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闘技祭 決戦編
ハヤテの行方
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「こっちだ!!早く来いよ!!」
「ちょっと待って……まだ身体の痺れが残ってて上手く走れない」
「大丈夫か?」
「ああ、もう!!ほら、肩を貸してやるから早くしろよ!?」
ダインの肩を借りながらレナは曲り角を通過する。後方から兵士達が追いかけてくる足音は聞こえてくるが、ゴンゾウが闘拳を身に付けて立ち塞がる。
「ここは俺に任せろ。時間を稼ぐ」
「馬鹿、何を言ってんだよ!?ここで捕まったら僕達は犯罪者なんだぞ!?」
「しかし……このままでは追いつかれるぞ?」
「大丈夫、俺に考えがある……ダイン、前に闇属性の初級魔法を使った事があるよね?それは今も出来る?」
「え?別に使えるけど……何する気だよ?」
「いいから準備をして……俺が合図したら魔法を発動させて」
レナはゴンゾウを下がらせると、兵士達が駆け寄る前にダインに杖を構えさせる。徐々に兵士の足音と声が大きくなり、ダインが不安そうな表情を浮かべてレナに問い質す。
「お、おい!!まだなの!?」
「もうちょっと……今!!」
「や、闇夜!!」
気配感知と魔力感知の能力を発動してレナは兵士達が曲り角に到着した瞬間を見計らい、ダインに合図を送って魔法を発動させる。彼の装備する杖先から黒煙を想像させる闇属性の魔力の「黒霧」が誕生し、その直後にレナも掌を構えて風圧の魔法を発動させた。
「風圧!!」
「うわぁっ!?」
「な、なんだ!?」
「煙っ!?」
曲り角から現れた兵士達にダインとレナの魔法で発生した黒霧が襲い掛かり、煙幕のように彼等の視界を封じる。しかも通常の煙と違い、魔法で構成された黒霧は兵士達の身体に纏わりつき、視界を完全に塞ぐ。さらに後続の兵士達は前方を走っていた兵士が急に立ち止まった事で勢いを殺しきれず、そのまま兵士達が衝突してしまう。
「ぎゃあっ!?」
「あいでっ!?」
「馬鹿、押すなっ!?何してるんだ!!」
「ま、前が見えないんだよ!!」
曲り角で兵士達の混乱する声が響き渡り、しばらくは時間を稼げると判断したレナは今の内に先に進む事をジェスチャーで二人に伝えると、ゴンゾウとダインも頷く。急いで3人は通路を駆け抜け、何度か分かれ道を移動して観客席に続く階段の前まで移動した。
「ふうっ……こ、ここまで移動すれば大丈夫じゃないか?」
「もう兵士は追っていないようだが……」
「一応は助かった……のかな?二人のお陰で助かったよ」
「ぷるぷるっ!!」
「ぷるんっ!!」
「ああ、うん。スラミンとヒトミンもありがとうね」
階段の前でレナ達は息を荒げながらも兵士達の追跡を振り切った事を確認し、安堵の息を吐く。スラミンとヒトミンを抱き上げながらレナは階段の上を確認し、休憩の時間もそろそろ終わりを迎えようとしているので観客席に戻る人間も多かった。
「予選もあと半分か……そういえば剣聖で出場していない奴がまだ居たよな?」
「ああっ……ハヤテとかいう奴だろ?俺、あんまり知らないんだけど強いのか?」
「なんでも見た目はガキなのに鬼のように強いらしいぜ。まあ、そいつが本当に強いのかこれから確かめられるだろ」
「それもそうだな」
通り過ぎる人間の中でハヤテの名前を口にする人間を見かけ、レナは未だにハヤテが出場していない事を思い出す。氷雨の剣聖の中でもゴウライに次ぐ実力者であり、シュンの師匠でもある。しかし、現在は王妃の指示を受けてレナの命を狙っているらしく、未だに一度も姿が見えていない事に違和感を抱く。
「ねえ、二人は前半の試合の時に試合場でハヤテの姿を見た?」
「え?さあ……そこまで詳しく見てなかったから知らないよ」
「俺はずっと探していたが、少なくとも見当たらなかったな……見落としていた可能性もあるが」
観客席にいたダインとゴンゾウも試合場で待機していた参加選手の中にハヤテを見た覚えはなく、レナは彼女が試合場には居なかったのではないかと考える。実際にミドルは試合場ではなく闘技場の通路側で待機しており、ハヤテも同様に試合場に存在しなかった可能性も高い。
(ハヤテは何処に居るんだ?俺の命を狙っているのなら闘技場にいると思うけど、ここまで姿を見せないのは気になるな……王妃の傍に居るのか?そもそも王妃はどうして姿を見せないんだ?)
