池に落ちて乙女ゲームの世界に!?ヒロイン?悪役令嬢?いいえ、ただのモブでした。

紅蘭

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啖呵

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処刑か、それを免れて厳しい世界を生きるか。その二択。どっちがいいかは本人しか決めることはできない。しかしベアトリクスには生きていて欲しいと思う。私の勝手な思いだけど。


「……ベアトリクス様が公爵家をぬけることは可能なのですね?」

「マジで言ってんのか?」


レオンは信じられないと言った顔で私を見る。

その表情から、聞けば私が諦めると思っていたんだろうということが分かる。


「分かってるの? 処刑を免れても、クラッセン公爵家がなくなった後一人で生き続けるってことだよ?」

「後ろ盾がない上に一人だけ助かったと後ろ指をさされて、誹謗中傷当たり前。処刑を望む声も出てくるかもしれねえ。そんな中を一人で生きろって言うのか?」


分かっている。本来処刑されるはずだった公爵令嬢が一人、家を抜けて助かるのだ。ベアトリクスに対して思うところがある人が多いってことも知っている。ベアトリクスが処刑されないことが面白くない人はたくさんいるだろう。


「結婚でも出来たら違うだろうが、元クラッセン公爵家ってだけでまともな貴族は寄って来ない。運良く結婚できてもその先は地獄だぜ」


そんなこと言われなくても想像できる。でもその時になってみないと分かんないじゃん。今想像している以上に幸せな未来になるかもしれないし。

黙って何も言わない私にレオンは更に言葉を重ねた。


「エレナなら分かるだろ? 死んだ方がマシなことだって世の中にはあるんだ」


その言葉でカッとなった。


「どうしてこの世界の人は命を軽く見るのです!? 例え死んだ方がマシだと思うような地獄でも、生きていたらいつかは幸せになることができるのです」


そんな言葉は綺麗ごとだと分かっている。辛い時は辛いし、先で幸せになれると言われたところで、その辛さが和らぐわけでもない。だけど生きててよかったと思える日は必ず来るのだ。


「死ぬことはいつでもできます。だけど死んだ人を生き返らせることはできないのです。わたくしは自分に助けることのできる命が目の前にあるのなら、迷わず助けます!」


レオンやマクシミリアンがポカンとした顔で私を見ている。啖呵を切るなんてとても失礼なことをしているのは重々承知だ。しかもなんか『この世界』とか言っちゃった気がするし。しかし言葉は止まらなかった。


「本人が望んでいようがいまいが、わたくしにできることは全てします。そしてその先に地獄が待っていると言うのなら、わたくしも一緒に地獄に落ちてやりますわ」


最後のは今パッと出てきた言葉だった。考えて言ったわけではない。だけどそれを撤回する気は全く起きなかった。


「ちょ、ちょっと、エレナ。一緒にってまさか……」


クリスが慌てた表情で私を見る。レオンとマクシミリアンもサッと顔色が悪くなる。

そんなに慌てるような言葉だっただろうか。


「ええ、ベアトリクス様だけに辛い道を歩かせるわけには参りません。わたくしもフィオーレ家と縁を切りますわ」


他人事だから、とか、先のことは私には関係ないから、とかそんな思いで無責任なことを言っているわけではない。私がそうすることでそれを証明し、そしてベアトリクスの助けになれるなら喜んでする。

というか別に私としては家から離れたって生きていけると思っている。なんなら平民に混じって生活しても構わないし。魔法があるんだから不便はしないだろうし、無理に貴族として生きていくよりもずっと楽そうだ。

ベアトリクスと二人でこの先を生きていくのも別に悪くはない。喧嘩はいっぱいしそうだけど。

そんなことを考える私と違い、レオンとマクシミリアンは真っ青な顔色だ。


「……まあエレナならどんな環境でも生きていけるだろうし、全然平気そうだけど」


対してクリスは「うーん」と考え込んだかと思うとそんなことを言った。さすがクリス。私のことをよく分かっている。なんだか嬉しくて思わず頬が緩んだ。


「お、おい、死んだ方がマシって言ったのは俺が悪かったけど、それは流石に……」


なんでそんなに慌てているのか分からない。まだ何か私の知らないことがあるのか?


「どうしてですの?」

「どうしても何も、貴族なんて名ばかりになるんだよ? 使用人なんて一人も持てないかもしれないし、お金もない生活になるんだよ?」


正直、だからなんだ、と思った。使用人がいなくても自分ですればいいし、お金がないなら働けばいい。だけどこのマクシミリアンの言葉で納得がいった。

……この二人は貴族の世界でずっと育って来たんだもんね。

大きい家、たくさんの使用人。豪華な食事に望んだものはなんでも手に入る生活。伯爵家の私がそのレベルの生活を送れていたのだ。公爵家、侯爵家はさぞかし天国だっただろう。だから、平民のような暮らしが地獄に思える。

家と縁を切って、行きつく先が地獄だと、本当に思っているのだ。

まあ普通の貴族の子ならそう思うんだろうね。


「着るものがあって、食べるものがあって、雨風をしのげる壁や屋根があれば生きていくことはできます。それはきっとお二人が思っているほど地獄ではありませんわよ」


言うだけ言って立ち上がる。軽く礼をして二人を残して歩き出せば、クリスが楽しそうに笑いながらついて来た。

ベアトリクスを助ける手段は手に入った。それは何不自由なく生活してきたベアトリクスにとってとても耐えがたい未来だろうけど。


「ね、その時は私も一緒に連れて行ってね」


いきなり何を言い出すのだ、この子は。


「嫌よ」


私の勝手でクリスの人生を変えるようなことは申し訳ない。クリスも一緒だったら楽しいだろうけど。

私の返事にクリスが「えー」と不満そうに声を上げる。


「だってクリスがいたらベアトリクス様と喧嘩ばっかりになるじゃない。家の中が殺伐としているなんてごめんよ」


なんて冗談を言ってみる。クリスは「確かに」と笑う。

だけどきっと本当にそうなったら、その時は私が何を言ったとしてもクリスもついて来るんだろうな、と思った。

あんなに憧れていた令嬢の生活。欲しいものは何でも手に入れることのできる生活。それを自分から手放すなんて、我ながら馬鹿だとは思うけど、それでもこのままベアトリクスを見捨てるよりはずっと良かった。
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