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補習の約束
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ベンチに座って少し待っていると、静かな足音が近付いて来た。
ああ、これはヨハンだな。風魔法で周囲の音を全て拾う。最近編み出した魔法だ。おかげで誰かが近付いてきた時や、遠くの話声も拾うことができるのだ。
聴力強化もできないことはないんだけど、対象を選ばすに音を拾ってしまうので近くの音がものすごい大きさで聞こえて不便なのだ。それに何かあった時にすぐに魔法を使えないって言うのも痛い。
「ああ、殿下方も来られましたわね」
少し遠くに数人分の軽い足音も聞こえる。私の言葉に、隣で耳を澄ましていたクリスは渋い顔をした。
「兄様は分かるけど、カイ達は分かんないよ」
クリスも私と同じことをしようと頑張っているのだ。だけどまだコツが掴めないらしく、遠くの音は難しいらしい。
「いつかできるようになるわよ」
ベンチから立ち上がると同時にヨハンが校舎の角から顔を出した。
「あ、分かった!」
カイ達が近付いて来たので、クリスにも音が拾えたらしい。嬉しそうに笑った。
「ヨハン様、お呼びして申し訳ありません」
「ううん、大丈夫だよ。校舎の中では落ち着いて話しもできないからね」
誰のせいだよ、と思うが言わない。ヨハンのせいだがこれはヨハンにもどうにもならないことだし。さすが攻略対象だ。
「やあ、エレナ。マックスからエレナが呼んでいたと聞いたよ」
カイ達も到着して、顔をほころばせる。
「はい。寒い中来ていただいてありがとうございます」
「ううん、中ではゆっくり話せないからね」
お前も同じこと言うか。
笑顔でその言葉を流し、私はヨハンを見た。
「ではまず、ヨハン様にお願いがあります」
「うん」
「来年の予習をしたいので補習をして欲しいのです」
横でクリスがボソッと「嫌だけど」と付け加える。本当に小さな声だったが風が音を拾ってくれたおかげで私の耳に届いた。ヨハンには聞こえていないだろうけど。
ヨハンはにこやかに頷いた。
「うん、いいよ。どの時間?」
「できればお昼休みが嬉しいですわ。ご飯を食べた後でいかがでしょう? もちろんお忙しい時はなしで構いませんわ」
ご飯を食べるのに三十分使ったとして後一時間半もある。毎日一時間半とれば十分勉強できるだろう。
「……ああ、そうだね、うん」
ヨハンは急に何かを考えるような素振りを見せた。あれ、もしかして昼休みは忙しい? でもできれば一番時間のある放課後は文官科にあてたいんだよね。文官科が一番不安だし。
そう思っていると、ヨハンは笑顔を私に向けて言った。
「エレナちゃんのお弁当が食べられたら他の仕事も早く終わるかもしれないな」
……なんだ、私のお弁当が食べたかっただけか。ほっと息をついて、同時に笑いが込み上げた。
「そんないい方しなくても欲しいのでしたら作ってきますわ。二つも三つも変わりませんもの」
「うん、じゃあお願いします」
「はい、では明日からお昼休みにお願い致します」
ヨハンへ深々と頭を下げると、クリスも嫌そうに頭を下げたのが見えた。クリスだってなんだかんだやる時はやる子なのだ。
そして私はカイへと向き直る。
「今聞いてられたかと思いますが、わたくしこうして先生方に補習をお願いして回っているのです。殿下も騎士科と文官科を取られるのでしたよね? よかったらご一緒にどうでしょうか?」
「うん、いいな、それ。私も一緒に受けたい、が……」
そう言いながらカイはヨハンへと視線を向ける。この中で保護者的な立ち位置だからだろう。ヨハンはその視線を受けて頷いた。
「良いと思うよ。複数の科を選択する子に特別補習と言う形にしよう。だから他の先生方には私から言っておくよ。こちらから補習を受けるように言ったという体でしようか」
「まあ! ありがとうございます! ではノイナー先生にぜひ放課後に、とお伝えくださいませ! もしかしたらブレッカー先生にはクルトお兄様から既に話が言っているかもしれませんが、朝にお願いしたいのです!」
これでカイも一緒に補習を受けることができると思うと、思わずテンションが上がってしまって、私は一気にそう言っていた。ヨハンが苦笑するのが見えて、ハッとする。
「あ、申し訳ありません、つい、嬉しくて……」
別にカイと話をする機会が増えるだとか、堂々と話すことができるだとか、そんなことはどうでもよかった。ただカイが今まで通りに私たちに話しかけようとして止める姿だったり、クリスが寂しそうにカイ達の方を見る姿だったりを見ているとこっちが寂しくなるのだ。
「あはは、エレナ、すごい嬉しそう」
そう言って笑うクリスもとても嬉しそうだ。カイへと視線を向ける。カイは少し戸惑ったような表情を見せ、そして頬を綻ばせた。段々と満面の笑みに変わっていく。
「ありがとう、ヨハン!」
嬉しそうでなりより。
「じゃあ他にも複数選択したい子がいないかもう一度聞いてみようか。変更する子がいたら公平性を保つ為にその子達も補習を受けられるようにするよ」
なるほど。私たちがカイと一緒に補習を受けることに対する文句を言う人が出てくるだろうから、その人たちを黙らせるためだね。わかったよ。とはいえこの補習はカイとお近づきになるいい機会だ。これにつられて複数選択する子も出て来そうな気がする。
