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王都編

第27話 バルルの前職

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「バルルさんはどうしてそんなに魔石や魔法の事を知っているんですか?」
「……この宿を継ぐ前はあたしも魔術師だったからさ」
「えっ!?」
「といってもあたしの場合は魔法学園を途中で退学したから、正式に魔術師として認められたわけじゃないけどね」
「ええっ!?」


バルルが魔法学園にも通っていた元魔術師である事を知ってマオは驚き、彼女によると今から十数年前に学園を退学し、その後は自分の魔法の腕を生かして暮らしていた事を語る。


「色々とあってあたしは魔法学園を退学する事になってね、両親がいないあたしは帰る場所もなかったから自力で生きていくしかなかったんだよ。だからあたしは冒険者になった」
「冒険者?それって絵本とかによく出る……あの冒険者ですか?」
「そうさ、魔物専門の退治屋みたいなもんさ」



――この世界における冒険者とは魔物の退治を専門としており、基本的には魔物関連の仕事を請け負う「何でも屋」だった。魔物の討伐や生態系の調査、他にも傭兵のように商人や貴族の護衛の仕事を行う事もある。

冒険者は実力社会であるために生半可な力しか持たない人間は生きていけず、それ相応の実力を伴っていなければ仕事で稼ぐ事はできない。しかも魔物を相手にする仕事となると必然的に危険度も高く、その反面に危険度に見合う高額な報酬も手に入る事から人気は高い。


「魔法学園を退学した後、あたしは冒険者になって他の奴と組んで暮らしていたのさ。5年ぐらい冒険者活動をやっていたかね……けど、ある時に取り返しのつかない失敗をして辞めちまった」
「取り返しのつかない失敗……?」
「ある魔物の討伐に失敗したのさ。そいつのせいであたし以外の仲間は全滅、生き残ったあたしも碌に戦える身体じゃなくなった……」


バルルはため息を吐きながら彼女は右足のズボンを捲ると、マオはここで彼女の右足が「義足」だと初めて気付く。バルルは魔物との戦闘で仲間を失い、更には右足も失ってしまった事で冒険者稼業を辞めるしかなかった。


「運がいい事にここの宿屋の前の主人があたしを養子として引き取ってくれてね、結婚もしてなかったし跡継ぎがいなかったから、あたしにこの宿を託して隠居しちまったのさ」
「そうだったんですか……」
「ちょっと杖を貸してみな」


話の途中でバルルはマオから杖を受け取り、彼女は意識を集中させるように目を閉じる。そして杖を構えると先端か赤色の光が放たれ、炎の塊が空中に誕生する。それを見たマオは驚き、彼女はで魔法を発動させた。


「どうだい?これであたしが魔術師だと信じてくれたかい?」
「す、凄い……」
「まあ、現役を引退してもこの程度の魔法なら詠唱無しでも扱えるさ。ちなみにこいつは下級魔法のファイアだよ」
「下級魔法?」
「何だいあんた、本当に何も知らないんだね……下級魔法というのは名前の通りに魔術師が一番最初に習う魔法さ。基礎魔法とも呼ばれているね」


魔法にも様々な種類が存在し、下級魔法は最も習得難易度が低く、魔法学園では最初に教わる魔法でもあった。そしてマオが扱う「アイス」も下級魔法の一種らしく、森の中でリオンがマオに教えた魔法の呪文も全て下級魔法だと発覚する。

下級魔法は魔術師ならば誰もが扱える魔法であるため、習得難易度は最も低い。ちなみにリオンがオークを倒した時に使用した「スラッシュ」は風属性の中級魔法で下級魔法の次に覚える魔法である。


「あたしが無詠唱で扱えるのはこのファイアと、中級魔法のファイアランスかね」
「ファイア……ランス?」
「名前の通りに槍の形をした炎を生み出せるのさ。オーク程度ならこの魔法一発で丸焼きに出来るよ」
「へ、へえっ……」


バルルの言葉を聞いてマオは素直に羨ましく思い、自分は中級魔法を扱えるのか不安を抱く。リオンによればマオは魔力量が並の魔術師よりも下回るらしく、魔力消費の大きい魔法は扱えない可能性があると聞かされていた。

今の所はマオは下級魔法は十分に扱えるが、段階が上がる事に魔力の消費が大きくなるらしく、マオの魔力量では上級魔法は扱えない可能性が高い。


(バルルさんが作った炎……僕の下級魔法とは比べ物にならないな)


マオは自分の下級魔法で造り出す「氷の欠片」とバルルが生み出した炎の塊に視線を向け、同じ下級魔法でも使用者の魔力量によって差が明確に現れる。マオの氷の欠片は数センチほどの大きさしか作れず、一方でバルルの火球は15センチほどの大きさを誇る。


(やっぱり魔力量が少ないのは魔術師にとっての欠陥になるのか……いや、弱気になるな!!諦めてたまるか!!)


落ち込みそうになったマオは自分自身を叱咤し、この際に元魔術師であるバルルに色々と聞いておく事にした。彼女も魔術師だったのならばもしかしたら良い助言が聞けるかもしれず、マオは率直に尋ねた。
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