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冒険者編

商売繁盛

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「さっきのは誰だったんですか?」
「いえ、この街の商人ですよ。毎日のように訪れては火竜の経験石を売却するように怒鳴りつけてきます。最も流石に来ないでしょうが……」
「大丈夫なんですか?また襲われたりするんじゃ……」
「ははは、ルノ様のお陰でこの店には多くの冒険者が訪れるようになりましたし、それに帝国の警備兵の巡回も多いので平気ですよ。仮に襲われたとしても彼女が止めてくれますから」
「彼女?」
「あの娘の事です。パイアさん、こっちに来てくれませんか?」
「は~い……」


ドルトンの言葉にルノは首を傾げると、店内で働いている女性店員を呼び寄せ、面倒そうな声を上げながら三角頭巾とエプロンを装着した女性が訪れる。かなり色気がある女性であり、しかも何処か見覚えがある相手だった。ルノは何者だったのかを思い出そうとすると、パイアと呼ばれた女性の方が驚きの声を上げた。


「あっ!?あんたはあの時の!?」
「あっ……ヴァンパイア!?
「ヴァンパイア?」


即座にルノは女性の正体が以前にこの店でドルトンを襲撃したヴァンパイアだと思い出し、デキン大臣に依頼されて当時の彼が所持していた「スマートフォン」を奪おうとしていた相手である。咄嗟にルノは掌を構えようとしたが、女性は慌てて両手を上げて降参をポーズを取る。


「ちょ、ちょっと待てよ!!もう私はこの人を襲ったりしないから!!改心して今はここで働いているんだってば!!」
「……本当ですか?」
「改心したかどうかは分かりませんが、今現在はうちの従業員として働いています」
「ヴァンパイアが……?」
「ぷるぷるっ?」
「……ルノ、この人知り合い?」


初めて顔を合わせるコトネとスラミンは不思議そうにルノとパイアを見比べるが、ルノとしてはドルトンと自分の命を狙っていた相手を簡単に信用できず、ドルトンに尋ねる。もしかしたら彼女の「魅了」の能力でドルトンが操られているのではないかと不安を抱くが、そんな彼の考えを読み取ったようにドルトンは笑顔を浮かべる。


「大丈夫ですよ。現在の彼女は殆どの能力を封じられています」
「くうっ……その通りよ」
「どういう事ですか?」
「彼女の首を見てください」


ルノはパイアに視線を向けると、彼女の首元に首輪のような物が取り付けられている事に気付き、紋様が刻まれていた。以前に遭遇した時は装着していなかった代物だが、ドルトンによると能力を制限する特別な魔道具という。


「これは主従の首輪と呼ばれる魔道具です。これを装着した人間は首輪の持ち主である主人に対して逆らう事は出来ません。ちなみにこの腕輪が主人の証である腕輪です」
「あ、同じ紋様だ」
「主従の首輪……本来は魔物を抑えつけるための魔道具」
「屈辱ね……まかさこの私がこんな物で人間に従うなんて」
「私が先帝に口利きしなければ貴方は今頃は処刑されていたのですよ」
「どういう経緯で彼女を雇ったんですか?」


パイアがドルトンに逆らえないように魔道具で能力を拘束されている事は分かったが、どうしてドルトンがわざわざ自分の命を狙った彼女を従業員として引き寄せたのか理解できず、ルノは率直に尋ねると彼は周囲の人間に聞かれないように気を付けながら理由を話す。


「ルノ様が私の店に火竜の経験石を渡してくれた日から様々な人物がここに訪れるようになったのです。先ほどの商人もその一人ですが、中には高名な冒険者や傭兵の方もいます。火竜の経験石は非常に貴重な物なので欲しがる人間が後を絶たないのですよ」
「ご迷惑でしたか?」
「いえいえ!!ルノ様のお陰で私は帝国関係者と繋がりを持てるようになり、更に先帝に商業ギルドに口添えして貰った事で正式にこの店での経験石の販売の許可を貰えました。ですが、どうしても客の中に荒っぽい正確の人間も多く、経験石を力尽くで奪おうとする輩も出てきました。腕の立つ用心棒を雇おうかと考えた時、先帝が訪れてこのパイアさんを紹介してくださったのですよ」
「なんでよりにもよってヴァンパイアを……」


バルトスの紹介でパイアがこの店の用心棒兼店員を任されたという話に疑問を抱くが、事の発端はバルトスではなく、リーリスが絡んでいるという。


「元々はバルトス様もパイアさんを紹介する気はなかったのですが、リーリス様が魔人族であり、実力も確かな人員として城で監禁されていたパイアさんを進めたそうです。その際にリーリス様が改造を施したこの主従の首輪と腕輪の効力を私自身に確かめて欲しいらしく、今の状況に至るわけです」
「要するにリーリスの実験に付き合わされたと……なんかすいません」
「いえいえ、中々に素晴らしい効果の魔道具ですよ。これを利用すればパイアさんは何でもやってくれますから」
「きぃ~!!あの女~……!!」


ハンカチを噛みしめながら少女漫画の悪役のような表情を浮かべながら悔しがるパイアに対し、ルノは納得したように頷いた。
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