と、思っていたが、翌日、その話がクラスでされた時に上がった手は一つだけだった。
ああ、これはヨハンだな。風魔法で周囲の音を全て拾う。最近編み出した魔法だ。おかげで誰かが近付いてきた時や、遠くの話声も拾うことができるのだ。
聴力強化もできないことはないんだけど、対象を選ばすに音を拾ってしまうので近くの音がものすごい大きさで聞こえて不便なのだ。それに何かあった時にすぐに魔法を使えないって言うのも痛い。
「ああ、殿下方も来られましたわね」
少し遠くに数人分の軽い足音も聞こえる。私の言葉に、隣で耳を澄ましていたクリスは渋い顔をした。
「兄様は分かるけど、カイ達は分かんないよ」
クリスも私と同じことをしようと頑張っているのだ。だけどまだコツが掴めないらしく、遠くの音は難しいらしい。
「いつかできるようになるわよ」
ベンチから立ち上がると同時にヨハンが校舎の角から顔を出した。
「あ、分かった!」
カイ達が近付いて来たので、クリスにも音が拾えたらしい。嬉しそうに笑った。
「ヨハン様、お呼びして申し訳ありません」
「ううん、大丈夫だよ。校舎の中では落ち着いて話しもできないからね」
誰のせいだよ、と思うが言わない。ヨハンのせいだがこれはヨハンにもどうにもならないことだし。さすが攻略対象だ。
「やあ、エレナ。マックスからエレナが呼んでいたと聞いたよ」
カイ達も到着して、顔をほころばせる。
「はい。寒い中来ていただいてありがとうございます」
「ううん、中ではゆっくり話せないからね」
お前も同じこと言うか。
笑顔でその言葉を流し、私はヨハンを見た。
「ではまず、ヨハン様にお願いがあります」
「うん」
「来年の予習をしたいので補習をして欲しいのです」
横でクリスがボソッと「嫌だけど」と付け加える。本当に小さな声だったが風が音を拾ってくれたおかげで私の耳に届いた。ヨハンには聞こえていないだろうけど。
ヨハンはにこやかに頷いた。
「うん、いいよ。どの時間?」
「できればお昼休みが嬉しいですわ。ご飯を食べた後でいかがでしょう? もちろんお忙しい時はなしで構いませんわ」
ご飯を食べるのに三十分使ったとして後一時間半もある。毎日一時間半とれば十分勉強できるだろう。
「……ああ、そうだね、うん」
ヨハンは急に何かを考えるような素振りを見せた。あれ、もしかして昼休みは忙しい? でもできれば一番時間のある放課後は文官科にあてたいんだよね。文官科が一番不安だし。
そう思っていると、ヨハンは笑顔を私に向けて言った。
「エレナちゃんのお弁当が食べられたら他の仕事も早く終わるかもしれないな」
……なんだ、私のお弁当が食べたかっただけか。ほっと息をついて、同時に笑いが込み上げた。
「そんないい方しなくても欲しいのでしたら作ってきますわ。二つも三つも変わりませんもの」
「うん、じゃあお願いします」
「はい、では明日からお昼休みにお願い致します」
ヨハンへ深々と頭を下げると、クリスも嫌そうに頭を下げたのが見えた。クリスだってなんだかんだやる時はやる子なのだ。
そして私はカイへと向き直る。
「今聞いてられたかと思いますが、わたくしこうして先生方に補習をお願いして回っているのです。殿下も騎士科と文官科を取られるのでしたよね? よかったらご一緒にどうでしょうか?」
「うん、いいな、それ。私も一緒に受けたい、が……」
そう言いながらカイはヨハンへと視線を向ける。この中で保護者的な立ち位置だからだろう。ヨハンはその視線を受けて頷いた。
「良いと思うよ。複数の科を選択する子に特別補習と言う形にしよう。だから他の先生方には私から言っておくよ。こちらから補習を受けるように言ったという体でしようか」
「まあ! ありがとうございます! ではノイナー先生にぜひ放課後に、とお伝えくださいませ! もしかしたらブレッカー先生にはクルトお兄様から既に話が言っているかもしれませんが、朝にお願いしたいのです!」
これでカイも一緒に補習を受けることができると思うと、思わずテンションが上がってしまって、私は一気にそう言っていた。ヨハンが苦笑するのが見えて、ハッとする。
「あ、申し訳ありません、つい、嬉しくて……」
別にカイと話をする機会が増えるだとか、堂々と話すことができるだとか、そんなことはどうでもよかった。ただカイが今まで通りに私たちに話しかけようとして止める姿だったり、クリスが寂しそうにカイ達の方を見る姿だったりを見ているとこっちが寂しくなるのだ。
「あはは、エレナ、すごい嬉しそう」
そう言って笑うクリスもとても嬉しそうだ。カイへと視線を向ける。カイは少し戸惑ったような表情を見せ、そして頬を綻ばせた。段々と満面の笑みに変わっていく。
「ありがとう、ヨハン!」
嬉しそうでなりより。
「じゃあ他にも複数選択したい子がいないかもう一度聞いてみようか。変更する子がいたら公平性を保つ為にその子達も補習を受けられるようにするよ」
なるほど。私たちがカイと一緒に補習を受けることに対する文句を言う人が出てくるだろうから、その人たちを黙らせるためだね。わかったよ。とはいえこの補習はカイとお近づきになるいい機会だ。これにつられて複数選択する子も出て来そうな気がする。
と、思っていたが、翌日、その話がクラスでされた時に上がった手は一つだけだった。
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