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序章 狩人の孫

第29話 弱点と対策

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「た、戦うって……俺達が魔物に挑むのか!?」
「無茶だ!!魔物がどれほど危険な存在なのか君は分かっているのか!?」
「知ってるよ!!俺は何十匹もゴブリンを山で始末してるんだから!!」
「そんなに倒してたのか!?」


兵士は自分達ならともかく、一般人では魔物に敵わないと告げる。だが、レノの目的は武装ゴブリンの全滅ではなく、群れを統率する魔物の討伐だった。


「俺が山で倒してきたゴブリンは必ず群れの中に長がいた」
「長?」
「分かりやすく言えば一番偉い立場の魔物だよ。ゴブリンの群れにも上下関係があって、長の指示を受けてゴブリンは行動してるんだ」
「へえっ、そうなのか……」
「そういえば俺もそんな話を聞いたことがある。ゴブリンが集団で行動している場合、その中に他のゴブリンを指揮する存在がいるとかどうとか……」


何十回と山の中に迷い込んだゴブリンを始末してきたことでレノはゴブリンの習性を見抜き、ゴブリンの群れを発見した場合は必ず「長」となる存在を優先して倒してきた。


「山で遭遇したゴブリン達は長が倒れると混乱して逃げ出すんだ。きっと、今まで指示を受けてずっと生きていたから、長が死ねば自分が何をすればいいのか分からずに混乱して逃げ出すんだと思う」
「そうだ!!確か魔物図鑑にもゴブリンの群れと遭遇する際は統率者を倒せば優位になると書かれていた気がする!!」
「君、よくそんなことを知っていたね……俺達もすっかり忘れてたよ」


イチノの兵士の中には魔物の生態系が記された図鑑を読んだ人間もおり、レノの指摘が正しいことを証明する。


「待てよ、ということはあいつらの長とやらを倒したら……他の奴等に襲われずに済むのか!?」
「それは分からないけど、長を失ったゴブリンは必ずと言っていいほど逃げ出したよ」
「なるほど、確かにその方法なら生き残れるかもしれない……」
「待てよ!!その前に長がどいつなのか突き止めないと話にならないぞ!?」
「そんなの分かり切ってるじゃないですか。あの一番デカくて強そうなのが長に決まってるでしょう?」


レノの言葉に兵士達の脳裏に浮かんだのは「ホブゴブリン」だった。ホブゴブリンは他のゴブリンよりも倍近くの身長と体格を誇り、確かに群れの中では一番目立つ存在だった。

武装ゴブリンの長はホブゴブリンであることは間違いなく、実際にホブゴブリンだけが他のゴブリンと比べて上等な装備を身に着けていた。ホブゴブリンを倒すことができれば群れを統率する存在が居なくなり、混乱を引き起こしたゴブリン達は逃げ帰る可能性が高い。


「あのデカい奴は恐らくはゴブリンの上位種のホブゴブリンだろう。俺も見たのは初めてだが……」
「ホブゴブリン?上位種?」
「魔物の中には環境の変化でより強力な力を持つ存在に進化する種もいる。ゴブリンの場合は進化したらホブゴブリンと呼ばれるんだ」
「悪いが我々はゴブリンは倒したことはあるがホブゴブリンとの戦闘はない。だが、図鑑によればホブゴブリンは並のゴブリンとは比べ物にならない力を持っているらしい……仮にホブゴブリンが一匹だけだったとしても勝ち目があるかどうか」
「ちょ、ちょっと待てよ!!あんたら兵士だろうが!?そんな弱気なことを言うなよ!!」


兵士達もゴブリンとの戦闘経験はあっても上位種のホブゴブリンと対峙するのは初めてらしく、確実に勝てる自信はなかった。だが、全員が生き残るためにはホブゴブリンを倒すしか方法はない。


「あのホブゴブリンを倒しましょう。そうすれば村も襲われないし、今まで通りに生きていけるはず……でも、戦うには皆の力が必要なんだ」
「皆って……まさか俺達も戦えってのか!?」
「怖気づくなよ!!ここは僕達の村なんだぞ!?なら僕達の手で守るんだ!!」
「ゴーマン!?」


