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帰還
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椅子から落ち、床が近付くのが分かった。このままだと顔面から落ちるのも。それはまずい。令嬢的にアウトだ。グッと体に力を入れ、体をひねる。衝撃は肩に来た。
「いっ……!」
思わず声が出てしまったが、仕方がない。剣のお稽古ばかりしていたけど受け身の練習ももっと本格的にするべきだった。ズキズキするのを紛らわせるためにそんなことを考えてみるが、痛いものは痛い。そして体にはもう力が入らない。
「大丈夫!?」
ユリウス殿下が慌てて抱き起こしてくれる。ひんやりとした手が私のほっぺに触れた。
「魔力切れだね。結構派手に落ちたけどどう?」
「それよりどうですか? 成功しましたか?」
見える景色は変わらない。雰囲気は少し変わった気がするけど、気がするだけかもしれない。ユリウス殿下の腕に寄りかかったままそう聞くと、ユリウス殿下は目を細めて部屋の中を見渡した。
「うん、ここは僕の部屋だ。懐かしい、僕の部屋」
そうか、成功したのか。意外とあっけなかったな、と思う。もっと手こずるかと思っていたし、危険かもしれないと思っていた。魔力切れにはなったけど、こんな簡単に終わるとは思わなかった。
あー、クリスには魔法省で合流って言ったんだった。というか今更だけどユリウス殿下が突然戻って来たってなったらどうなるんだろう。今は皇位はカイが継ぐ予定だけどそれも変わるのかな。
あれ、そうなったらリリーのカイ攻略のストーリーが変わるよね。もしかして私結構やばいことしちゃった?
「あ、あの、とりあえず友達を呼んでもいいでしょうか」
「うん、どうぞ」
このままユリウス殿下の腕の中にいるのはちょっと遠慮したい。顔から落ちること以上に令嬢的にアウト、だ。
「クリス、エレナです。無事成功しました。動けないから来て欲しいのだけど……ユリウス殿下のお部屋って分かるかしら?」
残った僅かな魔力を振り絞って声を飛すと、すぐに返事が返って来た。
「すぐに行く!」
嬉しそうな、だけどちょっと怒っているような声。そして心配してくれているのが声から伝わる。あー、絶対文句言われる。結構無理やりだったからな。うーん、でも成功したし許してくれるかな。
少しするとノックの音が響いた。落ち着いた音。絶対にクリスじゃない。クリスだったらもっとダンダンするはず。ということはヘンドリックお兄様とヨハンが来たか……。
あー、絶対怒られるー……。遠い目をする私に気付かず。ユリウス殿下は落ち着いた声で「どうぞ」と返す。そして扉が開いた。
三人は部屋に入るなり、ユリウス殿下に支えられている私へと視線を向けた。そしてユリウス殿下の顔を見る。
「とりあえず入ってくれるかな。戻ったことはまだ知られたくないんだ」
呆然としている三人はその言葉ではっとしたように部屋に入って扉を閉める。最初に口を開いたのはクリスだった。
「エ、エレナ……!」
「大丈夫!?」と駆け寄ってきてくれるクリスにようやく少し動くようになった手を伸ばす。あーできればユリウス殿下の腕からとって欲しいんだけど……意外と力持ちとはいえクリスには少し難しいかもしれない。
クリスが私の手をぎゅっと握って笑った。
「また魔力切れ?」
「ええ、危うく顔から床にダイブするところでしたわ」
なんて笑って言うと、クリスも笑った。意外と怒ってないみたいでよかった。まあ問題はあっちだが。
チラッと視線をお兄様の方へ向けると、明らかに怒っているのが分かった。ヨハンも厳しい表情だ。
「ヘンドリックお兄様、とりあえずわたくしを引き取っていただけると嬉しいですわ。いつまでもユリウス殿下に迷惑はかけられませんもの」
私の言葉にお兄様はちっと舌打ちをすると床に膝をついた。ヨハンもその隣で同じようにする。
「殿下、直接お言葉を交わす許可、近付く許可を」
「愚妹の無礼をお許しください」
あー、そういえば相手は皇族だったー……。クリスの顔を見ると「やっちゃった」と書いてあった。うん、忘れていたわけではない。だけどこう、なんというか、さっき陛下と話をしたばっかりだし、変に皇族と距離が近いと言うか……はっきり言うと、皇族相手の礼儀がすっぱり抜けていたのだ。
自分の行動を思い返し、無礼なことをしていないかを考える。……どう考えても今の状況が一番無礼よね。
「両方とも許す」
ユリウス殿下の言葉に二人がお礼を言って立ち上がった。そしてそれぞれ近付いて来て、まずヨハンがクリスの腕を掴んで下がらせた。そしてヘンドリックお兄様が私を抱き上げた。
ユリウス殿下は私が離れることで自由になり、立ち上がった。どうしてか分からないけど威厳を感じる。こうして見ると確かに皇族だ。あっちの空間では威厳なんて感じたことないんだけどな。あのキリッとした表情?
