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闘技祭 決戦編

デブリの怒り

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――闘技祭の一日目が無事に終了し、結果的には観客には好評だった。数万人の観衆が予選とは思えない高レベルな試合の過程に満足しており、各国の代表も満足する。しかし、ヨツバ王国のデブリ国王だけは不機嫌のまま冒険都市の宿へ引き返した。


『デブリ国王よ、これから各国の交流を深めるために宴の準備をしている。お主の家族も参加してくれるだろう?』
『結構だ。大事な用事があるのでな……ここで失礼する!!』


バルトロス国王は他国の王族を宴に招いたが、自分の愛娘のティナが危険に晒されたと聞き、内心怒りを抱いていた。闘技場の警備兵の報告では犯人は不明だが、王女が誘拐された事だけを伝える。当然だがデブリは警備兵の報告に激怒して自分の連れてきた兵士に捜索を行わせようとしたが、頑なに警備兵は拒む。

結局は大事になる前に氷雨の冒険者のハンゾウが訪れてティナが無事である事を説明し、現在は氷雨の冒険者ギルドで保護している事を聞いてデブリも落ち着いたが、内心は怒りを堪えきれずに王妃のやり口に怒りを抱く。寄りにもよって一番可愛がっている愛娘のティナを利用してレナを殺害の試みた事は気に食わず、今回の件で完全にデブリは王妃と対立する決意を抱いた。


「あの無能め……これでは本当にただの傀儡ではないか!!」
「父上、落ち着いて下さい。それ以上酒を飲むと身体に毒です!!」
「ですがお兄様!!私も許せませんわ!!私達の可愛いティナを誘拐するなんて……今すぐに領地に引き返して軍隊を派遣するべきです!!」
「お前も落ち着け!!」


移動中の馬車の中でデブリは怒りを抑えきれずにワインを何本も飲み干し、ティナの姉であるノルも怒りを露わにする。そんな二人を長男であるアルンが宥め、溜息を吐き出す。


「確かにティナを誘拐して例の第一王子を殺害しようとしたのは許せませんが、ここで表立って王妃と対立するわけには行きません。ここは人間の領地、もしも王妃が軍隊を派遣すればひとたまりもないのです」
「分かっておる!!くそっ……こうも早く手を打つとは、油断しておった」
「ですが氷雨の協力のお陰でティナは無事です。この際、ティナは氷雨の方々に預ける方が安全では?」
「お兄様!?何を言っているのですか!?」


アルンの発言にノルは信じられないとばかりに驚愕の表情を浮かべるが、アルンは真面目に理由を説明する。


「いいかノル?この都市には既に万を超える王国の兵隊が滞在しているんだ。今後も増兵されるのは間違いない。その一方で僕達が連れてきた側近と護衛の数は数百……仮に王国軍が襲ってきたら皆殺しにされる」
「ですがお兄様、そのために王国四騎士を呼び寄せたのではないですか!!」
「確かに彼等は一騎当千の強者だ……だが、お前も闘技祭を見ただろう?あのジダンやカイが敗れた姿を……確かに観衆の面前で試合という慣れない環境でで彼等が本当の実力を出し切れたとは言えない……しかし、試合に出場してきた選手の誰もが強者だった」


闘技祭で試合を観戦するまではアルンもノルと同様に王国四騎士こそが最強の騎士だと信じていた。しかし、ジダンが剣聖のシュンに圧倒的な技量の差で敗れ、四騎士最強と言われていたカイさえも剣聖のハヤテに敗れた。そして重要なのはどちらの剣聖も氷雨に所属する冒険者という事だった。


「氷雨は王国一の冒険者ギルドだ。腕利きの冒険者も星の数ほど存在し、更に剣聖を5人も従えている……そして氷雨には青の剣聖も滞在しているはずだ。それに既にリンダを護衛に向かわせている、そう考えれば氷雨にティナを預けておく方が安全に思えるだろう?」
「それは……そうかもしれませんけど、お兄様は氷雨の方を本当に信じるのですか?彼等は王妃と完全に対立しているのに?」
「だからこそ王国も彼等の事を警戒しているのだろう。軍勢を呼び寄せたのも氷雨を警戒しているとしか考えられない……父上はどう考えていますか?」
「うむ……」


息子の言葉にデブリも冷静になり、確かに話を聞く限りではティナだけでも氷雨に預けた方が安全ではないかと考える。実際に氷雨は冒険者ギルドの中でも最大の勢力を誇り、あのギルドマスターのマリアは古の英雄に匹敵する実力者である事は間違いない。しかし、それでも不安は拭いきれずにデブリは口を開く。


「一先ずはティナの安全を確かめに向かうぞ。その後、マリアと相談して安全な場所を紹介して……ぬおっ!?」
「きゃあっ!?」
「な、何だっ!?」


しかし、デブリが言葉を言い終える前に馬車に激しい振動が走り、外で騒音が鳴り響く。何事かとデブリは身を乗り出そうとしたが、アルンが制する。


「父上は出てはいけません!!私が確かめます!!」
「う、うむ……」
「お、お兄様……」
「大丈夫だ……何事だ!!」


二人を安心させるようにアルンは笑顔を浮かべ、そして剣を握りしめて外へ飛び出す。しかし、この時に彼を引き留めなかった事をデブリは生涯後悔した――
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