レノの提案に真っ先に賛成したのはゴーマンだった。他の村人は魔物と戦うことに躊躇するが、そんな彼等にゴーマンがこれまで魔物のせいで自分達がどれほど苦しめられたのかを語る。


「思い出せよ!!魔物あいつらのせいで僕達がどれだけ苦労させられたと思ってるんだ!?皆で頑張って耕した畑を荒らされたり、折角育てた家畜が食われたり……もう僕はうんざりだ!!魔物がなんだ、ここは僕達の村なんだぞ!!これ以上好き勝手されてたまるか!!」
「……息子の言う通りだ!!こうなったら儂も戦うぞ!!」
「あなた!?」
「そ、村長まで……なら俺も戦うぞ!!」
「お、俺だって!!」
「ちくしょう、やってやらぁっ!!」


ゴーマンを皮切りに村の男達が戦うことを決意する。しかし、兵士達は一般人が魔物と戦うのは危険過ぎるので反対した。


「だ、駄目です!!貴方達は魔物と戦った事もないんでしょう!?」
「相手はただの動物とは違うんです!!下手をしたら殺されて食べられるかもしれないんですよ!?」
「でも、村を取り囲まれている以上は逃げられないでしょう?それなら戦うしかないじゃないですか。それとも兵士の皆さんだけで魔物を相手にできるんですか?」
「うっ……」


レノに指摘された兵士達は黙り込み、彼等だけでは数十匹の武装ゴブリンの相手をできるはずがなかった。村人を戦力に加えることができればわずかだが勝利の可能性が高まる。

但し、戦闘経験のない人間を正面から魔物に戦わせるつもりはなく、レノの目的は村人が邪魔にならないように安全な場所で待機してもらうつもりだった。ホブゴブリンの討伐は自分が行うことを決め、村人達には自身の身を守るように注意する。


「この村で一番大きな建物は村長の屋敷だから、そこに女の人と子供は避難させてください」
「うむ、構わんぞ」
「それと武器に関しては兵士さんの予備の武器とかあったら男の人に渡してください。武器が足りないなら各自家から武器になりそうな物を持ってきてください。俺の家にある狩猟用の道具も貸しますから」
「おおっ!!それは心強いな!!」
「そ、それで僕達はどう戦えばいいんだ?」
「北門の近くにある建物の屋根に移動して上から援護して欲しい。もしもゴブリンが村の中に入り込んだら石でも何でも落として注意を引くだけでいいから」
「我々はどうしたらいいんだ?」
「兵士の皆さんは地上で戦ってください。ゴブリンに対抗できるのは貴方達だけなので……それと、奴等を村に誘い込む前に罠を仕掛けましょう」


何時の間にかレノが中心となって話を勧め、彼の提案で武装ゴブリンを村に招き込んで戦う流れになった。正面から挑んでも無駄に犠牲者を増やすだけであり、作戦を立てて最小限の被害に抑えて勝利を得るのが目的だった――




――夜を迎えるまでの猶予は残り少なく、急いで村の人間は準備を行う。女子供は村長の屋敷に避難させ、村の男達は武器になりそうな物を探す。兵士達は各門の見張りを行い、武装ゴブリンの様子を伺う。そしてレノはゴーマンを連れて久々に家に戻った。


「ゴーマンはこれを使いなよ」
「ボーガン?こんな物まで持ってたのか?」


レノがゴーマンを連れてきたのは祖父が残した武器を貸すためであり、ゴーマンは初めて手にしたボーガンに緊張する。彼は過去に二度も魔物に襲われたせいでトラウマを抱えており、本当ならば怖くて逃げ出したいところだが恐怖を堪えてレノと行動を共にする。

赤毛熊に襲われた後からゴーマンはレノに恩義を感じて横暴な態度を取らなくなった。そんな彼だからこそレノは今までのことを許す代わりに色々と協力してもらう。
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