263 / 300
二者択一――クリス
しおりを挟む
「えっと……もう一回言ってもらってもいいですか?」
陛下の執務室に集められたのはいつものメンバー。陛下の言ったことがよく理解できなくて、聞き返すと、困ったような笑顔を浮かべた兄様がこちらを見た。
いや、ちゃんと聞こえたよ? 聞こえたけど、でもそんなこと信じられないし……。
「エレナを救うか、国を救うか、どちらかだそうだ」
「いやいやいや、それは聞こえていますよ!? つまりどういうことなんです!?」
「どういうことも何もそういうことだろ」
一人テンパっている私にそう冷たく返したのはヘンドリック様だ。馬鹿だろ、とでも言いたげなその目がとてもムカつく。
キッと睨むが、ヘンドリック様はもう既に私の方を見てすらいなかった。さらにムカつく。そんな私を見て皆が苦笑している。
「殿下が陛下の前に現れたのはつい先ほどで間違いありませんね?」
「ああ。突然現れて、そう言うとすぐに消えた。兵を呼んだとしても無駄なことは分かっているから、そなたたちをすぐに集めたのだ」
兄様の言葉に陛下が頷いた。確かにあの殿下相手に兵は通用しないだろう。というか誰も敵わないのは身をもって知っている。唯一可能性があるとすればエレナくらいだろうけど、そのエレナも捕らわれているし。
「殿下がおっしゃったのはそれだけでしょうか?」
今度はヘンドリック様だった。やはり兄様ズはこういう時に頼りになる。私達だけだったら驚いて、騒いで、ようやく状況確認に入るだろう。実際、私はその道筋をたどったわけだし。まあカイ達はヘンドリック様の手前、変な緊張感があるので、誰も騒がなかったけど。
陛下と対面する緊張<ヘンドリック様への恐怖。おかしな話だ。
陛下は「うむ……」と俯き、何かを考える素振りを見せた。
なんだろ。言いにくいことなのかな? それとも言いたくないこと?
少しして顔を上げた陛下は口を開いた。
「決めるのはカイだと。私含め他の誰が決めてもいけない。嘘を吐けば分かる、と。期限は今日の昼まで」
「カイ様が……?」
リリーの驚いた声とともに皆の視線がカイへと向く。いや、皆ではなかった。兄様ズは平然とした顔をしている。また何か二人だけで話していて、その言葉は予想通りだったんだろう。
そういう話を私にもして欲しいんだって! だから魔法省にいたのに!!
「どうして私なのでしょう? 兄上は何をお考えに?」
「そんなことは今はどうでもいい。殿下はどちらを選ばれるのです?」
ヘンドリック様が早速カイへと返答を迫る。この人のこういうところが本当に冷酷だ。
「ちょっと待ってください。それって、エレナ様を選べが国に何かが起こり、国を選べばエレナ様は……」
実際両方とも可能だ。国を滅ぼすだけの力量はあるだろうし、エレナだって今は殿下の手の内。今までのエレナへの執着を見れば殺されることはないかもしれないけど、それも『かもしれない』レベルだ。大体殺されなくてもどんな目に遭うかは分からない。少なくとも何事もなく帰してくれることはないだろう。
私はエレナと会えなくなるなんて嫌だよ!
「でもさ、両方とも質に取られている以上僕達にはどうしようもないよね」
マクシミリアンが冷静にそう言うのに、少しだけ腹が立った。確かにそれはそうだけど!
皆の視線が再びカイへと集まる。相手は殿下。ズルはできない。どちらを選んだって失うものがあるのだ。
……なんかそれってズルくない? だってこっちは何も得しないじゃん。一方的に人質取って選ばせるって殿下はどっちにしろ失うものないじゃん。
次に会ったら一言文句を言わせてもらおう。
「それで、カイはどうするの?」
私の言葉にカイは小さく頷いた。
「もちろん、両方とも選ぶことが最善だ。だけど兄上相手にそんなことはできない」
うん、知ってる。だから向こうもこの条件を出してきたんだろうし。
「エレナは助けない」
カイははっきりとそう言った。
……意外となんとも思わないな。そりゃそうでしょって感じ。
国と友達を天秤にかけたって結果は分かり切っている。私の足は考えるよりも先に動いた。
「おい、クリス」
「別にいいよ。カイはそう言うしかないもん。エレナは私が助けるから。私が勝手にしたことだったら関係ないもんね」
レオンの呼びかけに答えて振り向いてそう言うと、即座に私の横を誰かが通り抜けた。そして私よりも先に部屋を出て行く背中が見える。
自然と笑みが浮かんだ。どうしようもなく嬉しかった。その背中を小走りで追いかけると、ヘンドリック様は私の方を見もせずに言った。
「殿下のいそうな場所は何か所かに絞って探している。それでも見つからないと言うことは異空間にいるとしか思えない。念のためお前はあの娘を連れて来い」
あの娘……?
