池に落ちて乙女ゲームの世界に!?ヒロイン?悪役令嬢?いいえ、ただのモブでした。

紅蘭

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三人の気持ち

「……えっと、理由をお聞きしてもよろしいでしょうか?」


ベアトリクスはもうとっくにカイの婚約者の席は諦めたはずだ。どうして今更二人の婚約の邪魔をするのだろう。

不思議に思ってそう聞くと、ベアトリクスはキッと私を睨んだ。反射的に少し身を引いてしまう。


「理由? あなたはまだそんなことを言っているの……!?」


わぁ、めっちゃ怒ってる……。

たじろいで口を閉じた私からカイへと視線を移すベアトリクス。


「殿下、一つお聞きします。どうしてエレナではなく彼女なのですか?」


その言葉で前にベアトリクスと話をしたことを思い出した。

なるほど、私の為か。私の身の安全の為に、ベアトリクスはリリーの立場を確かなものにしたくないのだ。とは言え、リリーがカイと婚約しなければ、今度はリリーの身が危ないのではないかと思う。学校に入った時点で貴族だとは認められているけど、それでも「元平民」だという皆の認識はそれほど変わっていない。

今の時点でそれがリリーに危害を加えることはないけど、今後のことは分からない。ここでカイと婚約をして誰にも文句が言えない身分を手に入れてもらうのが確実だ。

まあでもカイの答えなんて一つに決まっているよね。『リリーのことが好きだから』。他にないでしょ。

なんて思いながらカイの方を見ると、カイは一瞬私へと視線を向け、すぐに逸らして言った。


「それがエレナの望みだからだよ」


……はい?

予想外の言葉に目が点になる。どういうことだとリリーを見ると、リリーも同感だと言う風に頷いた。


「エレナが私の婚約者になりたくないと言った。だけどエレナの光属性を取り込もうとしている人は多い。だから同じ光属性の使い手であるリリーと婚約するよ」


ちょ、ちょっと待ってよ、何その理由!

あまりに斜め上すぎて言葉が出ない。クリスを見るとクリスも驚いているのが分かった。ベアトリクスはまるで値踏みするような眼差しをカイに向けている。とてもじゃないけど、自分より身分の高い相手に向ける目ではない。


「ベアトリクスだって知っているだろう? エレナが皇后の座を望んでいないことを」

「それは存じておりますわ。だけどその結果、エレナが危険にさらされてもいいとおっしゃるのですか?」


私の話をしているはずなのに口を挟める雰囲気ではない。ただ黙って二人の会話を聞くことしかできない。


「その可能性は私も考えたし、エレナ本人も分かっていることだ。それでもエレナはこうなることを望んでいる」

「それは殿下が決めることではありません」


あー、いや、そんな言い合いみたいなことしなくても……。

カイの言ったことは正しいし、ベアトリクスだってきっとそれは分かっているだろう。それが分かったうえで私のことを案じてくれているのは素直に嬉しいしありがたい。

だけど今私が気になるのはそんなことではない。


「お、お待ちくださいませ。お二人ともわたくしのことを考えてくださっていることは分かりました。ですがそんなことよりも、殿下とリリー様のお気持ちはどうなのですか?」


二人がくっつくようにここまで煽っておいてなんだけど、好きでもない相手と婚約させるのはとても申し訳ない。あくまで私はカイとリリーが恋をする本来のルートに戻そうと思っていただけなのだ。少しだけ私情は挟んでいたけど。

カイは「ああ」と頷いた。


「リリーはとても優しく賢い。きっと将来私を支えて国を良い方へと導いてくれるだろう」


いや、私が聞きたいのはそんなことではない。確かに私もそう思うけど。


「そうではなく、お二人は想い合っておられるのですか?」


カイはリリーへとても優しい眼差しを向けた。しかしその目は私がゲームで見たヒロインへと向けたあの情熱溢れる目ではなかった。


「もちろん好きだよ。だけど恋愛感情ではない。あくまで、私が皇子としてこの先を一緒に生きたいと、側で支えて欲しいと思うだけだ」


うわ、恋愛感情ではないってはっきり言っちゃったよ。でも一緒に生きたいとか側で支えて欲しいって、それもうほとんど恋愛感情じゃないの?

……よく分からない。

って、リリーはカイのことが好きだったんじゃないの!? ショック受けてない!?

ちょっとドキドキしながらリリーへと視線を向けると、リリーは微笑んでいた。


「私は殿下のことを心からお慕いしております」


だよね……!

それにしてはショックを受けている感じではないな。


「殿下の心が私に向いていないことは分かっています。それでもかまいません。ただ殿下のお近くにいて、私にできることで支えていきたいと思っております」


うっわ、めっちゃ健気……!

リリーが本当にカイのことが好きで、心からそう思っているのは顔を見ただけで分かる。見ている私の方が恋に落ちそうな、そんな表情だ。女の子は恋をすると綺麗になるって本当だったんだとどうでもいいことを思った。


「カイはさっきエレナの為って言ったけど、エレナのことが好きなの?」


それまで黙っていたクリスが手を上げてそう言った。なんてことを聞くんだとも思ったけど、正直それは少し気になっていた。前はそうだったけどそれは今もなのか。もしそうだとしたら今後私はリリーとどんな顔で接すればいいのか分からない。

カイはなんでもないような顔でサラッと言う。


「好きだよ」

「それは恋愛感情?」


間髪入れずクリスが聞く。カイは少し間を開けて首を横に振った。


「いいや、違うよ。それはもう捨てた。クリスやリリー、他の皆と同じ『好き』だ」


ばれないようにホッと息を吐く。どうやら私は本来あるべき立場に納まることができたようだ。


「じゃあどうしてエレナの為にそこまでするの?」

「理由はいくつかあるよ。まずエレナが今まで私たちの為に色々してくれたことを知っているから。だから今後はエレナの望む道を歩いて欲しい」

「他は?」

「単純にもったいないと思ったんだ」


もったいない? 何が?


「エレナは皇后になれば国の為にたくさんのことを考え、実行してくれると思う。だけどきっとエレナは皇后の器では収まりきらない。そんな立場に立たせない方がたくさんのことを成し遂げてくれる。そんな気がするんだ」


わーお、すんごい高く評価してくれている。しかしさすがにそれは過剰評価だろう。まあ私にとっては都合の良い方にいっているので、今ここで反論はしないけど。

クリスは「なるほど」と満足そうに頷いた。そして聞きたいことが聞けて満足したのか、もう口を開こうとはしなかった。


「だから、ベアトリクス、私たちの婚約を認めて欲しい」


カイは再びベアトリクスへと視線を向け、はっきりとした口調でそう言った。

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