池に落ちて乙女ゲームの世界に!?ヒロイン?悪役令嬢?いいえ、ただのモブでした。

紅蘭

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予習の準備

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「エレナ! もう大丈夫なの?」


授業後、寮に戻って来たクリスは、本を読んでいる私の姿を見て、嬉しそうに笑って駆け寄って来た。


「ええ、心配かけたわ」


本を閉じてクリスの方を見ると、クリスは私の顔をじろじろ見る。少しして満足したのかほっと息をついた。


「よかった、顔色も良いみたい」

「そうね、しっかり寝たら魔力も回復したわ。今なら何でもできるわよ」


何でも、はちょっと言い過ぎかもしれないけどこう言って安心してもらえるならいい。元気のないクリスは私が見たくないのだ。

クリスは私の言葉にははっと笑い、自分のクローゼットを開ける。そのまま着替え始めるクリスをできるだけ見ないようにして私は聞いた。


「あれからヨハン様とは何か話したの? 昨日は二人とも家へ帰ったのでしょう?」

「うん、話したって言ってもそんな大した話はしてないよ。とりあえず殿下の行方を突き止めるのが最優先だって、それだけ」

「見つかるかしら」


「どうだろうね」とこもった声が聞こえる。振り向かなくてもクリスが今ワンピースを頭からかぶっていることが分かる。少しするとクリスの動く気配がして、私は振り返った。

クリスの手にある制服を水魔法で洗濯する。これで明日も綺麗な制服を着ることができるのだ。しかも一瞬で綺麗になるから魔法って本当に便利。

洗濯が終わった制服をハンガーにかけたクリスはジトっとした目で私を見た。


「頼むからもう私を置いてどっかに行かないでよ」


どうやらクリスは一人で勝手に異空間に行ったことを、私が思っている以上に怒っているようだ。私は苦笑して言う。


「分かっているわ。それに今回は私が動くことはないでしょうしね」


わざわざユリウス殿下を探す理由がない。別れ際には「また会えたらいいな」と言われたのだ。向こうが会う気があるならこっちが探さなくても会うことができるだろう。

大体探そうにも心当たりは全くないし。前はたまたま会っただけなんだから。


「それよりクリス、わたくしそろそろ来年の予習を始めようと思うのだけど、クリスはどうするの?」


もう雪が降り始めてもおかしくない季節だ。春はもうすぐそこ。少しでも予習をしておけば楽になるかと思っている。本当はもっと早くに始めようとは思っていたけど、面倒だなって先延ばしにしていたらあっという間に今日だ。

クリスは私の言葉を聞いてとても嫌そうな顔をした。そしてその顔のまま頷く。それが可笑しくて思わず笑ってしまった。


「どっちなのよ、ふふっ」

「……嫌だけど一緒にするよ」


騎士科は朝の訓練の時にクルトお兄様に、魔法科は昼休みにヨハンに、文官科は放課後に補習をしてくれるようにノイナー先生に頼んでみよう。


「じゃあ明日には先生方の所を回りましょうか。頑張りましょうね」

「はーい……」


そう返事をしたクリスの声はとても小さかった。



翌朝、いつものように朝練に顔を出すと、クルトお兄様が爽やかな笑顔で迎えてくれた。


「やあ、エレナ、体調はもう大丈夫かい? 心配したよ」

「ええ、魔力切れをおこしただけですの。もう大丈夫ですわ。それよりお兄様にお願いがありますの」


私が三科選択を迫られた時、クルトお兄様もその場にいたので、二年生以降の予習がしたいと言うとお兄様は嫌な顔一つせずに頷いてくれた。「エレナは大変だね」と同情の言葉ももらって。


「そう言うことなら先生にも言ってみるよ。エレナ達はブレッカー先生だよね。もしかしたらこの時間にここに顔を出しくれるかもしれないし」

「まあ! ありがとうございます!」


そう喜んだのは私だけだったようだ。周りにいた他の騎士科の生徒がざわっとなった。

なんか変な空気になったな。そう思ったが、クルトお兄様は全く気にしていないようだ。そしてこらえきれなかったのか、こちらに歩いて来るエミリア様の姿が見えた。


「クルト、それ本気? 朝からブレッカー先生の稽古を受けさせるの?」

「うん、それが一番身につくだろう」

「あなたの妹よ? まだ一年生なのよ?」


え、何、ブレッカー先生の稽古ってそんなに大変なの? 今も授業あるけどそんなに厳しくないよね? でもエミリア様がこういう風に言うくらいだからな……朝からあまり厳しいのはやる気が出ないな。

なんて思っていると、クルトお兄様は笑顔で言った。


「大丈夫、エレナにならできるよ」


と。それはとても素敵な笑顔で。



昼休みになり、お弁当を食べ終わった後、クリスと一緒にヨハンのところへ向かう。てくてくと歩いていると前から黄色い歓声が聞こえてきた。カイやレオンが歩いた時とは違った控えめな歓声。段々近付いて来る。


「これは多分ヨハン様よね。クリス、呼び止めてもらってもいいかしら?」


こんな人の多いところで私から話しかける勇気はない。周りからの痛い視線にさらされることになるから。その点、クリスは妹なので誰も気にしない。

クリスは、「うん」と頷くと、その完成の方へと突っ込んで行った。私が廊下の端に避けてクリスが帰って来るのを待っていると、今後は反対側から盛大な歓声が聞こえた。これはカイとレオンだ。ちょうどよかった。

少し前へ出ると、カイ達の姿が見えた。あ、マクシミリアンもいるね。じっとして近付いて来るのを待つ。それより先にクリスが戻って来た。


「この後外で話そうってなったよ。寒くなる前に私たちがお弁当食べてたところ」

「分かったわ」


カイとレオンが私の前を通り過ぎる。視線は合わない。その斜め後ろを歩くマクシミリアンと目が合った。私は素早く外へと続く扉へと視線を移す。再びマクシミリアンに視線を戻すと、小さく頷いてくれた。

よし、これでオッケー。


「じゃあ移動しましょうか」


私とクリスは、外へと続く扉を開け、冷たい風が吹く中に出た。
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