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冒険者編

ギルド協会からの依頼

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「S級冒険者になるとどうなるんですか?」
「色々とあるが、まずは国家が禁止している領域の探索が可能になる。危険度が高い魔物が出現する場所は出入りが禁じられている事が多いからね。それと一部の宿屋でギルドカードを提示すると宿泊料が無料になったり、魔道具店などでは商品の割引も出来る」
「おおっ」
「但し、S級冒険者には定期的にギルド協会から指定依頼を引き受ける義務がある。この依頼は通常は断る事は出来ないが、滅多な事が起きない限りは協会側から指定依頼をされる事はない。それとS級冒険者には称号が与えられるよ」
「称号?」
「呼び名だと考えればいいさ。そしてルノ君に与えられた称号は歴史上で初の短期間で3種類の竜種を倒したことを称え、ドラゴンスレイヤーの称号を与えるらしい」
『おおおおおおおっ!!』


派手な称号を与えられたルノに周囲の冒険者が完成を上げるが、当の本人は「ドラゴンスレイヤー」と言われても首を傾げ、本人としては別にSランクの階級や称号など興味がない。最もギルドとしてもルノの力を見過ごす事は出来ず、試験を免除してでも彼にS級冒険者に昇格させる必要があった。



――先日、ルノは会談の依頼を終えた後に回収しておいた「牙竜ワイバーン」「火竜」「土竜」の素材を持ち込む。こちらの方はドルトンと同様に貴重な素材を手に入れたので本人としてはお裾分けのつもりで渡しただけだが、非常に貴重な竜種の素材を提供されたギルド側は激しく混乱する。



災害の象徴とまで言われる程に強大な力を持つ竜種の素材は非常に貴重で価値が高く、しかも火竜や土竜などこの数十年の間は単独で討伐された記録など存在しない。当然だがアイラは竜種の素材を只で受け取れるはずがなく、正式に買い取ろうとしたのだがギルドの保管する財源では買い取れない程の大量の素材であり、結局はルノの好意として受け取れざるを得なかった。

通常、依頼中に出現して倒した魔物の素材の権利は冒険者側に存在する。だが、ルノとしてはいくら価値があっても自分では管理できない量の素材など所持していても仕方がなく、帝国や冒険者ギルドに提供するしかなかった。最もエルフ王国側には素地は提供しておらず、流石に関わり合いの無い他国に人間に貴重な素材を渡す事は出来ない。それでも帝国と王国の関係を保つために帝国はルノから受け取った素材を王国にも流しており、経験石などの重要な代物だけはルノが管理している。

アイラは受け取った竜種の素材とルノの報告書をギルド協会に送ったところ、本部から幹部が訪れて帝国側の人間も交えて彼が本当に竜種を倒す実力を持っている事を証明する。本来ならばS級の昇格には厳しい試験を受ける必要があるのだが、流石に3体の竜種を倒せるほどの実力者に試験を受けさせる必要性が感じられず、ギルド協会は正式にルノをS級冒険者と認めた。


「ドラゴンスレイヤーか……ちょっと長いな、スライムたらしがいい」
「ぷるぷるっ」
「そっちの方が可愛い」
「いや、それだと全く威厳が感じられないからね……」
「流石はルノさん!!さすルノだ!!」
『さすルノ!!さすルノ!!』
「だから何なんですかそれ……」


ルノ本人はS級の昇格に対してあまり関心は抱いておらず、むしろギルド協会から依頼されたら断れないという部分に面倒そうな表情を浮かべる。そんな彼の心を読んだようにアイラは言いにくそうに顔を反らす。


「その……それで実はS級に昇格を果たしたルノ君に早速依頼が入っているんだが……」
「指定依頼ですか?」
「まあ、そうなるね。といってもこれはギルド協会からの依頼じゃないんだ。そして依頼人は帝国の人間ではない」
「え?違うんですか?」


話の流れからギルド協会側から依頼されたのかと考えていたルノは意外な表情を浮かべるが、アイラは困った風に1枚の複数の羊皮紙を取り出し、ルノに手渡す。


「これが依頼内容だ……というより、決闘状と言った方が正しいかな」
「何ですかこれ?」
「他のS級冒険者が今回の君の昇格に関して不満を抱いている者が多くてね。わざわざ自分達と腕比べを行うように依頼してきたんだよ」
「ええっ……」


羊皮紙の数は5枚存在し、しかも内容は自分達の元に訪れ、その実力を確かめろという物だった。さらにご丁寧に依頼の前金まで支払っているらしく、机の上に5つの小袋をアイラが置く。


「これが各依頼人が送り込んだ旅費だよ。それと申し訳ないが今回の依頼は断われないかも知れない、実はS級冒険者には厄介な規則が存在してね」
「厄介な規則?」
「それは一定数の依頼を拒否するとSランクの資格を剥奪されるんだ。冒険者の頂点に立ったからといって仕事を選ぶ側の人間は許さないというギルドの方針があってね、依頼を3回連続で拒否する、あるいは失敗すると階級が剥奪され、冒険者の資格もなくなるんだ」
「それは……厳しいですね」
「だからこそS級冒険者は自分の地位を守るために基本的に指定依頼だけは断らないんだ。一度でも断ると心象が悪くなるからね」
「という事は少なくともこの中の3人の依頼を引き受けないといけないんですね」


アイラの話を聞いたルノは溜息を吐き、一応は5枚の羊皮紙に視線を向け、内容を確認することにした。
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