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王都編

第39話 バルルの過去

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――時は少し遡り、学園長室にてマリアと対峙したバルルは自分が訪れた理由を話す。彼女がここへ来た目的はマオの付き添いが理由ではなく、マリアと話をするためだった。


「それで……私にどんな用事あるのかしら?」
「先生、あんたには昔から色々と世話になったね。だけど、また一つ迷惑を掛けちまうかもしれない」


バルルとマリアはお互いに向き合う形で座り込み、机の上にはマリアが淹れた紅茶が置かれていた。先ほどは一触即発の雰囲気だった二人だが、今は落ち着いて話し合う。

マリアはバルルと顔を合わせるのは久しぶりだが、彼女が学園を卒業した後の動向は把握していた。現在のバルルは表向きは宿屋の女主人を務めているが、少し前までは彼女はある人物に仕えていた。そしてその人物はこの国でも重要な地位に就いている。


「あたしの正体はもう知っているんだろう?」
「どうかしらね……案外、何も知らないかもしれないわ」
「よく言うよ」


優雅に紅茶を飲みながら惚けた態度を取るマリアにバルルは苦笑いを浮かべ、彼女は自分の分の紅茶を一気に飲み込むと、単刀直入に用件を伝えた。


「マオの事だが……あいつの面倒をあたしに見させてくれるかい?」
「どういう意味かしら?」
「色々と事情があってね、あたしはある人にあいつの面倒を見るように頼まれたんだよ。だからあたしの目が届かない場所に行かれると色々と困るんだ」


バルルの言葉を聞いてマリアは不思議そうな表情を浮かべ、一方でバルルは頭を掻きながら数日前の出来事を思い出す。



『……あいつの事は任せたぞ、バルル』



数日前、バルルはから頼みごとをされた。彼は急にバルルの元へ訪れると、気絶したマオを連れてきた。この時のバルルはマオとリオンがどのような関係なのかは知らないが、マオが目を覚ました後にリオンはバルルに一言だけ告げた。

リオンはバルルにとっては彼が生まれてきた時からの仲であり、一時期は世話を見ていた事もある。彼女が仕える主人はリオンを大切にしており、そのためバルルにとってリオンの命令は絶対に従わなければならない。しかし、彼女がマオを気にかけているのはリオンに頼まれたという理由だけではない。


「マオは……もしかしたらあの子の友達になれるかもしれない。滅多に人に心を開かないリオン様がマオの事を頼むと言ってきたんだよ。もしかしたらマオはリオン様にとって初めての友人になれるかもしれない」
「……それで私にどうしてほしいのかしら?」


これまでにバルルはリオンが心を開いているのは自分の家族と長年彼の世話を見てきた自分だけだと思っていた。しかし、リオンがマオの事を任せるといった時、もしかしたらマオならばリオンの心を開いてくれる存在になるかもしれないと思った。

リオンにとってマオがどういう存在なのかはバルルも分からない。しかし、彼が目にかける存在なのは間違いなく、彼のためにもバルルはマオを自分の目の届く範囲に置いておきたいと考えてマリアに頼み込む。


「マオはリオン様の友達になれるかもしれない。だから、あたしはリオン様のためにあいつを守らないといけないんだよ」
「守る、ね。でもそれはあの子が望んでいる事かしら?」
「マオの意思は関係ない。あたしはリオン様のためにやってるんだよ」
「随分と身勝手な理由ね」


あくまでもバルルがマオに拘るのはリオンのためだと言い張るが、マリアはバルルの本心は別にあると思った。確かにリオンのためにバルルが動いているのは間違いないが、バルルもマオに思う所はある事に彼女は気付く。


「マオを気にかけるのは昔の貴方と似ているからでしょう?学園でも上位の成績を残していたのに、魔力量が少ないという理由で落第を言い渡されて学園長を殴った貴女だからこそ、マオの事が放っておけないんでしょう」
「……昔の話さ」


バルルは魔法学園を退学した理由、それは彼女は魔力量が少ないという理由だけで成績は問題なかったのに学年を上がれなかったのが理由だった。当時の学園長は魔力量こそが絶対という考えの持ち主であり、そのせいでバルルは他の教師からは十分な評価を得ていたのに上の学年に上がれず、留年を言い渡されてしまう。

当時のバルルの魔力量は平均よりも少し下回る程度だったが、成績自体は入学当初から上位を維持していた。他の生徒からも一目置かれ、当時は彼女の担当教師を務めていたマリアもバルルには目を掛けていた。しかし、当時の学園長の一方的な理念のせいで彼女は留年され、それに怒りを覚えたバルルは学園長に暴行を加えて退学となった。

マリアが必死に庇った事でバルルが起こした暴行事件は内密にされ、その代わりに自主退学という名目でバルルは学園をさった。その後、学園長は辞任して人望があったマリアが学園長となり、この時のバルルは既にリオンの父親に仕えていた。



※明日から新章です
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