少し考え、そして閃いた。異空間を探すには必須な人物。
「はい! すぐに連れてきます。城門に集合ですよ!」
そう言って返事も聞かずに走り出す。エレナは私が助ける!!
陛下の執務室に集められたのはいつものメンバー。陛下の言ったことがよく理解できなくて、聞き返すと、困ったような笑顔を浮かべた兄様がこちらを見た。
いや、ちゃんと聞こえたよ? 聞こえたけど、でもそんなこと信じられないし……。
「エレナを救うか、国を救うか、どちらかだそうだ」
「いやいやいや、それは聞こえていますよ!? つまりどういうことなんです!?」
「どういうことも何もそういうことだろ」
一人テンパっている私にそう冷たく返したのはヘンドリック様だ。馬鹿だろ、とでも言いたげなその目がとてもムカつく。
キッと睨むが、ヘンドリック様はもう既に私の方を見てすらいなかった。さらにムカつく。そんな私を見て皆が苦笑している。
「殿下が陛下の前に現れたのはつい先ほどで間違いありませんね?」
「ああ。突然現れて、そう言うとすぐに消えた。兵を呼んだとしても無駄なことは分かっているから、そなたたちをすぐに集めたのだ」
兄様の言葉に陛下が頷いた。確かにあの殿下相手に兵は通用しないだろう。というか誰も敵わないのは身をもって知っている。唯一可能性があるとすればエレナくらいだろうけど、そのエレナも捕らわれているし。
「殿下がおっしゃったのはそれだけでしょうか?」
今度はヘンドリック様だった。やはり兄様ズはこういう時に頼りになる。私達だけだったら驚いて、騒いで、ようやく状況確認に入るだろう。実際、私はその道筋をたどったわけだし。まあカイ達はヘンドリック様の手前、変な緊張感があるので、誰も騒がなかったけど。
陛下と対面する緊張<ヘンドリック様への恐怖。おかしな話だ。
陛下は「うむ……」と俯き、何かを考える素振りを見せた。
なんだろ。言いにくいことなのかな? それとも言いたくないこと?
少しして顔を上げた陛下は口を開いた。
「決めるのはカイだと。私含め他の誰が決めてもいけない。嘘を吐けば分かる、と。期限は今日の昼まで」
「カイ様が……?」
リリーの驚いた声とともに皆の視線がカイへと向く。いや、皆ではなかった。兄様ズは平然とした顔をしている。また何か二人だけで話していて、その言葉は予想通りだったんだろう。
そういう話を私にもして欲しいんだって! だから魔法省にいたのに!!
「どうして私なのでしょう? 兄上は何をお考えに?」
「そんなことは今はどうでもいい。殿下はどちらを選ばれるのです?」
ヘンドリック様が早速カイへと返答を迫る。この人のこういうところが本当に冷酷だ。
「ちょっと待ってください。それって、エレナ様を選べが国に何かが起こり、国を選べばエレナ様は……」
実際両方とも可能だ。国を滅ぼすだけの力量はあるだろうし、エレナだって今は殿下の手の内。今までのエレナへの執着を見れば殺されることはないかもしれないけど、それも『かもしれない』レベルだ。大体殺されなくてもどんな目に遭うかは分からない。少なくとも何事もなく帰してくれることはないだろう。
私はエレナと会えなくなるなんて嫌だよ!
「でもさ、両方とも質に取られている以上僕達にはどうしようもないよね」
マクシミリアンが冷静にそう言うのに、少しだけ腹が立った。確かにそれはそうだけど!
