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アリアの過去
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『私は元々子爵家の出なのですが……半ば追い出されるように家を抜けたのです』
『家を抜けたって、つまり家と縁を切って身分を捨てたってこと?』
『はい。学校卒業と同時に……』
『それって本人の意思は関係ないの?』
『いいえ、もちろん本人が自分の意志でサインをしなければなりません。あんな家にいるなら、出てしまった方がマシだと思ったのです。後悔はしておりません。ですが、やはり身分のない貴族など生きていくことすら困難なのです』
学校へと戻る馬車の中で昨日のアリアとの会話を思い出す。まさかこんなに身近に家を抜けた貴族がいたとは思わなかった。
『私には魔力が全くないのです。魔法薬を飲み、魔法石に触れましたが石は何の反応も示しませんでした。生きていることすら辛い日々で、偶然ヘンドリック様に会ったのです』
魔法薬を飲んでも魔力を生成することのできない体質。魔法薬を飲まなくても魔法を使うことのできた私がいるのだ。そんな人だっていてもおかしくはないだろう。しかし、それは異質だった。
アリアの両親はアリアを疎み、アリアの妹に当たる、もう一人の娘を可愛がった。そしてその子が婿を取って家を継ぐために、アリアが邪魔だったのだと。魔法を使えない、魔力すらない娘がいることを嫌悪した。
アリアはその扱いに耐え兼ね、両親に言われるままに家名を捨てたらしい。
貴族の社交の場でも相手にされず、仕事も見つからない。お金がないと住む家も食べるものも、着替えもない。誰も助けてくれない。途方に暮れるしかない。
そんな状況で手を差し伸べたのがヘンドリックお兄様。お兄様はアリアを自分の使用人として雇うようお父様に頼んだらしい。
……あのお兄様が人を助けるなんて信じられない。が、本当なんだろう。その時たまたま機嫌が良かったのかもしれない。
まさかアリアにそんな過去があったなんて思ってもいなかった。私はアリアのことを何も知らなかった。自分のことばかりで全くアリアのことを気にしていなかったのだ。反省。
しかしお兄様の気まぐれだろうが何だろうが、アリアに手を差し伸べてくれてよかった。アリア以上に優秀な人なんていないもんね。
私的には結果オーライ。しかしアリアが今まで辛い思いをしてきたというなら、少しでも幸せになって欲しい。……できるだけ迷惑はかけないように気を付けよう。私にできることはそれくらいだ。
「お姉さま? 考え事ですか?」
名前を呼ばれてハッとする。そういえばカミラが一緒にいたのだ。すっかり自分の世界に入り込んでいた。
「え、ええ、ごめんなさい、何かしら?」
「……わたくしはマクシミリアン様にご迷惑をおかけしたのでしょうか?」
しょんぼりと俯くカミラ。しかしそれを言うならマクシミリアンに迷惑をかけたのは私だ。カミラを誘い、マクシミリアンに声をかけたのは私なのだから。
そう言ってもカミラは納得しないだろうけど。
「大丈夫よ。マクシミリアン様は優しい方ではあるけれど聖人君子ではないもの。無理なら無理だと言ってくださるわ。二つ返事で引き受けてくださったということはそうご迷惑なことでもなかったのかもしれないわ」
もちろん、反省はしている。しかしあのマクシミリアンのことだ。私の話を聞いて、考えたうえでいいと言ってくれたの違いない。まさかそれにカミラのドレスのことまで含まれているとは思わなかったけど。
「連れて行って下さるのも、ドレスを用意してくださるのもマクシミリアン様のご厚意よ。カミラは楽しめばいいの」
せっかく連れて行ってくれるというのに申し訳なさそうに俯かれていても、マクシミリアンも困るだろう。そう言うとカミラは「そうですね」と微笑んだ。
やはりカミラには笑顔が似合う。この子を隣に置いていたらマクシミリアンも誇らしいのでは? なんて思う。が、それを口に出すのはとても図々しい気がするので言わない。
私の心の中だけにとどめておこう。
少しカミラに笑顔が戻り、そして馬車は学校へと着いた。
