不遇職とバカにされましたが、実際はそれほど悪くありません?

カタナヅキ

文字の大きさ
390 / 2,090
都市崩壊編

悪あがき

しおりを挟む
「ぐっ……まだだっ!!」
「させるかよ馬鹿」


起き上がって反撃に移ろうとした暗殺者に対し、それを予測していたようにシュンは剣を振り払う。容赦なく風の斬撃が暗殺者の胸元を切り裂き、鮮血が舞う。


「ぐはぁっ!?」
「よりにもよってあの野郎に化けるとはな……だが、これで終わりだ」
「シュン、殺しては駄目よ。色々と聞き出したい事があるの」


暗殺者に止めを刺そうとしたシュンをマリアは止めると、祖母を抱いたまま彼女は血を流す暗殺者に近づき、視線を見下ろす。油断していなければ先ほどの攻撃程度ならば簡単に対応できるため、暗殺者の正体を確かめる。


「顔を見せなさい」
「ぐうっ……」
『風よ』


反抗するように顔を伏せる相手に対してマリアは精霊魔法を発動させ、風の精霊を利用して暗殺者の肉体を浮き上がらせる。空中に放り出された暗殺者は悲鳴を上げて地面に倒れこみ、苦痛の表情を浮かべながらマリアの顔を見上げた。いつの間にか顔立ちが変化しており、カゲマルとは似ても似つかない30代後半程度と思われる男性だと判明する。


「それが貴方の本当の顔だとしたら、見事な変装術ね。相当に腕の立つ暗殺者のようだったけど……一体何処の誰かしら?」
「……それを貴様に教える義理はない」
「確かにそうね。だけど、今素直に話した方が後々苦しまずに楽になれるわよ?言っておくけど、その口の中に入っている毒針を飛ばしたところで無駄よ。嘘だと思うなら試してみなさい」
「…………」


暗殺者を吹き飛ばす際に風の精霊の力を利用して事前に身に着けている装備品も調べており、口内に含まれている針さえも見逃さない。仮に至近距離から毒針を撃たれようとマリアの精霊魔法ならば風の防護壁を張って毒針を吹き飛ばす事も容易く、母親の死によって動揺していなければ普段のマリアならば先ほどの奇襲など一人で対応できた。

母親の遺体を抱き上げたままマリアは冷たい視線を暗殺者に向け、この人物が今回の事件の黒幕である王妃と関わりはあるのは間違いなく、彼女は静かな怒りを抱いたまま暗殺者の腕を踏みつける。


「さあ、答えなさい」
「ぐあっ!?」
「おいおい……嬢ちゃん、それはちょっとご褒美が激しすぎないか?」


容赦なく地面に衝突したときに痛めた右腕を踏みつけると、暗殺者は苦痛の表情を浮かべるがマリアは決して力を緩めず、暗殺者の正体を問う。その情け容赦ない彼女の姿にシュンはあきれた声を上げ、レナ達も冷や汗を流す。


「貴方が普通の暗殺者ではない事は分かっているわ。少し前に顔を合わせたシノビも貴方が化けていたのよね?これほど見事なまでに私の側近を演じる限り、もしかしたらシノビやハンゾウと同じく和国の忍者ではないの?」
「和国……?」
「この王国の東方に存在する独立国家の事よ。私も前に一度だけ訪れたことがあるけど、バルトロス王国とは全く違った文化が発展した国だったわ」


和国という単語が出てきたことにレナは疑問を抱くと、隣にいたシズネが代わりに説明を行う。ハンゾウやカゲマルの故郷でもあり、忍者や侍といった特殊な職業の人間で構成されている国家だと前にレナもアイリスから聞いたことを思い出す。


「仮に貴方が和国の忍者だと仮定した場合、あの王妃は和国とも繋がりがあるのかしら?答えなさい」
「ぐうっ……!?」
「無駄な抵抗は止めなさい。貴方が何をしようと、私には適わない」


肉体を痛めつけられ、右腕を封じられた状態で地面に付した暗殺者に抵抗する手段はないと判断したマリアは睨みつけるが、この状況でも暗殺者の男は降伏を選ばず、何故か笑い声をあげる。


