池に落ちて乙女ゲームの世界に!?ヒロイン?悪役令嬢?いいえ、ただのモブでした。

紅蘭

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パーティーの始まりと終わり

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いつものメンバーでわいわいと話をしていると、段々と人の量が増え、会場はすぐに人で埋め尽くされた。

もうそろそろ始まるかな。そう思った時、扉の方から大きな声が聞こえた。


「皇帝陛下、並びに殿下のご入場でございます!」


お、来た来た。辺りが急に静かになる。一応そちらを見てみたが、目の前の人の壁によって陛下の姿もカイの姿も全く見えない。なんとなく厳かな雰囲気を感じるだけ。

前回のパーティーを思い出す。これから陛下の挨拶があるはずだ。

あの退屈な時間がまた来ることが辛い。何年経っても偉い人の話を聞くのは苦手だ。

陛下の後に続いてカイとリリーが壇上に上がったのが見えた。にっこりと笑顔を浮かべて前を見ているリリーはとても堂々としている。

うん、やっぱりリリーはヒロインだ。

陛下の話が始まる。右から左へと聞き流していると、カイとリリーの婚約についても話が触れた。私も詳しいことは何も知らないけど、どうやら二人の婚約はまだされてはいないけど、ほぼ決定状態にあるそうだ。

順調なようでなにより。

その後、退屈な話が少しあり、ボーっとしている間にパーティーは始まった。

あー、お腹空いたな。なんて思いながらクラスの子達と喋る。前はお兄様の同級生ばかりでとても退屈だったけど、今回は同じクラス子の達なのでもちろん皆知っているし、まあまあ仲の良い子達もいる。

しかしこういうパーティーの場では身分の低い人から話しかけるのはマナー違反だ。面倒くさい。こちらから話しかけたり、話しかけられたり。

仲の良い子達とは大体話をしたかな、と思っていたその時だった。


「エレナ・フィオーレ」


とても聞き覚えのある、冷たい声が聞こえた。同じ冷たい声でもヘンドリックお兄様の方がはるかにマシだ。こいつに名前を呼ばれるだけでも鳥肌が立つ。

顔を上げるとそこには案の定、ラルフが仁王立ちしていた。偉そうなその態度に思わず舌打ちをしたくなる。お前が偉いんじゃなくて家がすごいんだっつの。


「なんでしょう?」


にっこりと微笑んで見せると、ラルフは私にさげすむような視線を向け、そして言った。


「お前との婚約はなかったことにする」


はい、来た! とうとうこの日が来た!

本来ならラルフ側のカミラがこちらにいるのだ。無事にイベントが発生するかちょっと不安だったけどこれで安心だ。

内心喜びでいっぱい。しかし頭の片隅でこんなおめでたい場で、しかも色々な人がいる前でこんな話をするなんて、と呆れる。自分から恥をさらすなんてやはりラルフは馬鹿だ。

……まあいっかぁ! これで婚約が解消されるのなら私に悪いことは何もない。別に婚約破棄されたからって恥ずかしくもなんともないし。まあご飯を食べた後にしてくれたらもっとよかったけど。

辺りが静まり返り、すぐにまたざわざわとする。聞こえてくるのは驚きの声、やはり、といった声、様々だ。

少なくとも私達二人の関係を知っているクラスの子達は全く驚いていない。どころか婚約破棄を聞いて安堵している子までもいる。そういう子は皆私のことを心配してくれていた子達だ。

隣に立つクリスは驚いた表情を浮かべている。しかし、それは婚約破棄を驚いているというよりも、「今言うの!?」と言いたそうだ。


「何か言ったらどうだ?」


冷静に周りの様子を見ていると、ラルフがとても不機嫌そうに言った。何か言うも何も、別に私が言うことは何もない。嫌だと言ったところで、侯爵家がそう言うなら仕方がないし、正直に嬉しい、なんて言えるはずがない。

私は令嬢モードの笑みを浮かべる。


「分かりました。ラルフ様がそうおっしゃるのでしたら、わたくしは大人しく身を引きましょう」


今後関わりがなくなると思えばせいせいするわ! 大体婚約を望んだ私の本当のお母様はもういないんだし。うちとしては別にそこまで婚約を望む理由はない。


「どうかラルフ様にこの先、たくさんの幸福が訪れますよう、お祈りすることはお許しくださいませ」


優雅に礼をして踵を返す。周りの雰囲気があまり良くない。このままここにいるのもちょっとよろしくないだろう。

こんなおめでたい場なのだ。婚約破棄された女がいるなんて周りは気を遣うだろうし。別に今じゃなくても皆に会おうと思えば会うことはできる。

今日はこの辺で退場しよう。そう思って歩き出すと、後ろから私を呼ぶ鋭い声が聞こえた。

こっそりとため息を吐いて振り返る。


「何でしょう、ラルフ様。お話は終わったのでは?」


私が泣いて縋るとでも思っていたのだろうか。そうなって欲しかったのだろうか。

ラルフがとても屈辱そうな表情で私を睨みつける。だからって別になんとも思わないけど。


「お前の代わりに、妹のカミラ・フィオーレを私の婚約者とする」

「はい?」


思わず出てしまったのはとても気の抜けた声だった。

もしかしてこいつはカミラに避けられていることを知らないのだろうか。普通に考えれば、婚約者の姉妹につきまとうような男は誰だってごめんだろう。

カミラが戸惑った表情で私を見ている。巻き込まれた一番の被害者はカミラだろう。可哀そうに。


「そういうことはまた後日、お父様を通してお話くださいませ」


私との婚約破棄も、カミラとの婚約もラルフに決定権があるわけではない。どちらにしろ親同士で話してもらうしかない。まあ私との婚約は破棄して、カミラとは婚約しない方向に持って行くつもりだけど。

出口の方へと向かって歩く。その途中カミラの腕を引いて一緒に会場を出た。カミラにはぜひともパーティーを楽しんでもらいたかった。だけどあそこに置いておくわけにはいかない。きっと周りから色々と聞かれるだろうし、言われるだろうから。

ああ、望んでいた展開だけど、なんかすごい疲れた。


「あの、お姉さま……」


カミラが心配そうに私を見上げてくる。カミラが巻き込まれたのは予想外だけど、それ以外は文句なしだ。


「大丈夫よ、心配しないで頂戴」


そう言って笑うとカミラの表情が少しほぐれた。そして控えめな笑顔が浮かぶ。

こんな可愛いカミラをラルフの婚約者に、なんて冗談じゃない。絶対に阻止してやる!
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