不遇職とバカにされましたが、実際はそれほど悪くありません?

カタナヅキ

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都市崩壊編

風の聖痕

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エリナの言葉を聞いた瞬間、昼間の出来事を思い出したレナは正気を取り戻す。だが、事情を知らないシュンとマリアはエリナが騒いでいる理由が分からず、彼女に注意を向けてしまう。しかし、その一瞬の隙を逃さずに姿を現したカゲマルは懐に手を伸ばし、マリアに向けて駆け出す。


「マリア!!」
「っ!?」
「なっ!?」


カゲマルは懐から銀色に光り輝く短剣を引き抜き、祖母を抱えて上手く動けない彼女の胸元に刃を突き刺す。咄嗟にシュンは剣を振り払って風の斬撃を与えようとしたが、既にカゲマルはマリアの目の前にまで迫り、位置的に彼女も巻き込んでしまう事を知って攻撃を止めてしまう。


「嬢ちゃん!!」
「くっ……」
「遅い!!」


シュンの怒声が響き渡り、咄嗟にマリアは母親を庇うように身体を伏せようとしたが、カゲマルに変装した何者かはそれを予測していたように心臓から頭部に狙いを切り替え、刃を振り下ろす。


「死ねっ!!」
「っ……!?」


母親を抱えるマリアの後頭部に向けて短剣を突き刺そうとした相手を見てレナは目を見開き、咄嗟に右手を向けてしまう。だが、既に先の戦闘でレナ自身の魔力は尽き果てており、合成魔術どころか初級魔法も扱えない状態に陥っていた。


(駄目だ……このままだとまたっ……!?)


剣鬼の能力が発動したのか再びレナの視界の光景がゆっくりと時間が流れるように遅くなるが、既に魔力も体力も使い果たしたレナは動くこともままならず、カゲマルに化けた何者かが短剣を握りしめてマリアの後頭部に突き刺そうとする光景を前にしながら何もできない。


(嫌だ!!動け、動いてくれ!!)


マリアまで失う事に恐怖を覚えたレナは身体を必死に動かそうとするが、肉体は思うように動かず、剣鬼の能力を発動したときに無意識に肉体に纏っていた重力の魔力の鎧も発動していない。このままでは大切な人を守れないと知ったレナは歯を食いしばり、必死に手を伸ばす。


『落ち着きなさい』
「っ――!?」


だが、焦りを抱くレナの脳内に女性の言葉が響き渡り、最初はアイリスかと考えたが声音が違い、先ほどに命を落としたハヅキの声だと気づく。


『貴方に与えた力を使いなさい……どうか、私の娘達を頼みます』


脳内に響く言葉にレナは右手に視線を向けると、そこにはハヅキから渡された「風の聖痕」が光り輝いている事に気づき、いつの間にか自分の周囲に「風の精霊」が集まっている事に気づく。本来ならば人間には決して近寄ることもない精霊達がレナの元に集まっており、まるで右腕に吸収されるように消えていく。


(この感覚……!?)


風の聖痕を通して精霊を体内に吸収し、急速的に魔力を回復している事に気づいたレナは視線を暗殺者に向け、ハヅキの想いに応えるために魔法を発動させる。精霊魔法を扱ったことは一度もないが、風の精霊を操作する人物たちは何度も見ているレナは無意識に言葉を口にした。


『風よっ!!』


次の瞬間、レナの右手の掌から強烈な風圧が発生すると、マリアの後頭部に短剣を突き刺そうとしていた暗殺者の肉体のみに強烈な突風が襲い掛かる。その威力は暗殺者の肉体を数メートルも吹き飛ばし、握りしめていた短剣が遥か上空にまで吹き飛ばされる威力だった。



「ぐああっ!?」
『っ……!?』



レナ以外の人物は一瞬だけ何が起きたのか理解できず、勝手に暗殺者が吹き飛ばされたようにしか見えなかった。だが、攻撃を仕掛けたレナ本人は確かな手ごたえを感じ取り、自分の右腕を見つめる。すると先ほどまで光り輝いていた聖痕が徐々に光を失い、紋様が溶けるように消えてしまう。必要以外の場面では紋様が浮かばないのはレミアと同じらしく、最後にレナの脳内にハヅキの声が響く。



『荒々しい風の使い方でしたが……それでも見事でした。私の役目はここまです』
「御祖母様……?」
『レナ、貴方がどんな道を歩もうと私は貴方の事を信じます……もっと貴方の事が知りたかった。さようなら、私の初孫――』



別れの言葉が脳内に響いた瞬間、レナの右腕の聖痕が一瞬だけ浮かぶと緑色の光球が生み出され、やがて消えてしまう。どうしてハヅキの声がレナの頭の中に響いたのかは不明だが、ハヅキの魂の一部がレナの体内に送り込まれ、聖痕の使い方を伝授する役目を果たす事で消えてしまったのかもしれない。


「御祖母様……ありがとう」
「……レナ?」
「な、何が起きたんだ?」
「今のは一体……」


祖母に感謝の言葉を捧げるレナに対してコトミン達は不思議そうな表情を浮かべるが、理由はどうであれレナが魔法を使用してマリアを救い出した事は間違いなく、最悪の事態を避ける事に成功した。しかし、吹き飛ばされた暗殺者はまだ諦めるつもりはないのか、口元に血を流しながら起き上がろうとしていた。
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