「ユリウス殿下」
私が呼びかけると、ユリウス殿下は柔らかく微笑んだ。あ、威厳なくなった。その姿は私の知っている『神様』のままだ。
「戻ったことを公表する気はございませんの?」
まだ知られたくないということはいつかは公表する気があるのか。カイではなくユリウス殿下が皇位につく未来はあるのか。
「うん、僕には皇位継承権がある。そうなると確実に国は二分する。今更国に混乱を落としたくはない」
「では今後はどうなさるのです? 陛下へは?」
ヘンドリックお兄様の言葉にユリウス殿下は首を横に振った。どうやら言う気はないようだ。何が正解なのかは分からない。だけど陛下がユリウス殿下のことを思う気持ちはきっととても大きいものだろうし、それは皇后陛下も同じだろうと思う。
陛下と皇后陛下にだけは言うべきだと思うんだけどな。でもそしたらやっぱり第一皇子のユリウス殿下を皇位にってなるのかな。優秀だって言ってたしな。
うーん……。
私が考え込んでいるとユリウス殿下はふっと笑って、近付いて来た。そしてお兄様に抱きかかえられたままの私と視線の高さを合わせる。
「僕の為に考えてくれてありがとう。僕はこのまま姿をくらませるよ」
うん? 姿をくらませる? それってお城を出て行くってこと? それとも今まで見たいに別の空間にいるってこと?
私がきょとんとしていると、ユリウス殿下は私の頭を撫で、微笑んだ。
「また会えたらいいな」
その言葉と同時に手が離れ、そしてユリウス殿下は窓からとんだ。
「お、お待ちください……!」
私の言葉はもう届かなくて、クリスがすぐに窓へと走ったが、姿は見えないようだ。首を横に振って戻ってくる。
あ、あれ、ここ二階だよね。え、落ちるよね? 魔法使ったのかな。なんてどうでもいいことばかりが頭に浮かぶ。
残された私は呆然とユリウス殿下の出て行った窓を見つめた。
「いっ……!」
思わず声が出てしまったが、仕方がない。剣のお稽古ばかりしていたけど受け身の練習ももっと本格的にするべきだった。ズキズキするのを紛らわせるためにそんなことを考えてみるが、痛いものは痛い。そして体にはもう力が入らない。
「大丈夫!?」
ユリウス殿下が慌てて抱き起こしてくれる。ひんやりとした手が私のほっぺに触れた。
「魔力切れだね。結構派手に落ちたけどどう?」
「それよりどうですか? 成功しましたか?」
見える景色は変わらない。雰囲気は少し変わった気がするけど、気がするだけかもしれない。ユリウス殿下の腕に寄りかかったままそう聞くと、ユリウス殿下は目を細めて部屋の中を見渡した。
「うん、ここは僕の部屋だ。懐かしい、僕の部屋」
そうか、成功したのか。意外とあっけなかったな、と思う。もっと手こずるかと思っていたし、危険かもしれないと思っていた。魔力切れにはなったけど、こんな簡単に終わるとは思わなかった。
あー、クリスには魔法省で合流って言ったんだった。というか今更だけどユリウス殿下が突然戻って来たってなったらどうなるんだろう。今は皇位はカイが継ぐ予定だけどそれも変わるのかな。
あれ、そうなったらリリーのカイ攻略のストーリーが変わるよね。もしかして私結構やばいことしちゃった?
