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入学試験編

第56話 杖の制作

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「信じられねえ……こいつは本物だ。どこでかっぱらってきた!?」
「いや、ちょっと前にミノタウロスに襲われた時に手に入れたんですよ」
「そうだぞ。この兄ちゃん、こう見えても凄く強いんだからな!!ミノタウロス相手に互角に戦えるぐらい強いんだぞ!!」
「何だと!?じゃあ、生きているミノタウロスから角をへし折ったのか!?信じられねえ……奴は第一級危険種だぞ!?」


第一級危険種とは魔物の中の危険度を表すために定めた制度であり、第一級危険種は上から二番目に位置する。一番上は「超級危険種」であり、一番下は「第三級危険種」だった。

ミノタウロスは第一級危険種に指定され、大抵の魔人族は第一級危険種に含まれている。ちなみに超級危険種はの被害を及ぼす可能性がある魔物であり、一番有名な存在は「竜種《ドラゴン》」である。


「その角は高い価値がありますか?」
「当たり前だ馬鹿野郎!!ミノタウロスの角は金属のように硬くて武器や防具や装飾品の素材にも使える優れ物なんだぞ!!こいつをくれるというなら杖の代金は無料にしてやってもいいぞ!!」
「えっ!?いいんですか?」
「おう、作ってやらぁっ!!但し、後で金を払うから返せと言うなよ!?」
「わ、分かりました。じゃあ、お願いします」


予想通りに魔人族のミノタウロスの角は希少価値が高く、あっさりとネココの叔父は依頼を引き受けてくれた。仕事を受ける以上はレノを客と認めてネココの叔父は名を名乗る。


「儂の名前はガルルだ。お前の名前を教えてくれるか?」
「レノです」
「レノデスか。いい名前だな」
「あ、いやレノでいいです」


ガルルが右手を差し出すとレノは握手を求められていると思って自分の右手を差し出す。だが、それを見たネココは慌てて声をかけた。


「叔父さん!!相手は人間だぞ、手加減しろよ!?」
「え?どういう……あいででで!?」
「おっと、悪い。ちょいと力を込め過ぎたな」


握手した途端にガルルは万力のような握力で握りしめてレノは悲鳴をあげる。ドワーフは見た目は小さいが腕力は人間離れしており、それでいながら手先が器用で高い技術力を誇る。

手を離すとレノの右手にはガルルの指の痕が残り、危うく右手が潰れるところだった。一方でガルルは自分の左手に視線を向けて考え込み、その様子を見たネココは不思議に思う。


「叔父さん?どうかしたのか?」
「……ああ、いや何でもない。杖を作る準備をするからお前等はここで待ってろ」
「え?あ、はい……分かりました」
「だ、大丈夫?痛いならスラミン君に冷やして貰う?」
「とんでもない爺さんだな……」
「ぷるんっ」


店の奥にガルルが戻るとレノは右手を抑える。ドワーフなだけはあってガルルの腕力は強く、流石のレノも力負けした。村に居た頃は大人を含めても力勝負で負けたことはないが、相手がドワーフだと勝てないのも仕方がないと納得する。


(危うく強化術を使う所だった……ドワーフの人は力が強いな)


レノは他人に力負けしたのは久々であり、当たり前だが自分よりも強い人間(ドワーフだが)がいると思い知る。だが、一方で店の奥に引っ込んだガルルは左手を見て冷や汗を流す。


(あのガキ……本当に人間か?)