皆の視線が再びカイへと集まる。相手は殿下。ズルはできない。どちらを選んだって失うものがあるのだ。
……なんかそれってズルくない? だってこっちは何も得しないじゃん。一方的に人質取って選ばせるって殿下はどっちにしろ失うものないじゃん。
次に会ったら一言文句を言わせてもらおう。
「それで、カイはどうするの?」
私の言葉にカイは小さく頷いた。
「もちろん、両方とも選ぶことが最善だ。だけど兄上相手にそんなことはできない」
うん、知ってる。だから向こうもこの条件を出してきたんだろうし。
「エレナは助けない」
カイははっきりとそう言った。
……意外となんとも思わないな。そりゃそうでしょって感じ。
国と友達を天秤にかけたって結果は分かり切っている。私の足は考えるよりも先に動いた。
「おい、クリス」
「別にいいよ。カイはそう言うしかないもん。エレナは私が助けるから。私が勝手にしたことだったら関係ないもんね」
レオンの呼びかけに答えて振り向いてそう言うと、即座に私の横を誰かが通り抜けた。そして私よりも先に部屋を出て行く背中が見える。
自然と笑みが浮かんだ。どうしようもなく嬉しかった。その背中を小走りで追いかけると、ヘンドリック様は私の方を見もせずに言った。
「殿下のいそうな場所は何か所かに絞って探している。それでも見つからないと言うことは異空間にいるとしか思えない。念のためお前はあの娘を連れて来い」
あの娘……?
少し考え、そして閃いた。異空間を探すには必須な人物。
「はい! すぐに連れてきます。城門に集合ですよ!」
そう言って返事も聞かずに走り出す。エレナは私が助ける!!
11
あなたにおすすめの小説
転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。
琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。
ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!!
スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。
ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!?
氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。
このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。
我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。
たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。
しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。
そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。
ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。
というか、甘やかされてません?
これって、どういうことでしょう?
※後日談は激甘です。
激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。
※小説家になろう様にも公開させて頂いております。
ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。
タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
前世の記憶を取り戻した元クズ令嬢は毎日が楽しくてたまりません
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のソフィーナは、非常に我が儘で傲慢で、どしうようもないクズ令嬢だった。そんなソフィーナだったが、事故の影響で前世の記憶をとり戻す。
前世では体が弱く、やりたい事も何もできずに短い生涯を終えた彼女は、過去の自分の行いを恥、真面目に生きるとともに前世でできなかったと事を目いっぱい楽しもうと、新たな人生を歩み始めた。
外を出て美味しい空気を吸う、綺麗な花々を見る、些細な事でも幸せを感じるソフィーナは、険悪だった兄との関係もあっという間に改善させた。
もちろん、本人にはそんな自覚はない。ただ、今までの行いを詫びただけだ。そう、なぜか彼女には、人を魅了させる力を持っていたのだ。
そんな中、この国の王太子でもあるファラオ殿下の15歳のお誕生日パーティに参加する事になったソフィーナは…
どうしようもないクズだった令嬢が、前世の記憶を取り戻し、次々と周りを虜にしながら本当の幸せを掴むまでのお話しです。
カクヨムでも同時連載してます。
よろしくお願いします。
悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!
たぬきち25番
恋愛
気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡
※マルチエンディングです!!
コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m
2024.11.14アイク(誰?)ルートをスタートいたしました。
楽しんで頂けると幸いです。
※他サイト様にも掲載中です
『二流』と言われて婚約破棄されたので、ざまぁしてやります!
志熊みゅう
恋愛
「どうして君は何をやらせても『二流』なんだ!」
皇太子レイモン殿下に、公衆の面前で婚約破棄された侯爵令嬢ソフィ。皇妃の命で地味な装いに徹し、妃教育にすべてを捧げた五年間は、あっさり否定された。それでも、ソフィはくじけない。婚約破棄をきっかけに、学生生活を楽しむと決めた彼女は、一気にイメチェン、大好きだったヴァイオリンを再開し、成績も急上昇!気づけばファンクラブまでできて、学生たちの注目の的に。
そして、音楽を通して親しくなった隣国の留学生・ジョルジュの正体は、なんと……?
『二流』と蔑まれた令嬢が、“恋”と“努力”で見返す爽快逆転ストーリー!
『異世界転生してカフェを開いたら、庭が王宮より人気になってしまいました』
ヤオサカ
恋愛
申し訳ありません、物語の内容を確認しているため、一部非公開にしています
この物語は完結しました。
前世では小さな庭付きカフェを営んでいた主人公。事故により命を落とし、気がつけば異世界の貧しい村に転生していた。
「何もないなら、自分で作ればいいじゃない」
そう言って始めたのは、イングリッシュガーデン風の庭とカフェづくり。花々に囲まれた癒しの空間は次第に評判を呼び、貴族や騎士まで足を運ぶように。
そんな中、無愛想な青年が何度も訪れるようになり――?
貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ
凜
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます!
貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。
前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる