池に落ちて乙女ゲームの世界に!?ヒロイン?悪役令嬢?いいえ、ただのモブでした。

紅蘭

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順調なはずだったのに

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そんなこんなで月日は経ち、特筆すべきことなど特にないまま、私たちは五年生の夏を迎えた。

最上学年になったからと言って学校生活は特に変わることはないし、授業の難易度も変わらずで、必死に勉強して一位を取ったり取らなかったりしている。

クリスとは相変わらず一緒にいて、ラルフとはこれまた相変わらず不仲。しかし婚約はまだ破棄されていない。

つまり、私のことで何かが変わったことはないということだ。

しかし、カイとリリーの仲はとても順調に進んでいるようで、最近はよく一緒にいる姿を見かける。お昼ご飯を一緒に食べたり、休みの日は一緒に出掛けたりもしているようだ。私もよく二人に誘われるけど、毎回お断りしている。

ルートに入ってしまえばあとはくっつくだけだ。私にできることは何もない。せいぜいバッドエンドにいかないように見ておくくらい。私が一緒に行って二人の仲を邪魔するのも野暮だしね。

まあ少し気になることがあるとすれば、他の子達のリリーへの風当たりが少し強いこと。いじめられているわけではないけど、受け入れられている感じもない。


「エレナ様」


授業が終わり、寮へと戻ろうと準備をしている私を誰かが呼んだ。この声はリリーかな。そう思って振り返ると、そこにはリリーだけでなくカイも立っていた。

二人そろってどうしたのだろう。


「この後少しお時間をいただけませんか?」

「この後? ええ、大丈夫ですが」


私何かしたっけ? 不思議に思い首を傾げると、カイが「相談したいことがあるんだ。聞いてくれるかい?」と微笑んだ。その横でリリーも少し照れくれ臭そうにはにかむ。

お、これはもしかして二人の婚約のことか? もうすぐ長期休暇に入るし、そろそろいい頃だ。ゲームの進行とも一致する。

しかし何を私に相談すると言うのだろうか。


「わたくしでよろしければ、喜んで」


まあとりあえず聞いてみるしかないね。隣のクリスへと視線を向けると、クリスが口を開く前にカイが「クリスも一緒に」と言った。

もう先に帰る気満々だったであろうクリスは「私も?」と聞き返し、そして頷いた。


「まあいいけど」

「じゃあ場所を移動しよう」


カイとリリーの後に続き、クリスと並んで歩く。少ししてカイは一室の前で立ち止まった。そしてドアをノックする。

ん? ノック? なんで? 中に誰かいるの?

てっきり私達だけだと思っていた私はクリスと顔を見合わせて首を傾げた。そんな私たちの様子を気にせず扉を開けて中に入った。

中に入ると、そこには既に一人の生徒の姿があった。


「ベアトリクス様?」


どうしてここに、と言う意味を込めて名前を呼ぶと、ベアトリクスは私を見てツンと顔を逸らした。

……ご機嫌斜めなようだ。

最近は話をすることもあまりなかったけど、私の何かが気に入らなかったのだろう。カイに勧められ、椅子に腰かける。

私とクリスが隣に、カイとリリーは私たちと向かい合って。ベアトリクスは一人でお誕生日席。二人の婚約についての話だろうし、まあ妥当な座り順だと思う。しかしベアトリクスは当たり前のようにカイの隣に座ったリリーを不満そうに睨んでいた。

リリーは意識してかどうかは分からないが、ベアトリクスの方を見ない。カイも何も言わない。

……これは二人の婚約の話じゃないのか? ベアトリクスの話? 何かやらかしたの?

カイとリリーの仲が進展する過程で、ゲーム内でリリーをいじめていたベアトリクス。私の見える範囲ではベアトリクスの取り巻きによる嫌がらせはあったみたいだけど、ベアトリクスは直接リリーに何かしていないし、話にも聞いていない。

だからベアトリクスのことは放っておいたのだけど。部屋の隅に置かれたお茶セットでお茶を入れる。魔法でお茶を入れるのはすっかり日常なのですぐに用意ができた。

何も言わずにお茶に口を付けるカイとリリー。早く相談とやらを聞きたいのだけど。ベアトリクスもブスッとした顔のままお茶を飲んでいる。

少し待って見たけど誰も何も言い出さない。クリスの顔を見ると「もう帰ってもいい?」と書いてあるのが見えた。この微妙な空気にうんざりしている。


「……そろそろお話をお伺いしてもよろしいでしょうか?」


カイ相手にこっちから話を切り出すのは失礼かもしれない。だけど私もクリスと同じくらいはこの空気に耐えられなくなっていた。

だって人を呼び出しておいて何も言わないって……! しかもこの刺々しい雰囲気の中だし。正直さっさと話を終わらせて帰りたい。

私の言葉にカイがコクリと頷き、リリーと目を合わせて頷きあう。


「実は、私はリリーと婚約をしようかと思っているんだ」

「まあ、おめでとうございます」


やっぱり婚約の話だったか。いいよいいよ、相談することなんてないよ。それが正規ルートなんだから。カイとリリーは婚約してそれでハッピーエンドだよ。

なんて思うが、カイとリリーの表情を見ているととてもそんなことを言える雰囲気ではない。おめでたい話だと言うのにどうして空気はこんなに重いのか。

私のお祝いの言葉に、カイは少し気まずそうな表情を浮かべ、そしてベアトリクスへと視線を向けた。


「その婚約が成立することは絶対にないと、わたくしは断言するわ」


ベアトリクスは強い瞳でそんなことを言った。
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