ガルルの左手にもレノが指を握りしめた痕がくっきりと残っており、先ほど握手した際にガルルは本気で握りしめた。するとレノの方も人間離れした怪力で逆に握り返してきたことにガルルは戸惑う。

先ほど手を握った時はレノは強化術を発動しておらず、素の腕力だけでガルルの左手に痕が残る程に握り返したことになる。ガルルは人間でありながらドワーフの自分に拮抗する力を持つ相手など今まで一度も出会ったことがない。


(面白いじゃねえか……とっておきのを作ってやる)


人間でありながらドワーフに抗うだけの腕力を持つ相手と知ると、ガルルはやる気が出てきた。ミノタウロスの角を貰った以上は仕事に手を抜くつもりはなかったが、レノのために本気で最高の杖を作ることを心に決めた――





――ガルルが準備が整えたということでレノは彼の工房に一人で案内された。普段は工房に入れるのはガルルだけであり、この場所には滅多に人は近寄らせない。それなのにレノだけを中に入れたのは杖を作るために彼の協力が必要不可欠だった。


「杖を作る前にまずは検査を行うぞ」
「検査?」
「この水晶玉に手を乗せるだけだ」


レノの前にガルルは無色の水晶玉を置く。それを見た瞬間にレノは何故かアルが所持していた杖の魔石と似ていると思った。案の定というべきか水晶玉の正体は魔石の一種だと判明する。


「こいつは吸魔石だ。触れるだけで魔力を吸い上げる変わった魔石だ」
「魔力を吸い上げる?」
「これに触れて自分の魔力を吸収させることでどの系統の魔力なのか判明させるんだ。火属性の魔法の使い手なら水晶玉の中に炎が生まれるはずだ」
「なるほど……触るだけでいいんですか?」
「触れる時は魔術痕越しに触れよ。そうしないと反応しないからな」


言われた通りにレノは水晶玉を右手で触れる。触れた途端に魔術痕が勝手に輝き出し、魔法を使った時のように魔力を消費する感覚を抱く。


(うっ……確かに魔力が吸われてる気がする)


水晶玉に触れてからしばらく経つと全体が赤く変色し、水晶玉の内部に炎が発生する。それを見てガルルはレノが火属性の魔法の使い手だと確信した。


「確かに火属性の適合があるようだな。よし、もう離していいぞ」
「はあっ……何か変な気分になりますね」
「魔力を吸われて気持ちよくなる奴なんていねえよ。生命力を奪われるようなもんだからな」


魔力は生命力その物であるため、魔力を全て吸収されると死を意味する。水晶玉から手を離した途端に体調も良くなったレノは安堵するが、彼にはまだやるべき仕事があった。


「次はこいつだ」
「え?それは……」
「今からお前さんの血を抜くんだよ。杖を作るにはお前さんの血を素材に馴染ませる必要があるからな」


ガルルが取り出したのは「注射器」だった。どうしてそんな物が鍛冶屋にあるのかとレノは疑問を抱くが、ダイン達から杖を作るには持ち主の髪の毛や血が必要だと言われたことを思い出す。

魔術師の杖を作れるのはドワーフだけのため、彼等の店に血を抜くための道具があってもおかしくはない。もしかしたら注射器もガルルが作り出した可能性もある。


「何を黙ったまま突っ立ってやがる。さっさと腕を出せ、血を抜くぞ」
「ど、どれくらい血を抜くんですか?」
「安心しろ、ちょっとだけだ」


レノの腕を掴んだガルルは意外な程に手慣れた様子で彼の血管に注射器を突き刺し、必要な分の血液を採取すると傷口を消毒して絆創膏を張る。まるで医者のように注射器の扱いに慣れているガルルにレノは意外に思う。


「注射上手いですね、全然痛くなかったし……」
「馬鹿野郎、人間如きが作った道具なんてドワーフだったら誰でも使いこなせるんだよ。さあ、後のことは俺がやるから出て行け。ここに残られても迷惑なんだよ」
「あ、はい。分かりました」


検査と血液の採取を終えた途端にレノから工房に出ていくように促す。言われた通りにレノは立ち去ろうとした際、工房の壁に飾られた奇妙な形をした武器に気が付く。


「あれ?これって剣……ですか?」
「ああ、それは前にうちに来た客から取り上げた武器だ。金が払えないからってそんなもんを渡してきやがった」


斧の刃が剣の先端に取り付けられたような奇妙な形をした大剣が壁に取り付けられており、あまりにも変わったデザインの武器にレノは妙に興味を抱く。
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