池に落ちて乙女ゲームの世界に!?ヒロイン?悪役令嬢?いいえ、ただのモブでした。

紅蘭

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私の叔父様

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とりあえずベッドを下に降ろしてみる。すると向こう側に端に避けて頭を下げるアリアの姿が見えた。ベッドを挟んで目の前にいるのは男の人。興味深そうに私とクリスをじろじろと見てくる。

……失礼な人。だけどこの顔ってもしかしなくてもお父様の血縁だよね。そっくりだもん。


「廊下をふさいでしまい申し訳ありません。すぐにどけますので」

「ああ、いいよいいよ」


私の謝罪にとてもお父様とは似ていない軽い口調で答える男の人。年齢的にお父様の兄弟だろう。確かお父様は長男だから、この人は弟か。……ここにいるってことはフロレンツのお父さんではないよね。

じーっと顔を見ていると、男の人は顎に手を当ててキリッとした顔をした。

いきなりのキメ顔に思わず笑ってしまう。


「な、なんですの、いきなり……」


笑いながらそう言うと、男の人は再びキメ顔をして言った。


「見つめられたらかっこいい顔をしないとだろ」

「ありがとうございます、叔父様」


他になんと言ったらいいのか分からなくてそうお礼を言うと、男の人は「ん?」と首を傾げた。


「俺をそう呼ぶって、もしかしてエレナか?」

「はい、エレナでございます。以前にもお会いしたことが?」

「ああ、大きくなったな。前に会ったときはこんなだったぞ」


そう言って叔父様が床からの高さを手で示す。その手は今にも床についてしまいそうだ。私そんな米粒みたいなサイズだったことないと思うんだけど。少なくとも私がエレナになってからは。

おじ様は「ははっ」と笑うと、ベッドの横のかすかなスペースを通って私とクリスの前に立った。


「フィリップだ。エレナの父親の弟、フロレンツの父親の兄にあたる」


じゃあやっぱりこの人がこの家を継いだ弟か。


「エレナです。こちらは友達のクリスティーナ様ですの。数日間お世話になりますわ」


にこっと微笑んでそう言うとフィリップ叔父様は「ああ、フロレンツから話は聞いている」と言った


「二人とも魔法の腕前がすごいらしいな。これを運んでいたのはどっちだ?」

「クリスティーナ様ですわ」


私の言葉に叔父様は速攻クリスの方を向き、その手を取った。


「すばらしい! こんなにも重いものを持ち上げるとはすばらしい才能だ!」


叔父様はそう言うと、こんこんと魔法の難しさや美しさを語り始めた。その勢いに呆気にとられて動けなかった。あのクリスでさえ少し引き気味だ。

恐らく叔父様は魔法を心の底から愛しているのだろう。正直、頷ける部分もある。魔法に憧れていた私だから分かる気持ちだと思っていたけど、この世界の人でもこういう風に思うんだ、と少しだけ嬉しくなった。まあそれはそれだけど。


「叔父様、あの、お話はベッドを運び終わった後に座っていたしませんか? クリスティーナ様が驚いておられますわ」


私がそう言うと叔父様は「おっと、すまない」と言ってクリスから離れた。


「申し訳ないが、この後は行かなければならないところがあるんだ。ベッドが浮いていると聞いて見に来てみたが、見事だった。また時間のある時にゆっくり話をしよう。では」


私達が返事をする前に叔父様は踵を返して歩き去ってしまった。なんとまあ勢いのすごい人だ。とてもお父様の兄弟だとは思えない。似ているのはどうやら顔だけのようだ。

さて、じゃあ今度こそベッドを運んでしまおう。魔法でベッドを持ち上げると、先ほどと同じくアリアが前方の確認をしてくれる声が聞こえた。


「クリスは疲れたでしょうからそこにいるだけでいいわ。わたくしに任せてちょうだい」

「……じゃあお願いしようかな」


遠い目をしてそう言うクリスは本当に疲れているようだった。



「あー、疲れた……」


ベッドの移動が終わり、アリアの入れてくれたお茶を飲みながらクリスは深いため息とともにそう言った。何が疲れたかと聞けば絶対に叔父様だと言うだろう。分かるから聞かない。


「お疲れ様。今日はもうゆっくりしましょう」


ああ、でも勉強しないといけない。剣の訓練も。でも面倒だな……。剣の訓練は相手を見つけるところからだし。よし、明日おじい様に騎士を一人貸してくれないか聞いてみよう。今日は勉強だけでいいか。……サボりじゃないよ。

立ち上がって、持って来た荷物の中からノートとペンを取り出す。すると「うげぇ」とすごく嫌そうな声が聞こえた。


「来て早々勉強するの!? 今日くらいいいじゃんー……」


うんざりしているクリスを見る。気持ちはすごく分かる。だけど今サボって後で大変になるくらいなら毎日コツコツとした方がマシだ。私はエレナになってすぐのあの勉強しかしなかった毎日を繰り返したくはない。


「少しだけよ」

「私は絶対にしないからね!!」


力いっぱいそう叫ぶクリスに思わず笑いがこぼれる。

ノートの苦手なページを開いてじっくりと読み込む。何度読んでもなかなか理解できないところだ。じっとノートとにらめっこしていると、クリスがのそのそと動く気配がした。視線だけで確認すると、ノートを手に戻ってくるのが分かった。

嫌々ながらもページを開くクリス。絶対に勉強しないと言い張ったくせに。クリスのこういうところが可愛い。私はクリスにはばれないように、唇だけで笑った。
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