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うん、全部第一皇子であるユリウス皇子で間違いはなさそうだ。陛下がさっき言っていた名前もない属性って多分闇属性のことだし。となると、あと聞きたいのは……。
「ところで第一皇子ってどんな方だったのですか?」
「……分からない」
自分の子供のことが分からないって何? いなくなたのは卒業後だからもう十六歳でしょ。十六年一緒にいたら、いくら関係の薄いこの世界の親子でも、人間性も性格もそれなりに分かると思うんだけど。
クリスと顔を見合わせる。そんな私たちを見て、陛下はポツリと言った。
「クリスが言っていただろう。油断すると忘れてしまいそうだ、と」
……ああ、忘れてしまったのか。なんらかの力が働いて。存在は覚えているし、第一皇子がいなくなったことも授業に出ていなかったのも覚えている。だけど性格は分からない、か。
もしかすると第一皇子の存在を忘れている人もいるのかもしれない。もしくはクリスのように、言われたら気付く、とか。
「そうですか。分かりました。半ば無理にお話を聞きだしたこと、謝罪させてください。申し訳ありませんでした」
立ち上がって頭を下げると、陛下は何か言いたげに口を開いた。が、すぐに閉じる。まるで何かを忘れてしまったかのような表情だ。
何を忘れたんだろう。話の流れから考えると第一皇子に関することだよね。
「お忙しい中ありがとうござました。またお茶の時間にはぜひご一緒させてくださいませ」
私の言葉にクリスも椅子から立ち上がった。陛下は何か言いたそうな、だけど思い出せないような表情で「うむ」と頷いた。もしかするとこれは結構まずい状況なのかもしれない。
まさかこんな記憶に影響が出るようなことがあるなんて思っていなかった。ヘンドリックお兄様を待ってないでもっと早くに動けばよかった。お城の神様のことを知っているのは私だけなんだから。
部屋から出ると、早足に歩く。クリスもついて来ながら「これからどうするの」と質問をしてくる。
「お城の神様に会いに行くわ。悪いけど一緒に来てくれるかしら? クリスがいたら心強いの」
「お城の神様?」
きょとんとして私を見るクリス。
「さっき話したじゃない。迷子になった時に会ったって」
「あ、ああ、そういえば言ってたね」
……忘れていたのか。おそらくただの物忘れじゃない。これも不思議な力が働いていると考えるべきだろう。ああ、さっき陛下が忘れたのもこのことだったのかもしれない。
「それで、どうやったら会えるの?」
「さあ……?」
どうやったら会えるかなんて知らない。今までは迷子になったら出てきてくれたのだ。だからきっと迷子になったら出てきてくれるはず。
「とりあえず迷子になりましょう。適当に歩くわよ」
いつもあまり歩かない方向へと足を進める。こっちの方はよく知らないから迷子になるはず。と思って、適当な角を何度も曲がってみたが、一向に人気が無くなる気配がない。
迷子かと聞かれれば迷子だ。もうどっちから来たかもここがどこなのかも分からないのだから。なのに今までの独特な雰囲気はない。
……迷い込めない?
「クリス、この場所は知っているの?」
「ううん、全く。どうやって戻ればいいのかも分からないよ」
「そうよね」
おかしいな。故意に迷子になったんじゃ駄目なのかな。でも二回目の時は知っている場所でも迷い込んだよね。うん、どういうことだろう。範囲に制限があるとか? 一人じゃないとダメとか?
――二回もここに迷い込んで来て、君はいったい何者なのかな?
ああ、あの時言ってたじゃん。普通の人は迷い込めないところなんだ。つまり、この場合は……。
「クリス、わたくし、今から一人であの角を曲がりますわ」
クリスがいるから迷い込めないと考えるのが妥当だ。
「わたくしの姿が消えたら後で合流しましょう。そうね、場所は魔法省にしましょう。戻って来ても動けない状態だったら声を飛ばすわ。ああ、念のためヨハン様も呼んでおいてもらえると助かるわ」
多分ヨハンとヘンドリックお兄様は勘づいているんじゃないかと思う。
「待って、エレナ消えるの? 意味が分からないんだけど」
うん、そうだよね。本当にそうだよね。何も説明してないもん。だけどまだ確証はないから話したくない。だって絶対心配かけるだろうし。今までが大丈夫だったからって次も大丈夫なわけではないし。
「もし今日中にわたくしが帰って来なかったら、わたくしのことは諦めてちょうだい」
とは言ってみたものの、クリスが頷くとは思えない。だから私はクリスの返事を聞く前にダッと走った。はしたないけど仕方がない。こうするしかクリスをまくことはできない。
「エレナ!」とクリスの声が聞こえたのを無視して、角を曲がった。
あっちの世界に! 強く念じ、足を止めると、周りからは人の姿がなくなっていた。あのとても静かで、寂しい、独特の雰囲気が漂っている。
よっし! 成功! あとは神様を探すだけ!
