不遇職とバカにされましたが、実際はそれほど悪くありません？

弱肉強食の島編

力を見せてくれ

「そこまで言うのであれば……お主は白牛将に勝てる自信があるのだな？」
「あります。でも……」
「よかろう、ならばその力を見せてみよ」
「えっ？」


長の言葉にレナが言葉を続ける前に彼は指を鳴らすと、彼の護衛の中で唯一に片目に傷を負ったミノタウロスが前に出る。体格は普通のミノタウロスよりは小さいが、尋常ではない雰囲気を発していた。


「この者は儂の護衛の中でも一番強い。生まれた時から身体が小さかったが、その腕力は白牛将や黒牛将にも劣らん。実力的には牛人族の三番手といっても過言ではない」
「ブフゥッ……！！」


隻眼のミノタウロスはレナを睨みつけ、彼の威圧を受けても怯む様子もない。それを見たレナは族長が何を言いたいのかを察し、面倒臭そうな表情を浮かべた。


「まさか、そいつと戦えと？」
「その通りじゃ、そこまで自信をもって言えるのであればこの者と戦い、勝利してみせよ。第一にこの者にも勝てなければ白牛将にも敵わん」
「何言ってんだよ。この黒牛将という奴はレナが倒してるんだぞ？」
「うるせえっ！！俺は負けてねぇ、ちょっと調子が悪かっただけだ！！」


長の言葉にハルナは呆れた様子で拘束している黒牛将を指差すと、往生際が悪く黒牛将は敗北を認めない。しかし、状況的に考えても彼が嘘を吐いているとしか思えない。

だが、牛人族の未来のために長は自分の目でレナが牛人族の運命を託せる男かどうかを見極める必要があった。そのため、彼は自分が信頼する戦士にレナと戦うように告げた。


「儂はこの目でお主の力を見てみたい。スカーよ、全力で挑め」
「……任せて下さい」
「やれやれ……結局、こういう事になるのか」


筏船からスカーは跳躍すると、岸部へと降りたつ。その跳躍力を見て確かに普通のミノタウロスよりも身軽な動作である事からレナも只者ではないと見抜く。二人は向かい合うと、この時にレナはある事を思い出す。


「戦えって、あんたは武器は？」
「そんな物はいらん……俺にはこの拳がある」
「そうか……」


スカーは格闘家らしく、武器どころか防具の類も身に着けていなかった。レナとしては武器持ちの相手以外は本気で戦いにくいのだが、致し方ない。背中の退魔刀を構えると、スカーも身構える。


「スカーよ！！牛人族の強さを思い知らせるがいい！！」
「ふん、旦那様が負けるか！！」
「勝って、旦那様」
「ちょっと待ったぁっ！！」


両陣営が応援する中、ここで異議を申し立てる者がいた。それはハルナであり、彼女は何を考えたのかレナの元へ移動すると胸を押し付けながら問い詰める。


「なあ、本当にこれでいいのか？」
「うわっ……な、何が？」
「だから、こいつは素手だぞ？そんな奴に武器を向けるのか？」
「いや、そういわれても……」
「素手の相手には素手で挑むのが一番だろ？なら、ここはあたしの出番だ！！」
「何だと……！？」


ハルナはレナを押し退けると自分が代わりに戦うとばかりに身構え、その様子を見ていたミノタウロスは驚愕の表情を浮かべる。長としてもレナの実力を見たいために止めようとしたが、ここで彼女の頭に生えている角に気付く。

ここまでに遭遇したミノタウロス達はハルナの正体には気づかなかったが、長はハルナの頭に生えている角が自分達と同じ角である事に気付き、同時に彼女の顔にも何処か見覚えがあった。


(あの者はまさか……！？)


昔、まだ長が牛人族を収める前に彼は人間のような姿を下ミノタウロスの赤子を見た事がある。友人の子供であり、彼は密かに島の外へ脱出を計ろうとした友人を手助けした事がある。結局は島の外に逃がすまでは協力したが、その後に友人や赤子がどうなったのかは彼は知らない。

金髪の髪の毛に角を生やしたハルナを見て長は間違いなく、かつて自分が見たミノタウロスの赤子だと悟る。信じられないが赤子が生きて戻って来たことに彼は動揺し、何も言えなかった。


「ふざけるな！！お前みたいなちいさい女と戦えるか！！」
「誰が小さいだ！！この大きさが見て分からないのかっ！？」
「ハルナ、胸の話じゃないよ……」
「くっ……(嫉妬)」
「むうっ……(嫉妬)」


スカーの言葉にハルナは胸を突き出しながら言い返すと、アンジュとサーシャは自分達の胸と比べて悔しそうな表情を浮かべる。その一方で長の方は愕然とした表情を浮かべるが、仮にもしも島の外に逃げ出したはずの友人の娘がハルナだった場合、彼は確かめる必要があった。


「スカーよ、その者と戦え……お主が勝てばいいだけの話だ」
「なっ！？長よ、相手は女で子供だぞ！？」
「油断するな、その者がもしも……いや、ともかく戦うのだ。これは命令じゃっ！！」
「くっ……仕方ない」
「へっ、そうこなくっちゃっ！！」


ハルナは長の言葉を聞いて嬉しそうに拳を鳴らし、戦闘態勢に入った。それに対してスカーも拳を構えると、ここで族長が前に出て審判役を仕切る。