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町中編2

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「お嬢さん一寸良いかな?」

 檜扇を唇に当てて思案している玉兎に男が声を掛けてきた。

「貴様何者じゃ」

「おっと失礼。こういう者です」

 そう言って男は名刺を渡した。

「ファッション雑誌の記者?」

「ええ、町中の子に洋服を着て貰って写真を撮って貰おうという企画なんです。それでお嬢さんにモデルをやって貰いたいのですが。スタイルが良いですし、どんな服も似合いそうですよ。それに報酬ははずみます」

 物腰の柔らかい男だが下心がある事に一刀は気が付いた。
 だが、このような見世物になる事を誇り高い玉兎が受けるとは思えなかった。
 時折衆目を憚らずに一刀に接近することがあるが、それは一刀を籠絡するためであり、一刀を困らせるためでもある。
 誇り高い玉兎は衆目に自らを晒すような安い女ではない。頷かないだろうな、断るときに肘鉄の一つも記者に入れるだろうと一刀は予想した。

「良いぞ」

 だが予想に反して玉兎は承諾した。これに一刀は驚き尋ねる。

「おい、良いのか?」

「戯れじゃ、構わん」

 そう一刀に言って玉兎は男に付いていった。



「じゃあ、これから着てみましょう」

 男は脇にいた女性に命じて服の入った袋を渡しバンの中で玉兎に着替えさせた。

「どうじゃ」

 赤いスニーカーに黒いタイツ、赤黒チェック柄のスカート、黒のシャツに赤いジャケットと緑のリボンが付いた赤いベレー帽。
 赤黒緑だけのカラーだが、シンプルな分より玉兎の魅力を引き出している。

「うん、すごっくいい」

 男はカメラマンに写真を撮るように命じて何枚か撮らせる。

「次行ってみようか」

 次に出てきたのは黒のパンツに縁にフリルの付いた袖なしの白いブラウス。
 こちらもシンプルで、身体のサイズがピッタリなので玉兎の身体のラインをあますことなく表現し素晴らしい肉体を見せつけた。

「うんうん、いいよ。次行ってみよう」

 次は、ホットパンツにチューブトップ、ぶかぶかのパーカー。
 これもすこし不良ぽくて玉兎の妖しい魅力を引き立てていた。

「ドンドン行こう!」

 興が乗ってきたのか、男は次々と着せていく。
 次は白のワンピースと麦わら帽だった。単純明快ながら玉兎の黒髪が良く生える良いチョイスだった。
 こうして、玉兎達は幾つ物写真を撮ることになった。



「ふむ、中々に良いデザインじゃ。誰かのセンスとは大違いじゃの」

 何枚かの撮影を終え休憩に入った玉兎は満足し一刀に聞こえるような声で言う。

「悪かったな。センスが悪くて」

「ならば少し勉強をするのじゃな。おお、そこの女子、確かファッションコーディネーターと言ったかの」

「あ、はい」

 別の車で服を選んでいた女性に玉兎は声を掛ける。

「この服は全てお主が選んでおったの」

「は、はい」

 借りてきた猫のように大人しい女性は小さく頷いた。

「どうやってこの服を選んだのじゃ?」

「できるだけ玉兎さんに合う服を選びました。身体のラインが綺麗なのでそれが出る服をです。特に足がスラリと長いので足のラインが出やすい物を選んでいます。ただ全身のラインが出ると裸に近いので上半身か下半身のラインが表に出ないように選びました。服の色合いは艶やかな黒髪が綺麗なのでそれが生える色を考えてだしています」

「だ、そうじゃ。其方も覚えておけ」

「おうよ」

 一刀は半分だけ聞いていた。

「しかし、良い服じゃな。丁寧な縫製じゃ。そこらの市販品とは違う。お主が作ったのか?」

 玉兎が尋ねると女性はパッと笑顔になった。

「はい、私はそこの洋服店を経営しています。前はファッションの会社に居たんですがオリジナルブランドが作りたくて、独立して開業しました」

「ほほほ、それは良い。さぞかし繁盛しておるのだろうな。このようなセンスの良い服を作るのじゃから」

 玉兎が言うと、女性は顔を曇らせた。

「それは、その、そんなに人が入らなくて。一寸経営が私には難しくて」

 蚊の鳴くような声で悔しそうに女性は言う。

「それじゃあ、再開します!」

 記者を名乗った男が声を掛けた。
 女性のごめんなさいという言葉を掻き消すように。
 再開し出てくる服の様子が違った。
 今度来たのはゴスロリファッション。
 黒地のドレスに白いフリルを過剰なまでに施してある。
 白い肌に黒髪の玉兎と同色という事もあり、中々の一品だ。
 しかし、次に渡されたのは紫のショルダーオフのボディコンにロングファー。
 バブルのお立ち台ギャルを彷彿とさせ凹凸のハッキリした玉兎の身体にマッチしているが、これまでの傾向とは明らかに違う。

