池に落ちて乙女ゲームの世界に!?ヒロイン?悪役令嬢?いいえ、ただのモブでした。

紅蘭

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ドレスアップ

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アリアの手を借りて馬車を降りると、そこには女の子が一人立っていた。

お、超かわいい子。こんなかわいい子がなんで一人なんだろう。

不思議に思いながらも、失礼にならないよう、あまり見ないようにしていると、その子は私の方へと近付いて来た。

ん? 何? 何か用か?

にっこりと微笑んで首を傾げる。しかしその子は私の前に来ると何も言わずにニコニコと微笑むばかり。


「ごきげんよう。何か御用でしょうか?」


何を考えているかよく分からない目の前の子の女の子。クラスの子ではないと思う。ということは誰かの婚約者なんだろうけど……。一人でいるあたりがよく分からない。

何も言わずただ笑みを浮かべているその子をじっと見る。

……なんか、見覚えがあるような気がする……?

あまりジロジロ見るのも失礼だけど、向こうもたいがい失礼なのでこの際構わないだろう。


「見つめ合って何をしているんだ」


後ろから呆れたような声が聞こえた。振り返るとそこにはヘンドリックお兄様の姿。クリスを迎えに行ったはずのお兄様が一人で立っていた。


「待っていろと言っただろう」


何を言っているんだ、と首を傾げる。応えたのは女の子だった。


「待っておりましたわ。しかしいつまで経ってもお迎えの馬車が見えなかったもので、お先に来てしまいましたわ」


ちょっと待って。この声、しかもこの会話。


「……クリス?」


そう言われるとそんな風に見えなくもない。私の問いかけに女の子の表情が変わる。先ほどまで表向きだった笑顔がいつもの笑顔になった。


「やっと分かったの?」

「……そうやって笑ったら確かにクリスね。意地悪しないで頂戴。どこのご令嬢かと思ったわ」


薄い黄色のドレスに身を包んだクリス。私も人のことは言えないけど、着飾ったら別人だ。しかもクリスが一人でここにいるわけがないと思っていたので、なおさら分からなかった。

クリスがいたずらっぽい笑みを浮かべた。


「自分でもびっくりするくらい変わったから、つい出来心で。ごめんね」


しかし友達の顔も分からない自分にショックを受ける。いくらメイクをしていていつもと違うからって、それはないでしょ。この世界のメイドさんたちのメイク技術高すぎ。


「本当に、よく化けたものだ。綺麗じゃないか」


揶揄うような声色でヘンドリックお兄様が言う。それにクリスがなぜか頬を膨らませた。


「ありがとうございます!」


五年前にも同じようなやり取りをしていたような気がする。この二人はやはりお似合いなのかもしれない。令嬢らしくないクリスと、お坊ちゃまらしくないお兄様。

少なくとも二人とも窮屈そうな感じがしないのでやはりぴったりだ。

良い婚約相手がいたものだ。条件も性格も合う相手なんてちょっとうらやましい。


「それよりも早く行こ!」


なぜかクリスが私に手を差し出してくる。いつもだったらその手を取るところだけど、今日に限ってはそうではないだろう。

戸惑い、アリアに視線を向ける。アリアは「いってらっしゃいませ」と頭を下げるだけ。

次にヘンドリックお兄様を見る。お兄様はため息を吐いて顎で前方を指し示した。そして一人で歩き出してしまう。そのまま行けと言うことだろうか。

……まあいいか。

私がクリスの手を取り、きゅっと握ると、クリスはルンルンとした足取りで歩き出した。高いヒールでそんな風に歩けるなんてすごい。と思って足元を見るとそこまで高いヒールではなかった。

そっか、クリスは元々身長が高めだもんね。あまり高いヒールを履いたらすごく大きくなっちゃうよね。

しかし私は履きなれない高いヒールだ。いつものペースで歩いたらこける自信がある。そこは流石クリス。よく気がつく。私のことを考えていつもよりゆっくり目に歩いてくれている。


「とうとう卒業だね。明日から何しようかな。家にいてもすることなくて暇になりそうじゃない?」

「あら、うちにお茶を飲みに来たらいいわ。お昼にはお弁当を作って外で食べましょう」


就職するわけでもなく、すぐに結婚するわけでもない私たちは明日からすることがなくなる。お義母様のお手伝いはしようとは思っているけど。

だけど五年間ずっと一緒にいたクリスがいなくなると言うのは少し寂しい。数日おきには会いたいところだ。

私の言葉にクリスは「そうだね」と頷いた。嬉しそうなその顔を見て私も嬉しくなった。


「それにしても、卒業パーティーってこんな雰囲気だったかしら?」


周りを見ると、いつもの学校の風景だけど、点々と騎士団の人が立っている。華やかだけど、どこか緊張感がただよっているのは気のせいだろうか。

五年前もこんなんだったっけ?


「今年は殿下がいるからな」


ヘンドリックお兄様が横から教えてくれる。なるほど。納得。とはならない。


「以前だって陛下がご出席されておられたではありませんか。殿下がいらっしゃるから、だけではございませんよね?」


カイの為に騎士を置くと言うのなら、陛下の為にも騎士を置くべきだろう。

ヘンドリックお兄様は少し驚いたような表情で私を見た。そして言う。


「少しは賢くなったんだな」


失礼だな!


「だがまだ馬鹿だ」

「失礼ですね!」


今度は口に出てしまった。お兄様が可笑しそうに笑った。うわ、超貴重。


「殿下は殿下でもそちらではない」

「ああ、ユリウス殿下ですか? 何かあったのです?」


あのヴェルナー様と話をした時以来、全く話題にも上らなかったし何もなかった。少なくとも私の知っている範囲では。


「まだ何もない。だが、殿下が何かするなら今日だろうと陛下がおっしゃったのだ」


親である陛下の言うことだ。魔法によりその存在を忘れかけていたとはいえ、信用できるかもしれない。


「だからヘンドリック様が急に来ることになったのか」


とても小さかった。だけど私の耳に届いたのは、少し恨みのこもったクリスの声だった。
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