池に落ちて乙女ゲームの世界に!?ヒロイン?悪役令嬢?いいえ、ただのモブでした。

紅蘭

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二者択一――クリス

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「えっと……もう一回言ってもらってもいいですか?」


陛下の執務室に集められたのはいつものメンバー。陛下の言ったことがよく理解できなくて、聞き返すと、困ったような笑顔を浮かべた兄様がこちらを見た。

いや、ちゃんと聞こえたよ? 聞こえたけど、でもそんなこと信じられないし……。


「エレナを救うか、国を救うか、どちらかだそうだ」

「いやいやいや、それは聞こえていますよ!? つまりどういうことなんです!?」

「どういうことも何もそういうことだろ」


一人テンパっている私にそう冷たく返したのはヘンドリック様だ。馬鹿だろ、とでも言いたげなその目がとてもムカつく。

キッと睨むが、ヘンドリック様はもう既に私の方を見てすらいなかった。さらにムカつく。そんな私を見て皆が苦笑している。


「殿下が陛下の前に現れたのはつい先ほどで間違いありませんね?」

「ああ。突然現れて、そう言うとすぐに消えた。兵を呼んだとしても無駄なことは分かっているから、そなたたちをすぐに集めたのだ」


兄様の言葉に陛下が頷いた。確かにあの殿下相手に兵は通用しないだろう。というか誰も敵わないのは身をもって知っている。唯一可能性があるとすればエレナくらいだろうけど、そのエレナも捕らわれているし。


「殿下がおっしゃったのはそれだけでしょうか?」


今度はヘンドリック様だった。やはり兄様ズはこういう時に頼りになる。私達だけだったら驚いて、騒いで、ようやく状況確認に入るだろう。実際、私はその道筋をたどったわけだし。まあカイ達はヘンドリック様の手前、変な緊張感があるので、誰も騒がなかったけど。

陛下と対面する緊張<ヘンドリック様への恐怖。おかしな話だ。

陛下は「うむ……」と俯き、何かを考える素振りを見せた。

なんだろ。言いにくいことなのかな? それとも言いたくないこと?

少しして顔を上げた陛下は口を開いた。


「決めるのはカイだと。私含め他の誰が決めてもいけない。嘘を吐けば分かる、と。期限は今日の昼まで」

「カイ様が……?」


リリーの驚いた声とともに皆の視線がカイへと向く。いや、皆ではなかった。兄様ズは平然とした顔をしている。また何か二人だけで話していて、その言葉は予想通りだったんだろう。

そういう話を私にもして欲しいんだって! だから魔法省にいたのに!!


「どうして私なのでしょう? 兄上は何をお考えに?」

「そんなことは今はどうでもいい。殿下はどちらを選ばれるのです?」


ヘンドリック様が早速カイへと返答を迫る。この人のこういうところが本当に冷酷だ。


「ちょっと待ってください。それって、エレナ様を選べが国に何かが起こり、国を選べばエレナ様は……」


実際両方とも可能だ。国を滅ぼすだけの力量はあるだろうし、エレナだって今は殿下の手の内。今までのエレナへの執着を見れば殺されることはないかもしれないけど、それも『かもしれない』レベルだ。大体殺されなくてもどんな目に遭うかは分からない。少なくとも何事もなく帰してくれることはないだろう。

私はエレナと会えなくなるなんて嫌だよ!


「でもさ、両方とも質に取られている以上僕達にはどうしようもないよね」


マクシミリアンが冷静にそう言うのに、少しだけ腹が立った。確かにそれはそうだけど!

皆の視線が再びカイへと集まる。相手は殿下。ズルはできない。どちらを選んだって失うものがあるのだ。

……なんかそれってズルくない? だってこっちは何も得しないじゃん。一方的に人質取って選ばせるって殿下はどっちにしろ失うものないじゃん。

次に会ったら一言文句を言わせてもらおう。


「それで、カイはどうするの?」


私の言葉にカイは小さく頷いた。


「もちろん、両方とも選ぶことが最善だ。だけど兄上相手にそんなことはできない」


うん、知ってる。だから向こうもこの条件を出してきたんだろうし。


「エレナは助けない」


カイははっきりとそう言った。

……意外となんとも思わないな。そりゃそうでしょって感じ。

国と友達を天秤にかけたって結果は分かり切っている。私の足は考えるよりも先に動いた。


「おい、クリス」

「別にいいよ。カイはそう言うしかないもん。エレナは私が助けるから。私が勝手にしたことだったら関係ないもんね」


レオンの呼びかけに答えて振り向いてそう言うと、即座に私の横を誰かが通り抜けた。そして私よりも先に部屋を出て行く背中が見える。

自然と笑みが浮かんだ。どうしようもなく嬉しかった。その背中を小走りで追いかけると、ヘンドリック様は私の方を見もせずに言った。


「殿下のいそうな場所は何か所かに絞って探している。それでも見つからないと言うことは異空間にいるとしか思えない。念のためお前はあの娘を連れて来い」


あの娘……?

少し考え、そして閃いた。異空間を探すには必須な人物。


「はい! すぐに連れてきます。城門に集合ですよ!」


そう言って返事も聞かずに走り出す。エレナは私が助ける!!
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