「さて、今度は場所を移して行いましょう」

 男に促されて一刀と、玉兎は車に乗って移動する。
 向かった場所は廃屋寸前の倉庫だった。
 中に入ると、一部にシートを敷いて照明に照らされた一画があった。

「今度はここで撮影をさせて貰いまーす」

 記者を名乗った男は声を高くして宣言する。

「それではこちらをどうぞ」

 そう言って渡したのは、紐に三角形の布が付いただけのマイクロビキニだった。

「これは何じゃ、紐と布か?」

 黒の紐と布で表面はエナメル、作りは丁寧で太さも細すぎず、太すぎず、縫い目も丁寧だ。しかし、あまりにも露骨すぎる。

「それをここで着て貰います」

「これはあまり意味が無いと思うぞ。着替えるのはいやじゃ」

「ここで着替えろと言っているんだ」

「どういう意味じゃ?」

「この場でお前がそれに着替えるのを撮影すると言っているんだ」

 先ほどまでの記者の慇懃な口調は無くなり威嚇的な言葉使いに変わった。

「無理矢理やらせるとは物騒じゃのう」

「嫌でもやって貰う。でないとこいつをばらまく」

 記者を名乗った男はスマホを持ち出すと、再生する。そこにはワゴン車内での玉兎の着替え風景が、裸になった状態までが映っていた。

「車内に隠しカメラを仕込んでおいた。これ一枚だけじゃ無いぞ、床にも天井にも側面にも仕掛けてあって、どの方位からも丸見え。これを元に3Dモデルを作って配信出来るくらいに録画してある」

「なるほど、モデルの撮影と言って純粋無垢な女子を騙す。そして車の中での着替えを撮影して脅しの材料に。それを元に脅迫して更に過激な映像を撮るというわけか」

「理解が早くて助かる。サッサと脱ぐんだ。でないと映像をばらまくぞ。お前の彼氏もどうなっても知らないぞ」

 カメラマンを務めていた男が一刀の首筋にナイフを当てていた。ファッションデザイナーの女性はその後ろで顔を背けている。

「そこのファッションデザイナーは仲間ではないのか」

「ああ、仲間さ。店の経営費用の為に俺たちから借金してな。支払えないんで俺たちの仕事に加わって貰っている」

「道理でやけに衣装の質が良いと思った。お主ではこのような衣装、作ることも調達することも出来まい。服を選ぶセンスなど皆無じゃ」

「グダグダ言っていないでサッサと脱げ。彼氏をナイフで皮を剥がして、そいつで服を作ってやろうか」

「一刀よ。何をしておる。さっさと捕まえないか」

「こうなると思ったよ」

「俺の話を聞いているのか」

 男が苛立ってドスの効いた声を上げた時、一刀は突きつけられたナイフを持った手を内側に捻ってはを逸らす。
 さらに腕をねじって関節を極めてカメラマンを装いナイフを突きつけた男を地面にたたき伏せ、こめかみに拳を叩き込んで気絶させた。

「さて、どうする気じゃ」

 玉兎はスマホを持つ男を嘲り笑う。

「お、おい、俺に手を出して見ろ、直ぐにこのデータがネットに流れるぞ」

「ふむ、それならば仕方ないの。一刀、好きにさせて貰うぞ」

「どうぞご自由に」

 仕方ないとばかりに一刀は玉兎に許可を与える。玉兎は精気を集中させると放出させ変身を始める。玉兎の身体は光に包まれ、それまで着ていた衣装は消え去り、光が再び集まっていつもの衣装が形を為す。
 カットの切れ込みのきつく豊満な胸から上がなく谷間が覗く胸元にファーの付いたショルダーオフの黒いハイレグレオタード。
 二の腕まである黒のロンググローブも袖口にファーが付いて、細い腕にアクセントを付けている。
 膝まであるロングブーツで細い足を包み、黒タイツで柔らかい太ももが妖しい黒光りを放つ。
 左右一体の肩当てからは表黒裏赤のマントが垂れ下がり先端に付いたファーが揺れる。
 長い前髪と縛り上げた後ろ髪の分け目からは、白く尖ったウサ耳が天に向かって伸びている。

「すげえ、この衣装も良いな。てかどうやって一瞬で着替えたんだ」

「ほほほ、言ったところで無意味じゃ。お主は記憶を無くすのじゃからな」

 玉兎はそういうと右手に持った檜扇を広げ男に向けると、光弾を生成して放った。
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