寮でカミラと別れ、部屋に戻ると、クリスがとてもどんよりとした表情をしていた。私の知っている限り、昨日は凹むようなことはなかったはずだ。つまり、私たちが家に帰った後に何かあったのだろう。
「今帰ったけれど……どうしたの? らしくない表情じゃない」
「……うん」
あらら。これは重症かもしれない。いつものクリスだったら「そうなんだよ! 聞いてー!」と飛びついて来るのに。
「何があったの?」
「……卒業パーティーに来られるんだって」
パーティーに来る? 誰の話だ? 首を傾げると、クリスはがばっと顔を上げた。
「ヘンドリック様がパーティーに来られるんだって!」
「……まあ」
ヘンドリックお兄様が卒業パーティーに……。数年前のお兄様の卒業パーティーを思い出す。隣に立っているだけで好奇だったり恨みだったりがこもった視線を浴び、何かしようものならお兄様から冷たい視線が飛び、しまいには嫌味を言われる。
……まじか。
「昨日あれから魔法で、当日迎えに行ってやるから待っていろって連絡が来たんだよ。もう絶対来られないと思っていたのに……私の平和はどこに行ったの」
行ってやるって偉そう。……でもお兄様なら言いかねない。
ヘンドリックお兄様を狙っている女子達は多い。何度も言うが、性格は悪いけど顔も身分も申し分ないのだ。しかしヘンドリックお兄様とクリスが婚約をしているという事実はあまり出回っていない。
本人たちや両家が特に吹聴して回っていないこと。ヘンドリックお兄様が誰かと婚約することが考えられないこと。ヘンドリックお兄様とクリスがそういう雰囲気を全く出していないこと。
その辺りが要因だろう。つまり、クリスはこの卒業パーティーでそれが明らかになり、女の子達から睨まれるのが怖いのだ。
そうは言ってももう学校も卒業し、今後結婚するのなら隠しておくのも時間の問題だと思うのだけど。
「……それは大変ね。頑張ってちょうだい」
諦めるしかないだろう。まさか来ないでくれだなんて言えない。しかし最初から来ると分かっていたらクリスのショックも少しは少なかっただろうに。来ないと喜んでいたのに、こんな直前になって来ると言われたクリスの気持ちも分からないことはない。
「うー……」
私の言葉にクリスは泣きそうなうめき声を出しただけだった。
『家を抜けたって、つまり家と縁を切って身分を捨てたってこと?』
『はい。学校卒業と同時に……』
『それって本人の意思は関係ないの?』
『いいえ、もちろん本人が自分の意志でサインをしなければなりません。あんな家にいるなら、出てしまった方がマシだと思ったのです。後悔はしておりません。ですが、やはり身分のない貴族など生きていくことすら困難なのです』
学校へと戻る馬車の中で昨日のアリアとの会話を思い出す。まさかこんなに身近に家を抜けた貴族がいたとは思わなかった。
『私には魔力が全くないのです。魔法薬を飲み、魔法石に触れましたが石は何の反応も示しませんでした。生きていることすら辛い日々で、偶然ヘンドリック様に会ったのです』
魔法薬を飲んでも魔力を生成することのできない体質。魔法薬を飲まなくても魔法を使うことのできた私がいるのだ。そんな人だっていてもおかしくはないだろう。しかし、それは異質だった。
アリアの両親はアリアを疎み、アリアの妹に当たる、もう一人の娘を可愛がった。そしてその子が婿を取って家を継ぐために、アリアが邪魔だったのだと。魔法を使えない、魔力すらない娘がいることを嫌悪した。
アリアはその扱いに耐え兼ね、両親に言われるままに家名を捨てたらしい。
貴族の社交の場でも相手にされず、仕事も見つからない。お金がないと住む家も食べるものも、着替えもない。誰も助けてくれない。途方に暮れるしかない。
そんな状況で手を差し伸べたのがヘンドリックお兄様。お兄様はアリアを自分の使用人として雇うようお父様に頼んだらしい。
……あのお兄様が人を助けるなんて信じられない。が、本当なんだろう。その時たまたま機嫌が良かったのかもしれない。
まさかアリアにそんな過去があったなんて思ってもいなかった。私はアリアのことを何も知らなかった。自分のことばかりで全くアリアのことを気にしていなかったのだ。反省。
しかしお兄様の気まぐれだろうが何だろうが、アリアに手を差し伸べてくれてよかった。アリア以上に優秀な人なんていないもんね。
