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反省と誉め言葉
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「それがどうした」? 自分の耳を疑った。その声の響きからそれがヘンドリックお兄様の本心であることが分かった。
え、冷たい人だとは思っていたけどこんなに冷たかったっけ?
「え? ユリウス殿下のことを忘れてしまうのですよ。もしかしたらヘンドリックお兄様やヨハン様も忘れてしまって、調査を打ち切り、ユリウス殿下はずっとあそこで一人でいたのかもしれないのですよ?」
戸惑いを隠せずにそう言うと、ヘンドリックお兄様は頷いた。
「だから、それがどうしたというのだ」
ショックだった。だけどそれ以上に、それを顔色一つ、声色一つ変えずに言えることができるお兄様がすごいと思った。私は想像するだけでも恐ろしいのに。
「あの場所は誰もいないのですよ? そこにずっと一人ですよ?」
「お前もそれに巻き込まれる可能性があったのだ」
「可能性があっただけではないですか」
即座にそう言い返す。クリスはともかくどうしてヨハンは何も言わないのだろう。ヘンドリックお兄様の言葉が違うと言ってくれると思っていたのだけど。
ヘンドリックお兄様はチッと舌打ちをして背もたれから体を起こした。そして真っすぐ私を見る。
「そうだ、可能性だ。だがお前の言うのも可能性だ。殿下が救出されずにずっとそこから出られなかったかもしれない。両方とも可能性だ。それなら私たちがどちらを選ぶかなど考えなくても分かるだろう」
「ですから、わたくしはユリウス殿下を助けに行ったのです。何が間違っていると言うのですか」
「それが間違っていると言っている」
意味が分からない。間違っているのが私だとはとても思えない。つまりヘンドリックお兄様はユリウス殿下のことなど知らないふりをしていろと言うのだろうか。そりゃいいよ、自分は忘れてしまえるんだから。皆はユリウス殿下の存在ごと忘れてしまえるんだから。
皆が、ユリウス殿下本人もそれを忘れた世界で、私は一人覚えておかないといけないのだ。あの時私が行っていたら助けることができたのかもしれない。どうして行かなかったんだろう、と自分を責めながら。
……これは今は関係ないか。
「いなくなった第一皇子と伯爵家の娘。どちらが優先されるべきかなど一目瞭然ではないですか」
私がそう言うと、お兄様はとても深いため息を吐いた。そして静かな声で言う。
「身分の高さは命の価値ではない」
言葉が出てこなかった。
確かに前の私だったら、私が第三者だったら言っていただろう。「身分が違っても命の価値は同じなのにね」と。だけど実際に私が当事者に立ってみると、とても自然に思っていた。それが正しいことだと。
口を開けるが言葉は何も出てこなくてただパクパクなるばかり。
「私達が怒っている理由が分かったか」
「で、では、命の価値は、優先順位は、どのようにはかるのでしょう……」
そう言いながらとてもくだらない質問だと思った。
「命の価値をはかる必要があると思うのか、お前は」
お兄様の言葉に私は何も言えない。黙っていると、お兄様はため息を吐いて淡々と話した。
「感情ではかるなら、第一皇子とお前、どちらをとるかと言われて選ぶのはお前だ。私の妹の、クリスの友達の、ヨハンにとって妹のような存在の、お前」
それにクリスとヨハンが頷く。確かに、私だってそうかもしれない。お兄様とクリスとヨハンと、第一皇子。どちらを選ぶかと言われるともちろんお兄様達。
「では感情以外ではかるなら?」
「それでもお前だ。このはかり方だとお前は現時点、私よりも、第一皇子よりも、そして陛下よりも優先される価値がある」
「……光属性を持っているからでしょうか」
小さな声でそう言うと、お兄様は「よく分かっているじゃないか」と頷いた。知ってるよ。だってこの属性を持っているだけで平民が時期皇帝のお嫁さんになれるほどの価値だもん。
たくさんの命を救うことのできる力だもん。
「王になど誰にでもなれる。だが光属性はお前しか使えない。もし何かがあった場合、お前一人で数えきれないほどの命を救うことができるかもしれない。命の価値だというのならお前の命はこの国の誰よりも高い」
理解はできる。というかそれを理解したうえでやったとも言える。だってあと三年もしたら本来の光属性の使い手が出てくるんだから。私は用済みになるのだから。
とはいえそれを言ったところで信じてもらえるとは思わない。
「分かりました。わたくしが悪かったです。反省致します」
ごめんなさい、と頭を下げる。そして顔を上げて私は言った。このままでは終わらない。反省はするけど……
「ですが後悔はしておりません。結果論にはなりますが、今回、わたくしは第一皇子を連れて無事に戻って参ったのです。褒めてくださいませ」
にっこりとしてそう言うと、三人が面食らったような顔になった。命の危険を冒したというのに怒られてばかりじゃ割に合わない。
お兄様はふっと笑うと、立ち上がって私の頭に手を置いた。
「上出来だ」
そしてそのまま扉の方へと向かい、魔法陣の回収を始める。
「詳しい話は後日聞く。今日は帰って休め」
お兄様が撫でてくれた頭に手を置く。じんわりと温かくて、頬が緩んだ。
「はい。それからユリウス殿下の行方ですが、調べていただくことは可能でしょうか?」
「ああ、できる限り調べておく。が、見つかる可能性は限りなく低い。次は勝手に動くなよ」
「ええ、分かっておりますわ」
その後、私は再びヘンドリックお兄様に運ばれ馬車に乗り、クリスに家まで送ってもらった。そしてかえって速攻布団に入り、目が覚めたのは次の日の昼だった。私は初めて学校をさぼってしまったようだ。
え、冷たい人だとは思っていたけどこんなに冷たかったっけ?
