池に落ちて乙女ゲームの世界に!?ヒロイン?悪役令嬢?いいえ、ただのモブでした。

紅蘭

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二年生の授業

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チュンチュン チュンチュン

小鳥の鳴き声で目を覚ました私は、もぞもぞと起き上がって枕元に置かれたベルへと手を伸ばした。ちょっと触れて魔力を流すと、小鳥のさえずりも止まる。

お兄様特製の目覚まし時計。おかげで防音がバッチリの寮の中でも朝っぽい気分が味わえる。

いつものようにお弁当を作りに行き、そしていつものように騎士科の朝練へと向かう。補習が始まってからはちょっと行くのが憂鬱だ。隣を歩くクリスの呑気な顔が羨ましい。

……クリスもついでに騎士科もとればよかったのに。なんて、そんな自分勝手なこと口には出せないけど。


「おはよう! エレナ!! クリスティーナ!!」


大きな声がびりびりと空気を震わせる。朝には似つかわしくないむさ苦しいブレッカー先生の顔が見えて、私はそっとため息を吐いた。

毎日思うけど、騎士科の補習を放課後にしたらよかった。


「おはようございます、ブレッカー先生。本日もよろしくお願い致します」


クルトお兄様の姿はまだ見えない。クリスはさりげなく私から離れて行った。あー……せめてクリスも一緒にしてくれたら気持ちが楽なのに。


「じゃあエレナ! 今日もまずは走ってこい!」

「はい!」


返事をして私はいつものように走り出す。ブレッカー先生の補習はそれはそれは厳しかった。値を上げたくなるほど。というか何もよりもキツイのはこれを朝一番でするということだ。いままでクルトお兄様に優しく教えてもらっていて楽しかっただけだった朝練が、筋肉痛になるほど、倒れてしまいそうになるほど厳しくなったあの日を私は忘れない。

今日から二年生だけど、騎士科を選択した子達はこれを授業でするのだろうか。まあ私もその一人ではあるけど。

……うん、できるだけ文官科と魔法科の授業に出よう。幸い必要なことはこの時間に教えてもらってるし。全く同じことを二回教わるのは嫌ではないけど、だけどこれはちょっと遠慮したい。

うーん……苦手克服と言うか、一番不安なのは文官科だよね。文官科を中心に授業を受けて、内容によっては魔法科と騎士科、だね。うん、そうしよう。

そうしてしっかりと走りこんだ後、ブレッカー先生にビシバシと厳しく指導され、二年生になって最初の朝はいつもと変わらずに終わった。



「エレナ、私次は魔法科の授業に行くよ」

「ええ、わたくしはこのまま文官科の授業を受けるわ」


一週間分の授業の予定表を手にして、クリスがバタバタとノートをまとめる。

私も三科分の予定表を眺めながらクリスを見送った。盲点だった。何が一番大変って、休み時間に授業によって教室移動をしないといけないこと。当たり前だが、一年生の時はクラス全員が同じ授業だったので、教室は一つだった。だけど今年からはそれぞれの科に分かれて、三個の教室があるのだ。

しかも教室と教室の距離が結構ある。急いで移動しないと間に合わないかもしれないくらいだ。

この授業が終わったら昼休み。お弁当を食べて、魔法科の教室に行って補習、と。午後の最初の授業は騎士科の座学が受けたいから、その後は騎士科の教室。思っていたよりも急がしいかもしれない。

……クリスの令嬢の仮面がはがれるのも時間の問題かもしれない。私も気を付けておかないと他人事ではないか。



一日が終わり、放課後の文官科の補習が終わるころには私もクリスもぐったりとしていた。これはキツイ。常に頭がフル回転だ。少しでも気を抜いたらおいていかれそう。

そして実際に授業を受けて気が付いた。補習でしているのはあくまでも必要最低限で、それだけで試験を合格するのは至難の業だと言うことに。どの先生も一応授業に出なくても大丈夫なラインぎりぎりをねらってしてくれているのだ。

寮にも戻ると、視界に飛び込んできたベッドにふらふらと引き寄せられる。隣には同じようにベッドに向かっているクリスが見えた。

あれ、このまま布団に飛び込んでいいんだっけ?

そう思って、はっと頭がさえわたる。


「クリス、ダメよ。明日の予習をしないと」


足を止めてそう言うと、クリスも足を止め、ノロノロを私を見た。とても面倒臭そうな顔をしている。だけどダメだ。着替えもせずに布団に飛び込むのは令嬢としてアウト。愛玲奈の時とは違うのだ。そしてクリスも令嬢なのだ。


「疲れたのは分かるわ。だけど頑張らないと」


これは二科とか三科とか取ったからだけではない。多分一科だけでもキツイはずだ。きっと今皆同じ疲れを味わっているだろうし、お兄様達も同じ道を通ってきたはず。

……うん、でもラルフは賢かったわ。いや、ラルフは賢かったんじゃなくて助けられたのか。

補習が始まり、しばらくしたある日、ラルフは補習に来なくなったのだ。とうとうやる気がなくなったのかと思っていたが、どうやらノイナー先生から二科取るのは止めた方が良いと言われたらしく、その日以降、ラルフの私を見る目が今まで以上に鋭くなっていた。

……私にできることが自分にはできないわけがないと思っているんだろうな。多分、今も。まあ別にいいけど。それどころじゃないし。どうせこのまま婚約破棄になるだろうし。正直、卒業パーティーを待たずに破棄されてもおかしくない状況だと思う。そのくらい、ラルフは私を嫌っている。

いいよいいよ、さっさと婚約破棄しようよ。あのゲーム通りにカミラの婚約者になられるのは困るからできればカミラが入学してくるまでにぜひ。なんて思っている私である。


「ねえ、クリス、提案なのだけど」

「うん?」


今はまだなんとかついていけそう。だけどこの先はどうなるか分からない。早い内に対策は練っておくべきだ。


「例えば魔法科と文官科で出たい授業が同じ時間にあったとするじゃない? そう言う場合は二人で別れて出て、後で教え合わない?」


メリットは二人とも同じ。別に二人で競い合っているわけでもないし。デメリットは一人で寂しく授業に出ることになるという一点だけだ。

クリスは無言で私の方へ来ると、右手を差し出してきた。何がしたいのか分からない。けど、これは握手を求められているのか? この世界に握手の文化があるのか? と首を傾げながらも私は恐る恐る右手を出した。

クリスはすぐにその手をガシッと掴む。

ここにエレクリ同盟が結ばれたようだ。
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