「ふっ……ははははっ!!この俺に、降伏しろだと……思いあがったな小娘がっ!!」
「……見た目ほど、若くはないのだけどね。この状況を切り抜ける力を貴方が持っているというの?周りには貴方を助けてくれるお友達もいないわ」


念のためにマリアは事前に風の精霊を利用して周囲の探索を行うが、半径100メートル以内には人間の気配は感じられず、用心のために緑影のような「身隠しのマント」のような特別な魔道具で姿を隠ぺいする人物もいない事を確認している。さらに魔力感知の能力を発動しても地竜のように地下に隠れる反応も感じられず、周辺には暗殺者の仲間と思われる人物はいない。

しかし、追い詰められているにも関わらずに暗殺者は不適な笑みを浮かべ、その態度に疑問を抱いたマリアは不意に自分が何かを見落としているのではないかと考え、即座に上空に視線を向ける。そして空の上に浮かぶ太陽の光を反射しながら煌めく物体を確認し、暗殺者が握りしめていた短剣である事に気づく。


「まさかっ……!?」
「くたばれ……魔女がっ!!」
「なっ……嬢ちゃん!?」


上空に浮かんでいた短剣が暗殺者の掛け声に反応するかのように動き出し、再度マリアの胸元に目掛けて落下する。その光景を確認したシュンが咄嗟に剣を振り払って風の斬撃を放ち、空中から接近してきた短剣を吹き飛ばそうとしたが、レナの反鏡剣と同様に刃の部分が鏡張りになっている短剣はシュンの放つ風の斬撃を受け流す。先ほどレナの魔法で短剣が吹き飛ばされたように見えたのは武器を所有していた暗殺者が敢えて攻撃を受けたときに空中に投げ飛ばしただけであり、魔法を跳ね返す性質を持つ短剣は魔術師の最大の脅威となる。


「うぐっ……!?」
「叔母様!?」
「嬢ちゃん!?」
「そんなっ……!?」


全員の目の前で上空から落下してきた短剣がマリアの胸元に突き刺さり、その様子を確認した暗殺者は笑みを浮かべたが、即座に違和感を抱く。胸を貫いたにも関わらずにマリアの衣服には血が滲まず、それどころか短剣を受けたマリア本人も戸惑うように自分の胸に突き刺さる短剣に視線を向けていた。


「これは……!?」
「馬鹿なっ……何故、死なん!?」
「おい、平気なのか嬢ちゃん!?」
「くっ……!!」
「しゃ、シャドウ・バインド!!」


暗殺者を拘束するためにシュンとゴンゾウが駆け出し、ダインも咄嗟に影魔法を発動させてエリナも弓矢を構えるが短剣を胸元に刺した状態のマリアは振り返って全員に逃げるように伝える。


「駄目よ!!私に近づかないで!?」
「えっ……」
「なっ……なんだこれは!?」


マリアの胸元から光が零れ、彼女に突き刺さっていた反鏡剣と同じ材質の短剣が地面に落ちる。その直後にマリアの切り裂かれた胸元の部分が露わになり、内側に隠していた「水晶札」が現れる。魔法の効果を封じ込めて任意に発動させるマリアが独自に発動した魔道具がどうやら短剣から身を守ったらしいが、衝突の際に表面に亀裂が発生し、徐々に光の強さが増していく。


「いけない……暴走しているわ!!早く全員離れて!?」
「暴走だって!?」
「一体どういう……うわっ!?」


慌てて水晶札を取り出そうとしたマリアだが、両腕にハヅキを抱えている状態では上手く取れず、胸元から落としてしまう。罅割れた状態の水晶札が地面に衝突した瞬間、亀裂が広がって遂には粉々に砕け散ってしまい、凄まじい閃光が放たれた。


「うわっ!?」
「レナ!!」
「な、何だっ――!?」


光に飲み込まれた瞬間、レナ達の肉体に転移魔法を発動させたときの浮揚感が襲い掛かり、別の場所へ飛ばされる感覚を味わいながら全員が意識が失った――





※ここで都市崩壊編は終了です。次回から新章「放浪編」に入ります……恐らく、これがレナの最後の旅になると思います。
しおりを挟む
感想 5,092

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。