池に落ちて乙女ゲームの世界に!?ヒロイン?悪役令嬢?いいえ、ただのモブでした。

紅蘭

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補習

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「一人足りないけど補習を始めようか」


ヨハンとクリスと三人でお弁当を食べ終わって、教室へ移動。少ししてヨハンはそう切り出した。時計をちらっと見てみる。補習の開始は十二時半から。今は十二時四十五分。教室にいるのはヨハンとクリスとカイと私。もう十五分も過ぎているというのにあいつはどこにいるのだろうか。


「うんうん、始めよー!」


クリスが元気よくそう言う。他の人の視線がないからか、あいつがいないからか……うん、どっちもだろうね。

そう思っていた時、扉が勢いよく開いた。隣からクリスの舌打ちが聞こえてくる。遅れているというのに堂々と入ってくるその姿にむしろ尊敬。強制の補習ではないにしろ、よくそんな態度を取れるなと思う。

そしてあいつ、ラルフは扉を閉めることもせずにドカッと椅子に座ると、教科書もノートもペンすらも出さない。ヨハンは一瞬扉の方を見て、ラルフを見た。


「扉を閉めてください」


凛とした声が響く。だがラルフは動こうとも何も言おうともしない。ヨハンがため息を吐く。


「聞こえなかったかい? 扉を閉めなさい」

「……伯爵家のやつが偉そうに俺に指図をするなよ」


ボソッという声が耳に届いた。これだから馬鹿だと言うのだ。ラルフに科の複数選択など絶対に不可能だ。大体こいつがいたら補習も進む気がしない。

ヨハンは何も言わず、授業を始める気もなさそうだ。少しの間沈黙が降り、ガタッと椅子を立つ音が聞こえた。


「いいですよ、先生。私が閉めますから」


カイだった。カイはそのまま扉の方へと行くと不満な顔一つせずに扉を閉める。ヨハンは「ありがとう」と仕方なさそうに笑った。

思わずため息を吐いてしまった。


「ラルフ様、学校において教師と生徒、どちらが上が分かってますか? 身分は関係ありませんのよ」


ラルフは黙って私を睨む。私に叱られたのが気に入らないのだろう。普段なら面倒だから言わないけど仕方がない。


「それに身分をかざすなら、自分より上の人に気を遣うことも必要ですわ」

「ただの婚約者のくせに生意気だな」


吐き捨てるようにそう言ったラルフ。隣で「ダメだこりゃ」とクリスの声が聞こえた。これが私の婚約者なんて世に知られたら恥ずかしすぎるわ。


「婚約者だから言っているのです。それから殿下も。今の態度はいけませんね。あなたはトップに立つお方。お優しいのは結構ですが、自分を安売りすることなどあってはなりません」

「あ、ああ」

「申し訳ありません、クレヴィング先生。授業を始めてくださいませ」


あーあ、今ので十分も無駄になってしまった。ヨハンが授業を始めたが、ラルフは聞いているのかいないのか、ふんぞり返って腕を組んでいるだけだ。……何、もしかしてラルフノートとらなくても頭に入るの? え、そんなに頭良かったっけ?

なんて考えている暇はない。まだ初めだからそんなにややこしいことはないけど、今授業でしている内容と桁違いに高度なことは分かる。人のことなんて気にしている場合じゃない。

……あれ? っていうかなんでカイがいるんだろう。カイって文官科と騎士科じゃなかったの? 魔法科もとるの? っていけないいけない。そんなこと今はどうでもいいんだ。集中しないと。



「はい、じゃあ今日はここまでにしよう」


ヨハンのその言葉でペンを置いてノートを閉じる。つっかれたー! いやー、やっぱり難しいわ。最初でこんなに難しいってやばいね。笑えてくるぐらい。隣でクリスがぶつぶつ言っている。いつもと違って目がイキイキしていない。うっわー、やば。

どこかからガタッと音が聞こえた。ラルフの立ち上がった音だったようで、とても機嫌悪そうなラルフは何も言わずに教室を出て行った。

……だから扉を閉めろというのに。とはいえ引き留めるのも嫌だ。風魔法で閉めて、私はカイを見た。


「ところで、殿下は文官科と騎士科を選択されると聞いておりましたが、魔法科の補習も受けられるのですか?」

「ああ、騎士科を止めて魔法科にしたんだ。剣はヴェルナーに教えてもらえるからね」


ああ、そういうこと。なるほどね。じゃあ朝の騎士科の補習を受けるのは私だけか。あのブレッカー先生と一対一はキツイな。熱血教師って苦手なんだよね。

だけどそれを表に出さないように私はにっこりと笑った。


「そうなのですか。一緒に頑張りましょうね」


その時、クリスがノートをパタンを閉じた。そして不満そうに唇を尖らせる。


「それにしてもラルフって本当に二つ取るの? いきなり補習に遅れてきてノートもとらないって明らかにやる気ないでしょ。空気が悪くなるだけだよ」


それは私もそう思う。補習に出るなら出るで遅れてこないで欲しいし、ノートを取るくらいして欲しい。というかせめて遅れずに来て欲しい。


「クリス、そんな風に言っては駄目よ。ラルフ様だって本当はすごいやる気に満ち溢れているかもしれないでしょう」

「やる気があるなら遅刻はしないし、ノートはとるでしょ」


ズバッとそう言われ、私は反論する言葉が出てこなかった。ええ、本当に。私もそう思うよ。でもあまり人のことを悪く言いたくないし、聞きたくないのだ。心の中でどう思ったとしても。


「やる気がなかったらついて来られないだけだよ。クリスは気にしなくていいから自分のことだけ考えなさい」


うん、それは確かに。私たちには人のことを気にしている暇などない。ノートをぱらぱらとめくる。一応理解はできたけど、でも帰ったら復讐をしないとな。
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