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序章 狩人の孫

第30話 作戦内容

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「ゴーマンにだけ話すけど……実は俺の爺ちゃん、魔術師だったんだ」
「えっ!?ちょっと待てよ、それ本当の話だったのか!?」
「本当の話……?」


アルが魔術師であることをゴーマンは以前から知っていた様に語り、昔にゴーマンは父親からアルの正体を聞いたことがあるという。


「ずっと前の話だけど、父ちゃんが言ってたんだ。アル爺さんの正体は凄い魔術師だって……確かにお前の祖父さんは年寄りの癖に凄い力を持ってると思ったけど、まさか本当の話だったのか?」
「村長は爺ちゃんが魔術師だって知ってたのか……それもそうか、昔からの付き合いだって言ってたもんね」


村長はアルとは数十年来の付き合いだと語り、アルの正体を知っていてもおかしくはない。尤もゴーマンは本気でアルが魔術師だとは信じていなかったため、レノの話を聞いて動揺した。


「アル爺さんが魔術師だったなんて……もしも爺さんが生きていたらあんな奴等もやっつけてくれたかな?」
「……うん、爺ちゃんなら一人で何とかできたよ」
「す、凄いな!!流石はお前の祖父さんだ!!」


仮にアルが存命ならば魔法の力で武装ゴブリンを蹴散らすこともできるとレノは信じていた。山でアルがゴブリンに追い詰められたのは運が悪かったに過ぎず、狩猟で体力を使い切っていなかったらアルがゴブリン如きに負けるはずがないとレノは信じていた。

しかし、頼りとなるアルがいない以上は自分達の力で何とかしなければならず、武装ゴブリンと戦う前にレノは家の中で役立ちそうな道具を探す。だが、武器になりそうな物はゴーマンに貸したボーガンの他には薪割り用の斧と、他には鎌と鉈ぐらいしかなかった。


(思ってたより役に立ちそうなのが少ないな……それにずっとほったらかしにしてたせいで錆びてる)


長らく家から離れていたせいで刃物の類は錆びており、こんなことならば定期的に家に戻るべきだったと反省する。だが、いくら後悔しても状況は変わらず、魔物との戦闘で役立ちそうな道具を探していると懐かしい物を発見した。


「これは……」
「何だそれ?木の枝……には見えないな」


レノが見つけたのはアルの杖だった。生前の彼が魔法を使う時に使用していたが、戦闘の際中に折れて使い物にならなくなった。もしも杖が無事ならばレノはこれを使って魔法を使えたかもしれないが、現状では何の役にも立たない。


(役には立たないと思うけど……)


折れた杖を見てレノはお守り代わりに持っておくことにした。戦闘で役に立つことはないが、それでもアルの形見なので持っていると彼に見守られているような気がした。

杖の他には水晶の破片も見つけ、こちらは元々はアルの杖に取り付けられていた赤色の水晶玉であり、レノが魔術痕を刻まれた際に水晶玉は色を失って砕け散った。


(これも役に立ちそうにないな……)


水晶は硝子程度の強度しかなく、簡単に砕けてしまう。こんな物を持っていても仕方がないと思ったが、レノはあることを思いつく。


(待てよ、こいつを使えばもしかしたら……)


破片の中から比較的に大きめの物を取り上げ、それも杖と一緒に懐にしまう。役立つかどうかは正直に言って微妙だが、ないよりはマシだと判断してレノは次に薬箱を探す。


「よし、あった」
「な、何だよそれ?」
「薬草の粉末だよ。これを使えば軽い怪我ならすぐに治るよ」


薬箱の中には山で採れる薬草を磨り潰して作り出した粉末薬もあり、これを使えば怪我をしても治療に利用できる。但し、あくまでも回復効果を速めるだけで怪我が瞬時に回復するわけではないので戦闘中では使えない。


