池に落ちて乙女ゲームの世界に!?ヒロイン?悪役令嬢?いいえ、ただのモブでした。

紅蘭

文字の大きさ
253 / 300

カミラも一緒に

しおりを挟む
「お姉さま、最後の試験でも一番だったとお聞きしました。おめでとうございます」


私の成績トップ者の模様付きリボンを見て、カミラが眩しい笑顔を浮かべる。

ああ、可愛い……カミラの笑顔を見ていると自分の中の悪い心が全て浄化されていくようだ。卒業後のこととか、婚約のこととか、色々考えていたことがさあっと消えて心が軽くなる。


「ありがとう。そうは言っても魔法科だけだけどね」


卒業前の最後の試験。全ての科でトップを取るつもりで気合を入れて挑んだ私だったが、文官科はマクシミリアンに、騎士科はレオンに見事にトップを取られてしまった。

騎士科に関してはペーパーテストだったらレオンに勝っているつもりはある。しかし実技に関してはやはり魔法無しの純粋な身体能力のみとなると、私の体は不利だった。

この二つの結果を見た時、魔法科までカイやリリーにトップを取られていないかととても不安になった。いやまあ別ントップを取らなかったからと言って別に何かあるわけでもないんだけど。

というより本来なら多分リリーが一番で卒業するはずだっただろう。邪魔者は私の方なのだ。


「だけって、全ての科をこなしている時点で素晴らしいことですわ! わたくしなんて魔法科だけで精一杯ですもの。ご自分を過小評価しないでくださいませ!」


カミラがすごい勢いでそう言う。事実を言っただけなのになぜ私はこんなに怒られるのだろう。しかしカミラが私を誇らしく思ってくれているであろうことは嬉しい。


「ありがとう」


カミラの自慢の姉であれるなら私はいくらでも努力できる自信がある。本当に妹がこんなに可愛いものだとは知らなかった。


「だけどお姉さまが卒業してしまわれたら寂しくなりますわ……」

「あら、卒業したっていつでも会えるじゃない。カミラに呼ばれたらわたくし、どこまでだって飛んで行きますわよ」


そう言うとカミラはふふ、と可笑しそうに笑った。


「お姉さまでしたら本当に空を飛んで来てしまいそうですわ」


いや、さすがに比喩だったんだけど……もしかして魔法使ったらできるのかな? 試したことはないけどまた試してみよう。


「お姉さまは卒業パーティーはあの方と?」

「いいえ、お誘いは受けておりませんもの。一人で参りますわ」


もう目前に迫った卒業パーティー。いまだにあの馬鹿からの誘いはないどころか、ろくに顔を合わせてもいない。今更誘われるわけもないだろう。となると他に一緒に行く人もいな……カミラは?

はた、と気が付いた。ヘンドリックお兄様は婚約者がいないから代わりに私を連れて行ってくれた。婚約者のいない人は父親や母親と行く人もいるみたいだし……それなら私が家族であるカミラを誘っても問題ないのでは?

婚約者はいるけど、パーティーの相手がいないというところでは一緒だ。


「カミラ、もしよかったらわたくしと一緒に行かない? 殿方のようなエスコートはできないけれど、きっと楽しいわよ」

「ええ!? そのようなこと……よろしいのでしょうか?」


カミラは驚いて声を上げるが、その表情がとても嬉しそうなのは分かっている。「きっと大丈夫よ」と頷く。同性なのでエスコート相手にはならないけど、別にいいだろう。


「それはさすがに聞いたことないんだけど」


横から声が聞こえて、そちらにはクリスが半分呆れたような表情で立っていた。


「あら、クリス、おかえりなさい」


いつの間に部屋に入って来たのだろう。全く気が付かなかった。


「ただいま。何か面白そうな話してるみたいだね」


クリスがもう一つ空いていた椅子に腰かけ、そして私を見た。


「カミラを連れていきたいなら誰か別の人に頼んだら? 駄目ではないと思うけど、同性のエレナが連れて行くのは裏で何言われるか分からないよ。エレナも、カミラも」

「それはいけないわね」


私は別になんて言われてもいいけど、カミラが陰口を言われるのは駄目だ。ベアトリクスのおかげで大分敵対している子達は減ったけど、それでも全くいないわけでもない。カミラにまで火の粉が飛ぶのは避けたいところだ。クリスが今までそんな話を聞いたことがないということは、非常識なことなんだろうし。