私的には結果オーライ。しかしアリアが今まで辛い思いをしてきたというなら、少しでも幸せになって欲しい。……できるだけ迷惑はかけないように気を付けよう。私にできることはそれくらいだ。
「お姉さま? 考え事ですか?」
名前を呼ばれてハッとする。そういえばカミラが一緒にいたのだ。すっかり自分の世界に入り込んでいた。
「え、ええ、ごめんなさい、何かしら?」
「……わたくしはマクシミリアン様にご迷惑をおかけしたのでしょうか?」
しょんぼりと俯くカミラ。しかしそれを言うならマクシミリアンに迷惑をかけたのは私だ。カミラを誘い、マクシミリアンに声をかけたのは私なのだから。
そう言ってもカミラは納得しないだろうけど。
「大丈夫よ。マクシミリアン様は優しい方ではあるけれど聖人君子ではないもの。無理なら無理だと言ってくださるわ。二つ返事で引き受けてくださったということはそうご迷惑なことでもなかったのかもしれないわ」
もちろん、反省はしている。しかしあのマクシミリアンのことだ。私の話を聞いて、考えたうえでいいと言ってくれたの違いない。まさかそれにカミラのドレスのことまで含まれているとは思わなかったけど。
「連れて行って下さるのも、ドレスを用意してくださるのもマクシミリアン様のご厚意よ。カミラは楽しめばいいの」
せっかく連れて行ってくれるというのに申し訳なさそうに俯かれていても、マクシミリアンも困るだろう。そう言うとカミラは「そうですね」と微笑んだ。
やはりカミラには笑顔が似合う。この子を隣に置いていたらマクシミリアンも誇らしいのでは? なんて思う。が、それを口に出すのはとても図々しい気がするので言わない。
私の心の中だけにとどめておこう。
少しカミラに笑顔が戻り、そして馬車は学校へと着いた。
寮でカミラと別れ、部屋に戻ると、クリスがとてもどんよりとした表情をしていた。私の知っている限り、昨日は凹むようなことはなかったはずだ。つまり、私たちが家に帰った後に何かあったのだろう。
「今帰ったけれど……どうしたの? らしくない表情じゃない」
「……うん」
あらら。これは重症かもしれない。いつものクリスだったら「そうなんだよ! 聞いてー!」と飛びついて来るのに。
「何があったの?」
「……卒業パーティーに来られるんだって」
パーティーに来る? 誰の話だ? 首を傾げると、クリスはがばっと顔を上げた。
「ヘンドリック様がパーティーに来られるんだって!」
「……まあ」
ヘンドリックお兄様が卒業パーティーに……。数年前のお兄様の卒業パーティーを思い出す。隣に立っているだけで好奇だったり恨みだったりがこもった視線を浴び、何かしようものならお兄様から冷たい視線が飛び、しまいには嫌味を言われる。
……まじか。
「昨日あれから魔法で、当日迎えに行ってやるから待っていろって連絡が来たんだよ。もう絶対来られないと思っていたのに……私の平和はどこに行ったの」
行ってやるって偉そう。……でもお兄様なら言いかねない。
ヘンドリックお兄様を狙っている女子達は多い。何度も言うが、性格は悪いけど顔も身分も申し分ないのだ。しかしヘンドリックお兄様とクリスが婚約をしているという事実はあまり出回っていない。
本人たちや両家が特に吹聴して回っていないこと。ヘンドリックお兄様が誰かと婚約することが考えられないこと。ヘンドリックお兄様とクリスがそういう雰囲気を全く出していないこと。
その辺りが要因だろう。つまり、クリスはこの卒業パーティーでそれが明らかになり、女の子達から睨まれるのが怖いのだ。
そうは言ってももう学校も卒業し、今後結婚するのなら隠しておくのも時間の問題だと思うのだけど。
「……それは大変ね。頑張ってちょうだい」
諦めるしかないだろう。まさか来ないでくれだなんて言えない。しかし最初から来ると分かっていたらクリスのショックも少しは少なかっただろうに。来ないと喜んでいたのに、こんな直前になって来ると言われたクリスの気持ちも分からないことはない。
「うー……」
私の言葉にクリスは泣きそうなうめき声を出しただけだった。
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