「ゴーマン、この薬は村長さんの奥さんに渡しておいて」
「え、母ちゃんに渡すのか?」
「屋敷に避難する人たちは怪我人の治療がすぐにできるように準備をしておいてとも伝えて」
「なるほど……分かった、すぐに持っていく!!」


レノの言葉にゴーマンは納得して薬箱を持って屋敷へと戻る。その間にレノは今度は家の隣にある倉庫へと向かう。倉庫の中には色々な道具がしまわれており、村に罠を仕掛ける際に役立ちそうな物が色々とあった。


(村の中で戦う以上、ゴブリンの奴等が村長の屋敷に近付かせないようにしないと……そうなると、こいつの出番だな)


倉庫の中に保管されていたを取り出し、中身を確認するとレノは怪しい笑みを浮かべる――





――夕方を迎える頃にはレノ達は全ての準備を整えた。女子供は村長の屋敷に避難させ、男性陣は北門に集まった。武装ゴブリンにまだ動きはなく、恐らくは夜を迎えるのと同時に四方の門から攻め込むつもりだと考えられた。だからこそレノ達は仕掛けるのは完全な夜を迎える前にゴブリンを村に招き込む算段を立てた。


「おい、こんな感じでいいのか!?」
「一応は塞いだが……本当にこんなので大丈夫なのか!?」
「いいから早く屋根に上がって!!あいつらに勘付かれる前に!!」


レノは村人達に北門の左右に大量の藁を乗せた荷車を並べさせ、これで村の中に武装ゴブリンが入り込んでも荷車が邪魔をして左右に散らばることはできない。北門の近くにある建物の屋根には既に村人達が待機しており、その中にはゴーマンと村長もふくまれていた。そして北門の正面の位置に兵士が待機しており、レノも彼等から借りた槍を手にして一緒に立つ。

武装ゴブリンが入り込んできた場合、荷車が邪魔をして正面に突っ込むことしかできない。敵が攻め込んできた場合は屋根の上から村人達が石を投げつけて援護を行い、地上の兵士達とレノがゴブリン達を食い止める算段だった。


(もう後戻りはできない……やるぞ!!)


作戦を開始する前にレノは左手で槍を持ちながら右手を強く握りしめ、いざという時は自分の魔法の力で敵を倒す覚悟はできていた。祖父との約束を破ることになるが、村を守るためなら仕方がないと自分自身を納得させる。


「君、本当に大丈夫なのか?」
「魔物と戦った経験があるとは言っていたが、無理をする必要はないぞ。危ないと思ったら逃げるんだ」
「ありがとうございます……でも、大丈夫です」


地上に残ったレノが最初に扉を開ける役目を担い、扉を開けた瞬間に武装ゴブリンがなだれ込む可能性はあった。まだ夜までの猶予はあるが、完全に日が暮れる前に行動しなければ作戦は失敗に終わってしまう。


(怖がるな……相手はただのゴブリンだ!!)


覚悟を決めたレノは槍を足元に置いてから門を開いて外の様子を伺う。村の外で待機しているゴブリン達は装備を解いて休んでいたが、門が開いた瞬間に鳴き声を上げる。



――ギイイイイッ!!



獲物にんげんが自ら門を開いたことにゴブリンの群れは驚愕するが、統率者であるホブゴブリンは扉を開いたレノを一瞥すると、不審な表情を浮かべた。どう見ても人間の子供にしか見えないが、レノを見た途端にホブゴブリンは嫌な予感を抱く。

扉を開いてもゴブリンの群れがいきなり突っ込んでこないことにレノは安堵するが、改めてホブゴブリンを見て嫌な予感を抱く。体格はオークよりも少し小さいがこれまで遭遇したどのゴブリンよりも大きい。


(あれがホブゴブリン……迫力があるな)


ゴブリンを統率するだけは合って魔物ながらに威厳を感じさせるが、レノはホブゴブリンの距離を確認して今ならば仕留められるのではないかと考えた。レノは強化術を発動させ、足元に落とした槍を拾い上げてホブゴブリンに目掛けて投げ飛ばす。
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