池に落ちて乙女ゲームの世界に!?ヒロイン?悪役令嬢?いいえ、ただのモブでした。

紅蘭

文字の大きさ
146 / 300

大移動

しおりを挟む
案内してもらった部屋でお茶を飲む。長旅のわりに意外と疲れていないなと思っていたが、こうして椅子に座ってゆっくりしていると、自分が思っていたよりも疲れていることが分かった。体が重くて、もう動きたくない。このままだらっとしたい。けどそんなことアリアが許すわけがない。


「アリアも疲れているのではなくて? 座ってもいいわよ」

「いいえ、私は平気です。お気遣いありがとうございます」


アリアの表情はいつも通りで疲れなど一切感じさせない。だけど疲れていないわけがないだろう。

休めるのは夜だけ。しかも夜だって私が呼んだらアリアは来なくてはならない。食事の時間ですら急いで終わらせないといけない。……メイドさんって大変だ。

もちろん夜に呼ぶことなんてほとんどない。どうしてもお手洗いに行きたくなった時だけだ。最初の頃に夜中に一人でお手洗いに行ったら翌日、アリアにこんこんと説教された。それ以降、私はできるだけ夜中のトイレは我慢している。

というかアリアも貴族の出身なのかな。メイドさん達の中には平民の家の人もいるのかな。なんて考えていると、扉がノックされた。この叩き方はクリスのような気がする。アリアに視線を向けると、アリアは何も言わずに扉へと向かい、開けてくれた。

使用人を連れてきていないクリス。当たり前のように一人で立っていた。思わずため息が落ちた。


「クリス、令嬢のふりをするなら使用人の一人くらい連れていた方がいいわよ。おばあ様に頼みましょうか?」


ああ、令嬢のふりではないか。正真正銘、本物の令嬢だし。私よりもよっぽど。


「うーん、やっぱりそうだよね。でも面倒だしな」


気持ちはわかる。私も学校で一人で自由に移動できるのが楽すぎて、人を連れて歩くことが面倒になったから。どこに行くにもアリアが一緒だし、少し羽目を外しただけで小言が飛んでくるし。


「あ、いいこと思いついた! もしエレナがよかったらなんだけど、私もこの部屋にきてもいいかな。そしたらほら、わざわざ新しい人を付けてもらわなくても、何かあったらアリアにお願いするし」


……楽な方に逃げたな。

と思ったが、別に私は構わない。ベッドだけ運び込めばいつもと変わらないし。ただアリアの負担が増えるかもしれない。そう思ってアリアを見るとアリアは小さく頷いた。

多分良いってことよね。


「そうしましょうか。じゃあ早速ベッドを運びましょう」


私の一言でアリアがすぐに部屋を出て行った。許可を取りに行ってくれたのだろう。何も言わなくても動いてくれるアリアマジ有能。

アリアが戻って来て三人で一緒に部屋を出る。クリスにあてがわれた部屋へと行き、ベッドを見た。うん、魔法で行けそう。だけど私は水属性って嘘ついてるからな。


「クリス、持ち上がりそう?」

「うん、多分」


クリスの頷きと同時にベッドがふわっと浮いた。が、ぐらぐらしている。この状態で私の部屋まではちょっと難しそうだ。


「重たくて、ちょっと、バランスが……」


珍しく必死な表情のクリス。私は何も言わずにそれを手伝う。クリスはほっと息をついた。

私は一緒にいただけでクリスが運んだってことにしていたら問題はない。実際クリスだって運んでいるんだから。


「じゃあアリアには前を任せるわ。わたくし達にはベッドの向こう側が見えないもの」

「かしこまりました」


扉を開け放ってベッドを出す。そして廊下を進むが、思ったよりもぎりぎりのサイズだ。人が一人横を通れるくらいのスペースしか残っていない。

うーん、ちょっと迷惑かもしれないけど仕方ないか。怪我人が出ないようにだけ気を付けよう。

廊下を大きなベッドが進む。その光景は傍から見たらいくらファンタジーなこの世界でも異様なものだったのだろう。進むにつれてざわめきが大きくなっていく。このベッドの前には一体どれくらいの人がいるのか見るのが怖い。


「エレナ様、クリス様、一度こちらに避けましょう。使用人が通ります」

「分かったわ」


クリスがそう返事をし、私はクリスがベッドを動かすのに合わせて、動かす。廊下の交差するところで横によけて片側にスペースを作ると、たくさんの使用人たちがこちらをチラチラ見ながら通り過ぎて行った。結構な人が足止めをくらっていたようだ。申し訳ない。


「クリス、魔力は大丈夫? あともう少しよ」

「うん、大丈夫」


そうは言うが少し疲れているように見える。私でも魔力がガンガン減っているのが分かるのだ。クリスはかなりきついだろう。


「無理はよくないわ。わたくしがするからいいのよ」

「ううん、大丈夫。私のわがままだもん。エレナ一人には任せられないよ」


小声でそんなやり取りをする。

それなら早く終わらせてしまおう。アリアに進んでいいかを確認して、再び進む。もうすぐそこだと思った時、アリアの慌てた声が聞こえた。


「エレナ様、止まってください!」


珍しいその声色に何事かと私とクリスは顔を見合わせた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。

たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。 しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。 そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。 ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。 というか、甘やかされてません? これって、どういうことでしょう? ※後日談は激甘です。  激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。 ※小説家になろう様にも公開させて頂いております。  ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。  タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~

前世の記憶を取り戻した元クズ令嬢は毎日が楽しくてたまりません

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のソフィーナは、非常に我が儘で傲慢で、どしうようもないクズ令嬢だった。そんなソフィーナだったが、事故の影響で前世の記憶をとり戻す。 前世では体が弱く、やりたい事も何もできずに短い生涯を終えた彼女は、過去の自分の行いを恥、真面目に生きるとともに前世でできなかったと事を目いっぱい楽しもうと、新たな人生を歩み始めた。 外を出て美味しい空気を吸う、綺麗な花々を見る、些細な事でも幸せを感じるソフィーナは、険悪だった兄との関係もあっという間に改善させた。 もちろん、本人にはそんな自覚はない。ただ、今までの行いを詫びただけだ。そう、なぜか彼女には、人を魅了させる力を持っていたのだ。 そんな中、この国の王太子でもあるファラオ殿下の15歳のお誕生日パーティに参加する事になったソフィーナは… どうしようもないクズだった令嬢が、前世の記憶を取り戻し、次々と周りを虜にしながら本当の幸せを掴むまでのお話しです。 カクヨムでも同時連載してます。 よろしくお願いします。

『二流』と言われて婚約破棄されたので、ざまぁしてやります!

志熊みゅう
恋愛
「どうして君は何をやらせても『二流』なんだ!」  皇太子レイモン殿下に、公衆の面前で婚約破棄された侯爵令嬢ソフィ。皇妃の命で地味な装いに徹し、妃教育にすべてを捧げた五年間は、あっさり否定された。それでも、ソフィはくじけない。婚約破棄をきっかけに、学生生活を楽しむと決めた彼女は、一気にイメチェン、大好きだったヴァイオリンを再開し、成績も急上昇!気づけばファンクラブまでできて、学生たちの注目の的に。  そして、音楽を通して親しくなった隣国の留学生・ジョルジュの正体は、なんと……?  『二流』と蔑まれた令嬢が、“恋”と“努力”で見返す爽快逆転ストーリー!

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。

槙村まき
恋愛
 スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。  それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。  挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。  そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……! 第二章以降は、11時と23時に更新予定です。 他サイトにも掲載しています。 よろしくお願いします。 25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!

処理中です...