池に落ちて乙女ゲームの世界に!?ヒロイン?悪役令嬢?いいえ、ただのモブでした。

紅蘭

文字の大きさ
236 / 300

ベアトリクスの条件

しおりを挟む
沈黙が降りる。

カイとリリーは真剣な表情でベアトリクスを見つめていて、ベアトリクスも真っすぐカイの瞳を見据えている。

一応当事らしいけど微妙に関係ない私と、無関係なクリスはただ成り行きを見守るしかできなかった。

少ししてベアトリクスが口を開いた。


「……どうしてわたくしの許しが必要だとおっしゃるのですか?」

「あ、それ私も気になってた」


私の隣でクリスが手を上げる。とても場違いな明るい声で。ちょっとは空気を読んでくれと言いたいが、確かに私も気にはなっていた。


「……わたくしもお聞きしたいですわ」


私も手は上げないが、カイへと視線を向ける。


「今この学校の生徒は一部の者を除き、私とリリーの婚約を反対している」


……それは別にこの学校の生徒だけではないのでは?

そう思ったが口には出さない。だけどリリーは私の思っていることが分かっているのか、カイの言葉に付け加えた。


「皆さん、同じ光属性の使い手なら私ではなくエレナ様を、とおっしゃるのです」

「私だってそう言われることはもちろん予想していた。だけどその声があまりに大きい。皆を煽っているのはベアトリクスだろう?」


カイの言葉に驚き、目を丸くしてベアトリクスを見る。

私だって無関係ではない。そう言っている人が少なくないことは知っていたし、面と向かってそう言う風なことを言われたことだって何度かある。だから驚くのはそこではない。

ベアトリクスが皆を煽れるほどの人望があったことに対して、だ。

身分は高いけどあのベアトリクスだ。悪役令嬢のベアトリクスだ。ゲーム内では取り巻き達以外の生徒から迷惑がられていたあのベアトリクスだ。

本来ならベアトリクスの取り巻きなど一部を除く生徒たちは皆、段々とリリーを認め、慕うようになるはずだ。どうも立場が逆転している。

……ベアトリクスが変わったことによる変化だろうな。悪役令嬢の座を降りたわけではないけど、でも性格はかなり丸くなったし、物事を客観的に見れるようになった。身分を笠に着なくなった。それだけでベアトリクスは迷惑な悪役令嬢から、公爵令嬢へと変わるのだ。

嬉しいっちゃ嬉しいけど、複雑な気分。

思っていることが顔に出ないように気を付けて私はカイを見る。


「実際、ベアトリクス様に何ができるとおっしゃるのですか?」


ベアトリクスが皆を扇動していたとして、子供たちが反対したところで何の意味もないのでは、と思うがそこのところはどうなのだろう。


「確かに。最終決定権は大人たちだよね。正直、学校内でどんな意見が出ていようと、婚約できるかどうかなんて関係ないんじゃないの?」

「その通りよ。婚約が成立することはないと言ったけれど、わたくしにできることなんてほとんどないわ。殿下だってご存じでしょう?」


うん、だよね。わざわざこうしてこの場を設けてまで話す必要があるのか分からない。しかしカイははっきりと言った。


「皆の言う通り、私たちの婚約について最終的に決めるのは陛下や爵位を持った大人たちだよ。だけど、私が即位する時、した後、実際に国を支えるのは今の子供たちだ。だから私達は今決定権がないからと言って子供の言葉を無視することはできない」