「あ、あの、とりあえず友達を呼んでもいいでしょうか」
「うん、どうぞ」
このままユリウス殿下の腕の中にいるのはちょっと遠慮したい。顔から落ちること以上に令嬢的にアウト、だ。
「クリス、エレナです。無事成功しました。動けないから来て欲しいのだけど……ユリウス殿下のお部屋って分かるかしら?」
残った僅かな魔力を振り絞って声を飛すと、すぐに返事が返って来た。
「すぐに行く!」
嬉しそうな、だけどちょっと怒っているような声。そして心配してくれているのが声から伝わる。あー、絶対文句言われる。結構無理やりだったからな。うーん、でも成功したし許してくれるかな。
少しするとノックの音が響いた。落ち着いた音。絶対にクリスじゃない。クリスだったらもっとダンダンするはず。ということはヘンドリックお兄様とヨハンが来たか……。
あー、絶対怒られるー……。遠い目をする私に気付かず。ユリウス殿下は落ち着いた声で「どうぞ」と返す。そして扉が開いた。
三人は部屋に入るなり、ユリウス殿下に支えられている私へと視線を向けた。そしてユリウス殿下の顔を見る。
「とりあえず入ってくれるかな。戻ったことはまだ知られたくないんだ」
呆然としている三人はその言葉ではっとしたように部屋に入って扉を閉める。最初に口を開いたのはクリスだった。
「エ、エレナ……!」
「大丈夫!?」と駆け寄ってきてくれるクリスにようやく少し動くようになった手を伸ばす。あーできればユリウス殿下の腕からとって欲しいんだけど……意外と力持ちとはいえクリスには少し難しいかもしれない。
クリスが私の手をぎゅっと握って笑った。
「また魔力切れ?」
「ええ、危うく顔から床にダイブするところでしたわ」
なんて笑って言うと、クリスも笑った。意外と怒ってないみたいでよかった。まあ問題はあっちだが。
チラッと視線をお兄様の方へ向けると、明らかに怒っているのが分かった。ヨハンも厳しい表情だ。
「ヘンドリックお兄様、とりあえずわたくしを引き取っていただけると嬉しいですわ。いつまでもユリウス殿下に迷惑はかけられませんもの」
私の言葉にお兄様はちっと舌打ちをすると床に膝をついた。ヨハンもその隣で同じようにする。
「殿下、直接お言葉を交わす許可、近付く許可を」
「愚妹の無礼をお許しください」
あー、そういえば相手は皇族だったー……。クリスの顔を見ると「やっちゃった」と書いてあった。うん、忘れていたわけではない。だけどこう、なんというか、さっき陛下と話をしたばっかりだし、変に皇族と距離が近いと言うか……はっきり言うと、皇族相手の礼儀がすっぱり抜けていたのだ。
自分の行動を思い返し、無礼なことをしていないかを考える。……どう考えても今の状況が一番無礼よね。
「両方とも許す」
ユリウス殿下の言葉に二人がお礼を言って立ち上がった。そしてそれぞれ近付いて来て、まずヨハンがクリスの腕を掴んで下がらせた。そしてヘンドリックお兄様が私を抱き上げた。
ユリウス殿下は私が離れることで自由になり、立ち上がった。どうしてか分からないけど威厳を感じる。こうして見ると確かに皇族だ。あっちの空間では威厳なんて感じたことないんだけどな。あのキリッとした表情?
「ユリウス殿下」
私が呼びかけると、ユリウス殿下は柔らかく微笑んだ。あ、威厳なくなった。その姿は私の知っている『神様』のままだ。
「戻ったことを公表する気はございませんの?」
まだ知られたくないということはいつかは公表する気があるのか。カイではなくユリウス殿下が皇位につく未来はあるのか。
「うん、僕には皇位継承権がある。そうなると確実に国は二分する。今更国に混乱を落としたくはない」
「では今後はどうなさるのです? 陛下へは?」
ヘンドリックお兄様の言葉にユリウス殿下は首を横に振った。どうやら言う気はないようだ。何が正解なのかは分からない。だけど陛下がユリウス殿下のことを思う気持ちはきっととても大きいものだろうし、それは皇后陛下も同じだろうと思う。
陛下と皇后陛下にだけは言うべきだと思うんだけどな。でもそしたらやっぱり第一皇子のユリウス殿下を皇位にってなるのかな。優秀だって言ってたしな。
うーん……。
私が考え込んでいるとユリウス殿下はふっと笑って、近付いて来た。そしてお兄様に抱きかかえられたままの私と視線の高さを合わせる。
「僕の為に考えてくれてありがとう。僕はこのまま姿をくらませるよ」
うん? 姿をくらませる? それってお城を出て行くってこと? それとも今まで見たいに別の空間にいるってこと?
私がきょとんとしていると、ユリウス殿下は私の頭を撫で、微笑んだ。
「また会えたらいいな」
その言葉と同時に手が離れ、そしてユリウス殿下は窓からとんだ。
「お、お待ちください……!」
私の言葉はもう届かなくて、クリスがすぐに窓へと走ったが、姿は見えないようだ。首を横に振って戻ってくる。
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