池に落ちて乙女ゲームの世界に!?ヒロイン?悪役令嬢?いいえ、ただのモブでした。

紅蘭

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とは思っていたが、いくら暇そうでもこいつだけは嫌だ。学園について最初に見る顔がよりにもよってラルフだとは今日はツイてない。


「ごきげんよう」


にっこりと微笑んでそう言い、その場を立ち去る。もちろんラルフから挨拶などないし、求めてもない。


「カミラといったか」


思わず足を止めて振り返った。どうしてラルフの口からカミラの名前が出るのだろう。こいつはカミラと会ったと言うのか。

私が反応したのが面白かったのか、満足そうに笑うラルフ。顔を見るだけでムカつく。


「お前と違って可愛げがあるな。女はああでなければ」


その言い方で私だけでなくカミラまでもを下に見ていることが分かる。

あの子は、カミラはラルフと違って綺麗なんだ。その視界に映ることすら許しがたい。怒りがこみ上げ、気が付くと私はラルフを睨んでいた。


「その汚い手でカミラに触れることは許しません」


ラルフが引きつった顔で後ずさりする。自分の体から魔力が漏れ出ているのがなんとなく分かった。だけどダメだ。ラルフがカミラに近寄ることは許せない。何に変えても阻止しなければならない。例え私とラルフの婚約が破棄されなくても。

ラルフの表情が段々と怯えに変わっていく。そして、全力で走って逃げて行った。ふっと心が軽くなる。もしかしたら私は今魔力で脅してしまったのかもしれない。だけどどうでもいい。後で面倒になるとか、嫌な目に遭うとか、そんなことは全部どうでもいい。

カミラは綺麗なままでいないといけない。不幸になることはあってはならない。幸せにならないといけない。あんなにも可愛いのだから。姉馬鹿かもしれないけど。

ふう、と息をつくと、後ろでじゃりっと足音がした。今の見られたかな、とちょっと不安になりながら振り返って、安心した。そこに立っていたのはレオンだった。


「今の超かっこよかったぜ」


なんて言ってニカッと笑われた。ボッと顔が熱くなる。

全然安心できないよ! 知らない人の方が良かった! いやいやいや、どっちにしても恥ずかしすぎるし!!


できるだけ平静を装ってレオンと二人で並んで歩く。


「今日は殿下はご一緒では?」

「ああ、カイは城に帰ってる。暇だから一人で散歩していたところだ」


お、暇人見つけた! けどレオンって魔法得意だっけ? 苦手なのに無理をさせるわけにはいかないし……やっぱりクリスに頼めばよかったかな。


「どうしたんだ?」

「あ、いえ、ちょっとお願いが……」


かくかくしかじかと説明をする。といっても大した説明もないけど。


「その、レオン様がお嫌でなければで大丈夫なのですが……」

「魔法への割り込み、か……初めて聞くがそんなこと本当にできるのか?」


本当にできるはず。だけどはっきりと頷くことはできない。誰が言ったんだと言われても困るから。


「はい、その、いつだったか忘れたのですが、本でそのようなことが書いてあることを思い出しまして……」


ちょっと視線をそらしてそう言うと、レオンは「ふーん」と何度か頷いて、そして笑った。


「いいぜ、どうせ暇だしな!」



早速場所を移動して、ベンチへと腰かける。ちらほらと人の姿が見える場所。人通りが多いと困るけど、少なすぎても困るのだ。人気のないところで二人でいることがばれたらあらぬ誤解を生んでしまうから。

その辺りも考えるとクリスにお願いするべきだった。明日には帰ってきてもらおう。


「じゃあ俺はどんな魔法を使えばいいんだ?」

「そうですね……」


早速始めようとやる気満々でレオンが言う。どんな魔法か。やっぱり分かりやすいのがいいよね。割り込んで魔法を変えるのだから、変わったことがすぐに分かる魔法。


「目に見えるものがいいですね。火で何かを作るとか?」

「おう!」


思えばレオンの魔法は初めて見るかもしれない。レオンが宙を見る。その視線の先に小さな火の玉が。それがだんだんと大きくなって、そして火の鳥になった。さすが攻略対象。なんでも卒なくこなせるんだ。

うん、かっこいい。

っと、そんなこと思っている場合じゃなかった。魔法を変えないと。

魔力に割り込む……割り込む……。じっと火の鳥を見て試してみるが、一向に何も変わらない。

魔力が少ないのかな。そう思って少し多めに魔力を使ってみる。すると火の鳥は燃えて消えてしまった。


「あ……」


そこに残ったのは私の作った火の玉のみ。どうもレオンの魔力量を超えてしまったようだ。

……え!? 無理じゃない!?


「申し訳ありません」

「いい、気にするな。もう一回か?」

「はい、お願いします!」


その後も何度も試してみるが、結果は変わらない。二時間ほど経つと、さすがにレオンの顔に疲れが見え始めて来た。今日はこのくらいか。


「失敗ばかりして申し訳ありません。もう少し考えてみますわ。ご協力ありがとうございました」


せっかく手伝ってくれたのに魔力も時間も無駄にさせてしまった。どうすればできるのか全く何も掴めていない。この体を使ってエレナはできたというのに私はできない。才能がないのかもしれない。


「エレナ、気にするな。まだ始めたばかりだろ。俺で良かったら明日も明後日も、できるまで付き合うから。元気出せ、な?」


傍から見て分かるほど落ち込んでいたのか、レオンが慌ててそう言ってくれる。年下に慰められてしまったことにさらにがっくりする。

あー、ほんとに何から何まで申し訳ない。レオンを見るととても眩しい笑顔を向けてくれた。

……明日も頑張ろう。
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