「え? ユリウス殿下のことを忘れてしまうのですよ。もしかしたらヘンドリックお兄様やヨハン様も忘れてしまって、調査を打ち切り、ユリウス殿下はずっとあそこで一人でいたのかもしれないのですよ?」
戸惑いを隠せずにそう言うと、ヘンドリックお兄様は頷いた。
「だから、それがどうしたというのだ」
ショックだった。だけどそれ以上に、それを顔色一つ、声色一つ変えずに言えることができるお兄様がすごいと思った。私は想像するだけでも恐ろしいのに。
「あの場所は誰もいないのですよ? そこにずっと一人ですよ?」
「お前もそれに巻き込まれる可能性があったのだ」
「可能性があっただけではないですか」
即座にそう言い返す。クリスはともかくどうしてヨハンは何も言わないのだろう。ヘンドリックお兄様の言葉が違うと言ってくれると思っていたのだけど。
ヘンドリックお兄様はチッと舌打ちをして背もたれから体を起こした。そして真っすぐ私を見る。
「そうだ、可能性だ。だがお前の言うのも可能性だ。殿下が救出されずにずっとそこから出られなかったかもしれない。両方とも可能性だ。それなら私たちがどちらを選ぶかなど考えなくても分かるだろう」
「ですから、わたくしはユリウス殿下を助けに行ったのです。何が間違っていると言うのですか」
「それが間違っていると言っている」
意味が分からない。間違っているのが私だとはとても思えない。つまりヘンドリックお兄様はユリウス殿下のことなど知らないふりをしていろと言うのだろうか。そりゃいいよ、自分は忘れてしまえるんだから。皆はユリウス殿下の存在ごと忘れてしまえるんだから。
皆が、ユリウス殿下本人もそれを忘れた世界で、私は一人覚えておかないといけないのだ。あの時私が行っていたら助けることができたのかもしれない。どうして行かなかったんだろう、と自分を責めながら。
……これは今は関係ないか。
「いなくなった第一皇子と伯爵家の娘。どちらが優先されるべきかなど一目瞭然ではないですか」
私がそう言うと、お兄様はとても深いため息を吐いた。そして静かな声で言う。
「身分の高さは命の価値ではない」
言葉が出てこなかった。
確かに前の私だったら、私が第三者だったら言っていただろう。「身分が違っても命の価値は同じなのにね」と。だけど実際に私が当事者に立ってみると、とても自然に思っていた。それが正しいことだと。
口を開けるが言葉は何も出てこなくてただパクパクなるばかり。
「私達が怒っている理由が分かったか」
「で、では、命の価値は、優先順位は、どのようにはかるのでしょう……」
そう言いながらとてもくだらない質問だと思った。
「命の価値をはかる必要があると思うのか、お前は」
お兄様の言葉に私は何も言えない。黙っていると、お兄様はため息を吐いて淡々と話した。
「感情ではかるなら、第一皇子とお前、どちらをとるかと言われて選ぶのはお前だ。私の妹の、クリスの友達の、ヨハンにとって妹のような存在の、お前」
それにクリスとヨハンが頷く。確かに、私だってそうかもしれない。お兄様とクリスとヨハンと、第一皇子。どちらを選ぶかと言われるともちろんお兄様達。
「では感情以外ではかるなら?」
「それでもお前だ。このはかり方だとお前は現時点、私よりも、第一皇子よりも、そして陛下よりも優先される価値がある」
「……光属性を持っているからでしょうか」
小さな声でそう言うと、お兄様は「よく分かっているじゃないか」と頷いた。知ってるよ。だってこの属性を持っているだけで平民が時期皇帝のお嫁さんになれるほどの価値だもん。
たくさんの命を救うことのできる力だもん。
「王になど誰にでもなれる。だが光属性はお前しか使えない。もし何かがあった場合、お前一人で数えきれないほどの命を救うことができるかもしれない。命の価値だというのならお前の命はこの国の誰よりも高い」
理解はできる。というかそれを理解したうえでやったとも言える。だってあと三年もしたら本来の光属性の使い手が出てくるんだから。私は用済みになるのだから。
とはいえそれを言ったところで信じてもらえるとは思わない。
「分かりました。わたくしが悪かったです。反省致します」
ごめんなさい、と頭を下げる。そして顔を上げて私は言った。このままでは終わらない。反省はするけど……
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お兄様はふっと笑うと、立ち上がって私の頭に手を置いた。
「上出来だ」
そしてそのまま扉の方へと向かい、魔法陣の回収を始める。
「詳しい話は後日聞く。今日は帰って休め」
お兄様が撫でてくれた頭に手を置く。じんわりと温かくて、頬が緩んだ。
「はい。それからユリウス殿下の行方ですが、調べていただくことは可能でしょうか?」
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