うろうろきょろきょろする。
「また迷子かい?」
そう経たない内にいつもの声が聞こえ、私はパッと振り返った。そこにはとても綺麗な神様の姿。
「いいえ、本日はあなたを探しに参りましたの。お城の神様」
笑顔を浮かべてそう言うと、神様は困惑したような表情で「神様?」と首を傾げた。ああ、そうだ、違った。
「あなたをお助けに参りました、ユリウス殿下」
「ところで第一皇子ってどんな方だったのですか?」
「……分からない」
自分の子供のことが分からないって何? いなくなたのは卒業後だからもう十六歳でしょ。十六年一緒にいたら、いくら関係の薄いこの世界の親子でも、人間性も性格もそれなりに分かると思うんだけど。
クリスと顔を見合わせる。そんな私たちを見て、陛下はポツリと言った。
「クリスが言っていただろう。油断すると忘れてしまいそうだ、と」
……ああ、忘れてしまったのか。なんらかの力が働いて。存在は覚えているし、第一皇子がいなくなったことも授業に出ていなかったのも覚えている。だけど性格は分からない、か。
もしかすると第一皇子の存在を忘れている人もいるのかもしれない。もしくはクリスのように、言われたら気付く、とか。
「そうですか。分かりました。半ば無理にお話を聞きだしたこと、謝罪させてください。申し訳ありませんでした」
立ち上がって頭を下げると、陛下は何か言いたげに口を開いた。が、すぐに閉じる。まるで何かを忘れてしまったかのような表情だ。
何を忘れたんだろう。話の流れから考えると第一皇子に関することだよね。
「お忙しい中ありがとうござました。またお茶の時間にはぜひご一緒させてくださいませ」
私の言葉にクリスも椅子から立ち上がった。陛下は何か言いたそうな、だけど思い出せないような表情で「うむ」と頷いた。もしかするとこれは結構まずい状況なのかもしれない。
まさかこんな記憶に影響が出るようなことがあるなんて思っていなかった。ヘンドリックお兄様を待ってないでもっと早くに動けばよかった。お城の神様のことを知っているのは私だけなんだから。
部屋から出ると、早足に歩く。クリスもついて来ながら「これからどうするの」と質問をしてくる。
「お城の神様に会いに行くわ。悪いけど一緒に来てくれるかしら? クリスがいたら心強いの」
「お城の神様?」
きょとんとして私を見るクリス。
「さっき話したじゃない。迷子になった時に会ったって」
「あ、ああ、そういえば言ってたね」
……忘れていたのか。おそらくただの物忘れじゃない。これも不思議な力が働いていると考えるべきだろう。ああ、さっき陛下が忘れたのもこのことだったのかもしれない。
「それで、どうやったら会えるの?」
「さあ……?」
どうやったら会えるかなんて知らない。今までは迷子になったら出てきてくれたのだ。だからきっと迷子になったら出てきてくれるはず。
「とりあえず迷子になりましょう。適当に歩くわよ」
いつもあまり歩かない方向へと足を進める。こっちの方はよく知らないから迷子になるはず。と思って、適当な角を何度も曲がってみたが、一向に人気が無くなる気配がない。
迷子かと聞かれれば迷子だ。もうどっちから来たかもここがどこなのかも分からないのだから。なのに今までの独特な雰囲気はない。
……迷い込めない?
「クリス、この場所は知っているの?」
「ううん、全く。どうやって戻ればいいのかも分からないよ」
「そうよね」
おかしいな。故意に迷子になったんじゃ駄目なのかな。でも二回目の時は知っている場所でも迷い込んだよね。うん、どういうことだろう。範囲に制限があるとか? 一人じゃないとダメとか?
――二回もここに迷い込んで来て、君はいったい何者なのかな?
ああ、あの時言ってたじゃん。普通の人は迷い込めないところなんだ。つまり、この場合は……。
「クリス、わたくし、今から一人であの角を曲がりますわ」
クリスがいるから迷い込めないと考えるのが妥当だ。
「わたくしの姿が消えたら後で合流しましょう。そうね、場所は魔法省にしましょう。戻って来ても動けない状態だったら声を飛ばすわ。ああ、念のためヨハン様も呼んでおいてもらえると助かるわ」
多分ヨハンとヘンドリックお兄様は勘づいているんじゃないかと思う。
「待って、エレナ消えるの? 意味が分からないんだけど」
うん、そうだよね。本当にそうだよね。何も説明してないもん。だけどまだ確証はないから話したくない。だって絶対心配かけるだろうし。今までが大丈夫だったからって次も大丈夫なわけではないし。
「もし今日中にわたくしが帰って来なかったら、わたくしのことは諦めてちょうだい」
とは言ってみたものの、クリスが頷くとは思えない。だから私はクリスの返事を聞く前にダッと走った。はしたないけど仕方がない。こうするしかクリスをまくことはできない。
「エレナ!」とクリスの声が聞こえたのを無視して、角を曲がった。
あっちの世界に! 強く念じ、足を止めると、周りからは人の姿がなくなっていた。あのとても静かで、寂しい、独特の雰囲気が漂っている。
よっし! 成功! あとは神様を探すだけ!
うろうろきょろきょろする。
「また迷子かい?」
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「あなたをお助けに参りました、ユリウス殿下」
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