ええ」と頷く前にヨハンが言った。


「他人事か?」

「え、うん」


二人のその様子を見ていて私は気が付いてしまった。この感じは今までも何回か見たことがある。


「あの、ヨハン様? 今回ばかりは、その……」

「大丈夫だよ、エレナちゃん。一人だけ大変な目には遭わせないから」


ヘンドリックお兄様とはどこか違う、ヨハンの黒い笑顔が見えた。それを見てクリスの顔が青ざめていく。あー、今回は本当に笑えないのに。卒業パーティーとはわけが違うのだ。これは道連れにするわけにはいかない。が、ヨハンはもう既に決めたようだった。


「クリスは文官科と魔法科だよ。もちろん、殿下にも声はかけて来たから」

「はい!?」


今すごくとんでもないことを聞いたように思える。なんか、殿下がどうのって……。


「陛下は科の複数選択の前例を作りたいんだよ。それならエレナちゃん一人よりも何人かいた方が良いだろう? 殿下だってエレナちゃんが全部の科をとるって言ったら頷いてくれたよ。文官科と騎士科だって」


それはそうかもしれないけど……。そんな大変なことが分かり切っている道に友達を連れていくことなんてできない。前例は私一人で十分だって! 私も無事に卒業できるか分からないのに!


「まあいいよ」


静かな声が聞こえた。クリスがため息を吐いてヨハンを見ている。


「いいよ、私やる。エレナがすごい忙しそうなのに私一人のほほんとなんてしたくないし」

「クリス、悪いことは言わないわ。止めておいた方が……」

「大丈夫」


慌てて止める私を見てクリスは笑った。


「エレナと一緒なら怖くないよ。それに兄様がこういう風に言うってことはもう逃げられないんだよ」

「よく分かってるね。じゃあ後で調査票持って行くから」


ヨハンはそう言って笑うと、どこかへ歩いて行ってしまった。クリスは何もなかったかのようにお弁当を食べる。


「兄様ってにこにこしていて優しそうなんだけど、退路は絶対に残さないんだよ。今ここでどんなに嫌がってもどうせ最後はやらないといけなくなるんだから、最初に頷いておいた方が賢明なの」


……なんと。ヘンドリックお兄様とは違った攻め方だけど、ヨハンも勝てない勝負はしない人なのか。知らなかった。ヨハンとヘンドリックお兄様を取り換えて欲しいと思っていたけど、どっちもどっちかもしれない。あれだ、類は友を呼ぶってやつ。


「……お互い大変な兄を持ったものね」


私は考えた挙句そんなことしか言えなかった。クリスは心なしか、元気のない声で「うん」と頷いた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

美人同僚のおまけとして異世界召喚された私、無能扱いされ王城から追い出される。私の才能を見出してくれた辺境伯様と一緒に田舎でのんびりスローライ

さら
恋愛
美人な同僚の“おまけ”として異世界に召喚された私。けれど、無能だと笑われ王城から追い出されてしまう――。 絶望していた私を拾ってくれたのは、冷徹と噂される辺境伯様でした。 荒れ果てた村で彼の隣に立ちながら、料理を作り、子供たちに針仕事を教え、少しずつ居場所を見つけていく私。 優しい言葉をかけてくれる領民たち、そして、時折見せる辺境伯様の微笑みに、胸がときめいていく……。 華やかな王都で「無能」と追放された女が、辺境で自分の価値を見つけ、誰よりも大切に愛される――。

【完結】奇跡のおくすり~追放された薬師、実は王家の隠し子でした~

いっぺいちゃん
ファンタジー
薬草と静かな生活をこよなく愛する少女、レイナ=リーフィア。 地味で目立たぬ薬師だった彼女は、ある日貴族の陰謀で“冤罪”を着せられ、王都の冒険者ギルドを追放されてしまう。 「――もう、草とだけ暮らせればいい」 絶望の果てにたどり着いた辺境の村で、レイナはひっそりと薬を作り始める。だが、彼女の薬はどんな難病さえ癒す“奇跡の薬”だった。 やがて重病の王子を治したことで、彼女の正体が王家の“隠し子”だと判明し、王都からの使者が訪れる―― 「あなたの薬に、国を救ってほしい」 導かれるように再び王都へと向かうレイナ。 医療改革を志し、“薬師局”を創設して仲間たちと共に奔走する日々が始まる。 薬草にしか心を開けなかった少女が、やがて王国の未来を変える―― これは、一人の“草オタク”薬師が紡ぐ、やさしくてまっすぐな奇跡の物語。 ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

【完結】ヒロインに転生しましたが、モブのイケオジが好きなので、悪役令嬢の婚約破棄を回避させたつもりが、やっぱり婚約破棄されている。

樹結理(きゆり)
恋愛
「アイリーン、貴女との婚約は破棄させてもらう」 大勢が集まるパーティの場で、この国の第一王子セルディ殿下がそう宣言した。 はぁぁあ!? なんでどうしてそうなった!! 私の必死の努力を返してー!! 乙女ゲーム『ラベルシアの乙女』の世界に転生してしまった日本人のアラサー女子。 気付けば物語が始まる学園への入学式の日。 私ってヒロインなの!?攻略対象のイケメンたちに囲まれる日々。でも!私が好きなのは攻略対象たちじゃないのよー!! 私が好きなのは攻略対象でもなんでもない、物語にたった二回しか出てこないイケオジ! 所謂モブと言っても過言ではないほど、関わることが少ないイケオジ。 でもでも!せっかくこの世界に転生出来たのなら何度も見たイケメンたちよりも、レアなイケオジを!! 攻略対象たちや悪役令嬢と友好的な関係を築きつつ、悪役令嬢の婚約破棄を回避しつつ、イケオジを狙う十六歳、侯爵令嬢! 必死に悪役令嬢の婚約破棄イベントを回避してきたつもりが、なんでどうしてそうなった!! やっぱり婚約破棄されてるじゃないのー!! 必死に努力したのは無駄足だったのか!?ヒロインは一体誰と結ばれるのか……。 ※この物語は作者の世界観から成り立っております。正式な貴族社会をお望みの方はご遠慮ください。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムで完結済み。

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜

恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。 右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。 そんな乙女ゲームのようなお話。

処理中です...