不遇職とバカにされましたが、実際はそれほど悪くありません?

カタナヅキ

文字の大きさ
445 / 2,091
放浪編

最後の奪取

しおりを挟む
(見つけた。やっぱりあいつが持っていたか……)


木陰に身を隠しながらレナはハイ・ゴブリンの傍で控えている兵士の一人に視線を向け、早朝に試験場の建物で見かけた兵士だと確信する。兵士の腰にはレナの反鏡剣が差されており、奪われた最後の武器を発見した。ネズミの話を聞いた時から兵士が試験場に在中している兵士ではない事は予想できたが、よりにもよって看守の直属の配下だったらしい。

ハイ・ゴブリンの傍に控える兵士は顔色を悪くしながら手配書を握り締め、仕切りに周囲の警戒を行う。どうやら自分の武器を奪った相手がレナだと知って報復に現れるのはでないかと不安を抱いているらしく、それに気づいたハイ・ゴブリンが話しかける。


「どうした?先ほどから妙に落ち着きがないな」
「あ、いや……」
「たかが一人の囚人相手に怯え過ぎた。全く、看守長もパールも大げさに騒ぎ過ぎだ……」


兵士の動揺する理由を知らないハイ・ゴブリンは呆れた表情を浮かべ、たった一人の囚人が逃げ出しただけで警備体制を最大限にまで高める現状に違和感を抱く。いくら監獄都市の人間が外に抜け出そうとしたところで逃げ切れるはずがなく、このように警備体制を厳重にしなくともいずれは見つかるとハイ・ゴブリンは考えていた。

だが、その捜索対象のレナは既にハイ・ゴブリンの傍に存在し、武器を奪い返す算段を立てていた。今回は複雑すぎる作戦を立てずに実力行使で奪う事に集中し、レナは一気に駆け抜ける。


「う、うわぁあああっ!!」
「何だっ!?」
「おい、どうした!?」


敢えて注目を浴びるように大声を上げながら走り出してきたレナに対して兵士とハイ・ゴブリンは驚いた表情を浮かべ、それを見たレナは後ろを振り返るふりをしながら顔を隠す。あくまでも何者かに追われているように演技を行い、兵士と看守から怪しまれないように近寄りながら右手に魔力を集中させる。


「おい、何があった!?一体何を見た!?」
「あ、あいつが……あいつが追いかけてくる!!」
「手配書の男か!?」


十分に接近するとレナは息を荒げながら顔を伏せ、左手で自分の後方を指差す。そのレナの行動に全員が一瞬だけ視線を集中させるが、指差す方向には誰も居ない。


「何だ?別に誰も……」
「ええ、そうですね!!」
「ぬおっ!?」
「何をっ!?」


訝し気な表情を浮かべた反鏡剣を装備している兵士に対してレナは左手で腕を掴み、顔を見せつける。その行動に周囲の兵士は驚くが、レナの顔をよく見た兵士は顔色を青ざめさせ、声を震わせる。


「お、お前は!?」
「それは、俺の物だ!!」
「うぎゃあっ!?」


髪の毛の色が変色していた事、囚人服を身に着けていた事から兵士はレナの存在に気づかなかったのが運の尽きであり、容赦なく腹部を蹴りつけられるのと同時に反鏡剣を奪われる。その姿を見たハイ・ゴブリンはいち早くレナの存在に気づき、兵士達に命令を下す。


「その男が手配書の奴だ!!捕まえろ!!」
「もう、遅い!!」


左手で反鏡剣を握り締めながらレナは右手を兵士達に向けると、事前に蓄積させていた闇属性の魔力と風の聖痕を組み合わせた魔法を放つ。


「暗闇注意!!」
「うおおおっ!?」
『うわぁああっ!?』


レナはダインから教わった闇属性の初級魔法の「闇夜」を発動させ、更に風の聖痕の力で強化した「風圧」を組み合わせて魔法の黒霧を生み出して煙幕のように拡散させる。校庭全体に漆黒の闇が広がり、視界を封じられた兵士とハイ・ゴブリンは混乱した声を上げる。

闇に支配された空間ではレナ自身も視界を封じられるのではないかと思われるが、この世界の魔法の法則として自分自身の魔法は肉体には及ばないという法則が存在し、レナの視界は暗闇でも十分に周囲の状況を確認する事が出来た。兵士と看守が混乱を起こしている間に反鏡剣を腰に差して逃走しようとすると、久しぶりに視界に画面が表示された。


『技術スキル:闇風』
「おおっ、なんか久しぶりだな……うわっ!?」
「ガウッ!!」


久々に新しいスキルを習得した事にレナは声を上げてしまい、その声に反応したのか暗闇の中を一匹の狼が疾走してレナに牙を向けてきた。背中には隻腕のゴブリンを乗せており、音を頼りに攻撃を仕掛ける。


「ガアアッ!!」
「うわっと!?危ないな……」
「ギイッ……!?」


ガルムと呼ばれる狼はレナに噛みつこうとしたが、寸前で避けられてしまい、その際に背中に乗っていたゴブリンがレナの声を聞いて何かに気づいたように硬直し、ガルムの背中から落ちてしまう。それに気づいたガルムは慌てて立ち止まり、鼻を引くつかせてゴブリンの位置を探る。


「ガウッ……!?」
「ギイイッ……」
「……?」


ゴブリンとガルムのやり取りにレナは不思議に思いながらも魔法の効果が終える前に逃げ出すため、校庭を駆け出す。しかし、そんなレナの頭上から無数の影が接近していた。
しおりを挟む
感想 5,095

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

離婚する両親のどちらと暮らすか……娘が選んだのは夫の方だった。

しゃーりん
恋愛
夫の愛人に子供ができた。夫は私と離婚して愛人と再婚したいという。 私たち夫婦には娘が1人。 愛人との再婚に娘は邪魔になるかもしれないと思い、自分と一緒に連れ出すつもりだった。 だけど娘が選んだのは夫の方だった。 失意のまま実家に戻り、再婚した私が数年後に耳にしたのは、娘が冷遇されているのではないかという話。 事実ならば娘を引き取りたいと思い、元夫の家を訪れた。 再び娘が選ぶのは父か母か?というお話です。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。