……あー、かっこいいな。告白を断るなんて少し惜しいことをしたかもしれない。そう心の片隅で思う。後悔はしていないけど。

真っすぐな目も硬い意思も、私がゲームをプレイして知っているカイそのものだ。今目の前にいるのは友達のカイではなく、攻略対象のカイだった。

ゲームだったらこのシーン絶対スチルあったよね。もしかしたらこれもイベントの一つなのかな。……いや、それはないか。普通にゲームの進行上、こんな展開はないはずだし。


「わたくしの許しを得たからと言って皆の気持ちが変わるわけではありませんでしてよ」


カイの熱い瞳とは反対に、ベアトリクスが冷ややかな視線をカイへと向けた。


「分かっているよ。皆にはこれから認めてもらえるように努力する。ひとまず、君に認めてもらいたいだけなんだ」


ベアトリクスは口を開かなかった。カイ、リリーとベアトリクスの見つめ合いが続く。私とクリスは横からその様子をただ見守るしかできなかった。

少ししてベアトリクスはため息を吐いた。そして口を開く。


「エレナの安全が条件ですわ。その保証をしていただけるのでしたら、わたくしはもう言うことはございません。……エレナもそう望んでいるのでしょう?」


無言で頷くが、内心は少し驚いていた。

本当にベアトリクスは私の為だけに二人の婚約を阻止しようとしてくれていたんだ。そう思うとベアトリクスがとてつもなく可愛く見えた。いや、顔は元から可愛いんだけど、五割増しで可愛いって言うか……つまり、ツンデレの破壊力とは恐ろしい。

カイは私へと視線を向け、そして頷いた。


「もちろんだよ。私たちの婚約にエレナの安全は絶対だ。絶対に私が守る」

「……それでも何かあったらどうするの?」


カイの言葉に返したのはベアトリクスではなくクリスだった。ポツリと小さな声。その様子を見て、クリスも私の心配をしてくれていたんだと分かった。

カイは迷わず口を開く。


「その時は私の命を以て償うよ」


いやいやいや、何言ってんの!? 皇子様がそんなこと冗談でも言っちゃダメでしょ!

あまりの言葉に驚き、口を開こうとしたが先に動いたのはベアトリクスだった。立ち上がり、座っているカイを見下ろす。


「その言葉、絶対でしてよ」


そしてそのまま部屋を出て行ってしまった。

前まではあんなに「カイ様、カイ様」だったのにこうしてカイに敵意をぶつけるところを見る日が来るとは。人生何があるか本当に分からないものだ。

チラッとカイの方を見てみると、とても真剣な表情だった。

……さっきの言葉、冗談だよね?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。

たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。 しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。 そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。 ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。 というか、甘やかされてません? これって、どういうことでしょう? ※後日談は激甘です。  激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。 ※小説家になろう様にも公開させて頂いております。  ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。  タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~

前世の記憶を取り戻した元クズ令嬢は毎日が楽しくてたまりません

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のソフィーナは、非常に我が儘で傲慢で、どしうようもないクズ令嬢だった。そんなソフィーナだったが、事故の影響で前世の記憶をとり戻す。 前世では体が弱く、やりたい事も何もできずに短い生涯を終えた彼女は、過去の自分の行いを恥、真面目に生きるとともに前世でできなかったと事を目いっぱい楽しもうと、新たな人生を歩み始めた。 外を出て美味しい空気を吸う、綺麗な花々を見る、些細な事でも幸せを感じるソフィーナは、険悪だった兄との関係もあっという間に改善させた。 もちろん、本人にはそんな自覚はない。ただ、今までの行いを詫びただけだ。そう、なぜか彼女には、人を魅了させる力を持っていたのだ。 そんな中、この国の王太子でもあるファラオ殿下の15歳のお誕生日パーティに参加する事になったソフィーナは… どうしようもないクズだった令嬢が、前世の記憶を取り戻し、次々と周りを虜にしながら本当の幸せを掴むまでのお話しです。 カクヨムでも同時連載してます。 よろしくお願いします。

『二流』と言われて婚約破棄されたので、ざまぁしてやります!

志熊みゅう
恋愛
「どうして君は何をやらせても『二流』なんだ!」  皇太子レイモン殿下に、公衆の面前で婚約破棄された侯爵令嬢ソフィ。皇妃の命で地味な装いに徹し、妃教育にすべてを捧げた五年間は、あっさり否定された。それでも、ソフィはくじけない。婚約破棄をきっかけに、学生生活を楽しむと決めた彼女は、一気にイメチェン、大好きだったヴァイオリンを再開し、成績も急上昇!気づけばファンクラブまでできて、学生たちの注目の的に。  そして、音楽を通して親しくなった隣国の留学生・ジョルジュの正体は、なんと……?  『二流』と蔑まれた令嬢が、“恋”と“努力”で見返す爽快逆転ストーリー!

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。

槙村まき
恋愛
 スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。  それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。  挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。  そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……! 第二章以降は、11時と23時に更新予定です。 他サイトにも掲載しています。 よろしくお願いします。 25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!

処理中です...