大会予選が開始されてから既に数時間が経過しているが、肝心の王妃は姿を見せていない事も気にかかり、レナは嫌な予感を覚える。こんな時にアイリスと交信出来たら心強いが、今の状況では彼女の力は頼れない。
「おい、レナ……こんな所で考え込んでないで一先ずは観客席に向かわないのか?多分、ここにいるよりも兵士には見つかりにくいと思うけど……」
「そうだな。観客席には大勢の種族が居る。その中に紛れれば簡単には見つからないだろう」
「……それもそうだね」
二人の言葉にレナは頷き、とりあえずは観客席で身を隠す事にした。予選試合は既に終えているのでレナが試合場に戻る必要もなく、ハンゾウがヨツバ王国の人間にティナの無事を知らせる事が出来れば捜索も打ち切られる事は間違いなく、もうしばらく時間を稼ぐことが出来れば兵士の捜索も終了するだろう。
「ちょっと待って……まだ身体の痺れが残ってて上手く走れない」
「大丈夫か?」
「ああ、もう!!ほら、肩を貸してやるから早くしろよ!?」
ダインの肩を借りながらレナは曲り角を通過する。後方から兵士達が追いかけてくる足音は聞こえてくるが、ゴンゾウが闘拳を身に付けて立ち塞がる。
「ここは俺に任せろ。時間を稼ぐ」
「馬鹿、何を言ってんだよ!?ここで捕まったら僕達は犯罪者なんだぞ!?」
「しかし……このままでは追いつかれるぞ?」
「大丈夫、俺に考えがある……ダイン、前に闇属性の初級魔法を使った事があるよね?それは今も出来る?」
「え?別に使えるけど……何する気だよ?」
「いいから準備をして……俺が合図したら魔法を発動させて」
レナはゴンゾウを下がらせると、兵士達が駆け寄る前にダインに杖を構えさせる。徐々に兵士の足音と声が大きくなり、ダインが不安そうな表情を浮かべてレナに問い質す。
「お、おい!!まだなの!?」
「もうちょっと……今!!」
「や、闇夜!!」
気配感知と魔力感知の能力を発動してレナは兵士達が曲り角に到着した瞬間を見計らい、ダインに合図を送って魔法を発動させる。彼の装備する杖先から黒煙を想像させる闇属性の魔力の「黒霧」が誕生し、その直後にレナも掌を構えて風圧の魔法を発動させた。
「風圧!!」
「うわぁっ!?」
「な、なんだ!?」
「煙っ!?」
曲り角から現れた兵士達にダインとレナの魔法で発生した黒霧が襲い掛かり、煙幕のように彼等の視界を封じる。しかも通常の煙と違い、魔法で構成された黒霧は兵士達の身体に纏わりつき、視界を完全に塞ぐ。さらに後続の兵士達は前方を走っていた兵士が急に立ち止まった事で勢いを殺しきれず、そのまま兵士達が衝突してしまう。
「ぎゃあっ!?」
「あいでっ!?」
「馬鹿、押すなっ!?何してるんだ!!」
「ま、前が見えないんだよ!!」
曲り角で兵士達の混乱する声が響き渡り、しばらくは時間を稼げると判断したレナは今の内に先に進む事をジェスチャーで二人に伝えると、ゴンゾウとダインも頷く。急いで3人は通路を駆け抜け、何度か分かれ道を移動して観客席に続く階段の前まで移動した。
「ふうっ……こ、ここまで移動すれば大丈夫じゃないか?」
「もう兵士は追っていないようだが……」
「一応は助かった……のかな?二人のお陰で助かったよ」
「ぷるぷるっ!!」
「ぷるんっ!!」
「ああ、うん。スラミンとヒトミンもありがとうね」
階段の前でレナ達は息を荒げながらも兵士達の追跡を振り切った事を確認し、安堵の息を吐く。スラミンとヒトミンを抱き上げながらレナは階段の上を確認し、休憩の時間もそろそろ終わりを迎えようとしているので観客席に戻る人間も多かった。
「予選もあと半分か……そういえば剣聖で出場していない奴がまだ居たよな?」
「ああっ……ハヤテとかいう奴だろ?俺、あんまり知らないんだけど強いのか?」
「なんでも見た目はガキなのに鬼のように強いらしいぜ。まあ、そいつが本当に強いのかこれから確かめられるだろ」
「それもそうだな」
通り過ぎる人間の中でハヤテの名前を口にする人間を見かけ、レナは未だにハヤテが出場していない事を思い出す。氷雨の剣聖の中でもゴウライに次ぐ実力者であり、シュンの師匠でもある。しかし、現在は王妃の指示を受けてレナの命を狙っているらしく、未だに一度も姿が見えていない事に違和感を抱く。
「ねえ、二人は前半の試合の時に試合場でハヤテの姿を見た?」
「え?さあ……そこまで詳しく見てなかったから知らないよ」
「俺はずっと探していたが、少なくとも見当たらなかったな……見落としていた可能性もあるが」
観客席にいたダインとゴンゾウも試合場で待機していた参加選手の中にハヤテを見た覚えはなく、レナは彼女が試合場には居なかったのではないかと考える。実際にミドルは試合場ではなく闘技場の通路側で待機しており、ハヤテも同様に試合場に存在しなかった可能性も高い。
(ハヤテは何処に居るんだ?俺の命を狙っているのなら闘技場にいると思うけど、ここまで姿を見せないのは気になるな……王妃の傍に居るのか?そもそも王妃はどうして姿を見せないんだ?)
大会予選が開始されてから既に数時間が経過しているが、肝心の王妃は姿を見せていない事も気にかかり、レナは嫌な予感を覚える。こんな時にアイリスと交信出来たら心強いが、今の状況では彼女の力は頼れない。
「おい、レナ……こんな所で考え込んでないで一先ずは観客席に向かわないのか?多分、ここにいるよりも兵士には見つかりにくいと思うけど……」
「そうだな。観客席には大勢の種族が居る。その中に紛れれば簡単には見つからないだろう」
「……それもそうだね」
二人の言葉にレナは頷き、とりあえずは観客席で身を隠す事にした。予選試合は既に終えているのでレナが試合場に戻る必要もなく、ハンゾウがヨツバ王国の人間にティナの無事を知らせる事が出来れば捜索も打ち切られる事は間違いなく、もうしばらく時間を稼ぐことが出来れば兵士の捜索も終了するだろう。
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