池に落ちて乙女ゲームの世界に!?ヒロイン?悪役令嬢?いいえ、ただのモブでした。

紅蘭

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ベアトリクスの条件

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沈黙が降りる。

カイとリリーは真剣な表情でベアトリクスを見つめていて、ベアトリクスも真っすぐカイの瞳を見据えている。

一応当事らしいけど微妙に関係ない私と、無関係なクリスはただ成り行きを見守るしかできなかった。

少ししてベアトリクスが口を開いた。


「……どうしてわたくしの許しが必要だとおっしゃるのですか?」

「あ、それ私も気になってた」


私の隣でクリスが手を上げる。とても場違いな明るい声で。ちょっとは空気を読んでくれと言いたいが、確かに私も気にはなっていた。


「……わたくしもお聞きしたいですわ」


私も手は上げないが、カイへと視線を向ける。


「今この学校の生徒は一部の者を除き、私とリリーの婚約を反対している」


……それは別にこの学校の生徒だけではないのでは?

そう思ったが口には出さない。だけどリリーは私の思っていることが分かっているのか、カイの言葉に付け加えた。


「皆さん、同じ光属性の使い手なら私ではなくエレナ様を、とおっしゃるのです」

「私だってそう言われることはもちろん予想していた。だけどその声があまりに大きい。皆を煽っているのはベアトリクスだろう?」


カイの言葉に驚き、目を丸くしてベアトリクスを見る。

私だって無関係ではない。そう言っている人が少なくないことは知っていたし、面と向かってそう言う風なことを言われたことだって何度かある。だから驚くのはそこではない。

ベアトリクスが皆を煽れるほどの人望があったことに対して、だ。

身分は高いけどあのベアトリクスだ。悪役令嬢のベアトリクスだ。ゲーム内では取り巻き達以外の生徒から迷惑がられていたあのベアトリクスだ。

本来ならベアトリクスの取り巻きなど一部を除く生徒たちは皆、段々とリリーを認め、慕うようになるはずだ。どうも立場が逆転している。

……ベアトリクスが変わったことによる変化だろうな。悪役令嬢の座を降りたわけではないけど、でも性格はかなり丸くなったし、物事を客観的に見れるようになった。身分を笠に着なくなった。それだけでベアトリクスは迷惑な悪役令嬢から、公爵令嬢へと変わるのだ。

嬉しいっちゃ嬉しいけど、複雑な気分。

思っていることが顔に出ないように気を付けて私はカイを見る。


「実際、ベアトリクス様に何ができるとおっしゃるのですか?」


ベアトリクスが皆を扇動していたとして、子供たちが反対したところで何の意味もないのでは、と思うがそこのところはどうなのだろう。


「確かに。最終決定権は大人たちだよね。正直、学校内でどんな意見が出ていようと、婚約できるかどうかなんて関係ないんじゃないの?」

「その通りよ。婚約が成立することはないと言ったけれど、わたくしにできることなんてほとんどないわ。殿下だってご存じでしょう?」


うん、だよね。わざわざこうしてこの場を設けてまで話す必要があるのか分からない。しかしカイははっきりと言った。


「皆の言う通り、私たちの婚約について最終的に決めるのは陛下や爵位を持った大人たちだよ。だけど、私が即位する時、した後、実際に国を支えるのは今の子供たちだ。だから私達は今決定権がないからと言って子供の言葉を無視することはできない」


……あー、かっこいいな。告白を断るなんて少し惜しいことをしたかもしれない。そう心の片隅で思う。後悔はしていないけど。

真っすぐな目も硬い意思も、私がゲームをプレイして知っているカイそのものだ。今目の前にいるのは友達のカイではなく、攻略対象のカイだった。

ゲームだったらこのシーン絶対スチルあったよね。もしかしたらこれもイベントの一つなのかな。……いや、それはないか。普通にゲームの進行上、こんな展開はないはずだし。


「わたくしの許しを得たからと言って皆の気持ちが変わるわけではありませんでしてよ」


カイの熱い瞳とは反対に、ベアトリクスが冷ややかな視線をカイへと向けた。


「分かっているよ。皆にはこれから認めてもらえるように努力する。ひとまず、君に認めてもらいたいだけなんだ」


ベアトリクスは口を開かなかった。カイ、リリーとベアトリクスの見つめ合いが続く。私とクリスは横からその様子をただ見守るしかできなかった。

少ししてベアトリクスはため息を吐いた。そして口を開く。


「エレナの安全が条件ですわ。その保証をしていただけるのでしたら、わたくしはもう言うことはございません。……エレナもそう望んでいるのでしょう?」


無言で頷くが、内心は少し驚いていた。

本当にベアトリクスは私の為だけに二人の婚約を阻止しようとしてくれていたんだ。そう思うとベアトリクスがとてつもなく可愛く見えた。いや、顔は元から可愛いんだけど、五割増しで可愛いって言うか……つまり、ツンデレの破壊力とは恐ろしい。

カイは私へと視線を向け、そして頷いた。


「もちろんだよ。私たちの婚約にエレナの安全は絶対だ。絶対に私が守る」

「……それでも何かあったらどうするの?」


カイの言葉に返したのはベアトリクスではなくクリスだった。ポツリと小さな声。その様子を見て、クリスも私の心配をしてくれていたんだと分かった。

カイは迷わず口を開く。


「その時は私の命を以て償うよ」


いやいやいや、何言ってんの!? 皇子様がそんなこと冗談でも言っちゃダメでしょ!

あまりの言葉に驚き、口を開こうとしたが先に動いたのはベアトリクスだった。立ち上がり、座っているカイを見下ろす。


「その言葉、絶対でしてよ」


そしてそのまま部屋を出て行ってしまった。

前まではあんなに「カイ様、カイ様」だったのにこうしてカイに敵意をぶつけるところを見る日が来るとは。人生何があるか本当に分からないものだ。

チラッとカイの方を見てみると、とても真剣な表情だった。

……さっきの言葉、冗談だよね?
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