池に落ちて乙女ゲームの世界に!?ヒロイン?悪役令嬢?いいえ、ただのモブでした。

紅蘭

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決意

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「ねえ、クリス」

「何?」


夜、ベッドに横になったままクリスを呼ぶと、クリスもまだ起きていたようで、すぐに返事が返って来た。真っ暗な部屋。静かな夜。


「わたくし、あの本の作者を本気で突き止めてみようと思うの」

「兄様やヘンドリック様からは何の情報もないんだよね。できるの?」


長期休暇の前、ヘンドリックお兄様に勝手に動くなと言われて、今までずっと待っていた。だけど何も言ってこない。来年から私が忙しくなることを考えると今のうちに突き止めておきたい。


「正直に言うとできると思うの」

「うん」

「だけど、その目的が分からない」

「うん」


目星はついている。だけどそれが誰で、どんな目的であの本を置いたのかが分からない。いい人なのか悪い人なのかも分からない。もし悪い人だというのならこのままにしておいた方がいいのも分かる。


「まだ迷ってるんだね」


いつもとは違うクリスの静かな声が耳に届く。高くもなく低くもないその声が私の心を穏やかにさせる。

クリスっていつもテンション高めで声のトーンも高いから気が付かないけど、結構中性的な声をしているんだな。うん、お義母様に近い声質。


「そうね。だけど突き止めるわ。だから、クリスも一緒にいてちょうだい」

「うん、私はずっとエレナの隣にいるよ」

「ありがとう」


少しして静かな寝息が聞こえてきた。その規則正しい寝息を聞いている内に私も眠くなり、いつの間にか朝になっていた。



そしてその翌々週末、私はクリスとともにお城へと向かった。陛下への面会予約はお父様を通して終わっている。正直、すっごく面倒臭かった。今までヨハンやヘンドリックお兄様を通してしていたことが、お父様を通すといきなり堅苦しくなったのだ。

ヨハンやお兄様だったら口で言うだけですんだのに対し、お父様だと、まずクリスからお父様へ魔法で面会予約をしたいことを伝え、その後、正式な書類が送られて来て、書いて送ってから数日して、陛下からの正式な面会時間や場所が書かれた紙が送られてきたのだ。

これが本来のやり方なんだろうけど、今まで楽していたのですごく面倒に感じた。そして時間がかかる! 本当だったらその週にすぐ行きたかったんだけど、次の次の週って……。

これが公式と非公式の違いなのだ。手っ取り早くカイでも通せばよかったかなと後悔中。ヘンドリックお兄様やヨハンには内緒で動きたいけど、カイだったら別に何も知らないしね。ちょっと用事があるからとか言えば行けそうな気がする。

まあ問題はどうやってカイに接触するかなんだけど。

人目のないところでは今まで通りに、なんて言っていたが、そもそも人目のないところがない。校内ではクラスメイト以上の接触などほぼ不可能だ。

それにしても直接陛下にアポを取れるヨハンとヘンドリックお兄様の偉大さを知ってしまった。あの二人、すごい……。


なんてことを考えながらてくてくと歩く。陛下の執務室へ着くと、陛下は今までと同じ人の良い笑顔で迎えてくれた。そして、いつものように隣の部屋へと促してくれる。

座るとお茶が出てきた。


「そなたらがヘルムートを通して面会依頼をしてくるとは珍しいな。兄妹喧嘩でもしたか?」


冗談っぽくそう言う陛下に私も冗談っぽく笑って見せる。


「ええ、あのお二人にはもう失望しましたの」


なんて、半分本当で半分嘘。調べてくれているんだろうなとは思っているけど、それを私に言う気があるのかは分からない。だから自分で調べた方が早いと思ったのだ。


「学校でのカイの様子はどうだ?」

「楽しそうだよ。友達もできたみたいだし、成績もいいし。エレナには負けるけどね」

「ふむ、クリスやエレナが側がいなくて大丈夫かと不安だったが、うまくやっているようだな」

「ええ、殿下は人に好かれるお人柄ですわ。周りにはいつも誰かがいますの」


まあ皆が皆下心はないと言い切れないところが非常に悲しいけど。おそらく陛下も分かっていることだろう。同じ道を歩いて来たのだから。それでも子供が一人でいるよりかは人に囲まれている方が嬉しいに決まっている。陛下の表情が柔らかくなる。


「そうか。……そうか」


噛みしめるように二回。じんわりと心が温かくなった。


「エレナ、そなたに謝りたい。無理を押し付けてすまない」


真っすぐに私を見るその目には本当に申し訳なさが見えて、それが何に対する謝罪なのかすぐに分かった。むしろこれしかない。三科全部とることについてだろう。文句を言いたいのをこらえて、だけどせめて約束だけ取り付けておこうと思った。


「出来る限りは頑張ってみます。ですが一つでも修めることができれば、他はどうあれ卒業をさせていただきたいのですが」

「ああ、そうしよう。クリスと、カイも」


クリスはほっと胸をなでおろす。全部できなかったから卒業できないなんて笑えないからね。


「ところで、どうして今なのですか? これまでそういう試みはなかったのでしょう? 先生方も驚いておられましたわ」

「……ずっと考えてはいた。だがそれをやり遂げることのできる子供がいなかったのだ。二科ならヨハンやヘンドリックにもできたかもしれないが、一番最初は三科と決めていた」

「あら、伝説にも残っている方がおられるではありませんか。一度も授業に出ずに卒業されたという方が」


それがただの噂ではないことは確認している。私の言葉に陛下は少し言葉に詰まったように見えた。そしてゆっくりと口を開いた。
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