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冒険者編

旅行

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「あれ?これ帝国領地内には住んでいない人もいるんですか?」
「ああ、その中の2人は「獣人国」に滞在している。だからその2人の依頼を達成するためには獣人国に訪ねる必要があるね」
「獣人国……別名はわんにゃんパラダイスか」
「何を言ってるんだっ」
「……別に獣人全員が犬と猫しかいないわけじゃない」


冷静なコトネのツッコミを聞き入れながらもルノは他国にまで赴かなければならない事に面倒を覚えるが、よくよく考えれば自分が帝都以外の場所に訪れたことがない事を思い出す。この際に他国を訪問して見聞を広めるのもよいのではないかと考え、実際に人間以外が収めている国という点に興味を抱く。


「これ、日付は指定されていませんね。時間が掛かってもいいんですか?」
「それは構わないさ。もともと、獣人国に向かうだけでも相当な日数が掛かるからね。まあ、転移魔法を使用すれば一瞬なんだが……」
「う~んっ……前金を貰っても俺の場合は氷車や氷竜で移動すればいいかな」
「出来れば目立たないように移動してくれないかな……最近まで空を飛ぶ青色の火竜が現れたと一般人から報告が相次いで説明が大変だったんだぞ」
「すいません」


時折、ルノは氷竜に乗って移動すると事情を知らない民衆が驚いて竜種が出現したと騒ぎ、冒険者ギルドに報告が届く。なので帝国が大々的に青色の竜種の正体は帝国が飼育している魔物だと民衆に説明を行い、一応は混乱は収まった。


「移動はともかく、獣人国に辿り着けるまでの旅費として使えばいいと思うよ。宿の宿泊料や食事代に当てたらどうだい?余った分は観光の時に使えばいいさ」
「でも、それはいいんですかね?」
「遠慮する事はないさ。依頼を果たせば前金を支払う必要はないからね」


暗に依頼を引き受けたらしっかりと最後まで果たすように告げるアイラに対し、ルノは依頼の用紙を確認して獣人国に旅行がてらに赴くのもいいかと考える。無論、本来の依頼は忘れてはならないが、ペット達を連れてのんびりと旅を楽しみたいという気持ちもあった。


「じゃあ、この依頼を引き受けます。あ、ルウ達も連れて行っていいですよね?」
「まあ、それは構わないと思うよ。獣人国には魔物使いの職業の人間も多いから、魔物を連れて旅をする人間も多いからね」
「私も行きたい」
「君は残ってくれよ。色々と頼みたいことがあるからね」
「むうっ……」


自分も付いて行きたかったコトネはアイラの言葉に頬を膨らませるが、流石にギルドの中で貴重な暗殺者の職業の彼女に長期間離れられるのは大きな痛手であり、今回の旅には流石に同行させられない。むくれるコトネを宥めるようにルノは頭を撫でると、早速出発の準備を整える事にした――




――数日後、ルノはバルトスに用意して貰った馬車に乗り込む。馬車といっても車を引くのは馬ではなく、彼が飼っている黒狼種のルウが運び込めるように改造が施されている。


「頼むよルウ、ロプスも家の事は任せるからね。スラミンとヨン達もよろしくね」
「ウォンッ!!」
「キュロロッ」
「ぷるるんっ」
『クゥ~ンッ……』


ルウが元気よく返事を行い、ロプスが大勢の黒狼種の子供達とスラミンを頭に乗せて共にレナを見送る。今回の旅を同行するのはルウと数匹の狼達だけであり、流石に全員を連れて行くことは出来ない。馬車の中でルノは御者として連れてきたミノタウロスにも声を掛ける。


「ごめんねミノ君、急に呼び出したりして……」
「ブモォッ」


このミノタウロスはデブリが元々は飼育していたミノタウロスだが、彼が帰った後も帝国に残り続け、現在は帝国の元で世話になっている。最初はルノが飼う事になっていたのだが、完全に人語を理解できるミノタウロスなど珍しく、リーリスが興味を抱いたので自分の元に預けて欲しいと言ってきたのが切っ掛けで現在は王城で世話になっていた。

城の中ではミノタウロスの仕事は兵士や四天王と手合せを行ったり、荷物の運搬などの力仕事やリーリスの実験に付き合う生活を送っていた。城内での仕事ぶりは真面目で優しく、時折は花壇の世話を進んで行うなど意外な趣味も持っている。どうして今回の旅に彼を同行させたかというと、ルノの存在を知っている人物からのボディーガードとしての役割もある。


「今更ルノさんに用心棒なんて必要ないと思いますけど、まあ帝国としては万が一であろうとルノさんの身に何か起きたら大変ですからね~」
「なんで当たり前のようにリーリスがいるの?」
「別にいいじゃないですか。護衛ですよ護衛、ほらイチちゃん達も嬉しいでしょう?」
「クゥンッ?」


馬車の中にはリーリスがイチ、ニイ、サンの黒狼に囲まれながらくつろいでおり、今回の旅は彼女も何故か参加していた。


「というか、当たり前のようにリーリスがいるけど……普通は戦える人を寄越すんじゃないの?」
「失礼な、こう見えても私は結構強いですよ。伊達に四天王は名乗っていませんからね」
「そういえばギリョウさんは元気?なんか会談の時に身体を壊したと聞いているけど……」
「今はやっと車椅子から卒業したところですよ。現在は松葉杖で生活しています。もうお年ですから先帝さんのように隠居するかもしれませんね」


四天王の中でも最長のギリョウは先の会談で身体を酷使してしまい、帝都に戻ってからは療養していた。年齢が年齢だけに引退も考えられるが、今の帝国には人材が少ないのでしばらくは辞められないのがリーリスの見立てだった。
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