「誰か頼めるような殿方はいらっしゃるかしら?」

「いいえ、お姉さま。そこまでするくらいでしたらわたくしはお留守番しておりますわ。お姉さまの晴れ舞台を見ることができないのはとても残念ですが……」


俯いてそう言うカミラをよそに、クリスが言う。


「婚約者がいなくて頼めそうな相手って言ったら一人しか心当たりないんだけど、どう思う?」

「ええ、わたくしも一人だけ」


しかもあのラルフに対抗できる相手だ。

本来、ゲーム内ではおそらくラルフは卒業パーティーでカミラをエスコートしただろう。ということは婚約破棄の場にカミラもいたはず。できればそれを再現したい。

……というのは建前で、私がカミラも一緒に行きたい。だって一緒の方が楽しいだろうから。


「もうあまり時間がないわ。すぐにお願いしに行きましょう」


にっこりと笑って立ち上がると、カミラは少し戸惑ったような表情を浮かべた。


「あ、あの、わたくしは……はい」


別に圧なんてかけてないよ。大切な妹だもん。私はただ笑顔で見つめただけだもん。

隣でクリスが「やっぱり兄妹だね」とポツリと呟いたのは無視した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。

たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。 しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。 そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。 ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。 というか、甘やかされてません? これって、どういうことでしょう? ※後日談は激甘です。  激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。 ※小説家になろう様にも公開させて頂いております。  ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。  タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~

前世の記憶を取り戻した元クズ令嬢は毎日が楽しくてたまりません

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のソフィーナは、非常に我が儘で傲慢で、どしうようもないクズ令嬢だった。そんなソフィーナだったが、事故の影響で前世の記憶をとり戻す。 前世では体が弱く、やりたい事も何もできずに短い生涯を終えた彼女は、過去の自分の行いを恥、真面目に生きるとともに前世でできなかったと事を目いっぱい楽しもうと、新たな人生を歩み始めた。 外を出て美味しい空気を吸う、綺麗な花々を見る、些細な事でも幸せを感じるソフィーナは、険悪だった兄との関係もあっという間に改善させた。 もちろん、本人にはそんな自覚はない。ただ、今までの行いを詫びただけだ。そう、なぜか彼女には、人を魅了させる力を持っていたのだ。 そんな中、この国の王太子でもあるファラオ殿下の15歳のお誕生日パーティに参加する事になったソフィーナは… どうしようもないクズだった令嬢が、前世の記憶を取り戻し、次々と周りを虜にしながら本当の幸せを掴むまでのお話しです。 カクヨムでも同時連載してます。 よろしくお願いします。

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

【完結】ヒロインに転生しましたが、モブのイケオジが好きなので、悪役令嬢の婚約破棄を回避させたつもりが、やっぱり婚約破棄されている。

樹結理(きゆり)
恋愛
「アイリーン、貴女との婚約は破棄させてもらう」 大勢が集まるパーティの場で、この国の第一王子セルディ殿下がそう宣言した。 はぁぁあ!? なんでどうしてそうなった!! 私の必死の努力を返してー!! 乙女ゲーム『ラベルシアの乙女』の世界に転生してしまった日本人のアラサー女子。 気付けば物語が始まる学園への入学式の日。 私ってヒロインなの!?攻略対象のイケメンたちに囲まれる日々。でも!私が好きなのは攻略対象たちじゃないのよー!! 私が好きなのは攻略対象でもなんでもない、物語にたった二回しか出てこないイケオジ! 所謂モブと言っても過言ではないほど、関わることが少ないイケオジ。 でもでも!せっかくこの世界に転生出来たのなら何度も見たイケメンたちよりも、レアなイケオジを!! 攻略対象たちや悪役令嬢と友好的な関係を築きつつ、悪役令嬢の婚約破棄を回避しつつ、イケオジを狙う十六歳、侯爵令嬢! 必死に悪役令嬢の婚約破棄イベントを回避してきたつもりが、なんでどうしてそうなった!! やっぱり婚約破棄されてるじゃないのー!! 必死に努力したのは無駄足だったのか!?ヒロインは一体誰と結ばれるのか……。 ※この物語は作者の世界観から成り立っております。正式な貴族社会をお望みの方はご遠慮ください。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムで完結済み。

婚約破棄されたので、前世の知識で無双しますね?

ほーみ
恋愛
「……よって、君との婚約は破棄させてもらう!」  華やかな舞踏会の最中、婚約者である王太子アルベルト様が高らかに宣言した。  目の前には、涙ぐみながら私を見つめる金髪碧眼の美しい令嬢。確か侯爵家の三女、リリア・フォン・クラウゼルだったかしら。  ──あら、デジャヴ? 「……なるほど」

【完結】転生したら悪役継母でした

入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆
恋愛
聖女を優先する夫に避けられていたアルージュ。 その夜、夫が初めて寝室にやってきて命じたのは「聖女の隠し子を匿え」という理不尽なものだった。 しかも隠し子は、夫と同じ髪の色。 絶望するアルージュはよろめいて鏡にぶつかり、前世に読んだウェブ小説の悪妻に転生していることを思い出す。 記憶を取り戻すと、七年間も苦しんだ夫への愛は綺麗さっぱり消えた。 夫に奪われていたもの、不正の事実を着々と精算していく。 ◆愛されない悪妻が前世を思い出して転身したら、可愛い継子や最強の旦那様ができて、転生前の知識でスイーツやグルメ、家電を再現していく、異世界転生ファンタジー!◆ *旧題:転生したら悪妻でした

処理中です...