不遇職とバカにされましたが、実際はそれほど悪くありません?

カタナヅキ

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放浪編

閑話 〈シズネ〉

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――冒険都市から王都に転移していたシズネは正体を隠しながら王都の様子を伺っていた。王国の首都というだけあって他の街よりも活気があふれており、大勢の人間でにぎわっていた。


「ねえ、そこの美人さん!!うちの新商品の香水を買っていかないかい?」
「そうね、少し見てみようかしら……あら、随分と品揃えがいいわね」
「当り前さ!!ここは王都だよ?世界中から色々な物が集まってくるんだからね!!」


香水の専門店に立ち寄ったシズネは情報収集がてらに店内の様子を伺いながら香水を手に取る。世界中から輸入しているのか大量の香水が並べられており、その中には一般人では手にとど泣かない程の高価な香水も混じっていた。恐らくは貴族も立ち寄る事を想定されたとしか考えられず、金貨単位で販売されている香水を見てシズネは思い悩む。


(前に来た時よりも貴族向けの商品が増えているわね。それに普通の品も随分と値段が高騰化しているようだけど……まあ、いいわ。仕事を終わらせましょう)


シズネは怪しまれない程度に店の様子を観察し、端の方に存在する棚の香水を調べる。そして一番隅の方に目当ての代物を発見し、店員に差し出す。


「これを買うわ」
「……ああ、はい。こちらの商品で間違いないでしょうか?」
「ええ、間違いはないわ」


棚の隅に置かれていたにも関わらず、香水の値札は「金貨3枚」と記されており、それを確認した店員は一瞬だけ間を置いて質問するとシズネは頷く。


「では、代金をお願いします」
「ええっ……これで足りるかしら?」


代金を要求する店員に対してシズネは事前に用意しておいた「銅貨」を3枚渡すと、店員はしばらくの間は渡された銅貨を確認し、続けて質問を行う。


「失礼ですが、こちらの金額でお間違いないでしょうか?」
「ええ、間違いないわ」
「分かりました……では、この店の左隣の酒場の裏口へ向かってください」


何事もなかったように店員は商品を紙袋に収めるとシズネに差し出し、受け取った銅貨も握り締めて笑顔で退店を促す。シズネは店員の言葉通りに従い、街道を挟んで建っている酒場に視線を向ける。

尾行を警戒してシズネは敢えて遠回りをして自分が付けられていない事を確認し、人目に注意しながら酒場の裏手の方に回る。裏口には誰もいない事を確認するとシズネは扉をノックする前に紙袋の中身を確認し、香水以外にメダルが入っている事に気付く。


(これが証というわけね)


メダルを手にしたシズネは扉のノックを行うと、即座に裏口から強面の大男が現れ、裏口に立っているシズネの顔を見て訝しげな表情を浮かべる。


「何だ?ここは立ち入り禁止だぞ」
「革命団の人間よ。中に入らせてほしいわ」
「……なるほど、入りな」


シズネは店員から受け取ったメダルを差し出すと、大男は目を見開き、すぐに口元に笑みを浮かべて扉の中へ案内した。シズネが中に入るとすぐに大男は裏口を施錠し、二階に続く階段を指差す。


「うちの幹部は上の階の一番奥の部屋にいる。黄色い花の紋様が記された扉だ。そこで挨拶をしてこい」
「分かったわ」
「おっと、その前にあんたの所属の部隊を教えてくれ。名前は?」
「第三部隊よ」
「第三部隊……?冒険都市の担当部隊か?」
「色々と事情があるのよ。詮索はしないでちょうだい」


大男との会話を終えるとシズネは階段を上り、王国と密かに対立する革命団の幹部が待つという部屋に向かう。彼女がここに訪れた目的は姿を消した仲間の捜索とバルトロス王国の出方を伺うためであり、同じくこの王都に訪れている「バル」と「アイラ」の代わりに革命団との接触を図る。



――昨日、王都にて身を隠しながら情報収集を行っていたシズネは偶然にも冒険都市から抜け出してきたアイラとバルと再会し、彼女達が革命団という組織と協力して王国の不正を暴こうと動いている事を知る。最初はシズネは転移された仲間の捜索のために動こうとしていたが、バルのは話によれば革命団は独自の情報網を持っているらしく、消えた仲間の居所を調査出来るかもしれないという。



王国の革命など興味はないシズネだが、このまま王妃を放置すればバルトロス王国がどのような危機に陥るかも分からず、必然的にバルトロス王家の血を継ぐレナの身にも危険に晒されるかもしれない。そう判断した彼女は仕方なくアイラとバルと共に革命団に入団し、消えた仲間と愛する人のために革命団の幹部と話をするために行動していた。


(革命団の幹部……一体どんな人物かしら)


シズネは大男が告げた部屋の前に辿り着き、若干緊張しながらも扉をノックをすると、すぐに返事が戻ってきた。


『どうぞ、鍵は開いているわ』
「……?」


何処かで聞き覚えのある声音に疑問を抱いたシズネは扉を開くと、部屋の中に待ち構えていたのは意外な人物だった。


「貴女は……!?」
「……こうして二人きりで顔を合わせるのは久しぶりかしらね」


中に待ち構えていたのは冒険都市で滞在しているはずの「王妃」が存在した――
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